ナタリー PowerPush - rei harakami
2枚のリミックス・ベストから読み解く、電子音楽マエストロの裏10年史
繊細で美しく独創的なサウンドで、クラブミュージックのリスナーのみならず幅広い人々から支持を集めてきた電子音楽家・rei harakami。彼の手によってリミックスされた音源やプロデュース作品、未CD化音源などを一堂に集めた2枚のコンピレーションアルバム「あさげ -selected re-mix & re-arrangement works / 1」「ゆうげ -selected re-mix & re-arrangement works / 2」が3月18日に同時リリースされた。
「あさげ」に収録されたのはFlare(Ken Ishii)、Child's view(竹村延和)、DATE COURSE PENTAGON ROYAL GARDENらのリミックスや、アニメ「ブギーポップは笑わない」のサントラ収録曲といった初期音源。そして「ゆうげ」にはNUMBER GIRLやくるりのリミックス、UA、Great3、Chocolat、ASA-CHANG&巡礼、イルリメ、二階堂和美といったアーティストのプロデュース曲が収められている。
リミキサー&プロデューサーとしてのrei harakamiの足跡を追ったこれら2枚の作品は、オリジナルアルバムだけでは見えてこない彼のもうひとつの側面を明らかにしてくれる。ナタリーではrei harakamiにインタビューを敢行し、彼のキャリアの裏ヒストリーともいうべきこれら2作品について語ってもらった。
取材・文/橋本尚平
原曲をちゃんと活かしてあげようって意識してたんです
——リリース時期の早い音源を「あさげ」、最近の音源を「ゆうげ」に収録しているとのことですが、「あさげ」はインストで「ゆうげ」は歌モノと、見事にカラーが変わっていますね。
2001年くらいを境に、リミックス依頼される曲が突如ほとんど歌モノになったんですよ。リリース順でいえば多少前後してるんですけど、どちらのアルバムも完全に作った順に並べたはずです。
——2001年といえば「red curb」を発表した時期ですね。ロック系雑誌などでも絶賛されたり、ハラカミさんの名前が一気に多くの人に浸透して盛り上がり始めたのは、「red curb」がきっかけだったような印象があります。
そうですね。だから「あさげ」の曲を聴いたことがない人は多いかも。
——周囲の認知度が上がったことで作品を作るうえでの意識が変わって、その結果歌モノが増えたとか?
いや、別に何も変わってないです。単純に歌モノの依頼がいっぱい来るようになったっていうだけ。自分から「リミックスやらせてください」って言うことはほとんどないですし。あの時期って自分がそれまでいたフィールドの人たちよりも、ロックやポップスの人からの方が圧倒的に反応が良かったんですよね。8年経った今でもそれが何故なのかさっぱりわからないんですけど。だから僕が歌モノのリミックスに限定して仕事を請けてたつもりはまったくないです。ええ。
——オリジナル曲とリミックスでは、作るうえで苦労する点などに違いはありますか?
オリジナルだとゼロから自分で考えるわけですけど、リミックスの場合はもうすでにメロディという「あらすじ」みたいなものがあって、そこに自分の音で肉付けしていくというやり方ですからね。一般的には歌モノのリミックスってサビだったり、曲のキモになる部分を使ってダンストラックを作ることが多いと思いますが、僕の場合はすべてのアレンジをやり直すっていう意識があって。
——ああ、時期が進むとだんだん、曲名の表記が「リミックス」から「リアレンジ」に変わるんですよね。
変わったというか、まあ「あさげ」の曲はもともと歌モノじゃないし、「リミックスって言うしかねえか」みたいな感じだったんです。でも歌モノに関しては原曲をちゃんと活かしてあげようって意識してたんで。普通、誰かにポップスのリミックスを依頼するときって「もっとクラブでもかけてもらえるように、フロア向けに仕上げて下さい」みたいな注文が多いと思うんですけど、僕にわざわざダンストラックを期待する人はいないだろうし(笑)、歌を全部使ってアレンジをやりなおすって人が1人くらいいても良いんじゃないかなって。曲を作った本人にとっても、そういうことをしたほうが「あ、そんな解釈があるんだ」みたいに喜んでくれるだろうと思ってますし。
——でも今ならともかく、2001年ごろにハラカミさんにリミックスを依頼した人たちって、こんなに原曲を活かしてくれると思って頼んだわけじゃないですよね、きっと。
うん、明らかに違う。最初のうちは「とりあえず怖いモノ見たさで頼んでみよう」って感じなんだと思います(笑)。でもその辺の「歌モノのリミックス」の流れを踏まえて、「ゆうげ」の後半からプロデュースものになっていくわけなんです。
鳴かず飛ばずがずっと続いてたんで、もうどうせ売れないし潮時だろうって
——今回収録された中で印象に残っているリミックスやリアレンジはどれですか?
やっぱりくるりの「ばらの花」ですね。くるり、UA、ASA-CHANG&巡礼あたりはほとんど苦行に近かったです(笑)。
——苦行!? それはどのあたりが?
「ばらの花」はメチャメチャ原曲好きだったんで余計につらかったな。こういうのってあんまり思い入れがないくらいのほうがやりやすいものなんですよ。聴く人が「まさかその曲がこんなことになるとは!」みたいに感じてくれればと思いながら作るので。だから、何でまたよりによって「ばらの花」なのかってプレッシャーはありましたね。その意味で言うとASA-CHANG&巡礼をリミックスした「あたらしい花」の場合は、すでに原曲の「花」が非常にインパクトのある曲だったので、これ以上いったい何をすればいいのかって思いましたよね(笑)。
——UAの「閃光」にはプロデューサーとしてかかわっていますが、これもまた別の苦しみが?
この曲はUAの3年ぶりの復帰シングルだったんで、単純に社会的なプレッシャーがしんどかったです。しかもUAが初めて作詞作曲した作品って話だし。それを僕がプロデュースとか意味がわからなかったです(笑)。
——プロデューサーという肩書きはこれが最初ですか?
そうなりましたね。それまでずっと家で曲作ってたような、ただのヒキコモリの打ち込み野郎なのに、なんか突然スタジオに連れてこられて。フェーダーが何十個もあるようなところに座らせられて、何をしたらいいのかよくわからないままプロデューサーやってました(笑)。でも、もちろんその経験がその後のプロデュースワークの礎になってしまったわけで。朝本浩文さんにコーラスワークを作ってもらったんですけど、横目でチラチラ見ながら「メインボーカルより上の音階はあんまり出さないのか、なるほど」とか、いろんな人からご教示いただいてすごい勉強になりましたね。
——初プロデュース作品を今になって改めて聴いてみてどうでした?
結構ひさびさに聴いたんですけど、当時よりも素直に聴くことができて「あ、良い曲だな」って思いました(笑)。作ってるときは僕もUAも、聴きすぎてどんどん訳がわからなくなってたんですよ。何年も経ってやっとちゃんと聴けるようになったかな。でもやっぱり「今だったらもうちょっと良くできるかな」とは思いますけどね。
——それまでプロデュースという仕事に興味はあったんですか?
いや別に。まさかそんな売れてる人と仕事するなんて考えてないですから。そもそも「red curb」でもう終わりにしようくらいに思ってましたからね。
——え! そうだったんですか!
うん。もうどうせ売れないし潮時だろうって。鳴かず飛ばずがずっと続いてたんで、好きなことやって一旦リセットしようと思って作ったのが「red curb」。僕にしろレーベルの人にしろ、あのアルバムが多くの人から反応をもたれるようなものだとは全く思ってませんでしたから。
——ああ、そんなタイミングで「ばらの花」リミックスや「閃光」のプロデュース依頼が来たら、確かに状況が一変して訳がわからなくなりそうですね(笑)。
急にスタッフからの待遇が良くなりましたからね。それまではスタッフにライブやるって言っても、「あ、そう。良かったね。じゃ元気でやってて」って言われて、結局誰も見に来ないとか普通にありましたから(笑)。UAの曲を出したくらいの頃から「やばい! ちゃんとハラカミにアテンダントつけないとウチの会社がなめられる!」みたいな空気になってきたんですよ(笑)。
CD収録曲
- curved flow (rei harakami path mix) / Flare
(「Re-grip」収録) - Alien to whome? (rei harakami mix) / Max Brennan
(「Old codger remixes EP」収録) - sabré (rei harakami remix) / Child's View
(「サブレとグリルのEP」収録) - Pone / rei harakami
(「ブギーポップは笑わない~Boogiepop Phantom OST」収録 - Lane (rei harakami mix) / Tanzmuzik
(「Western Cos EP」収録) - Art Farmer Rei Harakami Remix / Soft
(「Art Farmer Remixes」収録) - red curb again / rei harakami
(「red curb again ep」収録) - skyline / suzukiski + rei harakami
(「Action EP」収録) - Jippun / ASA-CHANG&巡礼
(「つぎねぷ」収録) - Pan American Beef Stake Art Federations Rei Harakami 餅米 Re-Arrange(メッセージ付) / Date Course Pentagon Royal Garden
(「DCPRG3」収録) - own cake / rei harakami
(「GARCIA MARQUEZ gauche PREMIUM BOOK vol.1」収録)
CD収録曲
- Bee Rei Harakami REMIX / Great 3
(「Sitios ep」収録) - 二重螺旋(Re-mixed by Rei Harakami)
Electrical Lovers (「Nijyu Rasen (EP)」収録」 - 流星より愛をこめて「流星メドレーVer.」 -Rearranged By Rei Harakami / イルリメ
(「流星より愛をこめて」収録) - ばらの花 ~remixed by Rei Harakami / くるり
(「WORLD'S END SUPERNOVA」収録) - 閃光 / UA
(「閃光(シングル)」収録) - U-REI ~REI HARAKAMI remix / NUMBER GIRL
(V.A./「至福刑事 Vol.2」収録) - あたらしい花 / ASA-CHANG&巡礼
(「つぎねぷ」収録) - Oh Baby Plus / Great 3
(「SINGLES 1994-2002」収録) - 迷子の鳥 / CHOCOLAT
(「Chocolate Notes」収録) - Chocolate Notes ドレミファソラ / CHOCOLAT
(「Chocolate Notes」収録) - Senaka / ASA-CHANG&巡礼
(「みんなのジュンレイ」収録) - 虚離より / 二階堂和美
(「二階堂和美のアルバム」収録)
rei harakami(レイ・ハラカミ)
1970年に広島で生まれ、現在は京都在住の電子音楽家。Flare(KEN ISHIIの変名プロジェクト)が1996年に発表したリミックスアルバム「Re-Grip」への参加でミュージシャンとしてのキャリアをスタートさせ、それまでのクラブミュージックとは異なる澄み切った独特なサウンドで注目される。
2001年にリリースされた3rdアルバム「red curb」をきっかけにその人気は一気に拡大。UA、Great3、Chocolat、イルリメ、ASA-CHANG&巡礼、二階堂和美などのプロデュースや、くるり、NUMBER GIRLのリミックスなどを手がけ、ロックやポップスの分野からも引く手あまたのトラックメイカーとなる。
2005年にはお台場・日本科学未来館のプラネタリウムで公開された「暗やみの色」の音楽を全曲書き下ろし、翌年「レイ・ハラカミ feat.原田郁子」名義でサントラを発表。さらに2008年には映画「天然コケッコー」のサウンドトラックを手がけ、「第62回毎日映画コンクール」にて音楽賞を受賞している。また、矢野顕子とスペシャルユニットyanokamiを結成。2007年にアルバム「yanokami」を発表している。