popoq|バンドの在り方は変わっても、バンドであることは変わらない

popoqが1stフルアルバム「00」(リンリン)を7月14日にリリースした。

2020年はミニアルバムを1枚発表したものの、新型コロナウイルス流行の影響でツアーの全公演が中止になるなど、バンドとして思うように活動できない期間が続いたpopoq。そんなコロナ禍の中で制作された今作には、型にはまらない音楽的なアイデアのもと制作された9曲が収録されている。「音源を制作してライブをする」というバンドにとっての“当たり前”が失われた2020年の活動を振り返りつつ、「00」制作の裏側について語ってもらった。

取材・文 / 倉嶌孝彦 撮影 / 前田立

バンドのルーティンが崩れた2020年

──アルバムの話に入る前にバンドの近況から伺えればと思います。昨年は新型コロナウイルスの流行があり、popoqの活動にもかなり影響があったのではないでしょうか。

右京(Dr, Cho) 2020年8月にミニアルバム「Crystallize」をリリースして、その後はツアーを回る予定でいたんですが、それがすべて中止になってしまったんです。毎年それなりにライブをしていたのが一切なくなってしまって、去年はなんとかオンラインライブと自主企画が少しだけ開催できたくらい。緊急事態宣言が明けてひさびさにライブハウスで演奏したとき、全身で音を浴びながら鳴らすということには大きなエネルギーがあるなあと感じました。

上條渉(Vo, G) コロナ禍になってから改めて気付かされたことなんですが、ステージに立って演奏することでその体感が力になる感覚があるんですよね。例えば新曲を書くにしても、ライブで感じたこと、観に来てくれた方々から受け取ったものを題材に書くことが多くて。それが思うようにできない1年はなかなか歯がゆいものでした。

オグラユウキ(B, Cho) 僕はライブがなくなってちょっと冷静になれた気がしたんです。これまではいい意味でも悪い意味でも“音源を出してツアーを回る”という決められたルーティンをこなしていればよかったんですけど、それが崩れた今、何が求められているのかとか、自分の足りないものは何かとか、とにかく考える時間が増えました。自分を見つめ直し続けた1年でした。

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──曲作りにおけるプロセスの変化など、バンドの体質で何か変わったところはありましたか?

右京 今まではスタジオで音を出して作曲の着想を得ることが多かったんですが、今作の制作中はスタジオに集まることも難しくて。なので以前から少しずつ挑戦していた打ち込みをベースにした曲作りにじっくり取りかかることができました。例えばシンセサイザーを使ってエレクトロな要素をバンドに組み込むような試みができたのは、コロナ禍ならではのことかもしれません。

上條 右京から送られてくる音源のデモがどんどん変わっているのは感じていました。それと、それぞれがインプットに時間を費やすことができたので、スキルアップの機会にはなったのかな。

オグラ 自分の引き出しを増やすためのインプットも増えたけど、単純に練習する時間が増えたよね(笑)。そんなに練習が好きなタイプではないんだけど、2人が作曲や作詞をがんばっている間、僕だけ何もしないわけにはいかないから。

バンドで曲を作ることに救われた

──もう1つ聞きたかったのは右京さんと上條さんが書く歌詞の変化です。popoqの音楽は「幻想的」と言われることが多いと思いますが、今作の歌詞はこれまでの音源より少し現実的な言葉がつづられていると感じました。

オグラ それは僕も感じました。自分は歌詞を書かないので、2人が書く詞を客観的に読めるんです。これまではファンタジー的な要素があったりして、“ちょっと遠いところの出来事”のようなイメージだったのが、今作の歌詞はもっと身近なことを歌っているイメージが強くなった。もちろんこれまでのよさが失われたわけではなくて、popoqが歌う曲の世界観の範囲が広がってきたのを感じたというか。

右京 新型コロナウイルスが流行して、決まりきったものを見直すきっかけになったし、疑ってこなかったことを疑うようにもなった。大きな社会の動きは僕の力だけでは変えられないけど、音楽に乗せるとしたら想像力の力を借りて、音楽を聴いた人のことをもっと変えられる気がして。これまで自分が自覚していた自分の強み、ファンタジーというアプローチを少し違う側面から捉えて、歌詞に落とし込んだ感覚があります。

上條渉(Vo, G)

上條 さっきオグラさんが話していたように、バンドの活動ってある程度流れが決まっていて、音源を作ってライブをして、また音源を作って……という大きな流れに僕はある程度流されていたことに気付いたんですよね。でもその流れがなくなったときに、自分のことを見つめ直す時間ができたことで、popoqの曲として書く詞にちょっと自分の内面的な部分を込めるようになったのは自覚しています。おそらくそういう部分が現実的な要素につながっているのかもしれないですね。

右京 僕も自分のことを見つめ直す時間がたくさんあったから、いろいろ考えました。バンドという活動形態を取っている以上、ライブハウスでライブができないことが本当に厳しい時期ではあったんですが、だからと言ってほかの活動をできるほど器用でもなくて。例えば僕は自分で歌ったり、ソロでやっているとかでもなくて、渉さんの声ありきで曲を作っているからpopoq以外の曲は作れないし、オグラさんが考えてくれるフレーズにはいつも助けられているんです。この1年、気持ちの浮き沈みが激しかったけど、メロディを作ってバンドで曲を作っていくことに本当に救われたと思っていて。バンドで曲を作ることが自分の人生に必要なことだし、これがないと前に進んでいけない。だからライブができないかもしれなくても、曲を作るしかなかったんですよね。

──バンドによってはコロナ禍で解散という選択を選ぶ方々もいましたが、popoqにはその選択肢はなかったということですね。

オグラ なかったですね。僕はシンプルにバンドをやっている自分は生きていて、バンドをやってない自分は死んでいるようなものなので(笑)。これ以外の生き方ができないから、バンドをやる以外の選択肢はなかったです。コロナだろうがなんだろうが音楽をやり続けるしかできないので。

上條 僕も音楽をやる=バンドを組むとしか考えたことがない人間なので、解散みたいなことはまったく考えなかったですね。右京が作る曲は自分の中でどんどん大切なものになってきたし、オグラさんのベースラインにすごくワクワクする自分がいるし、なにより3人でライブをする中でお互いの演奏に味が出てくるような醍醐味も忘れられない。特に最近感じるのは、スタジオやライブで音を合わせたときのグルーヴがどんどんよくなっている感覚があって。もしかしたらバンドという活動形態はこれから先も苦境に立たされるかもしれないですが、僕らはこの体制でずっと音楽を続けたいですね。

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すべての物事が「0」に還る

──今作のタイトルは「00」(リンリン)ですが、この「0」と書いて「リン」と読ませるタイトルにはどういう思いが込められているんですか?

右京 この1年、すべての物事が「0」に還るような感覚をずっと感じていて。余分なものがどんどんそぎ落とされて「0」になる感じ、1つのことじゃなくていろんなものが「0」になる感じを表現したくて「0」を2つ並べるタイトルを考えていたんです。それで「0」の読み方をいろいろ調べていたら中国語で「リン」と読むことを知って。「リン」という響きがとてもよかったし、例えば「リン」という発音なら日本語の「凛」という意味も込められると思ってこのタイトルにしました。アートワークに関してはMahさんにアルバムを聴いてもらって、そのイメージで描いていただきました。

──Mahさんとpopoqのアートワークを担当しているのは前作「Crystallize」からですね。Mahさんがバンドのイラストを描くイメージがなかったので、MVが公開されたときは驚きました(参照:popoq「crystal」MVはMah制作の全編アニメーション作品)

右京(Dr, Cho)

右京 以前からMahさんが手がけているEveさんのMVが大好きで。独特なタッチで謎めいた雰囲気を醸し出すMahさんにいつかビジュアルを描いてもらいたいと思っていたんです。popoqの音楽に込められているアンバランスな部分とMahさんのイラストはすごく相性がいいと思い、オファーしてみたら快く引き受けてくださって。「crystal」のMVがすごくよかったので、今回もアートワークとMVを1本作っていただきました。

──MVはどの曲を?

右京 「delight」という曲です。夏場に思い浮かんだメロディを曲にしたもので、作っているときに海の景色が鮮明に思い浮かんだんです。だからこの曲をMahさんにMVにしてもらいたいなと思って。

──「delight」は作曲が右京さんで作詞が上條さんです。右京さんが思い浮かんだ景色は上條さんにも伝えているわけですよね?

上條 はい。右京から曲のイメージを吸い上げつつ、僕なりに曲を解釈して詞に落とし込んでいます。「ディライト」のデモを聴いたとき、すごく希望にあふれるような感覚と目の前に広がる海のイメージが湧いてきて、壮大な航海をする話にしようと思って歌詞を書き始めました。コロナ禍でくすぶっている自分を奮い立たせるような曲にしたかったし、自分自身がそう感じるだけじゃなくて、聴いてくれる人の背中もこの曲で押したいと思って。先の見えない航海で、ときには荒波にも出会うけど、新たな自分、新たな場所を見つける前向きな気持ちを込めた曲です。

右京 僕がデモを作った段階ではここまでの物語を考えていたわけではないので、こうやって渉さんに委ねることで新しいイメージが生まれた曲だと思います。その詞を受けてさらにMahさんがMVを描いてくれるわけですから、作曲者として本当に光栄なことだと思っています。

どんな曲でも「僕が歌うからpopoq」

──アルバムの中盤には「00」という短い尺のインスト曲が入ります。アルバムタイトルと同じこの曲をインタールード的に入れた意図は?

右京 「00」はちょうどアルバムの中間地点に置く曲として、“壊れていく様子”を音で表現したくて作りました。壊れているんだけど、どこかそれを楽しいと感じるようなニュアンスを吹き込みたくて、自分の声を入れたり、ちょっとノイジーなサウンドを盛り込んでいます。

──この曲を境にアルバムの空気感がガラっと変わりますよね。アルバム前半はこれまでのpopoqと地続きにある空気感のバンドサウンドで構成されていますが、「00」を境に打ち込み主体の曲にシフトしています。

右京 エレクトロの要素をバンドに組み込む実験的な試みをした曲を後半に詰め込んでいます。打ち込み主体だとこれまでのバンドの概念を一度取っ払って、例えばギターを鳴らさなかったり、ベースに休んでもらったりするんですが、そういう中でもやっぱりオグラさんのベースの存在感はすごくて。例えばベースが鳴らない瞬間を作ったとしても、ちゃんとほかのところでいいフレーズを鳴らして低音を主張してくれるんです。バンドで曲を作る醍醐味だと思います。

オグラユウキ(B, Cho)

オグラ ありがとう。右京くんの書く曲に対する理解度がどんどん上がってきている感覚があって。楽曲がより身近に感じられてきたというか、自然とフレーズが思い浮かぶようになったんですよね。昔は自分が好きなフレーズだけで成立させようとしてたから、そのときは視野が狭かったんだなと、今改めて思っています。

──打ち込みで作った曲を生ドラムで再現することに難しさは感じませんか?

右京 まずは思い浮かんだ曲を形にすることを考えているので、曲を作っているときはライブでどう再現するかはあまり考えていないんです。それにライブで再現できないわけでもなくて、キックに対してサブキックを入れたり、パッドを使って電子音を鳴らすこともできるから、まずは作りたい曲を作って、そのあとにライブで自分がどういう音色のドラムを叩くか考えるようにしています。

上條 右京は担当楽器こそドラムではあるけど、やっぱり作曲家としての色が強いんだと思う。「geometry」と「sequence」の2曲はpopoqの中でも挑戦的な曲で、もしかしたら「popoqっぽくない」と感じる人もいるかもしれないものなのかもな、とも思っていて。社会が変わっていくように僕らも変わっているからそれを受け入れてほしいし、僕はボーカリストとして「僕が歌うからpopoqだ」という意識をより強く持つようになりました。

──「geometry」のサビで1オクターブ下の低音のコーラスが入っていて、ちょっと驚いたんですよ。popoqは上條さんの高音のボーカルを持ち味にしているバンドだから、こういう低音を重ねることがこれまでなかったなと思って。

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右京 これまでの曲は渉さんの高音を生かす形で曲を作っていたんですが、デモを聴き直していく中で低い声をコントラスト的に入れるのもアリだなと気付いて。サビで低い声を重ねたり、AメロやBメロも少し低めの音域を歌ってもらったりしています。

上條 作品を重ねるごとに右京の作る曲のキーがどんどん高くなる傾向にあって。今作に入ってちょっと低音を意識した曲は増えたと思います。でも「geometry」と「sequence」の2曲に関しては、今までで一番高いキーを求められた曲でした(笑)。

右京 コントラストを意識すると高いところはもっと高くしたくなっちゃうんですよね(笑)。高ければいいわけじゃないけど、やっぱり渉さんの声で再生されることがpopoqの一番の魅力だし、本来女性ボーカリストが歌うようなフレーズを男性のクリアな声で作れるのがこのバンドならではの要素なので、そこは追求していきたくて。だから僕がメロディを作るとつい高くなっちゃう。

上條 右京に鍛えられたからか、同じ高音でも今までは細くなってしまっていたのが、最近はテンション感を強くしたまま歌えるようになってきたんですよね。どんどん高くなるからどこまでついて行けるかわからないけど、ボーカリストとしては少しずつ成長できている気がします。