理芽「えろいむ」インタビュー|進化を続けるバーチャルシンガーのルーツと現在地

KAMITSUBAKI STUDIO所属のバーチャルシンガー・理芽が新曲「えろいむ」を配信リリースした。

「えろいむ」は、橋本環奈と重岡大毅(ジャニーズWEST)がダブル主演を務めるホラー映画「禁じられた遊び」の主題歌。数多くの理芽の楽曲を手がけてきたアーティスト・笹川真生が原作小説を読み込んで書き下ろした1曲となっている。

今回の特集では、理芽に「えろいむ」の制作秘話はもちろん、2019年のデビュー以降、代表曲「食虫植物」のヒットや、バーチャルアーティストグループ・V.W.Pでの活動を通して着実にその知名度を上げている彼女の音楽的ルーツなどについて話を聞いた。

取材・文 / 太田祥暉(TARKUS)

理芽の音楽的ルーツ

──素朴な質問からさせていただければと思いますが、デビュー以前の理芽さんはどういったアーティストの音楽をよく聴かれていましたか?

このアーティストが好きでずっとそれだけ聴いている、というのはなくて、いろんなアーティストの楽曲に手を伸ばしていました。例えばRADWIMPSさんやONE OK ROCKさんのような日本のバンドはもちろん、テイラー・スウィフトさんやアリアナ・グランデさんみたいな海外アーティストも聴いていました。

──国内外問わずいろんな楽曲を聴くようになったきっかけは?

もともと音楽が好きだったので、これといった明確なきっかけはないんですけど……洋楽も聴くようになったのは、両親の影響があったかもしれません。両親がCarpentersを聴いていたり、あたしが小学生のときから英語を勉強していたりしたこともあって、自然と英語の曲を耳にする環境にいたんですよね。

──邦楽については?

もともとロックが好きだったので、バンドの曲をよく聴いていたんです。中学生のときにギター1つを持って歌っているYUIさんの姿がカッコよく感じて、それからシンガーソングライターさんの楽曲もチェックするようになって。YUIさんの影響でギターを始めちゃったりもしました。高校生のときにはMCバトルが流行ったこともあって、ヒップホップも聴くようになりましたね。

──理芽さんがYouTubeに投稿されているカバー楽曲の中にはK-POPもありますよね。

あたしが小学生のときに、ちょうどKARAや少女時代、BIGBANGが流行ったことが大きかったと思います。これまで自分が触れてきた音楽とは違う、新たなカッコよさとかわいさを感じて、K-POPにハマっていったんです。今振り返ると、意図していろんなジャンルを聴こうとは思っていなかったんですが、結果的にリスナーとしての幅が広がりましたね。

──今も興味の赴くままにいろんなジャンルの楽曲を聴かれているんですか?

そうですね。YouTubeでおすすめとして表示された曲を聴いたり、TikTokでみんなが推している曲を再生してみたり……そうやって新しい曲に触れています。たまに自分が歌っている曲も流れてくるので、ちょっと恥ずかしいですけど(笑)。自分の歌が日常に溶け込んでいるのはとてもうれしいですけど、照れくさい気持ちはあります。

──アーティストならではの悩みかもしれないですね(笑)。中学時代にギターを始めたというお話がありましたが、そのときにはいずれ歌手になりたいと考えられていたんですか?

いや、ただ歌が好きだっただけで、歌手になりたいなんて考えていなかったです。デビューするきっかけになったのは、あたしの歌ってみた動画をプロデューサーさんが見つけてくださったからなんです。高校2年生の冬にお声をかけていただいたんですけど、本当に歌1本で生きていけるのかわからないから不安で。でも、せっかく巡ってきたチャンスなので挑戦しないのはもったいないですから、バーチャルシンガーとして活動することを決めました。

理芽

理芽の特性、強みを自己分析

──理芽さんはバーチャルシンガーという肩書きを持たれていますが、デビューされた当時はまだVTuberも世間に知れ渡り始めた、くらいの段階でした。最初に活動形態がバーチャルシンガーと聞いたときは、どのような印象をお持ちでしたか?

あたしは当時、VTuber含めバーチャルの分野にまったく明るくなかったんですよ。ボーカロイドも通っていなかったので、どんな活動をすればいいのかわからず不安でした(笑)。実際に始めてみると活動の仕方が違うだけで、自分がやりたい音楽の芯が疎かになることはまったくなくて。杞憂に終わったので、ひと安心しましたね。

──デビューするにあたって、どのような指針を立てられましたか?

同じ事務所に花譜という子がいるんですけど、彼女とあたしの声質が似ていたんです。同じ事務所に似ているアーティストが増えてもあまり面白みがないじゃないですか。そこでプロデューサーさんやマネージャーさんに、何か変化を付けたいというお話をさせていただいたんです。その場で改めてあたしの強みを考えたんですが、いろんな言語の曲を歌えることと、クールな歌い方ができることだと気付いて。そこからコンポーザーの笹川真生くんにも攻めたカッコいいサウンドの曲を作ってもらうようになりました。

──理芽さんはオリジナル楽曲だけではなく、カバー楽曲も発表されていますが、カバーはどのような基準で選曲しているんですか?

カバー楽曲については、キャラクター性を考えて選曲したりはしていないです。ただ、自分が好きな曲だったり、マネージャーさんがあたしに合うと思って提案してくれた曲を歌ったりするようにしています。歌ってみた動画は純粋に楽しみながら収録していることが多いので、その時々で選曲対象がバラバラなんです。

V.W.Pのメンバーから受けた刺激

──デビューからそろそろ4年となりますが、その中でも活動の幅を広げる要因となった大きな出来事はありましたか?

一番大きかったのは、V.W.P(理芽、花譜、春猿火、ヰ世界情緒、幸祜によるバーチャルアーティストグループ)としての活動ですね。デビューしたての頃は、オリジナル楽曲を出すことと、好きな曲を歌うことで精一杯だったんです。でも、KAMITSUBAKI STUDIOのみんなで組んだV.W.Pでは、ほかのメンバーからの刺激を得ることができました。ほかのメンバーが歌っているところを間近で見られたので、よさを取り入れてみたり、足りていないところを改善したりすることができたんです。

──KAMITSUBAKI STUDIOのアーティストだからこそできたことと言いますか。

そうですね。あと、KAMITSUBAKI STUDIOではゲームも展開しているので、そこで声優のお仕事をすることもあったんですよ。歌とはまた違うことを要求されるんですが、そういった活動によって表現力も身に付いたように感じています。1stアルバム(「NEW ROMANCER」)のレコーディングのときはまだキャラクター性を意識しながら歌うことで精一杯で、今聴き直すととっても初々しい(笑)。今はもうスタジオで収録することにも慣れてきたので、1stアルバムの収録曲も歌い方が変わってきました。これも成長したからかもしれません。