緑黄色社会のニューシングル「サマータイムシンデレラ」がリリースされた。
「サマータイムシンデレラ」はフジテレビ系月9ドラマ「真夏のシンデレラ」の主題歌。夏の高揚感や一瞬で過ぎ去る季節の儚さを表現した、さわやかさと切なさが同居したラブソングだ。このシングルのリリースを記念して、音楽ナタリーは緑黄色社会の4人にインタビュー。月9ドラマの主題歌を初めて手がけて感じたことや、楽曲の詳細な制作過程について話してもらった。
取材・文 / 小松香里撮影 / 入江達也
月9主題歌に求められる力強さ
──表題曲「サマータイムシンデレラ」はフジテレビの月9ドラマ「真夏のシンデレラ」の主題歌です。月9の主題歌を初めて手がけることになったときはどう思いましたか?
長屋晴子(Vo, G) “月9”という言葉がまずインパクトありますし、視聴者として何作品も観てきた枠で、「いつかは主題歌をやりたいな」と思っていたのですごくうれしかったですね。同時に、月9主題歌に見合う曲がちゃんと書けるのかなっていうプレッシャーはありました。
──今回もバンド内でコンペをされたんですか?
長屋 そうですね。今回は各々が本当にたくさん曲を書いたんですよ。
小林壱誓(G) まずそれぞれが書いた曲を4曲提出したんですがどれも合格とはならなくて、またそれぞれがイチから書き直しました。全曲OKが出ないというのはこれまでなかったので、ちょっと焦りましたね。
穴見真吾(B) 理由は「青春すぎる」ということだったので、大人っぽさを加えた曲を新たに作りました。
小林 でも結局、最初に作った4曲の中にあった「サマータイムシンデレラ」が選ばれたんです。ドラマの脚本が完成していない段階で主題歌の話をしていたので、おそらくドラマのイメージがどんどん変わっていって。その中で最終的にハマった曲が、真吾が作曲したフレッシュな「サマータイムシンデレラ」でした。
穴見 僕は“ど王道”を狙って「サマータイムシンデレラ」を作ったんですが、OKが出なかったときは、しばらくシュンとしてました(笑)。だから、最終的にこの曲が選ばれてびっくりしましたね。1回目と2回目で計8曲を提出したんですが、精鋭中の精鋭の8曲で。そのうちの1曲が、挿入歌に選ばれたカップリングの「マジックアワー」です。
長屋 最初は挿入歌も担当するという話はなかったんですが、結果的に選んでいただきました。1つのドラマで同じアーティストの曲が2曲使われるのはそんなに多いことではないので、すごくうれしかったです。
──確かに「マジックアワー」は「サマータイムシンデレラ」と比べて大人の哀愁を感じる曲ですよね。
小林 そうですね。1回目の提出のときにいただいたリクエストを踏まえて作りました。
──「サマータイムシンデレラ」も含めて、最初に提出した4曲はそれぞれどんなイメージで書いたんでしょう?
長屋 月9はいろいろな層の方が見るドラマで、中でも「真夏のシンデレラ」は夏の海辺を舞台にしたストレートな作品だと伝えられていて。「主題歌を王道にしたい」という希望も聞いていたので、ポップでキャッチーな曲を意識して作りました。
穴見 僕、2020年の上京時にストリーミングで「東京ラブストーリー」を観てたんですよ。主題歌として有名な小田和正さんの「ラブストーリーは突然に」は、曲の中で地味なところが1つもないうえに、心情を表す演出としてすごく効果的に楽曲が使われていたので、そういう力強さが求められるんだろうなと覚悟しました。
ピースがはまってよかった
──「サマータイムシンデレラ」はピアノから始まり、Aメロは涼し気で切ない雰囲気です。この曲はどんなイメージで作ったんですか?
穴見 僕は夏の曲というと、作曲家の林哲司さんが作られた曲を思い浮かべるんですね。例えば、杏里さんの「悲しみがとまらない」とか、夏の曲ではありませんが、松原みきさんの「真夜中のドア~stay with me」を手がけた方で。林さんの曲のように波の音が聞こえてきそうな曲にできたらいいなと思って、イントロやAメロの導入でさわやかな風景の中に連れ去っていく感じを意識しました。
──作詞が長屋さんと小林さんの共作なのは、どんな経緯があったんでしょうか。
長屋 今回はちょっと特殊で、最初に壱誓が書いて、ドラマサイドとのやりとりを経て共作になったんです。
小林 僕はかなり打ちのめされながら、何度もリライトしましたね(笑)。
長屋 睡眠時間を削ってたよね。それで脳みそを増やして挑みました。
小林 長屋という寄りかかれる存在がいて本当に助かりました。
長屋 やる気があったとしてもうまくいかないことってどうしてもあるじゃないですか。そういうときに、4人とも曲や歌詞が書けるというのは私たちの強みだと思っていて。補い合いながら制作できる存在がいるのはとってもありがたいですね。
小林 僕が書いた歌詞はもっと具体的な内容だったんです。でも、ドラマサイドとしては、できるだけ曲の中では答えを出したくないという思いがあって。それで最終的にふわっとした世界観になったんですけど、放送されたドラマを観たらそのアプローチがすごくハマってて、納得しましたね。
長屋 ドラマの台本を読んで、立場や状況が違う登場人物たちがお互いを知って高揚していく感じを出したいと思って歌詞を書きました。それでいて、壱誓が言ったみたいに求められているのは具体的なイメージじゃないんだなと。だから、瞬間的な気持ちを描こうと意識しました。
穴見 曲の時点でけっこうキュンキュンするようなものになっていたので、歌詞によって聞こえ方が大きく変わるし難しいだろうなと思ってたんですけど、すごくちょうどいいバランスになったと思います。
peppe(Key) 壱誓は本当に何度も歌詞を書き直していたので、その土台があった分、長屋の歌詞が加わったときに深みが出た。「ピースがはまってよかったな」と安堵しましたね。
「サマータイムシンデレラ」は“ジェンガ曲”
──分厚いバンドサウンドのバックにブラスが入っていたり、イントロだけでなく中盤もピアノの旋律が印象的になっていたり、アレンジはかなり緻密な構造になっていますよね。ドラマもそうですが、いかにキュンキュンさせるかという工夫を感じました。
穴見 けっこう肉付けした状態でデモを作って提出していたんですが、ドラマサイドから「昔っぽい」というご指摘があり、トラックメイカーのLASTorderさんに手伝ってもらったんです。今っぽい感じと心拍数が上がる感じを後押ししてもらいました。あと、ピアノ系のフレーズもLASTorderさんに書き直してもらって。LASTorderさんのアレンジはコードワークが巧みで、毎回驚かされます。
──5月にリリースされたアルバム「pink blue」では穴見さんが積極的に自分からアレンジを行ったそうですが、その経験は生きましたか?
穴見 そうですね。編曲技術という面では成長しなきゃいけないなと思いながらも、アレンジは結局アイデア次第だなと思っています。いかにアイデアを詰め込めるかが重要。詰め込みすぎたらあとで引き算すればいいだけなので。
長屋 アレンジ面で真吾はもともと頭ひとつ抜けてたんですが、この1、2年でグッと成長したと思います。私たちにデモを聴かせる段階からどういう曲にしたいかが明確に伝わってくるようになった。
小林 バンドを始めた当初から比べたらすごく成長してるよね。
──ピアノのアレンジも印象的ですが、これもLASTorderさんによるものでしょうか?
peppe 中盤でもピアノが目立っているのはLASTorderさんの案ですね。この曲を作る前にやっていたツアーで、私がソロタイムでクラシックを弾いていたのをLASTorderさんが見てくれて。それをきっかけに生まれたアレンジだとおっしゃっていました。私らしいフレーズをたくさん入れてくださった。ほかのアレンジャーさんが手がけた曲では、レコーディングの段階で自分っぽく弾き直したりすることがよくあるんですが、→LASTorderさんのアレンジは1フレーズ1フレーズ計算され尽くされていて、少し変えただけで全部が崩れてしまうんです。だからそのまま弾かせてもらいました。
小林 ジェンガみたいだよね(笑)。1カ所崩れたら全部崩れちゃう。
peppe ジェンガ曲だね(笑)。
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