音楽ナタリー Power Push - Poet-type.M

「夜しかない街」で笑えるように

BUCK-TICK、カシオペア、高中正義

──そして夏盤では、門田さんと楢原さんで制作を進めたと。

楢原 まず変えなくちゃいけなかったことはすごく簡単で、音圧だったんですよ。春盤のときはギターの録音が……。

門田 アンプシミュレーター系のプラグインをかまして、ラインで録っていたからね。

楢原 そのことによってよくも悪くもチープさが出ていたから。この問題は音圧を上げることで改善できるかなと。

門田 「とりあえずプラグインをやめて、ちゃんとアンプで鳴らして録ってください」って楢やんから指摘されて(笑)。今まで自分が当たり前にやっていたことも、根本から問い直すことにつながりましたね。

楢原 実際、春盤と夏盤では確実に音圧が違いますから。

門田 2作の間の進化がハンパなかったのは、楢やん効果が絶大だったからだと思います。

楢原 やっぱり外部から誰かが入って、何も変わらなかったらヤバいから(笑)。

門田 自分の頭の中にある音を再現しようと突き詰めていくと、終わりはないからどんどんハマってしまうんですよね(笑)。そこにはアカデミックな要素も必要だったし、過去の自分のやり方とサヨナラしなくちゃいけない部分もあるし。例えば僕はどの曲にもアコースティックギターを入れたくなるんだけど、楢やんは「門さん、この曲にアコースティックギターを入れるのはやめましょう」って、音を入れないっていうジャッジのきっかけを作ってくれました。

楢原英介

楢原 夏盤のときはサウンドの明確なテーマもありましたからね。それまでのPtMは牧歌的というか、生音が多かったんですよ。特に「White White White」は生楽器の要素が多かったんですけど、春盤ではそこに機械的な音が入ってきて、夏盤ではさらにニューウェイブのテイストが加わったんです。とりあえずギターのエフェクターはコーラスしか使わないとか(笑)。個人的にはその頃BUCK-TICKをよく聴いてたから、その影響もあるかもしれない。

門田 自分は昔のBUCK-TICKを通ってないから意外でしたね。「こんなにニューウェイブだったのか!」って驚いた。

楢原 あと、当時はカシオペアと高中正義をよく聴いてたから、夏盤にはフュージョンの要素も入ってたし。

門田 面白いよね。ロックだけじゃなくて、ほかの要素を加えてケミストリーを生み出すっていう。それが僕にとっては非常に重要だったんです。だって、自分だけでやってたらフュージョンのテイストなんて絶対に出せないですから。「その自慰が終わったなら(Modern Ghost)」のギターなんて、まさにフュージョンって感じの音で笑っちゃいますからね(笑)。

楢原 ハハハハハ(笑)。

門田 あと「神の犬(Do Justice To?)」のダブルドラムも楢やんに委ねました。アレンジに関しては彼に任せた部分が多いです。

──その分、歌に集中できた?

門田 はい。いつか歌に集中して曲を作ってみたいという気持ちもあったし。僕、夏盤では一切ギターを弾いてないんです。自分の作品でギターを弾かなかったのは初めてだったし、だからこそ夏盤には独特の輝きがあると思うんですよね。ニューウェイブ、フュージョンっていう音楽ジャンルもそうだけど、サウンドも「ダイヤモンドは傷つかない(In Memory Of Louis)」ではピアノとアコギがフィーチャーされているし、「Dark & Dark」4部作の中では一番バランスがいいと思います。音楽的なクオリティも高いし、好きな作品ですね。

WinkかNew Orderのイメージ

──秋盤「A Place, Dark & Dark -性器を無くしたアンドロイド-」でも、いろいろと新しい試みがあって。まず「だが、ワインは赫(Deep Red Wine)」のストリングスのことから聞きたいのですが、あのストリングスのスコアは楢原さんが書かれたんですよね?

楢原 そうですね。デモ音源のストリングスも自分で弾いてます。

門田 最初「だが、ワインは赫」はアルバムに入れないつもりだったんです。どうも中途半端だったし、「まだタイミングが早いのかな」と思っていて。でも、去年の秋の日本の混沌とした雰囲気とこの曲がマッチしてきて、「やるなら今しかない」と思ったんですよね。この混沌を表現できるのは「だが、ワインは赫」だなと。それで楢やんにストリングスのアレンジをやってもらったんだけど、見事に混沌としたサイケデリアを宿らせてくれて。デモの段階では打ち込みのドラム、メロトロン、フレンチホルンの音なんかも入っていて、The Beatlesの「Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band」みたいな雰囲気だったんですけど、もっとソリッドにするためにストリングスだけを抽出して、あとは全部なくしたんです。

楢原 「だが、ワインは赫」は2年前くらいに渡されたデモ音源の中に入ってたんですけど、そのときからThe Beatlesっぽいなという印象があって。ただ、この曲をアレンジするときにそのままお手本にするのはどうかな?って思ってたんですよね。あからさまな感じにするのが嫌で。

──“サイケデリック=中期The Beatles”みたいなイメージがありますからね。

門田 そうそう。答えが1つしかない感じというか。

楢原 だからストリングスとピアノだけにしたんですよ。

門田匡陽

──どちらかというとクラシック、現代音楽に近い雰囲気ですよね。

楢原 芸大の女の子4人がレコーディングに弦楽四重奏で参加してくれて。純粋にクラシックを学んできた人たちだったんですけど、ロックなギターリフやチョーキングをクラシックな楽器で演奏してもらったり(笑)。

門田 「指が痛いです」って言ってたよね(笑)。秋盤の中では「あのキラキラした綺麗事を(AGAIN)」もよかったんですよね。あの曲ができたことで、秋盤の芯が通ったというか。歌ってる内容はすごくヘビーなんだけど、サウンドはキラキラさせたかったんです。僕の中であえて同列で語るとWinkかNew Orderのイメージだったんですけど。

──WinkかNew Orderですか?

門田 全然音楽ジャンルが違う2組だけど(笑)。あとはカイリー・ミノーグとかもそうだし。それから楢やんが「The 1975みたいなコーラスを入れましょう」っていうアイデアを出してくれて、ここでも自分1人では生まれない、いいケミストリーがありましたね。「ある日、街灯の下(Farewell, My Lovely)」もデモの段階ではダルい感じというか、USオルタナみたいな曲だったんだけど、楢やんがシティポップ調にしてくれて。

楢原 ライブのメンバー4人でアレンジを詰めていきました。

門田 そういえば秋盤はバンドっぽさも出てるね。

頑なでないほうが面白い

──冬盤(「A Place, Dark & Dark -永遠の終わりまでYESを-」)は「festival M.O.N」が終了した時点で2曲しかそろってなかったそうですね。

楢原 レコーディングの日が近くなっても曲がなかなか届かなくて「大丈夫かな」って思ってたんですけど。

門田 当初入れる予定だった楽曲だけじゃなくて、録音まで済ませたのにボツにした曲もあったからね。「氷の皿(Ave Maria)」ができたのもレコーディング直前だったし。

楢原 冬盤で僕が関わったのは前半の3曲(「もう、夢の無い夢の終わり(From Here to Eternity)」「氷の皿(Ave Maria)」「接続されたままで(I can not Dance)」)で、1曲目はずっとライブでもやってた曲なんだけど、2曲目と3曲目はレコーディングの2~3日前にデモを受け取って。

門田 「氷の皿」のアレンジは「あのキラキラした綺麗事を」のサウンドをさらに一歩進めて、歌謡曲にしようってなって、確信的にダサくしてるんですよ。楢やんから「ここにチョッパーベースを入れてくれませんか?」って言われたり。

楢原 サビの所にギターのオクターブカッティングが入っているんですけど、周りの人に「このフレーズ、大丈夫なの?」って言われたし(笑)。あえてJ-POPにしたかったんです。

門田 いろんなことをやらないと音楽としてつまらなくなると思ったんです。もともと1つのジャンルに統一するのが好きじゃないし、夏盤にしてもニューウェイブにこだわってたら、あそこまで面白くならなかったと思うんですよね。「Dark & Dark」は群像劇なので「こういう人もいる、ああいう人もいる」っていう感じになったほうがいいし。その分、ライブで表現するのはすごく難しいですけどね。

楢原 門田さんのソングライティングは誰々っぽいというのがまったくないし、歌もしっかりしてるから、アレンジはどういう方向に行っても大丈夫なんですよ。門田節はちゃんと出ているから、なんら問題はないというか。門田さんは「こうしたいんだよね」というイメージがあっても、ガチガチに決めてこないんです。だからこちらからも「こうしましょう」って言いやすい。

門田 そこはわりとファジーなんです。僕は「これじゃないとイヤだ」っていう感じじゃなくて、「こっちはどう?」って言われて、それがいいと思えば「いいね、そっちに行こうぜ」っていうタイプなので。頑なでないほうが面白いし、カッコいいことができるからね。楢やんは音を言葉で説明できる貴重な存在だし、今後も2人で音楽をやっていく可能性はすごくあると思います。

左から門田匡陽、楢原英介。
Poet-type.M ミニアルバム「A Place, Dark & Dark -永遠の終わりまでYESを-」
2016年2月17日発売 / 1620円 / I WILL MUSIC / PtM-1033
CD収録曲
  1. もう、夢の無い夢の終わり(From Here to Eternity)
  2. 氷の皿(Ave Maria)
  3. 接続されたままで(I can not Dance)
  4. 快楽(Overdose)
  5. 「ただいま」と「おやすみ」の間に(Nursery Rhymes ep1)
  6. 永遠の終わりまで、「YES」を(A Place, Dark & Dark)
Poet-type.M(ポエットタイプエム)
Poet-type.M

BURGER NUDS、Good Dog Happy Menの門田匡陽によるソロプロジェクト。2013年4月に活動を開始し、同年10月にアルバム「White White White」を発表した。2015年1月に行われた“独演会”「A Place, Dark & Dark -prologue-」では、「夜しかない街の物語」というコンセプトを掲げ演奏。さらに同コンセプトを反映し、春夏秋冬の4部作で展開される作品集「A Place, Dark & Dark」の制作をスタート。4月に「A Place, Dark & Dark -観た事のないものを好きなだけ-」、7月に「A Place, Dark & Dark -ダイヤモンドは傷つかない-」、10月に「A Place, Dark & Dark -性器を無くしたアンドロイド-」を発表した。2016年2月17日には4部作最後の作品となる「A Place, Dark & Dark -永遠の終わりまでYESを-」をリリース。そして物語の集大成となる独演会「God Bless, Dark & Dark」を4月17日に東京・Mt.RAINIER HALL SHIBUYA PLEASURE PLEASUREで開催し、物語を終結させる。

楢原英介(ナラハラエイスケ)
楢原英介

アヒト・イナザワが中心となって結成されたVOLA & THE ORIENTAL MACHINE、仲俣和宏(downy)によるロックバンド・YakYakYakのギタリスト。鍵盤、バイオリン奏者としても活動を行っている。Poet-type.Mには2013年5月に東京・新代田FEVERで行われた初ライブから参加。1stアルバム「White White White」でも演奏メンバーとして名を連ね、4部作「A Place, Dark & Dark」シリーズでは夏盤「A Place, Dark & Dark -ダイヤモンドは傷つかない-」から門田匡陽とともにサウンドプロデュースを手がけている。