緑黄色社会は今を生きている、映画「クレヨンしんちゃん」主題歌に込めた子供たちへのメッセージ

緑黄色社会がニューシングル「陽はまた昇るから」をリリースした。

表題曲「陽はまた昇るから」は、4月22日に公開される「映画クレヨンしんちゃん もののけニンジャ珍風伝」の主題歌として書き下ろされた楽曲。「しんちゃんにもきっと寂しい時だったり、悲しいことがある」という思いのもと作られた、ネガティブな気持ちに寄り添うような温かいナンバーとなっている。音楽ナタリーは4人にインタビューを行い、子供の頃から観てきたという「クレヨンしんちゃん」作品のタイアップを手がける心境や、新曲に込められたメッセージについて話を聞いた。

取材・文 / 天野史彬撮影 / 入江達也

お世話になったAPOLLO BASEでの最後のライブ

──今回はシングル「陽はまた昇るから」に関してのインタビューなんですが、その前に、3月27日に閉店となった名古屋のライブハウス・APOLLO BASEでライブをされたんですよね。APOLLO BASEはリョクシャカにとって馴染み深い場所だったそうで。そのときのライブはいかがでしたか?

長屋晴子(Vo, G) APOLLO BASEでライブができてよかったし、ホッとしました。その前にAPOLLO BASEに出た日からもう5年くらい経っていたんですけど、最後にライブができたからこそ、寂しい気持ちはあまりなかったです。どちらかというと、うれしい気持ちが強かった。もちろんなくなっちゃうのは嫌だけど、最後にいいところが見せられてよかったなと思いました。懐かしい曲もやったし、最近の曲もやったし、新旧の私たちどちらも見せることができたんですよ。なんだか、成人式みたいでした(笑)。親に「ありがとう」を伝えつつ、「私たち成長したよ」という姿も見せられた感じがして。なので、清々しい気持ちですね。数えたら私たちは26回もAPOLLO BASEでライブをやっていたんですよ。多いときは月1くらいのペースだったみたいで。バンドを始めたての頃から、バンドのあれこれ、ライブのあれこれを教えてもらった場所でしたね。

穴見真吾(B) 家かスタジオかAPOLLO BASEか、という生活だったもんね。

緑黄色社会

緑黄色社会

小林壱誓(G) 今回はAPOLLO BASEが主催した企画だったけど、そこに呼んでもらえるバンドになれたんだなと思ったね。

穴見 そうだね。ライブハウスってキャパの問題で自然とその場所でやらなくなっていくことが多いから、しっかりと「お世話になりました」と伝える機会があまりないというか、自然とフェードアウトしていく感じで、どこかふわっとしてしまうところがあって。だからこそ最後にAPOLLO BASEでライブをできて、すごくスッキリしました。

peppe(Key) やっぱり、お客さんとの距離も近かったよね。お客さんの汗が見えるくらい。改めてビックリした。

長屋 そうだね。コロナ禍でお客さんの数を制限していたので、当日は100人ちょっとくらいのキャパだったんですけど、そのくらいのキャパでライブをするのがすごくひさしぶりで。お客さん全員の顔が見えるくらいの距離でした。私たちにとっても懐かしい場所だけど、ファンの人たちが「APOLLO BASEに立っているリョクシャカが見たい」と思ってくれていたのもうれしかった。当時から見てくれている人もいるし、私たちだけじゃなくて、みんなにとっても特別な場所だったんだなって。

穴見 あと、今回のライブで初めてAPOLLO BASEを遊び場にできたなと思う。5年前は「ちゃんと演奏しなきゃ」とか、すごく考え込みながらライブをやっていたからね。普通に楽しいAPOLLO BASEでのライブは、実は最初で最後だった(笑)。

長屋 わかる(笑)。当時はライブが終わるたびにダメ出しされてたから(笑)。それもあって、最後に楽しいライブができてよかった。

小林 ただ、名古屋に僕らの帰る場所がなくなったというのもあって。

長屋 そうなんだよね。APOLLO BASEのほかに、SiX-DOGというもう1つホームと言える場所があったんですけど、そこもなくなってしまったんです。

──場所というのは、どうしても時間の変化とともに変わっていったり、なくなってしまいますからね。

長屋 そうなんですよね。だからこそ、少しでもつなぎ止めていけたらいいなと思います。

長屋晴子(Vo, G)

長屋晴子(Vo, G)

「クレヨンしんちゃん」で人間が形成された

──シングル「陽はまた昇るから」の話に移ると、表題曲とカップリング曲の「時のいたずら」はどちらも“時間”をモチーフにしている部分がありますよね。この2曲をカップリングして出すことについて、何かコンセプトはあったんですか?

長屋 いや、これは偶然です(笑)。自分たちでもビックリしました。レコーディングが終わってから、「そういえばこの2曲って……」と気付いたんですよ。

──そうなんですね。「陽はまた昇るから」は「映画クレヨンしんちゃん もののけニンジャ珍風伝」の主題歌です。「クレヨンしんちゃん」というと、ものすごく大きなタイアップですよね。

長屋 そうなんですよね。話をもらったときはうれしさと重圧と……っていう感じで。

穴見 うれしいのはもちろんなんですけど、素直に「やったー!」とはなれなかったよね(笑)。「マジっすか……?」みたいな。信じられなかったです。

小林 本当に無責任にできないし。打ち合わせで「しんちゃん」サイドの方から「好きなように作ってほしい」と言われてはいたんですけど、とてもそんなふうには作れないというか(笑)。

peppe 「いろんな層の人に聴いてもらいたい」と常に思ってきたけど、聴いてくれる人たちがこんなに鮮明に思い浮かぶタイアップは初めてだったかもしれないです。会ったことのない日本中の人たちの顔が浮かぶというか……責任感はすごかったです。

peppe(Key)

peppe(Key)

──きっと皆さんにとっても「クレヨンしんちゃん」という作品は馴染み深いですもんね。

穴見 本当に。「クレヨンしんちゃん」で人間が形成された部分もあると思う。ななこおねいさん(「クレヨンしんちゃん」の登場キャラクター)みたいな人と結婚したいな、とか……。

一同 (笑)。

穴見 「お姉さんが尊い」みたいな価値観って、絶対に「クレヨンしんちゃん」の影響だから(笑)。

長屋 私自身、まっすぐにいかないことをするのが好きだけど、しんちゃんもそういうところがあるじゃないですか。私は「しんちゃん」のマンガをよく読んでいたんですけど、セリフのユニークさに惹かれていました。「こういう人いいな」って憧れるくらい(笑)。

小林 僕は子供の頃、ずっとふざけているような子だったんですけど、振り返ると「自分がしんちゃんだったんだな」と思いますね。

──(笑)。

小林 しんちゃんの、あの破天荒な姿に影響を受けていたんじゃないかな。

穴見 しんちゃんって、道を切り開いてくれる感じがあるもんね。やるところまでやってもなんとかなる、みたいな。あと、個人的には「クレヨンしんちゃん」の映画で描かれるある種のおしゃれさに影響を受けている部分はあると思います。「しんちゃん」映画の敵キャラのおしゃれさって半端ないじゃないですか。

──言われてみれば、確かに。めちゃくちゃ奇抜でおしゃれですよね。

穴見 僕は「オトナ帝国の逆襲」(2001年公開「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」)を中学生か高校生の頃に見たんですけど、そこで太陽の塔のことを知って、岡本太郎を好きになったんです。なので、今の自分につながっている部分はあると思いますね。

peppe 私は「クレヨンしんちゃん」のタイアップが決まったときに長屋が言っていたことがすごく印象的で。子供の頃に「しんちゃん」を観ていた頃って、みさえやひろしがあんまりいい大人に見えないけど、大人になって見返してみると、すごくいい親だって気付くっていう。

長屋 そうそう。しんちゃんが、みさえやひろしのことをバカにするじゃないですか。足が臭い、とか(笑)。だから子供の頃はあの2人がダメな大人のように見えていたんですよ。ダメというか、平凡というか。でも、大人になって改めてあの2人を見ると、とてもいい大人なんですよね。野原家はすごく幸せな家庭だなって思う。みさえが怒るときって、その理由はすごく正しいし、子供を思って叱っているなと思うし。ひろしも、家族を思いながらがんばって働いているし。

穴見 同じようにはなかなかできないよね。

穴見真吾(B)

穴見真吾(B)

子供たちに強要するような目線では書きたくなかった

──僕は今回の映画の脚本を事前に読ませていただいたんですけど、その時点ですごく多様な魅力のある映画だと思ったんです。今の時代だからこそのメッセージ性も感じたし、今までの「クレヨンしんちゃん」像を刷新するような部分もあるし。「クレヨンしんちゃん」という作品が持つキャパシティが大きいからこそ、という部分もあると思うんですけど、すごく新鮮かつ自由にキャラクターたちが動いているなと。曲を作るにあたって、この映画のどういった部分にフォーカスするかというのもいろいろ考えられたと思うのですが、「陽はまた昇るから」はどのように生まれたんですか?

小林 真吾が作ってきたデモのタイトルが「陽はまた昇る」だったんです。その真吾のデモが、映画の最後のシーンをイメージして作られたもので。

穴見 「しんちゃん」映画の何がすごいって、テレビアニメは常に日常なのに、映画だけ非日常になるところ。そのコントラストとワクワク感、ドラマチック感を曲にしたいと思って。だから、Aメロだけを聴くと日常の「しんちゃん」っぽいんだけど、Bメロやサビでは転調して壮大な冒険チックになっていくような作りにしました。今回の映画だからこそ作れた曲だと思います。

peppe 私は真吾から送られてきたデモを聴いたとき、しんちゃんが走っているイメージが浮かんできて、「あ、しんちゃんが見えた!」と思いました(笑)。私もデモを作っていたんですけど難航していたので、メンバーがいい曲を書いてきてくれたことに安堵しましたね。あと、壱誓が書いた歌詞も共感ポイントしかなくて。「大人になれる / それはイイことなんだよ」という部分は「本当にそうだよね」と思うし、日々の中で悲しいことがふと起こったときに、「悲しくなれる / それはイイことなんだよ」という歌詞が頭に浮かんだりするし。「クレヨンしんちゃん」はお子さんと一緒に大人の方も観ると思うけど、そういう大人たちにも届く自信がありますね。

──大人にも響く歌詞ですよね。「思い出を思い出すとき / 同じ気持ちになれるのかな」というラインが、個人的にはすごく印象的で。

小林 実は歌詞を書き始めたときに最初に書いたのが、その部分だったんです。

小林壱誓(G)

小林壱誓(G)

──そうだったんですね。小林さんご自身としては、どのようなことを考えながらこの歌詞を書いたんですか?

小林 しんちゃんが“今”を生きている姿が、僕にはすごく輝いて見えるんです。映画を観た子たちにも、そういう気持ちを忘れずに、たくさん泣いて、たくさん笑って、“普通の奇跡”みたいなものを大切にしてほしいなと思って書きました。ただ、子供たちに何かを強要するような目線で書きたくない、とも思っていて。あくまでも「“大人”と呼ばれる歳になった自分の目線で、子供たちに伝えたい」というイメージです。なので、子供たちに寄り添った歌詞かと言われたら、そういうわけでもないんですよね。さっきのpeppeと長屋の話みたいに、この曲を聴いた子供たちが大人になったときに聞こえ方が変わったらいいなって、長い時間軸で見た作品性を考えましたね。