ナタリー PowerPush - OverTheDogs

本当は怖いオバ犬

メジャー初のシングル「プレゼントの降る街」を10月17日にリリースした4人組バンド、OverTheDogs。11月7日には、この曲を収録した2ndアルバム「プレゼント」がリリースされる。今回ナタリーでは、完成したばかりのアルバムの魅力を解き明かすべく、恒吉豊(Vo, G)へのソロインタビューをいち早く敢行した。

少年のようなハイトーンの歌声、優しく包み込むようなメロディ、ピアノを活かした繊細なサウンド、詩情豊かな歌詞の世界観で人気を集める彼ら。しかし、アルバムは決してそれらの形容詞だけでは語れない彼らの個性を垣間見ることができる作品になっている。不穏なところや、攻撃的なところも、大きな魅力だ。

というわけで、今回のインタビューでは「本当は怖いオバ犬」というテーマのもと、アルバムについてじっくり語り合ってみた。

取材・文 / 柴那典 撮影 / 高田梓

ゾクッとさせたいところがあった

──アルバム、すごく良かったです。なんと言うか、「あれ? これなんだろう?」という、ゾクッとさせられるところがたくさんありました。

恒吉豊(Vo, G)

おっ、それはうれしいですね。実際、ゾクッとさせたいと思ってたんですよ。例えば1曲目のピアノソロの部分はギターで作ったんですけど、あそこは音が当たって不協和音になってたりするんです。なんか狂気じみていたほうがいいなと思って。

──うん。OverTheDogsって意外と怖いなって、アルバムを聴いて思ったんです。なので、今日は「本当は怖いオバ犬」ってテーマで話を訊いていこう、と。

いいですね。“本怖”っすね(笑)。

──そうそう(笑)。というわけで、まずは今回の「プレゼント」というアルバムを作ろうと思った取っかかりのところから教えてください。

まあ、ずっと曲は作っているので、出すタイミングがあればいつでも出したいという感じですね。そこで今回アルバムの話があったので。

──1枚1枚コンセプトを立ててアルバムを作っているわけではなく?

そうですね。ただ、毎回アルバムができたら次をどうするかは考えています。こういう曲ができたらいいなっていうイメージはあるので。こういうアルバムにしたいっていう理想があって、そこに近付けていく感じです。

──なるほど。ということは、今年3月にリリースされた「トイウ、モノガ、アルナラ」というミニアルバムが完成したときには、既に今回の「プレゼント」のイメージはあった?

そうですね、もう何曲かはできていたし。

──「愛」という曲は、「トイウ、モノガ、アルナラ」というミニアルバムで象徴的な曲になっていたし、今回のアルバムにも収録されていますよね。この曲で「愛というものがあるなら  信じてみよう」と歌っている。これって逆説的な愛の否定ですよね。つまり「愛なんて本当はないんじゃないか?」みたいな意味も忍ばせている。そういう感覚はあります?

あります、もちろん。というのは、僕は毎日変化するし、聴いている人も毎日変化するし、いろんなものが変化していくじゃないですか?  だから、今日僕が愛を信じていたとしても、明日になったらわかんねえぞっていうのはいつも思っていることで。そういう意味では、いつもハテナが浮かんでいる。だから「今日は信じて生きたい」と思っても、やっぱり疑ってしまう自分もいたりします。そういう疑問は常にあります。

自分が本当に人間なのか、本気で疑ってた

──そういう疑問の部分って、このアルバムにも色濃く表れてますよね。例えば「サイレント」では、「僕は人だよね  本当に人間だよね」みたいな歌詞もある。そういう、常識の根本が揺らぐみたいな感覚が、生々しく出てきていると思います。

「サイレント」は、実は「トイウ、モノガ、アルナラ」の前にできた曲なんです。このアルバムの中では「愛」に次いで2番目に古いんですよ。で、僕は最近結構いい感じで力が抜けていて、すごい楽になってきたところがあって。簡単に言うと、いい意味で「どうせ死ぬ」っていう感覚があるんですね。そこから、無理してもしょうがないし、つじつまなんか合わなくて当然だと思うようになった。「サイレント」に書いたようなことは、昔の学生時代に思っていたことなんです。今の僕は、正直こんなに「自分が人間かどうか」なんて疑ってないんですけど、かつてはすごくそのことを思っていて。

──それは本気で?

恒吉豊(Vo, G)

本気でしたね。自分が本当に人間なのか、本気で疑ってた。もちろん、血液の色は赤いし、見た目も人間なんだけど、鏡を見たときに違和感があったり、人と話をしていても「あれ? 自分だけ違うのかな?」とか思ったりして。人が極端に悲しんでいることを悲しめない瞬間があるのに、自分がすごく悲しい瞬間に人は意外と悲しんでなかったりとか、そういう疑問が結構あって。

──しかも、「サイレント」という曲では「自分が人間じゃなかったらいいのに」というところまで踏み込んでいきますよね。そこって、このアルバムのゾクッとするポイントのひとつなんです。

なるほど。やっぱり疑問に思ったことを自分なりに消化して言葉にするのがミュージシャンの基本的なあり方だと思うんですけど、僕はそのまま書いてしまうので、なんか引っかかる人は引っかかってくれるのかもしれないですね。「自分が人間じゃなかったらいいのに」って学生時代に思ったのは覚えています。僕、介護的な仕事をしていたことがあって、老人とかボケていく人間とか見ていると、すごく切なくなるんですよ。その人たちが楽しそうでも、こっちが勝手に切なくなったりする。そういう人間のはかなさを見たり、もし人間じゃなかったらそうはならなくて済むかもしれないという希望を感じたり、そういう感情が混じったときに作った曲なんです。

2ndフルアルバム「プレゼント」 / 2012年11月7日発売 / 2500円 / FOGHORN MUCF-1003
2ndフルアルバム「プレゼント」
収録曲
  1. ミスレル
  2. チョコレート
  3. どこぞの果て
  4. プレゼントの降る街
  5. 宙、2秒
  6. 凡考性命紊
  7. サイレント
  8. 夜光列車
  9. マインストール
  10. ついで
  11. 愛(album version)
  12. カレーでおはよう
LIVE INFORMATION
OverTheDogsで“わんわんわんの日”

2012年11月1日(木)
東京都 渋谷CLUB QUATTRO
OPEN 18:00 / START 19:00
<出演者>
OverTheDogs / ナノウ / The SALOVERS

OverTheDogs(おーばーざどっぐす)

プロフィール画像

恒吉豊(Vo, G)、樋口三四郎(G, Cho)、星英二郎(Key, Cho)、佐藤ダイキ(B)からなる「オバ犬」の愛称で知られるロックバンド。2002年に東京・福生で結成。インディーズでシングル「おとぎ話」、アルバム「A STAR LIGHT IN MY LIFE」をリリースしたのち、FOGHORNに移籍。2011年10月にリリースされたメジャー1stアルバム「トケメグル」は、プロデューサーとして参加した亀田誠治、佐久間正英、いしわたり淳治の手により、バンドの持つポップネスがさらに磨かれた作品となった。2012年は3月にミニアルバム「トイウ、モノガ、アルナラ」、10月にメジャー1stシングル「プレゼントの降る街」、11月にフルアルバム「プレゼント」をリリース。