祝・活動10周年!三月のパンタシアの10大トピックは?多彩な“青”を描いてきた道のりを振り返る (2/2)

2021年7月
⑥初の長編小説「さよならの空はあの青い花の輝きとよく似ていた」発売

──「ガールズブルー・ハッピーサッド」以降もみあさんは楽曲の元になる数々の小説を書き、2021年には長編小説「さよならの空はあの青い花の輝きとよく似ていた」を発表しました。

「さよならの空はあの青い花の輝きとよく似ていた」表紙

「さよならの空はあの青い花の輝きとよく似ていた」表紙

その頃には3rdアルバム「ブルーポップは鳴りやまない」も制作していたんですけど、いろんな物語を書いていく中で、もっとガッツリと小説を書いてみたいという気持ちが膨らんでいって。もともと、いつか長編小説を発表したいという気持ちがずっとあったんです。そんな中でコロナ禍になって外出できなくなり、「今、自分にどんな表現ができるんだろう?」と考えて、暗い空気が漂ってる時代だからこそ、気持ちが明るくなるような風通しのいい物語を届けられたらいいなと思って小説を書き始めました。

──10カ月くらいかけて書いたんですよね。

はい。特に締め切りがあって書いたわけではなく、ただ好きで書いてたんですよね。それで書けたから出版社に持ち込んで、「じゃあ本にしましょう」と言ってくださったので出版することができました。

──短編小説を書くのとは違う感覚がありました?

そうですね。それまでの楽曲の原案小説では“私”と“君”の2人にフィーチャーした物語を書くことが多かったんですけど、せっかく長編小説を書くなら青春群像劇にチャレンジしてみようと思って、登場人物をたくさん増やしました。それぞれのキャラクターが持ってる悩みを1人ずつ書き出して、痛みを紡ぎ合わせていく作業がすごく面白かったです。書いているとそれぞれのキャラクターへの思い入れが強くなっていって、「この子の気持ちも楽曲にしてあげたいな」と曲にも派生していきました。

みあ

2021年11月
⑦1年10カ月ぶりの有観客ライブ「物語はまだまだ続いていく」で素顔を解禁

──もともと三月のパンタシアは顔出しをせず活動していましたが、2021年11月に行われた1年10カ月ぶりの有観客ライブで素顔を解禁しました(参照:三月のパンタシアの新たな物語が始まる、再会の場所で見せた“ありのままの姿”)。ライブ中盤の「はじまりの速度」でステージと客席を隔てる紗幕が落ちて。

先ほどもお話しした通り、活動を始めた頃は物語を演じる語り手的のような気持ちでボーカルとしてステージに立ってたんですけど、どんどん「みあとして思いを届けたい」という気持ちが強くなっていって。それまでは語り手として顔を出さずにミステリアスな存在として音楽を届けてたんですけど、同時にステージとお客さんの間に自分で1枚の壁を作ってるような気持ちがあったんですよね。やっぱりここまでずっとついてきてくれたみんなと直接顔を合わせて、もっと近い距離で音楽を届けたいなと思うようになって、その結果、素顔のままでみんなの前に立つという選択をしました。

「三月のパンタシア LIVE2021『物語はまだまだ続いていく』」の様子。(撮影:鈴木友莉)

「三月のパンタシア LIVE2021『物語はまだまだ続いていく』」の様子。(撮影:鈴木友莉)

──インディーズ時代やメジャーデビューした頃、いつか素顔を解禁しようというイメージはありましたか?

なかったですね。あの頃は目の前のことしか考えられていなくて、「いつかこういうふうに活動をしていきたい」みたいなイメージはなかったです。「みあとして思いを届けたい」というのは、活動しながら育っていった気持ちだと思います。

──みあさんが歌詞や小説を書くようになり、三月のパンタシアの音楽の根本を担うようになったことが素顔の解禁につながったんでしょうね。

そうですね。クリエイターさんが考える三月のパンタシア像を自分がボーカルとして表現するというスタイルを取り続けていたら、今も顔出しをせず、ずっとイラストのままのビジュアルで活動していたんじゃないかな。

──紗幕が落ちた瞬間のことは覚えていますか?

お客さんを戸惑わせちゃったらどうしようと思っていたんですけど、紗幕が落ちた瞬間に歓声が一際大きくなって。緊張や不安もあったんですけど、一気に喜びが上回ったときのことをすごく覚えています。

──素顔を解禁したことは、その後の三月のパンタシアの活動にどのような影響をもたらしたと思いますか?

やっぱりライブの演出をはじめ、できることが増えました。それまでは顔を見せない演出に縛られていたところもあったので。よりお客さんと一緒に楽しめるようなライブ作りができるようになったなと実感しています。ファンクラブのイベントもできるようになって、楽しんでくれる人も増えたのでよかったなと思います。

みあ

2023年4月
⑧「青春を暴く」をテーマに掲げた楽曲「ピアスを飲む」「レモンの花」発表

──「ピアスを飲む」「レモンの花」は人間のドロっとした部分をすくい取ったような、狂気を感じさせる楽曲でした。それまで三月のパンタシアの“ブルー”というと、透明感のある青に近いイメージでしたが、この2曲は黒に近い青。ブルーの表現の幅が広がったタイミングだったと思います。

三月のパンタシアはずっと青春時代の切なさ、痛みを歌ってきましたが、さわやかでキラキラした曲が多かったと思うんです。でも、青春時代を突き詰めていく中で、そこにあるのは甘酸っぱい痛みだけじゃなくて。ないものねだりかもしれないんですけど、もっとドロドロしたダーティな物語を描きたくなったんです。前々からスタッフチームにそういう物語を提案していたんですけど、「ちょっと過激すぎるから、三月のパンタシアには合わないんじゃないか」という意見もありました。でも、やっぱり青春の裏側にある感情も暴いていくべきだと思うということを話し合って、新たに挑戦した2曲でした。

──実際に青春のキラキラした部分だけじゃなく、その裏側にある感情を描いてみて、見えてきたものはありますか?

滑稽な嫉妬心とか、傍から見たら病み狂ってる感情でも、当の本人からしたらすごくピュアな感情なんだということ。「ピアスを飲む」も嫉妬心から奇行を起こす曲ではあるんですけど、それって一途に相手のことを思っているからで。濁った心の中にある純粋な愛情、闇の中にある光みたいなものを見つけたいなと思いました。

2025年3月
⑨自主企画「三月春のパン(タシア)祭り 2025 -リベンジの春-」開催

──「三月春のパン(タシア)祭り」は2020年3月に行われる予定でしたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて中止になりました。それでもあきらめずに、2020年にラインナップされていたSouさんとナナヲアカリさんのお二人をゲストに迎えて今年5年越しに開催することができましたね。

Souくんとあかりんには声をかけ続けていたんですけど、なかなかスケジュールが合わなくて。ほかのゲストを呼んで開催するという方法もあるのかもしれないですが、自分の中では最初に声をかけた2人に出てもらいたい気持ちがものすごく強かったので、やっと念願が叶ってうれしかったです。Souくんとは「まぼろし feat. Sou」(2023年8月発売のEP「ゴールデンレイ -解体新章-」収録曲)でコラボしていましたが、ライブに向けて新たにあかりんとのコラボ曲「天使になりたいっ!」も作って。当日すごく盛り上がってよかったです。

「三月春のパン(タシア)祭り 2025 -リベンジの春-」の様子。(撮影:大庭元)

「三月春のパン(タシア)祭り 2025 -リベンジの春-」の様子。(撮影:大庭元)

──ライブ開催が決まったあと、お二人とのやりとりで印象的だったことはありますか?

あかりんと焼肉に行きましたね。本当はSouくんも来る予定だったんですけど、残念ながら仕事が押して来られなくなっちゃったんです。あの場であかりんとは、お互いの活動やマインドについていろんな話をしました。あかりんはやっぱり高くてパワフルな歌声が印象的で、独特のチャーミングな世界観がしっかりとあるアーティストだなと思います。Souくんは「まぼろし」をコラボしたときも、楽曲への理解度がすごく高くて。私が歌詞を書いて、楽曲に登場する男の子のキャラクターのイメージが具体的にあったんですけど、それを伝えなくても意図を汲み取って歌の中で表現してくれました。歌に対するアプローチの豊かさにいつも感動しますね。3人とも成長した姿で、5年前に開催するよりも絶対にいいライブができた自信があります。

2025年8月
⑩ベストアルバム「多彩透明なブルーだった」リリース

──ベストアルバムは2枚組で、DISC 1「彩青」、DISC 2「憂青」というように青の色合いで楽曲が振り分けられているのが三月のパンタシアらしいですね。

「彩青」は甘酸っぱくてさわやかな曲、ポジティブで明るい曲、「憂青」は気持ちが病んでるような曲、泣ける曲、クールな曲というイメージで振り分けました。曲の振り分け自体はそんなに難しくなかったんですけど、14曲に絞るのが難しかったです。収録する曲を選びながら、レコーディングしたときのことを思い出したりしましたね。「101」(2021年7月発表)がうまく歌えなくて、レコーディングがリスケになったこともあったなって。

──アルバムにはこれまでの楽曲に加えて、新曲「LuMiNA」も収録されています。作編曲は駄菓子O型さんが担当していますね。

スタッフさんから駄菓子O型さんのことをオススメしてもらって。実際にYouTubeで楽曲を聴かせていただいたら、ともかくアレンジがすごかったんです。「こんなアレンジ、どうやったら思いつくんだろう」と驚いて。独特の感性が光ってるなという印象を受けたので、ぜひご一緒してみたいなと思って、お声がけさせていただきました。

──「LuMiNA」はラテン語で「光」という意味ですね。

私はいつも歌詞を全部書き終わってからタイトルを決めることが多いんですけど、「LuMiNA」に関しては先にタイトルを付けました。デモを聴いたときに光が弾けてどんどん加速していくような情景が思い浮かんだんです。それで光をモチーフにしたタイトルにしたいなと思って言葉を調べてたときに、ラテン語でいい響きの単語があるなと思って。「u」と「i」を小文字にすることで、光の中にいる「あなた」と「私」という意味も込めています。

──過去にも「ランデヴー」や「ノンフィクション」など、原案の小説を設けずに“三月のパンタシアの物語”を軸に作られた曲がありますが、「LuMiNA」もその系統の楽曲だと思います。

ベストアルバムのタイトル「多彩透明なブルーだった」というタイトルを決めるにあたって「透明」という言葉について改めて調べたら、「光を透過する」という意味があることがわかって。これまで三月のパンタシアはどの物語にも「光」というものを救いとして描いてきたなと思ったんです。自分が書いた歌詞の中にも「光」というキーワードが頻出しているし、三月のパンタシアにとって大切なキーワードの1つだなと改めて感じて歌詞を書いていきました。

みあ

──まず冒頭の「この青春もいつか散って消えるなら この青が褪せるまで君を歌う」がめちゃくちゃ強いフレーズですよね。確固たる覚悟を感じます。

「青春」も三月のパンタシアとは切っても切り離せないワードなので。これまでを振り返ってみて、三月のパンタシアの10年間って、青春だったなと思うんですよね。しんどいときもあったけど、たくさんの人に支えてきてもらって楽しい思いもできた。ライブではみんなではしゃぎ合えたりして、すごく青春だなって。この青春がずっと続いてほしいけど、いつかきっと終わるときがくる。そのときまで、私はみあとして歌い続けようという気持ちを最初に歌いたいと思ってこのフレーズを書きました。

──三月のパンタシアはずっと青春時代を過ごす人々の心境を歌ってきたけど、実は三月のパンタシアそのものが青春だったという。

私にとってはそうですね。この10年間、さわやかな青色の時期もあるし、しんどくて濁った暗い青色の時期もあった。青色のグラデーションのような10年間でした。その道のりを言葉にすると、自分の中では「多彩透明なブルーだった」というワードがすごくぴったりだったんです。

堀江晶太(PENGUIN RESEARCH)コメント
堀江晶太(PENGUIN RESEARCH)

①三月のパンタシアと関わってきた中で、特に印象に残っている思い出は?

昨年からはじまった中国ツアーが特に印象に残っています。普段の楽曲制作においては各々の頭の中で物事を仕上げる時間が大半なのですが、数日間に渡り顔を合わせ、三月のパンタシアのことだけを考え続ける期間そのものが自分にとっては様々な気付きやイメージをもたらすものでした。「創作」が主体にあるアーティストですが、それを人から人へ届けることのかけがえのなさ、みたいなものがツアーを契機として、三月のパンタシアのものづくりの要素に一層加わっていった印象があります。

②三月のパンタシアに提供した楽曲の中で、特に思い入れのある楽曲は?

「パステルレイン」です。元々、三月のパンタシアが始動する前に本人練習用のパイロット版として書いたデモで、作った当初は「何となくこんな感じのアーティストかな」といった空想をアテにしたものでした。活動開始から数年経ったところで音源化が決まり、後になって可視化したアーティスト像と混ぜ合わせるように仕上げていく感覚が面白かったですし、みあさんと楽曲の似合い方も、独自な魅力が生まれた一曲になったと感じています。

③活動10周年を迎えた三月のパンタシアへのメッセージをお願いいたします。

もう10年になるんですね、おめでとうございます! 自分が新人作家の頃から今に至るまで一緒できて嬉しく思っています。表現者であり創作者である三月のパンタシアならではのこれからを引き続き楽しみにしています。今後とも宜しくお願い致します。

プロフィール

三月のパンタシア(サンガツノパンタシア)

「終わりと始まりの物語を空想する」をコンセプトに、ボーカルのみあを中心に結成されたプロジェクト。2015年8月に活動を開始し、2016年6月にシングル「はじまりの速度」でメジャーデビューした。その後、みあによる小説、さまざまなクリエイターの楽曲、イラストを掛け合わせてストーリーを描き、思春期の切ない恋心や憂鬱な気分といった繊細な心の揺れを表現。2021年7月には初の長編小説「さよならの空はあの青い花の輝きとよく似ていた」を発表した。顔出しをせずに活動していたが、同年11月に東京・チームスマイル・豊洲PITで行ったワンマンライブ「三月のパンタシア LIVE2021『物語はまだまだ続いていく』」で素顔を解禁。2024年8月に5thアルバム「愛の不可思議」をリリースした。2025年3月に自主企画イベント「三月春のパン(タシア)祭り 2025 -リベンジの春-」を開催した。8月に東京・Zepp Shinjuku(TOKYO)で活動10周年記念ライブを行い、ベストアルバム「多彩透明なブルーだった」をリリース。

堀江晶太(ホリエショウタ)

10代の頃より作編曲家として活動し、上京後に音楽制作会社に入社。2011年にボカロP・kemuとして、イラストレーターのハツ子、動画クリエイターのke-sanβ、アドバイザーのスズムからなるKEMU VOXXを結成し、ニコニコ動画に楽曲の投稿を開始した。2013年の独立以降はLiSA、ベイビーレイズJAPAN、茅原実里、田所あずさ、三月のパンタシア、luzなど数多くのアーティストに楽曲を提供し、アレンジャー、コンポーザーとしての地位を確立させる。PENGUIN RESEARCHのベーシストとして、2016年1月にシングル「ジョーカーに宜しく」でメジャーデビューした。