ポップしなないで|人生上々を信じて “総決算”の1stアルバム完成

時間の経過や、生きることや死ぬこと

──歌詞はどのように書かれているのでしょうか? ポップしなないでの歌詞は、語感や韻、サウンドに対するハマりのよさを重視しているようにも思えるし、それゆえに意味を感じさせないフレーズも時折出てくるように思いますが、そうした歌詞の書き方ができるのは全体を通して明確なモチーフや画が最初から思い浮かんでいるからではないか、という感じもするんですよね。

ポップしなないで

かわむら そうですね。曲のイメージや景色、ビジョンは始めからバッチリと決まっていることが多くて、それは風景だったり「この人がこういうことを考えていたとき、どんな景色が見えるかな?」っていう想像だったりするんですけど、いかんせん、僕はまったくと言っていいほど集中力がなくて。1つのことにしっかり取り組むというより、いろんなことを並列にして物事を考えてしまう。なので最初のイメージを元にしつつ、あとは自分の頭の中のめちゃくちゃでバラバラな思考を漏らすことなく書き取っていくという感じです。集中力がなさすぎて、家でもあまり歌詞を書けないんですよ。移動中の車の中とかで、バタバタガチャガチャと書き起こしながら進めていくことが多いですね。

──ポップしなないでの歌詞には、季節を感じさせるフレーズが多く出てきますよね。日本的な風土や情緒を感じさせますが、これはご自身のどういった思考が反映されているのだと思いますか?

かわむら 日本が好きか嫌いかと問われると難しい話になってくるんですけど……季節に関しては、少なくとも4つの季節があって、1年の区切りでちょうどよく変わっていくって、単純にすごいことだと思うんですよ。それに、冬に冬の気持ちを考えるのも面白いけど、冬に夏のことを考えるのも面白いじゃないですか。冬にTUBEを聴いたっていいし、夏にマライア・キャリーを聴いたっていいわけで。

かめがい 夏に広瀬香美は?

かわむら それもめちゃくちゃいい。音楽には曲の中に描かれている季節と、聴いている人の実際の状況、2つの時間軸が存在していると思うんです。冬に生きている人が、夏の曲を聴くということがありえる。そうやって音楽の中に季節があり、曲を聴いた人の人生にも季節があるということが、僕はすごく美しいことだと思うんです。だからこそ、季節が変わっていくということが僕は好きなんだと思います。

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芯を残したまま可能性を広げることができた

──「上々」を制作するうえで、コロナの影響はありましたか?

かめがい コロナの影響でレコーディング期間が延びたんです。それによって、リード曲になっている「夢見る熱帯夜」はアルバムに入れるのに間に合いました。

かわむら 正直なところ、コロナ前の段階では「フルアルバムとしては何かが足りない」という感覚があったから、ピースがハマった感じがありましたね。

──例えば5曲目の「UFO surf」や10曲目の「Life is walking」にある独特なアンビエント感が、この自粛期間中の家に閉じこもったまま外のことや社会のこと、自分のことを考えていた感覚とすごくリンクするなと、僕は聴きながら思っていて。

かめがい なるほど。

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かわむら 自粛期間で音楽を聴く機会も増えたし、自分に向き合う機会も増えましたからね。この期間は、ポップしなないでの音楽や、自分たちが持っている要素を見直すきっかけになったと思っているんです。「UFO surf」や「Life is walking」のような曲がこういう形で現れたのは、今の時代感もそうですし、我々の精神性もうまく表せた部分はあるのかもしれないです。

──「夢見る熱帯夜」「UFO surf」「ミラーボールはいらない」の3曲には編曲にミツビシテツロウさんの名前がクレジットされていますね。これまで編曲はすべてお二人でやられていたと思うのですが、今回ミツビシさんの力を必要としたのはなぜだったのでしょう?

かわむら 自分たちの可能性を広げるという意味で「アルバムの中の1曲は、今までとは違う感じでやってみてもいいかな」くらいの気持ちでミツビシくんと話をしていたんです。ただ、ずっとフィジカルに制作するという部分を大事にしてきたけど、それが制限になってしまっているとしたら、もったいないなとアルバムの全貌が見えてきたときに思うようになったんですよ。それで、かめがいさんやスタッフと相談して、ミツビシくんに入ってもらうことにしました。ミツビシくんは身近な友人であり、ポップしなないでのことを理解してくれている人なので、我々のマナーを守ったまま新しいことをやるにはどうすればいいか考えてくれたんです。結果として、僕らの芯を残したまま可能性を広げることができたんじゃないかと思います。

人生や人間が「上々」であることを信じて

──最後に「上々」というタイトルはどういった意図で付けられたのでしょう?

かわむら さっきも言ったように、見たくないもの、残酷なもの、本来は口にすべきではないことをちゃんと吐き出すということが、このアルバムのどの曲においても共通していることだと思うんです。言葉遊びも多いし、かめがいさんの歌も飄々としていたりしますけど、それでも残酷な部分、見たくない思い出や現状に目を向けるようなアルバムになっていて。ただ、全曲、最終的には前を向いていると思うんですね。ポップしなないでは現実の残酷さを見たうえで、それをプラスに変えるように、肯定的に、前を向いていけるような音楽を作ることが役割だと思っているんです。タイトルを付けるにあたっていろいろ考えたんですけど、我々は人生や人間が「上々」であることを信じて生きていきたいっていう思いを込めてこのタイトルにしました。字面もかわいいよね?

かめがい うん、かわいい。このタイトルはかわむらくんが考えてくれたんですけど、候補がいくつかある中で「上々」が一番しっくりきました。前向きな言葉だけど、明るすぎないところがいいなと思うんです。「アゲアゲ」だったらこのアルバムには合わないと思うんですよ(笑)。

かわむら いや「アゲアゲ」もいいんじゃない? 「上々」と書いて「アゲアゲ」にする?

かめがい いやだ(笑)。

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