音楽ナタリー Power Push - 三月のパンタシア
ボーカルみあ&コンポーザー証言で紐解く「あのときの歌が聴こえる」の世界
三月のパンタシアの1stアルバム「あのときの歌が聴こえる」がリリースされた。
2016年3月にメジャーデビューを発表して以降、精力的にリリースを重ね、着実に知名度を獲得している彼女たち。本作はインディーズ時代の楽曲も収録されるなどプロジェクトの集大成的な内容で、すこっぷ、40mP、ゆうゆ、buzzG、n-bunaという5人のコンポーザーが生み出した多彩な楽曲や、みあ(Vo)の透明感のある歌声が堪能できる充実の1作だ。
今回の特集では、プロジェクトの顔と言えるみあのメールインタビューとコンポーザー陣のコメントを通して、「あのときの歌が聴こえる」や三月のパンタシアの魅力を掘り下げる。
文・構成 / 中野明子
みあメールインタビュー
くすぐったいような、でもすごく愛おしいような気持ち
──メジャーデビューの発表から1年が経ちましたが、現在の心境はいかがですか?
メジャーデビューからとてもいいペースで楽曲のリリースができていることが、素直にとてもうれしいです。それができているのも三月のパンタシアの音楽を見つけてくれて、聴いてくれて、そして楽しみにしてくれている方々がいてくれるからこそで。だから、今私は歌えてるんだなあと、改めてしみじみ感じています。歌える喜びと同じくらい真摯に思いをぶつけてくれるリスナーの皆さん、チームの皆さんへの感謝の気持ちも大きいですね。
──デビュー後、生活や環境などに変化はありましたか?
インディーズで活動していた頃よりも、ちょっとだけ、忙しくなったように感じています。ありがたいことですね。楽曲の制作に割く時間も増えたし、音楽や自分の歌について考える時間も増えました。あと、こうやって取材を受ける機会も(笑)。もともとみんなで1つの作品を作り上げたり、物作りが好きなので、大変なこともあるけど毎日楽しいですね。
──メジャー1stアルバム「あのときの歌が聴こえる」が完成しての今の思いは?
とにかくうれしいです。インディーズから現在までの、約1年半の活動の集大成となるアルバムで、もうアルバムが出せるほど楽曲を制作してきたのか、歌ってきたのかと思うと感慨深いです。初期の不安定だけど、ただただ必死に歌っている曲から、今の経験を重ねて歌えるようになった曲まで、その軌跡をしっかり感じてもらえる作品が完成しました。くすぐったいような、でもすごく愛おしいような、そんな気持ちに満たされています。
──アニメ作品との親和性が高い三月のパンタシアの楽曲ですが、アニメとのコラボについてどんな思いを抱いていますか?
お話をいただくたびに、いちアニメファンとしての喜びも大きいです。アニメの作品と共に楽しんでもらえるように、一緒にアニメを盛り上げられるように、という思いで携わらせていただいています。
──ちなみに、みあさんはアニメはお好きですか? ご自身に影響を与えたアニメやアニメソングがあれば教えてください。
好きです。小さい頃からマンガを読んだり、アニメを観たりするのが大好きで。大好きな作品はたくさんありますが、特に印象が強いのは「鋼の錬金術師」のアニメシリーズかなあと思います。原作のファンだったので、好きなキャラクターがしゃべって動いたときの感動と興奮を鮮明に覚えてて。オリジナルストーリーにもドキドキさせられましたね。そして主題歌も本当に素晴らしくて。兄弟の痛みと悲しみと、それでも前に進もうとする強さがビシビシ伝わってくるような。そういうアニメと楽曲とが相まって気持ちが高ぶる感覚を、自分が楽曲を担当するアニメを観ている皆さんにも感じてもらえるとうれしいなという思いはありますね。
三月のパンタシアの曲は「まっすぐ歌う」
──三月のパンタシアというプロジェクトにはさまざまなコンポーザーが参加しており、楽曲ごとに違う世界を表現する必要があるのではないかと思います。みあさんが三月のパンタシアの楽曲を歌ううえで気を遣っていること、意識していることはなんですか?
最近意識していることは「まっすぐ歌う」ということです。どうやら私は感情表現が大きくなればなるほど、無意識にクセが出やすいみたいで。自分では気付かずにクセが顕著に出ていた頃に「クセのある歌い方もいいんだけど、あなたの歌声はもう少しまっすぐなほうが伝わる」と言われて。それを意識して改めて自分の歌を聴いてみたら、確かにそうかもと思えたんです。三月のパンタシアの楽曲はコンポーザーの皆さんが紡ぐさまざまな「終わりとはじまりの物語」とリスナーの皆さんの心に眠る物語とを重ね合わせながら、そのノスタルジーを楽しんでもらいたいという思いがあって。だからこのプロジェクトの楽曲は、まっすぐな歌い方のほうが素直に皆さんの物語に溶け合っていけるのではということに気付いたんです。ニュアンスとしてクセを出すこともありますが基本的にはまっすぐ、っていうのは最近意識するようにしてます。
──「あのときの歌が聴こえる」の楽曲の中でレコーディングや歌う際に一番苦労した1曲はなんでしたか?
「群青世界」ですね。それまでの歌へのアプローチと違ったことをしているんです。それまでは感情を放出するように歌う方向性だったんですけど、この曲は逆に感情を少し抑制して歌っていて。というのも、このエレクトロで神秘的なサウンドと不器用だけどまっすぐな歌詞に秘められた静かな情熱を伝えるには、そのほうがきっと聴いている人にまっすぐ届くのではと思って。だけどそれがすごく難しくて。感情を抑えすぎてしまうときれいに歌っているだけの伝わらない歌になるし、逆に感情を乗せすぎるとやりたいことと違うニュアンスが付いてしまう。一番楽曲に寄り添える声のテンションを見つけるのに、すごく苦労しました。何回も録っては聴いて、また録り直してを繰り返しながら生まれた曲ですね。でも苦戦した分すごくいい曲になったし、それ以降その感情のコントロールがうまくなったと思います(笑)。
──逆に一番すんなりと歌えた曲はなんですか?
「フェアリーテイル」かな。この曲で歌っている「特別な出来事はなくっても、何気ない日常の中にそばで泣いたり笑ったりしてくれる人がいる。それだけで幸せなんだよ」というメッセージがストンと自分に落ちたんですよね。すごく共感できました。私自身、昔から出会う人に恵まれているなあということをすごく感じていて。学生生活を送る中でも「この子とは生涯付き合っていくんだ」と自然と思える大切な友人に出会えたし、今もいつだって一緒に悩んで、反省したり、喜んでくれる素晴らしいチームの皆さんと活動ができていて。家族もそういう存在ですね。もし“家族の仲良し度”を競う世界ランクがあるなら、かなり上位に入っているかもしれない……そう思うほど仲がよくて大好きで(笑)。そんな人たちと一緒にいるときに、胸に広がる温かい感情をすくい取って歌ったんです。優しくて幸せに満ちた曲が素直に歌えたなあと思います。
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- 1stアルバム「あのときの歌が聴こえる」 / 2017年3月8日発売 / Ki/oon Music
- 初回限定盤 [CD+Blu-ray Disc] / 4104円 / KSCL-2858~9
- 通常盤 [CD] / 3240円 / KSCL-2860
CD収録曲
- いつかのきみへ
- はじまりの速度
- day break
- フェアリーテイル
- イタイ
- 青に水底
- 群青世界
- 七千三百とおもちゃのユメ
- 星の涙
- ブラックボードイレイザー
- シークレットハート
- あのときの歌
初回限定盤Blu-ray収録内容
- はじまりの速度 -Music Video-
- 群青世界 -Music Video-
- フェアリーテイル -Music Video-
- ブラックボードイレイザー -Lyric Video-
- シークレットハート -Lyric Video-
「あのときの歌が聴こえる」収録曲ミュージックビデオ
三月のパンタシア(サンガツノパンタシア)
「終わりと始まりの物語を空想する」をコンセプトに、ボーカルのみあを中心に結成されたプロジェクト。コンポーザーとしてすこっぷ、n-buna、ゆうゆ、40mP、buzzG、イラストレーターとして浅見なつ、loundraw、bob、ノベリストとしてみのりが名を連ねる。2015年8月に活動を開始し、2016年6月にテレビアニメ「キズナイーバー」エンディングテーマであるシングル「はじまりの速度」でメジャーデビュー。2016年12月にOVA「クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い」のオープニングテーマ「群青世界」を、2017年2月にテレビアニメ「亜人ちゃんは語りたい」のエンディングテーマ「フェアリーテイル」をそれぞれシングルとして発表している。2017年3月にメジャー1stアルバム「あのときの歌が聴こえる」をリリース。