ナタリー PowerPush - ryo(supercell) feat.初音ミク /じん feat.初音ミク

ryo&じんが語る「ボーカロイド論」

じん(自然の敵P)は、6月発売のデビューアルバム「メカクシティデイズ」がオリコンデイリーランキング6位、そして先日発売されたシングル「チルドレンレコード」はウィークリーで3位という快挙を成し遂げた。まさに今が旬のボーカロイド関連クリエイターと言える。その彼がゲーム「初音ミク -Project DIVA- f」テーマソングのスプリットシングルという形で、supercellのryoと共演した。デビュー前から憧れてきたというryoに対する思いを、じんは曲の中でどのように表現したのだろうか。そして、じん自らの楽曲制作の手法とは。メールインタビューを行って詳しく訊かせてもらった。

取材・文 / さやわか

じん(自然の敵P)メールインタビュー

──今回のスプリットシングルに参加されることになった経緯を教えていただけますか?

時期的には、ちょうど僕が「チルドレンレコード」という楽曲を制作している時でした。ある日ryoさんの所属されている事務所の方から、突如、今回のスプリットシングルのお話をいただけて……という感じです。とにかく信じられなかったです。「ドッキリなのではないか」と僕の事務所に何度も確認をしました。

──ryoさんとのスプリット作になった感想をお聞かせください。

僕は自分がボーカロイド楽曲を制作する前からryoさんの楽曲を知っていましたし、学生の頃「君の知らない物語」をコピバンでやったりしていましたので、今回お誘いいただけた事は、本当に信じられない事で、当初は自信がありませんでした。しかしryoさんが、誘うなら誰か。となった時に、僕の名前を挙げて下さったことが何より嬉しく、精一杯の楽曲を制作しようと考えました。

──ryoさんの楽曲には、どのような感想を持たれましたか?

今回のryoさんの楽曲はお話をいただいたその時に聴かせていただいたのですが、ryoさんの魅力が詰まったものすごいパワーが溢れる曲だと感じました。とにかくとてつもないインパクトだったので、自分の楽曲がこの楽曲とのスプリットになるという事がやはり重圧で、一時期聴く事が出来なくなる程でした。ですがこの楽曲を聴いた事で、今回僕の楽曲は今までとはまた違う要素を詰め込む事が出来ました。やはり聴く人の何かを揺さぶる、とても強い曲なんだと思います。

──じんさんはカゲロウプロジェクトのように物語と音楽の融合を図ってこられましたが、そうでない今回の曲では作り方は全く違うものでしょうか?

いえ、今回の楽曲にも物語がありますので、基本的な作り方は全く一緒です。僕は基本的にストーリーというか世界観を固めてから楽曲作っていくので、それが連作になるか、短編作品になるかの違い以外は基本的に大きく作り方を変える事はありません。

──ファンが今回の曲にもバックグラウンドにストーリーを想定して聴くことはできますか? また、今後ストーリーが広がっていく可能性はありますか?

今回は短編の作品ですので、いつもの僕の作品よりも、多くの部分を皆さんの一人一人の想像で楽しんでいただけるかと思います。聴く人それぞれのどこかに、主人公を重ねて聴いていただけると嬉しいです。

──今回はドライブ感と「もう一回」のところのブレイクが印象的な楽曲だと思いました。こういう曲調になった経緯を教えていただけませんか。

空を突き抜けて行く様な爽快感と、飛行機というイメージから、今回の楽曲はこういった曲調になりました。「もう一回」のブレイクは、その直後、サビ頭での「飛行機が空に飛び出していく様な疾走感」を生む、重要なキメかと思っています。

──歌詞で表現しようとしたのはどういう世界観でしょうか。また、なぜそういう内容にしようと思ったのでしょうか?

この楽曲は「かつて大空へ飛び出していった緑色の飛行機に憧れた少年が、自分も空へ飛び出そうと、困難を乗り越えながら飛行機を作り、空を目指す」というストーリーになっています。内容は完全に「ryoさんが様々なシーンへ飛び出し、変えていった」という事への憧れです。「きっと僕たちもそうなれる」と、上を目指し続けていきたいです。

──今回、初音ミクという歌い手のキャラクター性や気持ちを曲や歌詞に反映させようとしましたか? あるいは、じんさんが曲作りの際にそういう作り方をすることはあるのでしょうか?

今回の楽曲では初音ミクではなく、初音ミクを使う「クリエイターたち」に焦点を当てたので、直接的に初音ミクの意思を表現しようとはしていません。しかし歌詞内で出て来る「飛行機」を、今回僕は「初音ミク」や「自分の技術」に置き換え作詞しました。

──じんさんはIAを積極的に使っていますが、ミクと作り方に違いはありますか? また、両方の魅力はどんなところなのでしょうか?

僕の印象だと初音ミクは「元気でパワーのある声」、IAは「綺麗で応用の利く声」という感じです。根本的にエディターがV2とV3だという違いがあるので、調整段階で少々作り方は変えています。

──今回はミク楽曲になりましたが、特に苦心されたところ、また聴き所などがありましたら教えてください。

苦心ですか…。一番最後に出て来る、男性コーラスの上でミクがフェイクフレーズを歌う部分があるんですが、なかなか上手く表現出来なくて四苦八苦しました。聴き所はやはりサビでしょうか。ミクのパワーと可愛らしさが出ているかなぁと思います。

──ストリングスのアレンジに蒲池愛さんが参加されていますが、お願いすることになった経緯や楽曲制作時のエピソードなどがありましたらお聞かせください。「メカクシティデイズ」のレコーディングをされた永見竜生さんとの関連でしょうか?

そうですね。永見さんとご一緒させていただける機会が多く、今回のアレンジもその繋がりでお願いさせていただきました。実際にストリングスのレコーディングに立ち会うのは始めてだったのですが、大変貴重な経験をさせていただけました。

──終盤に出てくる男声コーラスが印象的で、多幸感あふれるエンディングにつながっていると思います。あれはどういう意図で付けられたのでしょうか? また、何らかの音色ですか? それとも肉声なのでしょうか。

あのコーラスは僕と同世代のクリエイターやプレイヤーの方々にお願いして、全員で歌いました。楽曲のコンセプトである「上を目指す」というテーマに、一番ピッタリな向上心溢れる方々にお願い出来たことで、楽曲も輝いたかと思っています。

ニューシングル「ODDS & ENDS / Sky of Beginning」/ 2012年8月29日発売 / Sony Music Direct

CD収録曲
  1. ODDS & ENDS
  2. Sky of Beginning
  3. ODDS & ENDS(Instrumental)
  4. Sky of Beginning(Instrumental)
初回限定盤A・B 特典ディスク収録内容
  1. ODDS & ENDS(Music Video)
  2. Sky of Beginning(Music Video~Edit Version)
プレゼント情報

シングル「ODDS & ENDS / Sky of Beginning」、ゲーム「初音ミク -Project DIVA- f」のダブル購入者の応募特典として、「初音ミク -Project DIVA- f / ODDS & ENDS」スペシャルカードを応募者の中から抽選で1万名にプレゼント!

じん(自然の敵P)(じん しぜんのてきぴー)

1990年10月20日生まれ、北海道利尻島出身のボカロP。幼少期より音楽に親しみ、学生時代にはバンド活動を行う。2011年にニコニコ動画に投稿した「人造エネミー」でボカロPとしてデビュー。瞬く間にニコ動ユーザーの間で話題を集め、数々の楽曲でランキング上位入りを果たす。2012年5月、それまでに発表した楽曲の世界観を1枚のアルバムに集約した1stフルアルバム「メカクシティデイズ」をリリース。楽曲に登場するキャラクターの物語を小説化した「カゲロウデイズ -in a daze-」で、小説家としてもデビューした。2012年8月に1stシングル「チルドレンレコード」をリリース。