PIGGS「RAWPIG」特集|プー・ルイ×松隈ケンタ対談 (2/2)

松隈ケンタとRyan.Bが交わった「Route 91665」

松隈 「Route 91665」の制作は特殊で、まずサウンドプロデューサーが2人いる状態ってかなり難しいんですよ。でもこの曲については僕へのオファーを発端に始まったことなので、BRIANは僕の方向性を尊重してブラッシュアップするという役割を担ってくれました。SCRAMBLESには鍵盤弾きがいないんですけど、BRIANはすごかったですね。「こんな感じの音は?」って抽象的なこと言ってもすぐに汲み取ってくれるし。

プー・ルイ BRIANはOKAMOTO'Sでキーボードを弾いていますしね。そういう経験も生かせたのかも。PIGGSのメンバーは初めてレコーディング作業を見たから、まるで奇跡でも見ているかのような気分だったみたい。私はバンドをやったこともあるし、見慣れた光景ではあったんですけど。

松隈 バンドマンからしたら、やってること自体は日常的よね。スタジオに入って毎日ああやっているようなものだから。

松隈ケンタ(撮影:プー・ルイ)

松隈ケンタ(撮影:プー・ルイ)

プー・ルイ 普通は見せないところを表に出したみたいな。

松隈 そうそう。それにしてもびっくりしたのは、スピード感。みんなのスキルというか才能が爆発してて、異常だと思った(笑)。

プー・ルイ 午前中のうちに10曲くらいできてましたから(笑)。本来なら楽器レコーディングで1日かかるところ、本チャンのレコーディングが2、3時間で終わったし。そういうところはすごいなと思ったし、みんなすごく楽しそうに作業を進めているのが印象的でした。いかにも仕事みたいに淡々とやるというよりかは、バンドメンバー同士が和気あいあいとやってる感じ。初めて変な曲を作って面白がってるみたいなノリもあってよかったな。結果的にあのスタジオの時間だけでアルバムが作れるくらいいろんな曲ができてました。

松隈 いやー、できちゃってたねえ。

プー・ルイ いつか、ほかの曲も録らさせてください!

松隈 ぜひぜひ。ボーナスアルバムかなんかでもいいし(笑)。改めて振り返ると奇跡のバランスですよ。普通はああいう企画っぽさがあると多少かしこまるところがある気がするけど、PIGGSチームの平山さんをはじめ、スタッフの皆さんが自由にやらせてくれたから。

プー・ルイ 平山さんはけっこうヤバい人なんですよ。いろんなレーベルの方を観てきたんですけど一番自由(笑)。

松隈 曲のタイトルは?

プー・ルイ タイトルはBRIANが考えたものですね。ずっと前にLINEで「91665」って謎のメッセージを送ってきたんです。急に送られてもわからない(笑)。

松隈 何かの予言か?(笑)

プー・ルイ そういう人なんで(笑)。「何?」って聞いたら、「この数字がPIGGSに見える」って。それをさっそくタイトルに使いたかったんでしょうね。BRIANが書いた歌詞は、私やメンバー、松隈さん、BRIAN、それぞれみんながいろんな道を歩いてきて、その道が重なったというのがテーマになってるんです。アメリカの標識って「Route〇〇」って表記されてますよね? あれをイメージして「Route 91665」にしたと言ってました。

松隈 テーマも内包した、いいタイトルですよね。BRIANは性格が違うから逆に相性いいんですよね。彼が福岡に来たとき、屋台に連れていったから(笑)。

プー・ルイ 3、4時間しゃべったみたいですね(笑)。

松隈 そうね。音楽の話とか人の悪口を(笑)。

プー・ルイ お酒飲むと、そういう話が進みますよね。

プー・ルイ(撮影:松隈ケンタ)

プー・ルイ(撮影:松隈ケンタ)

松隈 同業者ですから、話は尽きないですよ。サウンドプロデューサー同士が会うことも少ないし、同業者でもスタイルがそれぞれ違うので、なかなか話す機会がないから珍しい機会になったね。

プー・ルイ BRIANは基本的に尊敬している人の言うことしか聞かないんですよ(笑)。松隈さんのことはすごく尊敬していると思います。

松隈 尊敬してくださっててありがたい限り。俺も彼をリスペクトしているし。それこそPIGGSの結成当初からすごい曲作るなって思ってたし、その時期の曲「PIGGS -モナ・リザ-」は本当にいいなと思ってたから。

プー・ルイは変わらないね

松隈 ボーカルのレコーディングに関してはBRIANプロデュースではなく、松隈が歌のディレクションもしました。PIGGSのメンバーはもちろん初めて録ったんだけど、新メンバー2人を含めてバランスがいい具合に固まったんじゃないかな。

プー・ルイ ありがとうございます。うれしいです。

松隈 僕の中のボーカルの基準って、プー・ルイなんですよ。これは昔から。PIGGSだとプー・ルイを基準にしつつ、プー・ルイとSHELLMEの2人を風神と雷神みたいなツートップにしました。意外とこの2人の声質はそこまで離れてない。でも馴染んでるかというとそうでもない。だからもし2人組だったらやりにくいだろうなって(笑)。

プー・ルイ 確かに(笑)。逆に私とSHELLMEの組み合わせはPIGGSの楽曲だとあまりやらないので、新鮮でした。SHELLMEの声が「Route 91665」によく合ってたんですよね。彼女は高音が苦手なんですけど、この曲だとすごく出てたのでよかった。

松隈 よかったね。高いところがよかった。

プー・ルイ メンバーは松隈さんとのレコーディングに「緊張した」って言ってました。SHELLMEはパリピなんでWACKとかあまり知らないんですけど、ほかのメンバーはWACKの曲をずっと聴いてきた子もいれば、WACKのオーディションを受けた子までいるから。「松隈さんにレコーディングしてもらっちゃった!」って喜んでましたし、「PIGGSに入ったら松隈さんにレコーディングしてもらえるし、違うこともできてるし、一番おいしい」なんて言ってました(笑)。

松隈 なるほどね。松隈の曲を知ってるからか、歌い方の馴染みもよかった。逆に言うと馴染みすぎちゃってる部分もあったので、一旦今までのPIGGS、今までの歌い方は忘れさせて、新たに松隈なりのやり方でみんなの歌を録ったつもりではいます。

プー・ルイ 私はボーカルレコーディングのとき、途中で声を枯らしちゃったんですよね(笑)。幼稚園のときから楽しみな日のときに限って熱出したりしてて(笑)。

松隈 遠足とかね(笑)。

プー・ルイ 今回もそれをやっちゃって。どんなに声が枯れてても歌は出るタイプなんですけど、変な腫れ方しちゃったんです。

松隈 ちょっとガサガサやったな。

プー・ルイ 声を絞り出してましたね。でも松隈さんがそういう声をうまく使ってくださることも私は知っているから、音程が届かないなりにがんばろうっていう気持ちで歌ってました。自分が全部歌ってやるみたいな気持ちだったけど、個人的には後悔の残る感じでもありました。

松隈 バラードじゃないし、声がガサついてても支障がないのよ。僕のレコーディングのこだわりとしては、「その日最大限の歌を録りたい」というテーマがあるから。プー・ルイががんばって何回も歌ってくれて、それを見たほかのメンバーが奮起する感じもあったし、全力なのがよかったと思う。プー・ルイの歌は、今も昔もプー・ルイだなって感じ。

左からプー・ルイ(PIGGS)、松隈ケンタ。

左からプー・ルイ(PIGGS)、松隈ケンタ。

プー・ルイ それっていいのかな(笑)。

松隈 いい声だからさ。バンドをやっていたときは歌い方が少し違ったけど、変わらないでいたらいいなと思っている部分は変わらない、そんなイメージ。技術的にはもちろんうまくなってるし。「歌割り全部自分が奪う」みたいな姿勢はよくわからないけど、まあそこも変わってないか(笑)。

プー・ルイ PIGGSは支え合うより競い合うというグループですね。私が馴れ合いとか好きじゃないから、そんなことしたいならぶっ潰してやるぞって。それでお互い高め合って、技術が上がっていくほうが楽しい。だからこそPIGGSは最初からライブで生歌なんです。どんなに下手でも、これは私のこだわりだから絶対に曲げない。「歌が下手」とか言われることがあっても、そう言われるならがんばらなきゃいけないし。

ピグスハウスをいつかはタワマンに

松隈 プー・ルイはこの先売れてもメンバーと一緒に住むの?

プー・ルイ はい。姉妹みたいな感じです。PIGGSは結成当初からずっと一緒に住んでるからそれが当たり前なんですよ。バンドさんだとお互いの関係性ができてから住むことが多いでしょうけど、PIGGSは加入が決まったと同時に共同生活が始まってますから。

松隈 一緒に住む目的が「PIGGSとして活動して成功させることだ」もんね。バンドマンは金がなくて一緒に住むとか、「いつか出てってやる」みたいな気持ちで住む人が多いし、「出ていけないのはこいつのせいで売れないからだ」とかそういうことになりがち(笑)。

プー・ルイ 私たちは前向きです。目標としては、「家を出ていく」というよりも、「家をもっとグレードアップさせよう」というのがあります(笑)。普通は売れたらそれぞれいい家に住めるようにしようって感じになりそうですけど、PIGGSの場合は「タワマンの大きい部屋を借りよう」とか。

松隈 売れても一緒に住むつもりだね(笑)。みんなはそれで納得しているわけ?

プー・ルイ 外泊とかは自由なんですよ。ただ事件とかに巻き込まれると大変なので、誰かしらにどこ行くかは言っておいてってルールはあるので、やっぱり家族です(笑)。

左からプー・ルイ(PIGGS)、松隈ケンタ。

左からプー・ルイ(PIGGS)、松隈ケンタ。

一緒に作った曲たちの行方

プー・ルイ アルバムが無事に完成したんですけど、「Route 91665」以外の一緒に作った曲たちもいつか形にしたいですね。

松隈 僕はいつでもウェルカム。この前スタジオで作ったの10曲くらいあるからね。

プー・ルイ めっちゃ好きな曲があったんですよ。アルバムがロック系の中、ヒップホップっぽかったので収録曲からは外れちゃったんですけど、そういう曲もやりたいなって。

松隈 100周くらい回って、松隈とプー・ルイが昔にやっていたバイブスを感じる曲になったのが選ばれただけだし、新境地と言える曲も作ったもんね。

プー・ルイ あ、サザンみたいな曲も好きでした!(笑) 今回は実現できなかったですけど、ほかのアーティストさんを誘ってやるっていう野望も叶えたいです。

松隈 いいねー。合宿やろう。

左からプー・ルイ(PIGGS)、松隈ケンタ。

左からプー・ルイ(PIGGS)、松隈ケンタ。

プロフィール

PIGGS(ピグス)

プー・ルイ、BAN-BAN、SHELLME、KINCHAN、SU-RING、BIBIの6人からなる“全身全霊アイドル”。元BiSのプー・ルイが社長兼プロデューサー兼メンバーとしてオーディションでメンバーを選出し、2020年4月に活動をスタートさせた。結成時よりメンバー5人で共同生活を行っており、1000km以上歩きライブハウスを回った「WALK or PORK TOUR」、ノンストップで109回歌って踊るミュージックビデオ撮影、100kmマラソン、激辛料理や鼻うどんなど、さまざまな企画にチャレンジしてきた。2023年1月にシングル「負けんなBABY」でアリオラジャパンよりメジャーデビュー。同月には東京・日比谷公園大音楽堂(日比谷野音)にてワンマンライブを行った。5月にオリジナルメンバーのCHIYO-Pが脱退し、7月にSU-RING、BIBIが加入。10月にメジャー1stアルバム「RAWPIG」をリリースした。

松隈ケンタ(マツクマケンタ)

1979年生まれの音楽プロデューサー / 音楽制作集団SCRAMBLESの代表。地元福岡から自身がギターを担当するロックバンド・Buzz72+を率いて上京し、2005年にavex traxよりメジャーデビューを果たす。2007年にバンドが事実上解散状態に突入して以降、楽曲提供やサウンドプロデュースの活動を開始。これまでにBiS、BiSH、豆柴の大群らWACK所属グループや、中川翔子、柴咲コウ、Kis-My-Ft2らのサウンドプロデュースを担当しており、現在は2020年に再結成したBuzz72+のメンバーとしても活動しながら、日本経済大学の特命教授として同大学の福岡キャンパスで教鞭を執る。9月には自叙伝「屋上の空 こうして音楽で生きてきた」を上梓した。