ナタリー PowerPush - rei harakami
2枚のリミックス・ベストから読み解く、電子音楽マエストロの裏10年史
自分の音楽を説明するときは「ポップミュージックだ」って言ってます
——この2枚を振り返ってみて反省点というか、直したい部分ってありますか?
うーん、少しはありますけど……、良くも悪くも怖いほど一貫性があるので(笑)。ぜんぜん変わってねえ、っていう話ですよね。機材とか多少は良くなっているんですけれど。古い曲はマスタリングやり直したんで、余計に今との違いがなくなっちゃって(笑)。
——確かに一貫してますね。電子音楽って匿名性がある音楽だと思うんですけど、ハラカミさんの曲ってワンフレーズ聴くだけでわかるくらい個性が強くって、しかも方向性がこの10年ぶれてないんですよね。この強烈なオリジナリティってどこにルーツがあるのかなと思って。ハラカミさんはロバート・ワイアットが好きだと公言していますけど、かと言ってロバート・ワイアットとハラカミさんがやってる音楽は似ても似つかない別物ですし。
うーん。すべての音楽にまんまお手本があるんだって思いたがる人がいっぱいいるみたいですが、僕は曲を作るうえでわかりやすくお手本になるものを意識したことはないです。好きなアーティストはたくさんいますけど、そういうのを積み上げては崩し、それを重ねてできたものが僕の音楽なので、なんでそんなものが突然作れたのかって言われても、そんなの説明できるわけないですよね。
——たとえば、ハラカミさんの音楽の特徴としてハチプロ(Roland SC-88Pro)の音色が語られることが多いと思うんですけど。
いや、ハチプロを使うと誰でもあんな風になるわけじゃありませんよ(笑)。
——そこなんですよね。ハラカミさんと同じ組み合わせの機材を持っている人なんて世界中に相当たくさんいると思うんですが、同じような音を作っている人って……。
あんまりいないね。でも逆に僕はハチプロで作った曲はすぐわかりますし、僕もそれと同じように作ることはできますけど(笑)。
——今はもう音源モジュールではなくソフトシンセが主流になっていると思いますが、やっぱり乗り換えようとは思わないですか?
そう思えてたらやってると思うんですけどねえ。足りないと感じるものは常にあるんですが、足りないところをなんとか工夫して補おうって考え方をするので。僕は今でもMacOS9でイージービジョンを使ってるんですが、いつプロトゥールスを入れてもいいとは思ってるんです。ただ勉強する時間があんまりなくって。プロのエンジニアさんからも「いや、今のままで良いですよ。プロトゥールスは僕らがやるんで」って言われますし。そこまでやられちゃうとエンジニアの仕事がなくなっちゃうから、って(笑)。
——ハラカミさんの名前が売れ始めた2001年くらいってちょうどエレクトロニカが一番盛り上がっていた時期ですし、それもあってハラカミさんのことをエレクトロニカ・ブームから登場した人と思っている人も多いんじゃないかと思いますが、自分の音楽がそのように括られることについてはどう感じてました?
僕はエレクトロニカなんて言葉が使われるようになる前から自分の音楽をやってましたし、それなのに僕がエレクトロニカを意識してるってどういうことだよ、みたいな気持ちでいましたね。それに僕、いわゆるエレクトロニカを代表するようなアーティストと自分のやっていることに合致する部分は見当たらないと思うんですよ。だから僕のどの辺がエレクトロニカだと思うのか逆に聞きたいっていう。当時って、カテゴライズするのが大好きな人たちが2カ月ごとになんか新しいジャンル名を考えるっていう時期の最後の頃なんですよ。なんか、そういうことを言っていれば何とかなるみたいな。
——じゃあ、ジャンル名とかそういうのを抜きにして、自分の音楽を人に説明するとしたら何ていいますか?
「ポップミュージックだ」って言ってます。
もういいじゃん、みんな聴きたいでしょ? 次のアルバム
——この「あさげ」と「ゆうげ」で対になったジャケットデザイン、ハラカミさんらしくて良いですよね(笑)。
あくまでこの2枚は違うアルバムだ、ということをちゃんとわかってもらわないといけないからねえ。ちなみに今回はこれまででいちばん豪華なブックレットが付いてるんですよ。なんだかデザイナーさんが楽しんで作ってくれたみたいで。っていうか、歌詞が掲載されてるわけでもないのに何でこんな分厚いブックレットが入ってるんでしょうね(笑)。しかもコレ、売れてもほとんど僕にお金が入らないのに。
——あ、そうなんですか。
ほとんど人に差し上げてる曲ですから。「ゆうげ」の場合は1曲くらいしか僕に印税が入る曲はないと思う。だから500万枚くらい売れないとお金持ちになれないんですよ。それこそEXILEぐらいにさ。俺が14人くらいになったらいいのに。
——わはは(笑)。いいですね「rei harakami、メンバー13人増員!」って。
うーん、DA PUMPも9人になったしねえ。やっぱ増やさなきゃマズいんじゃないかなあ。
——まあ、それは置いておいて(笑)、そもそもこの2種類のアルバムでリミックスやアレンジ音源をまとめようと思ったのはどういう意図だったんでしょうか。
単純に聴けなくなった曲が増えてきたからです。僕はベストアルバムを出す気は毛頭無くって、それだったらアルバムを聴いてほしいなと思ってるんです。絶対に整合性がなくなるだろうから。でも、特に「あさげ」の曲ですけど、いま買おうと思っても買えないんですよね。アナログにしか収録されなかったりとか、インディーズレーベルから出たけどそのレーベルがもう無いとか。だから、そういうのが溜まって「4枚組アルバムとかにしないともうダメ」ってなる前に、ひと区切りしてまとめておきたいなって。
——編集盤としては2006年にも未CD化音源集「わすれもの」をリリースしていますよね。
早く過去を精算したかったんですよ(笑)。ベストを出すよりいいだろうって。下手に形にしちゃったままだった作りかけの曲を掘り起こして聴いてみたら、「わぁ……、もう絶対に続きを作りたくないけど、でもまぁ惜しいところまでいってたなぁ……」って曲が、こんなにあるとは思わなかったってくらい大量に出てきたので。
——ということは、「わすれもの」と今回の「あさげ」「ゆうげ」で、ハラカミさん言うところの掘り起こし作業は……。
ほぼ終了です。
——じゃあ、次はオリジナルアルバムですね!?
見事に何にもできてませんけどね(笑)。でも「lust」から何もしてないわけじゃないんですよ? サントラ2枚作って、yanokamiもやってるわけです。 「もう4年も遊んで暮らしてる」なんて思われたら困りますよ(笑)。むしろ自分では結構働いている方だと思ってるんですから。
——いや、誰もヒマそうだなんて思ってないと思いますよ(笑)。とすると今後の展開はどう考えてるんでしょうか。
ライブはもしかしたらやるようなやらないような。できるだけ地味にやっていきたいです。
——地味に?
仕事が重なって、すぐに次のこと! 次のこと! ってなると、どうしても作り込みが足りなくなっちゃうんですよ。作り込んでる間に「ああ、また次の時間が来ちゃった」って。去年もいっぱい作りましたけど、曲の破片みたいなのだらけで何にもならなかった。作り込みが足りなかったら続きとか作るの面倒なんでボツにしちゃうし。
——今年はまとまった時間を使って制作に打ち込むんですね。
できるだけ放っておいてくれ、っていう(笑)。「もういいじゃん、みんな聴きたいでしょ? 次のアルバム」って気持ちです。
——聴きたいですね。じっくりと楽しみにしてます。
CD収録曲
- curved flow (rei harakami path mix) / Flare
(「Re-grip」収録) - Alien to whome? (rei harakami mix) / Max Brennan
(「Old codger remixes EP」収録) - sabré (rei harakami remix) / Child's View
(「サブレとグリルのEP」収録) - Pone / rei harakami
(「ブギーポップは笑わない~Boogiepop Phantom OST」収録 - Lane (rei harakami mix) / Tanzmuzik
(「Western Cos EP」収録) - Art Farmer Rei Harakami Remix / Soft
(「Art Farmer Remixes」収録) - red curb again / rei harakami
(「red curb again ep」収録) - skyline / suzukiski + rei harakami
(「Action EP」収録) - Jippun / ASA-CHANG&巡礼
(「つぎねぷ」収録) - Pan American Beef Stake Art Federations Rei Harakami 餅米 Re-Arrange(メッセージ付) / Date Course Pentagon Royal Garden
(「DCPRG3」収録) - own cake / rei harakami
(「GARCIA MARQUEZ gauche PREMIUM BOOK vol.1」収録)
CD収録曲
- Bee Rei Harakami REMIX / Great 3
(「Sitios ep」収録) - 二重螺旋(Re-mixed by Rei Harakami)
Electrical Lovers (「Nijyu Rasen (EP)」収録」 - 流星より愛をこめて「流星メドレーVer.」 -Rearranged By Rei Harakami / イルリメ
(「流星より愛をこめて」収録) - ばらの花 ~remixed by Rei Harakami / くるり
(「WORLD'S END SUPERNOVA」収録) - 閃光 / UA
(「閃光(シングル)」収録) - U-REI ~REI HARAKAMI remix / NUMBER GIRL
(V.A./「至福刑事 Vol.2」収録) - あたらしい花 / ASA-CHANG&巡礼
(「つぎねぷ」収録) - Oh Baby Plus / Great 3
(「SINGLES 1994-2002」収録) - 迷子の鳥 / CHOCOLAT
(「Chocolate Notes」収録) - Chocolate Notes ドレミファソラ / CHOCOLAT
(「Chocolate Notes」収録) - Senaka / ASA-CHANG&巡礼
(「みんなのジュンレイ」収録) - 虚離より / 二階堂和美
(「二階堂和美のアルバム」収録)
rei harakami(レイ・ハラカミ)
1970年に広島で生まれ、現在は京都在住の電子音楽家。Flare(KEN ISHIIの変名プロジェクト)が1996年に発表したリミックスアルバム「Re-Grip」への参加でミュージシャンとしてのキャリアをスタートさせ、それまでのクラブミュージックとは異なる澄み切った独特なサウンドで注目される。
2001年にリリースされた3rdアルバム「red curb」をきっかけにその人気は一気に拡大。UA、Great3、Chocolat、イルリメ、ASA-CHANG&巡礼、二階堂和美などのプロデュースや、くるり、NUMBER GIRLのリミックスなどを手がけ、ロックやポップスの分野からも引く手あまたのトラックメイカーとなる。
2005年にはお台場・日本科学未来館のプラネタリウムで公開された「暗やみの色」の音楽を全曲書き下ろし、翌年「レイ・ハラカミ feat.原田郁子」名義でサントラを発表。さらに2008年には映画「天然コケッコー」のサウンドトラックを手がけ、「第62回毎日映画コンクール」にて音楽賞を受賞している。また、矢野顕子とスペシャルユニットyanokamiを結成。2007年にアルバム「yanokami」を発表している。