reGretGirl|ティーンの心とつながり合う、痛くて甘い歌詞世界

平部雅洋(Vo, G)、十九川宗裕(B)、前田将司(D)による大阪出身のロックバンド・reGretGirl。代表曲「ホワイトアウト」をはじめとする、恋愛をしているときの切ない思いや失恋の悲しみを赤裸々に歌った彼らの楽曲は、TikTokやYouTubeなどのSNSを中心にティーンに広く支持されている。

そんなreGretGirlが、日本コロムビア・No Big Deal Recordsより初のフルアルバム「カーテンコール」で1月27日にメジャーデビューした。音楽ナタリーではこれを記念して、若者たちに愛されるreGretGirlの歌詞の魅力を掘り下げるレビューとともに、彼らにゆかりのある石原慎也(Saucy Dog)、YouTuber / TikTokerのMINAMI、本仮屋ユイカの3名によるコメントを紹介する。

文 / 天野史彬

なぜ若者は彼らの歌詞に共感するのか?

生きていれば、誰しもが“ハッピーサッド”な感覚に捕らわれる瞬間があるだろう。幸せなのに悲しい、悲しいのに幸せ……そんなどっちつかずの感情が私たちの毎日にはつきまとうし、なんだったら、そんな感情こそがほかには代えがたい高揚を人生にもたらしていたりする。今、自分が過ごしているのはとてつもなく幸福な時間のはずなのに、その瞬間が永遠ではないことを悟っているが故に、どうしようもない寂しさを感じてしまう瞬間や、天地がひっくり返るようなものすごく悲しい別れを経験したあとに、なぜだか「生きていてよかったなあ」という思いが込み上げてくるような瞬間。誰にも出会わず、誰にも恋せず生きていければ、寂しさも悲しさも感じずに生きていけるかもしれないが、出会ったからには、人は悲しくもなるし、寂しくもなる。それを承知で、私たちは天国のようで地獄のようでもある恋に突撃していく。そんなときにあふれてくる、短絡的な「幸」か「不幸」かで二分できない“ハッピーサッド”な感覚。私たちの生の秘密は、そんな曖昧な感情の中にこそ閉じ込められているのではないか。ここに紹介する3ピースバンド・reGretGirlは、そんな“ハッピーサッド”な感情を見事に音楽で表現してみせるバンドだ。

reGretGirl

2014年に大阪で結成された、平部雅洋(Vo, G)、十九川宗裕(B)、前田将司(D)からなるreGretGirl。2017年に1stミニアルバム「my」をリリースして以降、2018年には2ndミニアルバム「take」、2019年には3rdミニアルバム「soon」、そして2020年には1stシングル「スプリング」やドラマ「片恋グルメ日記」のオープニング主題歌にもなったデジタルシングル「pudding」など、コンスタントに作品を重ねてきた彼らの楽曲は、YouTubeやTikTokといったSNSツールを通して、10代の若者たちを中心に共感を集めている。きっと、若者たちが自分たちの感情を誰かにわかってほしいと思ったとき、「こんな気持ち、あるよね?」と分かち合いたくなったとき、reGretGirlの音楽をシェアすることは、彼らの気持ちを美しく代弁してくれたのだろう。特に、彼らの初期の楽曲の中で繰り返し描かれてきた“失恋”というモチーフは、バンドと聴き手の間に強い精神的な結び付きを生む要因になっているようだ。例えば、「my」に収録された初期の楽曲「デイドリーム」。

この曲は、序盤では主人公と恋人との幸福な景色が描かれているのだが、歌が進むにつれて、徐々にそれが主人公の記憶であり、すでに失われてしまった幸せだったことが明らかになっていく。そして「僕の知らない誰かと同じ右手を繋ぐとか 僕の知らない誰かと同じキスをするとか」という歌詞から畳みかけるようにつづられる、去って行った“君”への執着にも似た思いにつながっていくのだが、ここに至ると、主人公の感情はもはや怨念めいてすら聴こえてくる。曲の展開に合わせて主人公の感情が変わっていく様子を明らかにしながら、その心情を深く深く掘っていくようなストーリーテリングが見事である。それと同時に、この曲に「デイドリーム」──つまり“白昼夢”というタイトルを冠するところには、サイケデリックとも言えるセンスが感じられる。

「デイドリーム」はミュージックビデオがYouTubeで600万回以上の再生回数(2021年1月現在)を記録しているreGretGirlの人気曲だが、この曲に描かれるような切なくも痛ましい感情を、ていよく美化させることなく、ドロドロとした確かな手触りを残したまま洗練されたポップソングに昇華する手腕。これが吐き出したくても吐き出せない思いを抱える聴き手に刺さり、彼らとバンドの間に、秘密を共有する共犯関係ともいえる結び付きを与えているのだろう。2020年にTikTokでバズを起こした楽曲「Shunari」もまた、彼らの一筋縄ではいかない文学性とストーリーテリングを堪能できる1曲だ。

そんな「デイドリーム」や「Shunari」以上に注目されたのは、彼らの初期の代表曲「ホワイトアウト」だ。この曲もまたTikTokを通して若者たちから強い支持を得た曲で、MVのYouTubeでの再生回数は約2300万回を記録(2021年1月現在)するなど、SNS上でバズを起こした1曲である。この「ホワイトアウト」をきっかけに、reGretGirlの存在を知った人もきっと多いはずだ。

この曲では、おそらく彼らに大きく影響を与えているMy Hair is Badに通じる性急なグルーヴ感のある歌い出しから、別れを告げる恋人に追いすがる主人公のぐちゃぐちゃにかき混ぜられた感情が見事に表現されている。そもそも“ホワイトアウト”とは、雪や雲の影響で視界が真っ白になり方向感覚などが麻痺してしまう状態を指す言葉。曲中では日々の中で何気なく誤魔化し、やり過ごしてきた2人の関係の些細な“ズレ”が、いつの間にか冬山の雪のように降り積もって主人公の視界を奪う。別れを告げられた瞬間、つまり、これまでの過ちに気付いた瞬間、もはやすべてが手遅れで、真っ白な頭と視界の中、走ること、願うこと、泣き叫ぶことしかできない……そんな主人公の、刹那の焦燥感と無力感。情けなさも後悔も、ドロドロにほとばしらせて疾走するこの曲は、その後のreGretGirlの楽曲が進化していく様子を踏まえると、まだ荒々しさや青臭さを感じさせる楽曲ではあるのだが、その衝動性において、バンドの初期にしか作り得なかった名曲といえるだろう。

「ホワイトアウト」は「いつだってなかなか既読にならない 未読のままのラインが不安で」という歌い出しで始まる。冒頭から、「既読」や「ライン」といった身近なワードで聴き手との心の距離を一気に埋めてくるこの筆致は、彼らの楽曲がSNSなどを通して若者の心を捉えた大きな理由でもあるだろう。reGretGirlの歌詞は、主に作詞作曲を手がける平部の実体験をもとにしたものが多いようだが、極めて個人的な体験や感情を、普遍性のある景色として聴き手の脳裏に鮮やかに映し出してみせる作詞家としての才能が、バンドの初期段階ですでに開花していることを感じさせる。

ちなみにオフィシャルサイトのバイオグラフィには、「reGretGirl」というバンド名の由来に関して、「平部が昔の彼女にフラれて『いつか有名になってフッたことを後悔させてやる。』と思い、後悔のregretと女の子のgirlで(後悔する女の子)という意味でバンド名を命名」とある。失恋相手を後悔させるはずが、結局のところ自分自身が「後悔する女の子」と名乗っているというパラドックスが面白い。このバンド名を付けてしまった時点で、その女の子のことを一生忘れられないのではと勘繰ってしまうが、そのどうしようもなく「背負ってしまう」感じがreGretGirlの歌詞世界にはよく表れているようにも思う。あるいはこのバンド名は、好きが高じて、もはや「その女の子になってしまいたい」という同一化願望の表れだったりするのかも……というのは、私の考えすぎだろうか? しかしながら、憧れの人や愛する人と同じ眼差しで世界を眺めてみたいというのは、きっと多くの人が一度は感じたことのある感情なのではないだろうか。

reGretGirlは1月27日にメジャーデビュー作となる1stフルアルバム「カーテンコール」をリリースする。記念すべき1stフルアルバムに、「演劇の幕切れに出演者をステージに呼び戻す」という意味のタイトルを冠するところが、とてもreGretGirlらしいセンスだ。彼らの音楽は常に「終わり」の先から始まるのだろう。

このアルバムは、激しく軽快なギターサウンドに乗せて、大人になりきれない男の心情を描く1曲目の「ルート26」、デジタルシングル曲だった「pudding」や「インスタント」など、ポップなギターサウンドが耳を引く冒頭3曲に始まり、表題曲「カーテンコール」ではストリングスを取り入れたスケールの大きく抒情的なバラードを響かせるなど、バンドの音楽的な振り幅もしっかりと感じさせる充実の内容。コロナ禍の自粛期間の心情を歌ったと思しき切実な歌詞が胸を刺す8曲目の「Longdays」や、“別れ”というreGretGirlの永遠のテーマを歌いながらピアノの音色が光へ向かって手を伸ばすような光景を想起させる11曲目「約束」など、「ホワイトアウト」や「デイドリーム」の頃に比べて、音楽性においても歌詞においても、バンドが成熟したことを感じさせる楽曲が多く収録されている。メロディの美しさを際立たせる歌謡曲的なコーラスの豊かさや、ときに後ろ向きな歌詞が並ぶ楽曲にもユーモアを射し込むことで曲の重量をいい意味で軽くする躍動感のあるベースラインなど、サウンド全体にバンドの音楽的個性が光っている。

reGretGirl

そんな本作の中でも際立ってバンドの進化を感じさせるのが、リード曲として先行配信された5曲目「グッドバイ」。軽妙なギターのカッティングとダンサブルなビートが新鮮なこの曲、そんなサウンドの肉体的な明るさとは対照的に、歌詞では恋人同士の関係が終わりを迎えようとしている……そんな“予感”が、絶妙なワードセンスで描かれている。

表面的にはいつもと変わらぬ幸せな毎日のはずなのに、その根底に色濃く漂う“終わり”の気配。「この不安はどうしてだ」と、その気配を必死にかき消そうとしながらも、予感が日々を侵食していく……。2人にとって当たり前の光景を「サヨナラに向かう悲しみにしがみ付いている気がした」と歌っているように、「ホワイトアウト」で描かれたような唐突に突きつけられる言葉としての“終わり”ではなく、言葉に出さないながら、一緒に暮らす日々の中でお互いが感じているであろう空気が描写されている。一見、幸福な生活の底に流れる喪失の気配はあまりに残酷でもの悲しいものだが、その気配を生み出しているのは、恋愛の当事者である自分自身でもあるという袋小路がそこにはある。この、なんとも言葉にしがたい感情を見事に歌詞に落とし込み、それをファンキーなサウンドに乗せることで、「グッドバイ」という曲は、どうしようもなく複雑で、狂おしくなるような、“ハッピーサッド”な感情を見事に音楽の中に捉えてみせる。「もうすぐ終わりがくる」──そんな予感を噛みしめるたびに幸せな甘い香りが鼻をかすめ、その香りで体を満たした瞬間に、「永遠なんてない」という冷ややかな現実が鋭く胸を打つ。この幸せと悲しみのらせん構造に、私たちはなす術もなく、今、この瞬間を踊るしかない。泣き笑いの表情を浮かべて、踊るしかないのだ。

この「グッドバイ」で描かれるのは、喪失を幾度となく経験し、喜びと悲しみがいかに密接に結びついているかを身をもって知っている“大人”にしか描けない情景だ。「カーテンコール」というアルバムは、reGretGirlが「ホワイトアウト」のようなかつて自分たちが作り出した名曲の世界に甘んじることなく、一貫した世界観を持ちながらも、それを表現するための言葉や音を洗練させ、より磨きをかけていることを強く実感させる作品でもある。そういう意味でも、彼らがいかに信頼できるバンドであるかを知ることができる作品だ。