ケンモチとGigaの共通点
Reol 水カンさんの音楽にもバリっぽいエキゾチック感を感じることがあるんですけど、ケンモチさんって民族音楽的なサウンドがお好きなんですか?
ケンモチ 好きですね。それに加えて、民族音楽的な、僕の好きな音楽の要素をJ-POPに持ち込んでいる人が見当たらなかったから、こういうサウンドを作るようになったところもあって。実は僕、J-POPの王道的な歌謡曲を作るのが苦手で、音楽理論とかも我流なんですよ。もともとインストばっかり作ってたから、歌詞の入った歌モノを作り始めたのも水曜日のカンパネラが初めてだったし……。
Reol それであのクオリティのものを作ってたんですか!?
ケンモチ ははは(笑)。たぶん自分の中にしっかりしたセオリーがなかったからこそ、ほかの人がやっていないようなトラック作りとか、言葉の乗せ方ができたんだと思います。もっと簡単に言えば、王道では勝負ができないと思ったから、ちょっとひねくれたアプローチでポップスのフィールドにボールを投げてきた感じなんですよね。
Reol そういうところ、すごくGigaと似てますね。実はGigaもインストばっかり作ってて、私と一緒にやるまでは歌詞にも全然興味がない人だったんです。音楽理論も独自のものだし。Gigaもケンモチさんも音フェチなんだと思います(笑)。
ケンモチ Reolちゃんの作るメロディもちょっと変わってるよね。普通に歌を歌う人が鍵盤やギターで作った感じが全然しない。さっき話してたようにラップに近いものを感じるんだよね。流れ込んでくるようなメロディと符割でサビまで突っ走っていく感じ。
Reol 言葉の持つリズム感みたいなものを大事にしてるからかもしれないですね。確かにシンガーソングライターがギターやピアノを弾きながら曲を作ると言うより、ラッパーの方が曲を作るほうにちょっと近いのかもしれません。
ケンモチ それとReolちゃんはラップとしての歌い方をちゃんと研究してるところが偉いよね。韻を踏んでるのはもちろん、2文字ずつ区切る歌い方とか、3連符の入れ方とか。
Reol 2、3年前から韓国とか海外のラップをよく聴いてて、日本には強気な感じで攻めてるラップをする女性がいないなって思ってたんです。ウィスパー系とか、アイドルでラップとかはいるけど、例えばカーディ・Bみたいなアンダーグラウンドな感じの女性ラッパーが日本ではあんまりいなくて。ケンモチさんと同じで、王道と呼ばれる今流行りの音楽と同じことをやるのは私たちとしても違うかなと思って。
ケンモチ 海外の音楽から刺激を受けながらも、歌詞は日本語にこだわってるよね。その理由は?
Reol 言語としては絶対日本語で歌いたい思いが強いんです。英語がしゃべれるわけじゃないのに英語を使うのはしっくりこないし、日本語という言語自体の魅力もあると思うし。「日本語のラップはカッコよくならない」みたいに言われることが多いんですけど、それは単純に日本語でカッコいいラップができてないだけなんじゃないかと思うんですよね。だからそこをブレイクスルーしたい気持ちもあって、今回はわりとラップ色の強めな曲をたくさん入れています。
ケンモチ 「十中八九」の最後に出てくる「我が五臓六腑の墓場」って一節、音源を聴いたときは英語か何かかと思って歌詞カードを見たら、日本語でビックリしたんですよね。日本語なのにあえてほかの言語っぽく感じさせるのもすごく面白かった。
Reol 私の曲は歌詞カードを見ないと何言ってるかわからないと思います(笑)。でもそれにはちゃんと理由があって。私、中学生のときに椎名林檎さんの曲が好きでよく聴いてたんですけど、そのとき歌詞が全然聴き取れなくてよく歌詞カードを読んでたんです。逆に歌詞がスッと入ってくるアーティストさんの場合、歌詞カードを開くことってあまりなかったんです。ちょっと聴き取りにくいからこそ最終的には言葉と向き合ってくれる可能性もあることを自分が証明しているから、リズムや響きを重視して歌い方を崩すことが多いんだと思います。
Gigaは私の声をシンセだと思ってる
──Gigaさんの作るトラックも洋楽由来ですよね。
Reol Gigaは洋楽しか聴いてないんじゃないかってくらいの人ですから。
ケンモチ Gigaちゃんのトラックは作りの甘さが一切見えないのがすごい。Reolちゃんの曲の中には、CMソングとかアニメタイアップとかもあるし、求められているものはJ-POPのフォーマット的なアプローチだと思うんですよ。で、GigaちゃんのすごいところはJ-POPのフォーマットにちゃんと乗せながらも、洋楽由来のアプローチをしっかり入れて、クリエイターとしてやりたいことを形にしてるところなんです。そのバランス感覚がすごくうまい。あとReolちゃんの歌を引き立たせるミックスがちょっと特徴的なんですよ。
Reol Gigaは私の声をシンセだと思ってるんです。異常なところに音階が飛ぶし、ライブで歌えないような高音で曲を書いてくるし。最初の頃はキーを下げるように言ってたんですけど、「歌えない」って言うのも悔しくてメッチャ練習したりして、いつの間にかGigaのおかげで音域が広がった感じがあります(笑)。
ケンモチ Gigaちゃんとは一度一緒にごはんを食べに行ったことがあるんだけど、彼は変わったキャラクターだよね。「トラックどうやって作ってるの?」って聞いたら「適当です」って言ってきて。適当でこんなトラック作られたらたまったもんじゃないよ!
Reol Gigaはすごく人見知りであまりしゃべれなかったと思うけど、間違いなくリスペクトはしてますから(笑)。水カンさんの新曲が出るたびに2人で話してますから。
ケンモチ 恐縮です。でもReolちゃんとGigaちゃんって不思議な関係性だよね。
Reol Gigaって、Reolという存在を介して自分の願望を実現させているような節があるんですよね。Gigaは人前に出るのが死ぬほど苦手なんですよ。でも自分が作った曲には自信があるし、みんなに聴いてほしいから私に歌わせることでその欲求を満たしてると言うか。
ケンモチ それは僕も同じかもしれないですね。あまり僕がメディアに出てもしょうがないと思ってるし、曲を書いて自分では出せない音域で歌ってもらうことに楽しさを覚えるようになって。自分ではできないことをやってもらって、それを裏で見ながら楽しんでいる節はありますね。
次のページ »
映画の監督に近い役割
- Reol「事実上」
- 2018年10月17日発売 / CONNECTONE
-
初回限定盤 [CD+DVD]
4104円 / VIZL-1418 -
通常盤 [CD]
2700円 / VICL-65037
- CD収録曲
-
- 幽居のワルツ
- サイサキ
- 激白
- 十中八九
- 煩悩遊戯
- -MANDARA FACT-
- 真空オールドローズ
- ミラージュ
- SAIREN
- 秋映
- mede:mede -JJJ Remix-
- 初回限定盤DVD収録内容
-
- 初回限定盤DVD
- 「エンド」MV
- 「サイサキ」MV
- 「SAIREN」MV
- 事実上制作メイキング
- ライブ情報
Reol Japan Tour 2018 MADE IN FACTION -
- 2018年11月30日(金) 東京都 Zepp TokyoOPEN 18:00 / START 19:00
- Reol(レヲル)
- シンガーソングライター。2012年より動画共有サイトにて歌唱動画や自身が作詞を手がけた楽曲を投稿し始める。2015年7月には、れをる名義でソロアルバム「極彩色」をリリース。また同年10月には1stワンマンライブ「極彩色High Fidelity 東の宴」を開催した。2016年3月にはサウンドクリエイターのギガ、映像クリエイターのお菊と共にユニット・REOLとしての活動をスタートさせ、同年10月にはアルバム「Σ」を発表した。しかし2017年8月にユニット・REOLの“発展的解散”を発表し、同年10月に行われたラストライブ「REOL LAST LIVE『終楽章』」を開催。ユニットとしての活動に終止符を打った。2018年1月にはReol名義で“再起動”することがアナウンスされ、同年3月に新作ミニアルバム「虚構集」をリリース。同年10月に1stアルバム「事実上」を発表した。アルバム発売後には全国ツアー「Reol Japan Tour 2018 MADE IN FACTION」を開催。11月30日には東京・Zepp Tokyoでのツアーファイナルを控えている。
- ケンモチヒデフミ
- 1981年生まれ、埼玉県育ち。サウンドプロデューサー、トラックメイカー、作詞家、作曲家。学生時代に音響専門学校に通いながらも、トラックメイカーに転向する。Kenmochi Hidefumi名義でクラブジャズ系シーンで活動し、2008年にはNujabes主宰のHydeout Productionsより1stアルバム「Falliccia」をリリースした。2012年に水曜日のカンパネラを始動させ、サウンドプロデューサー兼メンバーとして活動している。並行してChara、iri、吉田凜音などのアーティストへの楽曲提供を行ったり、映画「猫は抱くもの」の劇伴を手がけたりと活躍の場を広げている。