「Reborn-Art Festival」|“いのちのてざわり”がテーマの芸術祭 小林武史、Salyu、コムアイに聞く宮沢賢治オペラから体育館ライブまで

満島真之介が演じる賢治

──宮沢賢治はいろんな解釈や表現ができる、アーティストにとって面白いテーマなんですね。

小林 本当そうで。それと賢治を演じる満島くんは、奔放なエネルギーを持っている人。こう言っちゃなんですけど、役者として“今の規格”にハマりきらないくらい。例えば“理想の彼氏”みたいな文脈で語ろうとしてもハマりきらないと思うんです(笑)。でも宮沢賢治の解釈としては、満島くんが演じるってけっこう新しいと思う。宮沢賢治にこういう捉え方があるんだなという驚きがあると思います。

コムアイ ぴったりですよね。満島くん、座長みたいなんです。“満島座”って感じ。「こうしていきたい」というアイデアがどんどん出てくる。お客さんの配置から私たちの動き方まで、演出のことも含めて1から想像してくれていて。それをもとにみんなでいろいろ考えています。役者たちでそういうことができるのがすごく楽しい。こんなこと勝手に言っていいのかわからないけど、普段は演出家がいるところで演じているから、たぶん溜まってるんだと思う(笑)。

Salyu

Salyu あははは(笑)。コムアイちゃんも満島くんも、すごくこの作品を総合的に眺めて向き合って、ビジョンを描いているんですよね。2人からいろいろな演出的なアイデアが出てくる。それって私にとってすごく新鮮なことなんですよ。私はどっちかと言うとプレイヤー体質で、役柄や作品をどう音楽的に表現するかというところに向かっていくタイプだから。だから今回はいろんな表現や視点があるんだなと勉強になります。2017年と編成も違う。あのときは全員ミュージシャンだったから。先ほど小林さんが「キー合わせを少しずつ始めている」と話していましたけど、それも満島くんが「キーを変えたい」と言い出したところから始まったんです。「このキーはしゃべるときのトーンじゃないから」って言うんですよ。それってやっぱり役者ならではの音楽への向かい方だなと思って。非常に新鮮なんだよね。

コムアイ 本当ですね。

Salyu 「『あー』って、僕は高い声で言えない」って(笑)。結局原曲のままになりましたけど。

小林 そうだったんだ(笑)。

──出演者のセレクトは、小林さんによるものですか?

小林 スタッフといろいろ相談しながらでしたけど、結局は僕が中心になってやっていました。

──小林さん、コムアイさん、Salyuさん、満島さんなどの名前が並ぶとエネルギーや雰囲気のすごさを感じますね。

コムアイ うん、面白いと思います。私、Salyuさんが演じられていたとしこの歌が本当に好きで、今回はそれでお受けしたんですよ! 隣で勉強したいことがいっぱいある。同じ劇団とかにいたら、いっぱい学べるじゃないですか。だからこっそり見ながら、この人の曲芸をちょっと(笑)。

Salyu それは私も思った。本当に1人ひとり個性豊かなので、すごい刺激。勉強になっています。

コムアイ あと、それぞれがちょっと快楽主義みたいなところがあるから面白いのかもしれないですね。賢治は実際には少し机に向かってヒソヒソヒソと書くような人かもしれないけど、賢治が頭の中でワクワクしている感じを満島くんがパーっと表現してくれるんじゃないかな。「こうだったら楽しかったのに」みたいな妄想が、体で表現できたらいいですね。

小林 うまく言えないですが、人工的なスケール感だけじゃなくて、観る人たちの想像力を借りながら十分やっていけるだろうなと。やはりそれぞれがそれぞれのクリエイティブに対して信頼していて、それを踏まえて作り上げることができているからだと思うんですよね。みんな「俺が、私が」みたいになりそうなタイプではあるんだけれど、実際にはあまりそうならない。たぶんいろいろ話をしながらやっているんだと思うし、その共振する感じって、やっていて気持ちいいだろうなと思います。

──演者の皆さんのセッションですね。

Salyu 本当にその通りですね。

コムアイ セッションですね。この間も満島くんがほかの人の歌を聴いて、「やっぱり歌い方変えたい」とどんどん歌い方を変えたりしてて。

左からコムアイ、Salyu、小林武史。

小林 満島真之介、歌がいいんだよ。本当に。

コムアイ めちゃくちゃうまいですよね。

小林 それじゃなかったら選ばなかったですよ。初めて聴いたとき、びっくりした。

コムアイ うん。とはいえ、全員が「俺が、私が」でもやってみたいですね。で、それで結局安定する、みたいな(笑)。

櫻井和寿、宮本浩次らと共に日本語を掘り下げる

──今回の「Reborn-Art Festival」では、オープニングイベントという位置付けで、ライブイベント「転がる、詩」が行われます。こちらは櫻井和寿さんをはじめ、豪華な出演陣も話題ですね(参照:「Reborn-Art Festival」開幕イベントに櫻井和寿、宮本浩次、Salyu、青葉市子)。

小林 音楽イベントは何日間もやれるわけじゃないですから、オープニングイベントという形で2日間やらせていただくことにしました。今回は「ap bank fes」のような大きなイベントではありません。去年は静岡で「ap bank fes」をやって(参照:「ap bank fes」前日祭含む3日間で8万人動員)、やはりそういったものを石巻でやってほしいって声もあったのですが、総合的に考えて石巻市総合体育館を会場にすることにしたんです。

──どんな場所なのですか?

小林 駅から徒歩7、8分くらいの、小高いところにある体育館です。古い木と鉄で作られた、“昔の大きな総合体育館”的なところで。坂を登らなければならないから行くのは大変。でも震災のときに多くの命が救われていて、震災後もいろいろな役割を果たしてきた場所なんです。音楽イベントの会場を探しているときに資料を見て、はじめは「ここはないだろうな」と思っていたんですけど、石巻から東京に帰るある朝、なんだか報せがあったように「やっぱりあそこじゃないか?」と思い立って。それからすぐに現地に視察に行ってみると、「ここだ」と。当日はチェロ、バイオリン、ベース、ドラムなどで演奏して、バンドメンバーが出たり入ったりするようなものをイメージしています。コンパクトかもしれないけど、“響き合う”ということを表現するには一番ふさわしい場所なんじゃないかな。2日間しかありませんが、その機運というか熱量みたいなものを、「Reborn-Art Festival」の本編にも持っていきたいですね。単なるお祭り、打ち上げ花火じゃなくて、最初から本質的な部分に触れにいくというか。

──「転がる、詩」というタイトルも象徴的ですね。

小林武史

小林 僕らがやってきた日本の音楽のことを考えたときに、やはり“日本語”を掘り下げることが日本の歌のオリジナリティなんだろうなと感じていて。僕らの世代って、歌が“どう生きるか”というテーマを扱っていて、文学的な部分を肩代わりしてきたところがあると思うんです。でも最近は、そういう文学的な側面よりも、何かの付属物として音楽があるような印象があって。だから改めて言葉とメロディと空間を、「いのちのてざわり」というテーマの下で表現したい。そのために、僕自身一番長く付き合ってきたボーカリストとして櫻井くんを誘いました。彼とはap bank一緒に設立していますし。あと、最近いろいろと交友しているエレファントカシマシの宮本浩次。彼はあの佇まいがいいですよね。そういった人たちの歌と生の演奏で、音楽的な空間を作るというか、お客さんに音楽の中にどっぷり入り込んでもらいたいと。

──Salyuさんも出演されるんですよね。

Salyu はい。そうですね。

小林 あとは青葉市子ちゃんもね。市子ちゃんは今回、島袋くんのキュレーションにアーティストとしても参加するんですけど。

Salyu アート作品に参加って、ユニークな形ですよね。

──コムアイさんは?

コムアイ 私、出ないですよね?

小林 今のところは出ないね。

コムアイ 「四次元の賢治」でもうそれどころじゃないです、絶対ムリ(笑)。舞台もこれまでやったことがないし、人と歌ったこともないし。そちらをがんばります(笑)。

小林 でも、コムアイともオペラ以外の何かをやりたいな。僕がキュレーターとしてプロデュースする桃浦エリアで、「夜側のできごと」というプログラムをやるんですけど、このプログラムは“リビングスペース”をテーマにしていて。それは桃浦エリアに宿泊施設があることから着想して、防潮堤に囲まれたエリアを茶の間のように捉えるイメージで……子供だったりおじいちゃんだったりいろんな人が、一晩かけて関係を作っていくみたいなオーバーナイトの企画なんです。そしてリビングスペースと打ち出すからには夜の時間の温かい感じを作りたい。そのうえで、多少スピリチュアルな要素も必要だろうなと思っていて。そういう部分にコムアイが参加するのも面白いかもしれないね。

コムアイ 例えばそこで「四次元の賢治」の中の1曲だけ歌う、とか。

小林 それいいね。

コムアイ そうやっていろいろ派生させていくのも楽しいですよね。夜の森を歩いていたら、ある木からある一節が聴こえてくる、とか。

Salyu 素敵ですね。

小林 本当にそれはいいアイデア。「四次元の賢治」の3幕で「銀河鉄道の夜」をテーマにすることにも象徴されているんだけど、イベント全体を通してなかなか起こらない出会いが起こる場所にしたいという思いがあるんです。そうじゃないと意味がない。そしてそんなイベントを、あの場所でやれることに意味がある。本当に楽しみにしていますね。名曲がいろいろ派生していく可能性もありますし。

コムアイ なるほど。しかし本当に楽しみだ。

Salyu ね。

小林 Salyuは前回の石巻滞在記録を更新するかもしれないけれど(笑)。

左からコムアイ、Salyu、小林武史。