Avec Avec、西寺郷太の魅力

──「4YU」の制作に参加したアーティストについてもお伺いします。「Doki Doki」「愛は急がず -Oh Girl-」の2曲をアレンジしたAvec Avecさんとは、もとから交流があったんですか？

いや、Sugar's Campaignを聴いて好きになってお願いしました。Avec Avecはセンスの塊ですね。

──彼の魅力は具体的にどういうところだと思います？

凝ったコードなのに、すごいポップに聴かせるところ。主流の手法もある程度わかった上で、そこからちょっと外れてるけどギリギリメインストリームだって言われるくらいの絶妙なバランス感覚を持ってやっているところ。それ、絶対必要じゃないですか。

──トレンドの嗅覚と、それを入れるセンスですね。

声が魅力的だったら、それだけでほかとは違う個性的な音楽になるんですけど、Sugar's Campaignはそういうわけでもないし、ちゃんと大衆音楽なのにちょっと変わった感じに作られてるから面白い。その微差がセンスというか。その部分は努力ではどうしようもないと思うんです。どこにも売られてない自分だけのスパイスを持ってるっていう。ざっくり言うと才能があるんですよね。

──制作を一緒にやられてみていかがでしたか？

ほとんど任せました。「愛は急がず -Oh Girl-」はなんて言ったって西寺郷太さんの歌詞も素晴らしいですよね。

──西寺郷太さんを作詞だけで起用というのも贅沢だなと思いました。

そうでしょ。郷太さんは、深いことを重くない言葉で言ってのけますよね。これもやっぱり才能ですね。この歌詞、すごくいいと思います。「愛は急がず」ってすごいいい言葉だなって。Avecさんと郷太さんのよさが出た曲ですね。

──西寺さんにお願いした理由は？

僕がファンだったから。NONA REEVESのライブを観に行って面白いなと思って、アルバムを買って聴いたら「歌詞いいなあ」と思って。「三年」（アルバム「POP STATION」収録）とかすごい好きですね。

死ぬまでに「これでしょ」っていう曲を作る

──アルバムを聴いて、さかいさんは音楽家として職人的なタームに入ったように思いました。一定のレベルを超えたクオリティの曲を常に生み出し、数年に1枚はアルバムをリリースし、ツアーを回る、というサイクルを続けて息の長いアーティストになるだろうなと感じたんです。

ほう、なるほど。大衆音楽であって大衆音楽でないような、「そういう人っていないよね」とは言われますね。でも感覚的にはずーっとshibuya PLUG（インディーズ時代にレギュラーイベントを開催していたライブハウス）にいますね。

──マインドとしてはインディーズ時代から地続きなんですか。

ずーっと。頭の片隅では「なんでこんなにお客さん来てくれてるだろう？」って思うんです。なかなかお客さんが来てくれなくてあんなに苦労したのに、今だったらPLUG何回できる？って。

──自分のことはなかなか客観視できないかもしれないですけど、今さかいゆうというアーティストはどんな時期にあると思いますか？

全然見当もつかないですね。

──以前は「誰もが知ってるヒット曲を早々に作りたい」ということを話していましたよね。

それはずっと思ってますね。死ぬまでに「これでしょ」っていう曲を作る。それは自分も周りも求めてることだし、音楽家である以上の1つの夢だから。もしかしたらそれが「君と僕の挽歌」になるかもしれないし、まだあるでしょうって思いながらずっと作ってるんです。運もありますからね。

──時代の気流だとか。

最近で言うと、秦（基博）さんの「ひまわりの約束」は、たぶん本人が思ってる以上に世の中に響いたと思うんですよ。自然と周りが求めて、カラオケで歌われて、いろんな人の耳に留まったんですよね。奇跡的なことですよね。

──そうか、さかいさんはそういうケースをかなり間近で見てるんですね。

そう。山崎まさよしの「One more time, One more chance」、スキマスイッチの「奏（かなで）」……みんなそういう、単にいい曲、単に売れた曲だけじゃないものを持ってますから。「ひまわりの約束」みたいに、同時に3世代の人に聴かれる曲ってすごいなと思いますね。

──さかいさんも近い将来……。

奇跡が起きれば（笑）。

──いやいや。そういえば「映画プリキュアオールスターズ みんなで歌う♪奇跡の魔法！」のプリキュアオールスターズが歌う主題歌を作曲・編曲するという新鮮なオファーもありましたし、こんなふうに“さかいゆうが手がける仕事”のバリエーションが広がっていけば、面白いことが起こりそうです。

プリキュアもすごい楽しい仕事だったし、プロレスの入場テーマとかもやってみたいなあ。あと民謡のカバーはもっとやりたい。「よさこい鳴子踊り」で完全に味をしめちゃいましたね！ 民謡はおじいちゃんおばあちゃんも聴きやすいし、若い人もアレンジするとカッコよさを感じてくれるし、洋楽志向の人たちもJ-POPより許容してる範囲だと思うし。日本の音楽ってこんなにすごかったんだって思えたら、改めて日本人としてのアイデンティティが満たされますよね。

──じゃあ音楽的なアイデアは脳内にたくさんある状態なんですね。

そうですね、アルバム2枚ぐらいは作れるかな。オリジナルと並行してそういうのやりたいなあ。まずデモテープ作ろう！