理芽「NEW ROMANCER2」特集|“半身”笹川真生と語る、音楽への執着 (2/3)

理芽の曲は“よく食べる”

──代表曲である「食虫植物」のイメージが強いからかもしれませんが、理芽さんのオリジナル曲には「食べる」「飲み込む」といった表現が多い気がしていて。今作で言えば「生きているより楽しそう」に「光を食べる」、「どくどく」に「どんな味がするんだろう」という歌詞があります。

理芽 確かに!

笹川 食べることともう1つ、吐くことにも固執しています。

──それはなぜ?

笹川 僕にとって、食べることと吐き出すことはすごく重要なことなんです。命って、食べることと排出することじゃないですか。

理芽 なるほど。

笹川 生き死にをそのままの言葉で書くと、それだけになっちゃう気がして。だから命を食で表現することによって、ちょっと柔らかくしてみたり、ちょっとほかの意味を帯びさせたりすることができる気がします。だからよく使っちゃうのだと思います。

理芽 今回は「毒」という言葉も多いよね?

笹川 (笑)。

──「どくどく」というタイトルの楽曲もありますし、「フロム天国 feat. EMA」には「無毒な世界」、「ファンファーレ」には「致死毒」という言葉が使われています。笹川さんにとって「毒」とは何を示す言葉なんでしょうか?

笹川 「毒」と書いていますが、これをあまり悪いものとして捉えてないのかな。直接的な毒ではなくて、“毒的なもの”を象徴して書いているかもしれません。人間にとって毒になるものって、日常にあふれすぎている気がしていて。

理芽 中毒性がある、とかそういうこと?

笹川 それもそう。もしかしたら「毒」と書いて「愛」の意味を持たせようとしているかもしれないし。特に「どくどく」という曲には心臓の音が入っているんですよ。生きるうえで必要なもの、みたいな意味を帯びさせたくて。

理芽 なるほどなあ。

笹川 これは後付けですが(笑)。タイトルの「どくどく」という言葉は「ポケモン」から引用しているし。

理芽 「ポケモン」で思い出したことがあって。真生くんが書く歌詞は少し変わっているから、普段見かけないような表現があったら調べるようにしているんだけど、「デイネイ」に出てくる「あなたはグラビティ。私をなぞのばしょへ誘うバグさえも奪う獣」という一節がどうしてもイメージできなくて、真生くんに直接聞いてみたんですよ。

笹川 そこも「ポケモン」のことを書いた歌詞だったんだよね(笑)。

理芽 うん。あたしは「ポケモン」にそこまで詳しくないから「へえ!」と思っただけだったんだけど。

──確か「なぞのばしょ」というところに迷い込んでしまうバグがありましたね。でも初見では気付けませんでした。

笹川 わかる人にはわかるような表現をすることが多いかもしれません。

──理芽さんは笹川さんの言葉選びに関してどう感じていますか?

理芽 あたしは直接的にわかりやすく伝える歌詞の曲も好きだけど、真生くんが表現する抽象的な言葉もすごく好きです。もしかしたら歌詞だけ読んだらわからないかもしれないけど、歌として言葉を追うとしっかり1つの世界観が伝わってくる。それが真生くんが作る曲の魅力だと思う。

理芽

理芽

笹川 理芽の1stアルバムをリリースしたときは「歌詞には興味がない」みたいなことを話していたんですよ。曲作りにしか興味がないみたいに生意気なことを言っていましたが、理芽の曲をたくさん書いている中で、もしかしたら自分は歌詞を書くのが好きなのかもしれないという発見があって。

──それは理芽さんの楽曲を書いていたからこそ気付いたことですか?

笹川 もしかしたら自分が歌う曲を書いている中でも気付けたかもしれないけど、とにかくたくさん曲を書かないとわからなかったと思います。だから理芽の楽曲の歌詞はもちろん、自分の作品の歌詞に関してもすごく真面目に向き合うようになりました。

理芽 確かに真生くんの書く歌詞、ちょっと変わったかも。

笹川 「同じような曲を作っても意味がない」というのは曲だけではなくて歌詞にも言えることなんですよね。「同じものを作りたくない」と言っている人間が、歌詞に興味がないのはヤバいなと自省して。1stアルバムから大きく変わったのは歌詞への向き合い方かもしれないです。

理芽と笹川真生の境界は

──シンガーソングライターとして笹川さん自身が発表するものと、理芽さんに提供する楽曲で何か作り方の違いはありますか?

笹川 以前までは笹川真生と理芽の間に境界がグラデーションのように存在している感覚がありましたが、最近はその境界線がどんどん曖昧になっています。もちろん、自分が歌うならこうはしない、みたいな作り分けはしていますが。

理芽 あたしが歌うことで何か曲作りで変化が生じることはありますか?

笹川 うーん。例えば変な曲でも届きやすいから、これは理芽に歌わせてみよう、とか。僕の声より、理芽の声のほうがキャッチーだし。

理芽 なるほど。

笹川 でもそういう考え方も最近はしなくなってきたから、境界線が曖昧になっているのかな。どっちが歌ってもいい曲は増えてきた気がする。

──それこそアルバムには理芽さんと笹川さんが2人で歌った「ルフラン」という曲が収録されています。なぜ2人で歌うことに?

笹川 これは僕のほうから持ちかけました。単純にオクターブ下があったほうがいいなと思って。結果として僕が上を歌うパートも出てきたりして、面白い1曲になったと思います。

理芽 ずっと真生くんと歌うのが夢だったんですよ。だからレコーディングのときはすごくルンルン気分で歌いました。でも真生くんは小さめの声量で「裏で支えてます」みたいな歌い方をするから「どうしてメインっぽく歌わないんだろう」って最初は不思議でした。

笹川 そうだったんだ。

理芽 完成版を聴いてみて「なるほど。こういう仕上がりイメージが見えていたのか」って納得しました。これはこれですごく真生くんらしいなと。

笹川 次はもっと掛け合いがある曲にしようか? 「3年目の浮気」みたいな(笑)。

理芽 すごく真生くんっぽくないね(笑)。でもデュエットみたいな曲も歌ってみたいです!

理芽と神椿シンガーのユニット曲

──アルバムには「フロム天国 feat. EMA」と「不的 feat. ヰ世界情緒」というKAMITSUBAKI STUDIO所属のボーカリストが参加した楽曲も収録されています。どちらの歌詞にも「わたしたち」とあり、フューチャリング曲であることが前提で書き下ろされた楽曲ですね。

笹川 「フロム天国」は理芽とEMAが2人で歌うこと前提で書いた曲です。これもまた僕の趣味的な話につながりますが、お祭り感のあるフィーチャリング曲があまり好きじゃなくて。曲が派手だからとかそういうわけじゃなくて、フィーチャリングという扱い方が好きじゃないのかな。だから意識しているのは、初めからこの2人はユニットなんですよ、みたいな空気感かな。

理芽 EMAちゃんのことはずっと大好きだったから、ユニット曲を意識して作ってもらえたのはうれしい。いつか一緒に歌いたくて、その念願を叶えてくれたのがこの曲です。デモを聴いた段階で、2人で歌っているイメージが湧いてきたし、何よりEMAちゃんの歌声が流れてくるような感覚があったから、真生くんすごいなって。たくさん研究したんだろうなと思いました。

笹川 理芽とEMAさんの声が意外と似ていて驚きました。もちろん聴き分けはできますが、ミックスの作業で波長を見ると、1人の声になっちゃったんじゃないかと錯覚するぐらい一致していて。バランスを取るのは少し大変でした。

笹川真生

笹川真生

──「不的」は、理芽さんとヰ世界情緒さんのツーマンライブ「Singularity Live」(参照:理芽×ヰ世界情緒のツーマン「Singularity Live」開催決定)のときに披露された楽曲ですね。

笹川 「不的」は“2人のユニットだ”という考え方を前提にしつつ、もっとアイドルっぽさを意識した楽曲です。

理芽 情緒ちゃんは“ダークシンガー”と呼ばれていますが、歌声はすごくきれいでかわいいから、あたしもその歌い方に引っ張られていつもと違う歌になっている気がします。キレイに歌うことを意識したかな。

笹川 情緒さんはすごく情感豊かに歌う人なので、逆に淡々と歌っている曲が聴きたいなと。

──“感情を排する”歌い方を求めたわけですね。

笹川 そうですね。せっかくだから理芽チームのテイストに合わせて、普段聴けないような彼女の一面を出すようなディレクションをしてみました。面白い1曲になったと思います。