ちゃんと言葉にして相手に伝えたい
──ミニアルバムの1曲目「ことばの魔法」はピアノをバックに、歌詞がストレートに耳に入ってくるようなバラード曲です。曲を受け取ったとき、率直にどういう印象を受けました?
泣いた(笑)。
──(笑)。
本当に腰を抜かすくらいの勢いで、「こんないい曲ある?」みたいな。衝撃的でしたよ。
──資料に記載されているケイさんのライナーノーツによると、斉藤さんが話し合いの中で「言わなきゃわからない」「言葉にしないと伝わらない」と口にしていたことからこの曲が生まれたそうですが、そういった言葉に対する思いは昔からあったものなんですか?
多分、自然と幼い頃からあったものだと思います。人の心ってなかなか読めないから、ちゃんと言葉にして相手に伝えようという気持ちが強くあって。「私は言葉で伝えるから、君も伝えてよ」という、そういうスタイルで生きていますね。ケイさんには意識的にこのことを伝えていたわけではないんですが、自然と何回も話していたのかもしれないです。ケイさんが「この子は言葉というものを一番大切にしているんだな」と汲み取ってくれて、その思いが「ことばの魔法」にいっぱい詰まっている。1曲目からメッセージ性の強い曲にはなりましたが、伝えたいことが詰まっているからこそ、みんなに最初にこの曲を聴いてほしくてアルバムの頭に持っていきました。
──言葉が持つ力の強さ、大切さを歌うこの曲は、先ほど「言葉で表現できるような作品を作りたい」とおっしゃっていた通り、ミニアルバムのテーマそのものですよね。
本当はミニアルバムのタイトルを決めるときに、「ことばの魔法」というのも候補に挙がっていたくらいなんですよ。私にとってすごく大切な楽曲だからこそ、「ことばの魔法」とどうやって向き合うかというのは自分の中で大きな課題でした。自分の言いたいことがたくさん詰まっているこの曲を、歌でちゃんと表現できるかなって……。
──言葉の1つひとつをものすごく丁寧に、心を込めて歌われている印象を受けました。特にDメロの「ときには叫んで ときに囁いて ときにはメロディーに乗せて」というところは、じっくりと力を込めて言葉を放っていますね。
本当に歌詞を何回も見て、1つひとつの言葉の意味合いを汲み取っていく作業をたくさんしましたね。「自分のこれまでの人生ってどうだったんだろう?」という根本的なところから考えて、この曲の歌詞に向き合って。その中でもDメロには一番力を入れて、このフレーズをどう歌って表現すればいいのか、ものすごく悩みながら歌いました。これ、私はライブのときにみんなの前でちゃんと歌えるんですかね?(笑) ちょっと思いが強すぎちゃって……でも、この曲からみんなが何かを感じてくれたらうれしいなと思います。
人という存在の大切さがわかった
──2曲目の「あと1メートル」は、ケイさんによると“女の子が自分の気持ちを言えないまま好きな男の子と一緒に帰る”というシチュエーションをもとに書かれた曲ということで。この曲の主人公の女の子には、どういう印象を持っていますか?
なんかもう、“ザ・女子”という感じですよね! 歌詞を見たときに、こういう女の子めちゃめちゃいると思って。私自身は傍から見たら「イェーイ!」みたいなサバサバしたイメージだと思うんですけど、私も女の子なのでこういう一面も皆さんにもっと伝えていけたらいいかなと。まあ、こういったシチュエーションを経験したことがあるわけでないんですけど。ずっと妄想の中で生きているので……(笑)。
──そんな“ザ・女子”の感情をレコーディングではどういうふうに表現していきましたか?
レコーディングでは「あと1メートル」の世界観にずっと浸って、主人公の女の子になりきりましたよ。だから、歌っていくうちに「一緒にいたいのに、なんで言えないんだろう!」という気持ちになっちゃって。
──「あと1メートル 君の家が遠ければ そんなことを願ってしまう帰り道」という歌い出しから、もどかしいですよね。
そう、この曲って本当にもどかしいんですよ。私的にはなんかもう、「言えばいいじゃん! 『あと1メートル』ってもう少しじゃん!」みたいな(笑)。この女の子に対しては、すごく親身になって寄り添っていくような気持ちで歌いました。
──もどかしさもありつつ、寂しさや不安を「一人が寂しいのは 一人じゃない証拠だよ」と肯定的に捉えるような、温かみのある楽曲になっています。
この曲を歌ったときに、人という存在の大切さが改めてわかったというか。私は「1人が好きだけど1人が嫌いです」というタイプなんですけど、寂しいのって1人じゃない証拠なんだ、隣に誰かがいて温もりを感じているからこそ寂しさが湧くんだなって。この曲は恋愛だけじゃなくて友情だったり、いろんな捉え方があると思います。 “人”という括りで見ていただけたら、すごく刺さるんじゃないかな。
自分と似てるなと思った曲
──3曲目はアルバムのタイトルトラックになっている「くつひも」です。順番としては、この曲ができたあとにアルバムタイトルが決まったんでしょうか?
そうです。先ほどもお話しした通り「ことばの魔法」もタイトルの候補にはあったんですが、「くつひも」という言葉が私の中にずっと刺さっていたんですよ。“ひも”という言葉が、すごく引っかかっていて。ミニアルバムを通して、手に取ってくれた人と私が“運命の赤い糸”のように結ばれたらいいな、と。
──アルバムの向こうにいる人を意識したタイトルになっているのは、人と人とのつながりを大切にしている斉藤さんらしいですね。
この作品を買ってくれた人が、誰かに「このミニアルバムめっちゃいいから聴いてよ」って貸したら、またその糸がつながるし。そういうふうに、どんどん「くつひも」で結ばれていったらいいなという気持ちがあって。デビューミニアルバムということで「これが斉藤朱夏です」という自己紹介的な1枚になっているので、初めましての方も手に取ってくれたらうれしいですね。そういう意味で、「くつひも」という言葉が自分の中ですごくピンときました。
──タイトルトラック「くつひも」は「あと1メートル」と同じシチュエーションで生まれた曲だそうですが、「あと1メートル」よりも恋心が抑えきれずにあふれていますね。
ふふふ(笑)。少女マンガのヒロインみたいで、私的にはたまらないですね。
──跳ねるような軽快なリズムが、加速していく恋心とマッチしています。どういうふうにこの曲を解釈して歌っていきましたか?
スタッフさんと話している中で、ちょっと悪ガキというか、ポケットに手を突っ込んでいるような女の子のイメージで歌ってみようということになって。「あー、悪ガキか。得意得意」って思いながら(笑)。「くつひも」の主人公の女の子に関しては、自分となんか似てるなという気持ちがありましたね。私は少女マンガが大好きで、「こういう展開あったら素敵じゃん!」という、ときめきポイントがいっぱいあるので。この曲については解釈するというより、自分の素のままで歌った感じがあります。
──比較的すんなりいったと。
そうですね。6曲全部長い時間をかけてレコーディングしたんですけど、「くつひも」が多分一番早くレコーディングが終わったんじゃないかな。メロディが難しいところもあったんですけど、歌っていてめちゃめちゃ楽しかった。この曲に関しては自分と殴り合ってないです(笑)。
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泣いてもいいんだ