RAY特集 内山結愛×マーク・ガードナー|グループを新たな領域へ導く夢の提供曲「Bittersweet」 (2/2)

時代を超えるポップソングはメロディとハーモニーが不可欠

──続いて、「Bittersweet」のサウンド面について話を伺わせてください。

内山 「Bittersweet」はとにかくメロディが美しく素敵で。マークさんがそれまで知らなかったであろうグループのために、こんな美しい曲を書いてくださったことに、まず感激しました。しかも管さんの、ライブで披露する姿をイメージしたアレンジによって、さらに疾走感やさわやかさが増していて。聴きながら、フロアでファンの皆さんが体を揺らしている姿まで想像できました。個人的には、サビの耳当たりのいいリズミカルなフレーズ「I think I like you, now I don't think I like you」が、歌っていてさわやかで楽しいです。あとは2番のサビが終わったあとの……Dメロ?でしょうか。「It's time to go anywhere that you please」で始まるパートのメロディがめちゃくちゃ好きなんです。しかもコーラスが壮大かつドラマチック。聴いているだけで超高まります。メンバーは全編英語歌詞の曲を歌う経験が少ないこともあって、最初は苦戦していました。ただ、コーラスの美しさや音の重なり、メロディの美しさに、初めて聴いたときから全員感動していました。

マーク ありがとう。時代を超える芸術性があるポップソングには、いいメロディやハーモニーが不可欠。私はずっとこの2つに惹かれ、大切にしながら曲を作ってきました。Rideの成功も美しいメロディと、それを包む美しいハーモニーの組み合わせに支えられた部分が大きいと思います。ずっと私が大事にしてきたことを、皆さんに汲み取ってもらえたのはすごく光栄ですね。英語で歌うのは大変だったでしょうけど、きっと私が日本語で歌うほうが難しかったと思いますよ(笑)。

内山 (笑)。

マーク ただ、もしお酒を飲んで気持ちよくなれば、がんばって日本語で歌おうとするかもね。

──もしかしたらマークさんがRAYをカバーし、RAYがRideをカバーすることも?

マーク それはやってみてもいいね!

内山 ぜひ、お酒を飲んで気持ちよくなってください!

マーク よし、取引成立だ(笑)。

マーク・ガードナー(photo by Steve Gullick)

マーク・ガードナー(photo by Steve Gullick)

「Bittersweet」と向き合い続けたい

──改めて、「Bittersweet」は内山さん、マークさんにとってどのような1曲になりましたか?

内山 RAYは今までずっと、音楽を通じて誰もやっていなかったことに挑戦し、模索し続けてきたんです。そうした中、マーク・ガードナーさんに曲を提供していただけることを発表したとき、ネット上での反応や反響が過去一番あったんです。「Bittersweet」を通じてRAYを知ってくださる方もすごく多くて。このまま私たちの入り口の曲であり続けてほしい。何より、アイドルとして音楽にこだわり続けている私たちにとしては、「Bittersweet」がアイドル音楽史に残る1曲になったらいいなという思いを持って、この先どのようにパフォーマンスしていくかを考え続け、この曲に向き合い続けていきたいと思います。

マーク この曲の制作は、私にとって新しいことへの挑戦になりましたし、狙い通り記念に残る作品を作れたと思っています。ぜひ、RAYの皆さんにとって、新しい領域への入り口になってほしいですね。そして多くの方に聴いてもらいたいです。私がこの曲に合わせて歌って踊るよりも、あなたたちのようなアイドルが歌って踊ってくれたほうがヒットする可能性が高いですから。

内山 マークさんのダンス、見てみたいですけどね(笑)。

マーク いや、昔からダンスが得意だったことは一度もないんだよ(笑)。けど、この作品が無事ヒットしましたら、日本に行くので一緒に踊る動画を撮りましょう。そのときは、ぜひ振付を教えてくださいね。

内山 はい、絶対に教えます!

マーク いいですね。今回、リモートならではの難しさもありましたが、一緒に作業ができましたしグループのことをより知ったので、もし次にRAYに作品を作ることがあったら今回の経験を反映できればいいなと思います。それに、こうして一緒に仕事できたのも何かの縁。今度日本に行って一緒にお酒を飲みたいのはもちろん、もし叶うならスタジオで一緒に作業して、新たな作品が作れたら面白いことになるでしょうね。

内山 えっ!? それは実現させたいです!

──今、一緒に楽曲制作という夢のような話が出ましたが、RAYはアイドルとバンドの垣根を超える「Destroy The Wall」というライブも主催しているので、いつかマークさんが出演される可能性もあるかもしれませんね。

内山 そんな奇跡が起こったら、人生に悔いありません!

マーク ぜひ呼んでください! 日本でゆっくりと過ごしたいですね。呼んでいただけたら、演奏するのもよいですし、今話したように一緒にスタジオで共同作業できたら幸せです。

──マークさんはイギリスでOx4 Soundというスタジオを運営されていますので、RAYが渡英しての楽曲制作もあり得ますよね。

マーク ぜひ実現させたいですね! Ox4 Soundは、仕事の忙しさから住み込み状態になるだろうと見越して作ったので、すごく快適なんです。外には日本庭園がありますしね。ここで一緒に作業出来たら、きっと素晴らしいことになりますよ。大歓迎します。

内山 マークさんのスタジオでRAYの新作が作れたら、とてつもないことですね……。今日お話しいただいたことをすべて実現させるために、もっとがんばらないと。

──現在、マークさんはOx4 Soundにて数々のアーティストのプロデュース、エンジニアリングに携わっていらっしゃいます。そして内山さんは音楽が大好きで、非常に多彩なジャンルの作品をSNSで紹介されています。もし、マークさんのお仕事の中で、ぜひ内山さんに聴いてほしいオススメの作品がありましたら、ご紹介をお願いします。

内山 この質問めちゃくちゃしたかったんです!

マーク OK! ちょうど今作業している2つのバンドはぜひ聴いてほしいですね。まずは俳優のパディ・コンシダインがフロントマンを務めるRiding The Lowというバンド。もう1組はグラスゴーを拠点に活動しているHeliconというバンドです。2組とも非常に刺激的な音を奏でるバンドで、私もとてもエキサイトしながら仕事をしているので、きっと内山さんの音楽的好奇心を揺さぶってくれるはずです。

内山 ありがとうございます! 聴いてみます!

言葉にできないものがあるから音楽をやっている

──せっかくの機会ですので、最後に内山さんから、マークさんに聞きたいことやRide愛について伝えたいことがありましたら、ぜひお願いします。

内山 私、noteでの全曲レビューを二度書かせていただくくらい「Nowhere」が大好きで。Rideの音はどこか暗く切なさを感じさせながら、すごくキラキラしていて、まるで光のシャワーを浴びているような気持ちになるんです。中でも「Dreams Burn Down」が一番好きです。どれだけ好きかと言うと、イントロのドラムが鳴るだけで、細胞が喜ぶのを感じるくらい。

マーク ありがとう。「Dreams Burn Down」を作った頃は自分たちはまだ非常に若く、初めて人と交際したような時期だったので、そうしたメランコリーな内面が楽曲に表れたんだと思います。そうした、切なさや美しさを感じ取ってもらえたのはうれしいですね。

内山 神がかったRideのメロディセンスは、マークさんが音の美しさやコーラスを大切にされているからこそなんだと知って、自分がなぜRideが好きなのかを改めて確認できました。この先も、音の美しさに注目しながら大切に聴いていきます。あと、日本のアイドルは年齢などの問題もあって、活動期間が短い職業なんです。マークさんは長年、好奇心を大事にされながら新しいことにどんどん挑戦されていらっしゃいますが、自分の好きなことを長く続けるために、大切にされていることを教えてもらってもいいでしょうか?

マーク 「ひたすら続けること」、これしかありません。そのために大事なのは、これまでの失敗にも成功にも過剰に囚われないこと。そして常に自分の興味のあることを探し続けて、自分の人生を面白がること。とにかく、自分の直感を信じてください。あと、同じことの繰り返しにならないように努めること。常に斬新である必要はありません。ただ、自らの旅路を面白く保つよう努めてください。その結果、周りの人々の旅路も面白くなっていくはずですので。

内山 ありがとうございます。この言葉、噛み締める時間が必要すぎて、音声データをいただきたいぐらい(笑)。このマークさんの言葉を胸に、この先もRAYをがんばっていきます。

RAY(撮影:ヤギタツノリ)

RAY(撮影:ヤギタツノリ)

──ではマークさんから、日本でシューゲイザーを取り込みながら新たなポップミュージックを創造していくRAY、そして内山さんにメッセージやエールをいただいてもよろしいでしょうか。

マーク 先ほどの話の続きですが、内山さん、RAYの皆さん、どうか今やっていることを続けていってください。アイドルとシューゲイザーという異なる要素を両立させて、突き詰めていこうとする姿勢は、とても刺激的で興味深いこと。RAYがこの先の活動を通じて、メインストリームの音楽にシューゲイザーを持ち込むことで、ポップミュージックはより面白いものになっていくはずです。その期待も込めて、とにかくがんばってほしいですね。

内山 (感極まり、しばし言葉が出てこない)

──言葉にできない感動とは、まさにこの瞬間を指しますね。

マーク ハハハ! 言葉にできないものがあるから、私たちは音楽をやっているんだよね。

内山 ……ああ、ずっとカッコいい! 本当にがんばります!

マーク それに、皆さんの活動はイギリスでも好評を得ると思います。ぜひともイギリスに来てくださいね。

プロフィール

RAY(レイ)

2019年5月に始動し、「極北を目指すオルタナティヴアイドル」をキャッチコピーに活動している女性アイドルグループ。現在のメンバーは内山結愛、琴山しずく、月海まお、紬実詩の4人。シューゲイザー、オルタナ、IDM、テクノなどを縦横無尽に融合させた楽曲と、ストイックなライブパフォーマンスでライブアイドル界の中で特異な存在感を放っている。これまでシューゲイザーやオルタナティブなどのジャンルで活躍する多彩なクリエイターから楽曲提供を受けている。2025年10月にはイギリスの伝説的なシューゲイザーバンドRideのマーク・ガードナーが手がけた楽曲「Bittersweet」を含む4thアルバム「White」をリリースした。

マーク・ガードナー

1988年にイギリスのオックスフォードで結成され、シューゲーザーシーンを代表するバンドとして大きな成功を収めたバンドRideのボーカル&ギター。1996年にRideが解散したあとはThe Animalhouseやソロとして作品をリリース。2014年にRideを再結成し、再びアルバムのリリースやツアーの開催を重ねている。現在はイギリスのオックスフォードシャーでスタジオ「Ox4 Sound」を運営し、プロデューサーやエンジニアとしても活躍している。