ナタリー PowerPush - People In The Box
ポップ&ディープな7曲の物語 ミニアルバム「Ghost Apple」完成
生きてる実感を表現したい
──こういうストーリー性がある楽曲を、3人の音でシンプルに鳴らしていくというスタイルにはやはりこだわりがあるんですか?
波多野 シンプルでありたいという気持ちはありますね。っていうか、やっぱりシンプルにならざるを得ないんですよ、3人だけでやると。で、もうそもそも根本的な動機が「やりたいことをやる」っていうことなんで、どっかでそういう楽器の少なさだったりっていうような制限をかけないと、とりとめのないことになっちゃうし。
──歌詞に関してはどうですか。今回は月曜日から日曜日まで、場面や登場人物も変化していきますが。
波多野 歌詞は僕の個人的な生活から出てくるものばかりだから、自分ではやっぱりつながっているんだろうと思います。
──でもこれが波多野さんの個人的な日常生活から出てきたものだとすると、ちょっと心配になっちゃいますよね。
波多野 いやもう、心配してください(笑)。自分の感性むき出しでやってますから。
──悲しみとか喪失感とか罪悪感とか、書かれている言葉にいわゆる生命力みたいなものとは真逆の響きをするものが多いんですよ。
波多野 そういうところに焦点を当てたいと思うんです。というのも、やっぱり命のことって普通に生きててすごく考えちゃうところなので。で、僕は、生命と相反するものを意識せずには生命感を感じることはできなくて。だから僕も生きてる実感みたいなもの、血の通った感じを表現したいとは思ってるんですけど、それを表現するときには相反するものに目がいっちゃうんですね。
──ただ、この作品に関しては、最終的には温かさや疾走感を感じさせる仕上がりになっていると思います。そのあたりは3人が音を鳴らすことで生まれる生命力ですよね。
波多野 そうですね。やっぱり音楽ってすごく生命感がある。生命感イコール音楽みたいな(笑)。
──そのへんが裏腹なんですね、ご自身の中で。
波多野 いや、矛盾してる感じはないですけどね。
──普段はどうなんですか? 暗い人なんですか?
波多野 いや、普段めちゃくちゃ明るいです(笑)。
──そうなんだ。
波多野 いや、えーと……どうなんですかね? 自然体でいたらこうなっちゃっただけで、実際はすごく前向きだと思うんです。ただちょっと性格上、深いところまで突っ込んじゃうんですよね。そうなるとやっぱりリスキーなところも扱わざるを得ないし。例えば普通にギターロックとかJ-POPをやるときにみんなが隠す部分っていうのがあると思うんですけど、それを僕らは隠してないだけで。でもこう……深い部分に潜り込むっていうのは、みんなが持ってる部分だとも思うし。特別僕が変な人っていうんじゃなくて!(笑) 僕はギターロック、J-POPという場でも深く突っ込んでいけると思ってるんです。
僕は「広く深く」いきたいんです
──今回のアルバムを聴いていてすごくいいなと思うのは、言葉に音が引きずられてないところなんですよね。
波多野 そうなんです。言葉で音楽が制限されることも全くないし、音楽で言葉が制限されることも全くないし。今のところすごく理想的にやれてると思いますね。僕らなりに。
──それに今までの作品よりも、人懐っこさが出てるのかなっていう感じもするんですけど。
波多野 ああ……なんか「今までよりも感情的になってるな」って僕は自分で後で思ったんですけど(笑)。なんかそういうところかもしれないですね、人懐っこさっていうのは。
──そのへんはもう「わかる人にだけわかればいい」っていう姿勢じゃないんだなと。
波多野 マニアックなものはイヤだし。そうですね、うん、わかる人だけわかればいいっていう姿勢は大っ嫌いです。とはいえ……。
山口 でもちょっとあるでしょ?
──あははは。
波多野 とはいえ、たぶんすごく深くわかってくれる人もいるんだろうなと。これを共感という形で受け取ってくれる人がいるといいなと思いますね。
──だから、自分の心の奥の深いところで作品を作る。
波多野 よく「広く浅く」か「深く狭く」かっていう話があるじゃないですか。僕は「広く深く」いきたいんですよね(笑)。そこにはジレンマがあって、深く行こうとすればするほど、どうしてもちょっと狭くはなっちゃうんですよ。でも僕は入口は限りなく広く持っていたいし、深く行った先には、狭くなりようがない部分っていうのがちゃんとあってそれは誰もが持ってるものなんですね。それがあるから、僕がどれだけ深く潜っても楽曲はポップミュージックとして機能してるんだと思います。
──なるほど。こうやってお話を聞いてると、なんか複雑なような感じもするんですけど、3人としてはあくまで楽しく音を鳴らしてるという感じですかね。
波多野 そうですね。超シンプルなんですよ(笑)。僕の言い方が回りくどいからなんか複雑に思われがちなんですけど、ほんとにもうシンプルな欲求でやってるんです。曲を作るときなんて、快楽、快楽で、自分たちが究極に気持ちいい状態まで持っていくっていうのがまずは最初のゴール。だから言葉とかもどう表現したいかというより、まず自分からあふれるものをどんどん処理していく感じ。最終的に形がちょっとイビツになると構築的とかカオスとかって言われるんですけど、自分たちでは全然そんなこと思ってないんです。ほんとに普通にやってるし、新しいことをやってるとは全然思ってないです。直感的にやってるから、こういう説明がもう、大変なことになっちゃうんですけどね(笑)。
People In The Box
(ぴーぷるいんざぼっくす)
波多野裕文(Vo,G)、福井健太(B)、山口大吾(Dr)による、スリーピースバンド。トリオ編成を活かしたスマートなサウンドと、複合的なリズムにポップな歌メロ、そしてイノセントな声が不思議な世界観を構築している。2007年に残響レコードから、1stミニアルバム「Rabbit Hole」でインディーズデビュー。知名度を高めていく。同年12月には、早くも1stアルバム「Frog Queen」を発売。ライブの質の高さにも定評があり、フェスやイベントにも多数出演し、渋谷CLUB QUATTROでの初ワンマンをソールドアウトさせるなど着実に成長している。