ナタリー PowerPush - People In The Box
ポップ&ディープな7曲の物語 ミニアルバム「Ghost Apple」完成
People In The Boxの3rdミニアルバム「Ghost Apple」が10月14日にリリースされる。今作は1曲目「月曜日 / 無菌室」から7曲目「日曜日 / 浴室」まで、楽曲の登場人物や背景は違えど曲同士の結びつきが強い内容。その中で彼らのエモーショナルな衝動も、ゾクッとするほどの静寂も表現し、ユーモアとロマンチシズムに満ちたアレンジもたっぷり響かせてくれている。
耳ざわりは人懐っこくポップ度を増しながらも、音と言葉の深みと鋭さがこれまで以上に聴き手の胸に迫るこの作品。その制作意図について、波多野(Vo,G)と福井(B)、山口(Dr)の3人に話を訊いた。
取材・文/上野三樹
7曲はそれぞれ大きな塊の一部分
──今回のミニアルバム「Ghost Apple」は、7曲全体でひとつの物語なんですか?
波多野 物語というわけではないんですけど、単純に結びつきが強い7曲で構成されています。僕が歌詞を作るので、どの曲もひとつひとつが独立してるというよりも、大きな塊の一部分っていう感じで。結果的にこれまで以上につながりの強い形になりました。
──この構成によって、バンドの個性やメッセージ性が強く打ち出されていますね。
波多野 そうですね。やっぱりこういうまとめ方が、自分たちの表現したいことが一番ダイレクトに出る形というか。でも最初からこういう風にしようって決め事を作ってはめていったわけではないので、コンセプトっていうとちょっと違和感がありますね。
──3人での作業はどういう感じなんですか?
波多野 そこは、たぶん他のバンドと変わらないですね。もうガツンと合わせるっていう。
山口 (力強く)ガツンと合わせます!
波多野・福井 あははは。
──(笑)。波多野さんの描かれる世界観はすごく繊細でしっかりしたものだと思うのですが、それをどうやって共有していくんですか。
波多野 共有の方法っていうものはなくて、自然に落ち着いちゃうんですよ。音楽を作るっていう部分は100パーセント共有できてるから、そこに僕がどんな言葉を乗っけても揺るがないんです。だから出発点から、そういう打ち合わせとかはないですね。
自分とバンドサウンドの間には境目がない
──このバンドを結成してどのくらいですか。
波多野 このメンバーになったのは、1年半ぐらい?
福井 1年2カ月ですね。
──まだそのぐらいなんですね。
波多野 はい、浅いです。
──それでも「音楽を共有してる」って言える確信はどこから来るんでしょうか。
波多野 やっぱり僕らの……がんばり(笑)。
──がんばり?(笑)
波多野 そうですね。3人でやってるんですけど、最終的な作品っていうのはひとつの人格みたいなものだと思うんです。だから自分とバンドサウンドの間には、ほんとに境目がないんですよね。僕以外の2人が出している音も、僕は自分の音だと思っているし。お互いのパートに口を出すのも自分の音だと思ってるから自然なことで。
山口 うん。自由にやらせていただいてます(笑)。
──「こういう曲だからこうしなきゃ」というような作業の進め方ではないんですね。
波多野 出発点が逆なんですよ。曲の最終形に向かっていくんじゃなく、到着した先が完成形。だから言葉を乗せるときに、そこでズレが発生するっていうことがまったくなくて。こねくりまわしたあとの到着地点に言葉を乗せるからズレが生じない。逆にズレが生じるようであれば、それは行ききってないっていう感じなのかな。音と言葉が完全につながってるんですよね。
落ち着くところに落ち着いた
──今回は「日曜日 / 浴室」からできたそうですが、この曲ができたときに「これは他の曲とも連鎖していきそうだ」みたいな感覚があった?
波多野 その間に実はブランクがあって。最終的にレコーディングの日程が決まるか決まらないかのときに「日曜日 / 浴室」から枝分かれして発生するような感じで、それまで作ってたやつを一旦ちょっと脇に置いて、また新しく作り始めたっていう経緯が実はあるんです。それも自然に、そのときやりたいことをやっただけで、電車を乗り換えたみたいな感じだったんですけどね。ただ、バンド的にはスムーズでしたけど、周りのスタッフは慌ててました(笑)。
──他にも曲を作ってたんだけど、「日曜日 / 浴室」をきっかけにして「あ、こっちだ!」っていう方向が見えて。今のPeople In The Boxが鳴らすべき音はこれなんだ、まずはこれをパッケージしようっていうひらめきがあったってことかな。
波多野 うん、もうほんとにそんな感じです(笑)。僕の頭の中で、「日曜日 / 浴室」という曲が中心になった塊みたいなものを、それだけで形にできたらなっていうのがあって。その後で「月曜日 / 無菌室」ができたときに「これが1曲目だ」って思ったんですよね。だからほんとに落ち着くところに落ち着いたっていう感じなんです。全部が全部。
──今回の作品を聴いたときにコンセプトがハッキリしていたので、作るべくピースをひとつひとつ作っていってこうなったんだろうなって思ったんですけど、そうではなかったんですね。波多野さんの頭の中にあるひらめきをもとに、あとは3人のセッションで作っていったら最終的にこういう形になったっていう。
波多野 そうです。当てはめていった感覚は全然ないんですよね。だからコンセプトっていう表現は僕ら的にはちょっと違和感があるし、1曲1曲独立して聴けないかというとそんなこともなく、普通に聴けちゃうと思うし。
People In The Box
(ぴーぷるいんざぼっくす)
波多野裕文(Vo,G)、福井健太(B)、山口大吾(Dr)による、スリーピースバンド。トリオ編成を活かしたスマートなサウンドと、複合的なリズムにポップな歌メロ、そしてイノセントな声が不思議な世界観を構築している。2007年に残響レコードから、1stミニアルバム「Rabbit Hole」でインディーズデビュー。知名度を高めていく。同年12月には、早くも1stアルバム「Frog Queen」を発売。ライブの質の高さにも定評があり、フェスやイベントにも多数出演し、渋谷CLUB QUATTROでの初ワンマンをソールドアウトさせるなど着実に成長している。