ナタリー PowerPush - 五月女五月
“音楽”はじめました
どんどん歌モノになっていくでしょうね
──「ぺ」の「死ぬな、殺すぞ」というフレーズも強烈でした。「世界は素晴らしいかい? くだらねえか? どっちでもないぜ」もそうですけど、めちゃくちゃ前向きな歌詞だな、と。
うん、前向きですよね。後ろ向きではないです。「死ぬな、殺すぞ」は反射的に発した言葉なんですけど、意味を考えれば考えるほど面白い言葉だな、と。それはもう(リスナーに)考えてもらって。この曲、サビで「迷える君たちは 期待してるだけ」って歌ってるんだけど、“君”は聴いてる人のことなんですよね。「君が好き」みたいなラブソングを聴くと「“君”って誰だ?」って思っちゃうんですけど、「ぺ」のなかに出てくる“君”は完全に聴き手を指してます。「歌 vs. 聴き手」みたいな感じにしたかったので。
──直接的ですよね、すごく。逆に「ぺ」っていうタイトルはかなり意味不明ですが……。
曲のタイトルって、いつもなかなか付けられないんですよ。前作に入ってる「ささきさん」もメンバーの間で愛称で呼んでただけなんですけど、それがそのままタイトルになったっていう。「ぺ」については、ベース(与那城)に「いちばんどうでもいい日本語って何?」って聞いたら、「ぺ」っていう答えが返ってきたんですよ。その瞬間、曲が倍くらいカッコ良くなったし、メンバーも「これしかない」っていう感じで。ちなみにコレ、ひらがなの「ぺ」ですからね。「絶対にひらがな。カタカナじゃダメ」ってベースが言ってたんで。
──(笑)。「幻とまぼろしの間」「ゆうられ」はミディアムテンポのナンバーで、メロディも素晴らしいと思いました。メロディに関しても、意識の変化があったのでは?
あ、それはありましたね。前のアルバムを出したとき「せっかくいいコード進行だったりベースラインだったりするのに、メロディが全然ないね」って言われて。そのとき初めて気づいたんですけど、語り口調の曲ばっかりだったんですよ。ドラム(柳田遊寿)は気づいていたっぽいですけどね。後になって「五月女五月の曲は口ずさめない。俺は五月女五月の曲を口ずさみたいんだよ」って。何で早く言わなかったんだって、ちょっとケンカになりましたけど。
──で、メロディを付けてみようと。
はい。慣れるまでは息が詰まりそうでしたけどね。メロディをつけると、最後の言葉までちゃんと歌わないといけないので。特に「ゆうられ」は、言葉のひとつひとつに音符が付いてるので……。多分、メロディがあるほうが言葉が伝わりやすいんでしょうね。今作ってる新しい曲にも、結構メロディが乗ってるんですよ。この先バンドが続いていくのであれば、どんどん歌モノになっていくでしょうね。それは確信しました。
“ない”だけがある
──「人間とバンドやってます」みたいな、衝動で言いたいことを言ってるだけの曲もいいですけどね。
あの、前作が出たときに「ロックの初期衝動」みたいなことを何回か言われて、それがイヤだったんですよね。イヤっていうか、「初期衝動って何やねん!?」って思ってて。ロックって言われるのもイヤだったし……ひとつ面白い話があって、「地獄変」をあるメーカーのMP3プレイヤーに入れると、ジャンルがコメディになるんですよ(笑)。Twitterに「コメディにジャンル分けするなんて、五月女五月に失礼」みたいなコメントがあったんですけど、俺らはコメディで全然良くて。「清濁併せ呑む」もコメディにして欲しいです(笑)。喜劇ですから、ホントに。まあ、今はどっちでもいいんですけどね。ロックでも別にいいし。
──「幻とまぼろしの間」と「ゆうられ」はいすゞ(G)さんのコーラスもすごく印象的でした。彼女の歌、いいですよね。音楽の幅も広がるし。
そうなんですよね。本人はあんまり歌いたくないみたいですけど。いつも「私はギターになりたい」って言ってるので(笑)。いい意味で違和感があるし、男の自分だけが歌うよりも面白いかな、と。確かに声もいいですからね。体格が良いせいか、発声がうまいんですよ。ちゃんと腹から声が出てるっていう。
──声はいいと思いますけど、関田さんが言うほど太ってないじゃないですか、いすゞさん。
痩せたんですよ、10キロくらい。途中から女に目覚めたというか……あ、映画に出たりしたから「私、イケるんちゃう?」とか思ってんのかも(笑)。痩せたら、ギターもちょっとつまんなくなりましたね。
──ヒドイなあ(笑)。アルバムの最後に入っている「パーフェクトな世界」は、この瞬間の関田さんの思想がそのまま出てる曲だな、と。
そうですね。レコーディングの当日まで、5割くらいしか歌詞ができてなかったんですよ。スタジオでメンバーと話しながら書いて、それをそのまま歌ってるので。そのときの考えが出てますよね、確かに。
──「疑うことだけを信じることにした」というラインは、まさに関田さんそのものだと思いました。何かを完全に信じることって、多分できないですよね……?
できないですね。例えば忠犬ハチ公って、飼い主さんのことをずっと信じてたじゃないですか。それで幸せだったら、本当にいいと思うんですけど……。まあ、僕は無理でしょうね。一生スッキリしないと思います。でも、可能性はゼロじゃないですからね。99.999%は無理でも、0.001%の可能性は消えないので。
──なるほど、実は「疑うこと」も100%信じ切ってるわけではないっていう。この曲は「闇も 光も 消しちまえば 答えすらない 意味すら持たない パーフェクトな世界へ」というフレーズで終わります。これって、さっき言ってた「バンドのゴール」にも重なってるんですか?
あ、近いかもしれないですね。答えも意味もない、好きも嫌いもないっていう……。そういうのがバンドのゴールかもしれない。でも、それって別に理想郷じゃないですよね、一般的には。
──何もないんだから、どっちかと言うと虚無ですよね。
うん、“ない”だけがあるっていう。
裏タイトルは「清濁併せ呑みたい」です
──他のメンバーとも、そういう話をしてるんですか?
そんな話ばっかりですね。感覚的なことばっかり話してて、具体的なことはほとんど話してない気がします。例えばうちのベースは「俺のことを“全知全能の全ちゃん”って呼んでくれ」って言ってるんですけど(笑)、お金に執着があり過ぎて、逆に執着心がなくなってきてるんですよ。服とか全然買わなくて人からもらってばかりなんですけど、「めちゃくちゃ売れて金持ちになったら、どうする?」って聞いたら「洋服をいっぱい買う」って。あと、免許持ってないのに「車も買う」とか。
──よくわかんないッス(笑)。関田さんも物欲はなさそうですけど。
なくなってきましたね。バンドを始めるまでは人並みにあったんですけど、最近は特に欲しいものもないですねー。一生、今のアパートでもいいし。もしかしたら、満たされつつあるのかもしれない。
──というか、バンドが必要なんだと思います、やっぱり。「清濁併せ呑む」というタイトルの由来についても教えてもらえますか?
またベースの話になるんですけど、「正義も悪もない、意味も答えもない状態のことって、なんて言うか知ってる?」って訊いたら、「“清濁併せ呑む”だよ」って。意味を調べてみたら確かにそれに近い感じだったので、じゃあタイトルにしようと。「清濁併せ呑む」って、度量の大きさをほめる言葉でもあるんですよね。僕らはまだ全然そこまで行ってないですけどね。嫌なことは嫌だし物事に良し悪しを付けてるので。だから、裏タイトルは「清濁併せ呑みたい」です(笑)。善も悪も分け隔てなく受け入れることができたら、それは神だと思いますけどね。
──11月から12月にかけて全国ツアー「ツアー2012『清濁併せ呑む』」が行われます。バンドが大きく変化している時期のツアーだし、意味のあるものになりそうですね。
僕は相変わらずギターが弾けないんですけど、メンバーはすごく練習してるんですよ。やっぱり、ちゃんとした演奏ができないと悔しいですからね。満足できるライブをやるためには、めちゃくちゃ練習しないと……。逆に言うと、しっかり準備さえしておけば、本番では何をやってもいいと思うんですよ。ドラムがスティックの代わりにゴボウを持っててもいいし(笑)。僕らはCDよりもライブのほうが1兆倍くらいカッコいいと思ってるので、ぜひライブに来てほしいですね。ホント、ライブの動員ってどうやったら増えるんですかね……。
収録曲
- I DON'T WANT TO 終わらせる
- ペ
- 空間Xからの脱出
- 人間とバンドやってます
- 幻とまぼろしの間
- ゆうられ
- パーフェクトな世界
五月女五月(さおとめさつき)
2010年9月に関田諒(Vo, G)と与那城哉斗(B)が出会い、同年12月31日に柳田遊寿(Dr)を加えてバンドを結成。その後、いすゞ(G)が加入し現在の4人編成となる。東京都内を中心にライブ活動を行っていたところ、LD&K Recordsスタッフの目に止まり、結成からわずか1年足らずで1stアルバム「地獄変」を発表。2012年10月30日に2ndアルバム「清濁併せ呑む」をリリースした。