ナタリー PowerPush - OverTheDogs

すべての“循環”を歌う メジャー1stアルバム「トケメグル」

東京・福生市在住の5人組ギターロックバンド、OverTheDogs。まるで少年のようなハイトーンボイスと無垢な歌詞の世界観で人気を高める彼らが、メジャーデビューアルバム「トケメグル」をリリースする。

ナタリー初登場となる今回は、「自分の書く曲は絵本のようでありたい」と語る恒吉豊(Vo, G)を中心にメンバー全員のインタビューが実現。バンドとアルバムの成り立ち、そして詩情豊かなその美学を語ってもらった。

取材・文 / 柴那典 撮影 / 高田梓

カッコつけて歌を作ってもしょうがない

インタビュー風景

──アルバム、聴きました。捨て曲のない1枚だと思います。

恒吉豊(Vo, G) ありがとうございます。

──アルバムは「イッツ・ア・スモールワールド」という曲で始まっていますよね。「世界平和を祈るより 僕はここで歌っていよう」と歌うこの曲を1曲目に置いたのは、強い思い入れがあったからなんじゃないかと思うんですけれども。

恒吉 そうですね。これは今回の「トケメグル」の中でも、一番古い曲なんです。作詞作曲を始めてから、自分が書きたいものがずっと書けなくて。誰かの真似をするような書き方しかできなくて、ずっと悩んでいたんです。でも、カッコ悪くてもいい、自分なりにいいものが書ければいいやと思って。スパン!と何かが弾けたときに書けた曲なんです。だから自分の中でもすごく大事な曲ですね。

──恒吉さんが曲や歌詞を書き始めたのは、OverTheDogsというバンドが今のメンバー編成になってから?

恒吉 今の形になってからです。それからちょっとずつ曲を書き始めた感じです。

──そこからどうやって「自分らしさ」を見出していったんでしょう。

恒吉 その曲を書けたのはひとつのきっかけなんですけれど、カッコつけて歌を作ってもしょうがないと思うようになった瞬間からですね。誰かになれるわけでもないし、自分は自分でしかないから。そこから、曲と自分の間に隙間がなくなってきたと思います。

──今のメンバー5人は、どうやって集まった5人なんですか?

樋口三四郎(G, Cho) さまざまですね。ネットのメンバー募集だったり、対バンで知り合った人だったり。

インタビュー風景

恒吉 うまい人も来たんですけど、しっくりこなくて。星くんは知り合ったとき、ピアノを始めて半年だったっけ?

星英二郎(Key, Cho) うん。

恒吉 でも、一緒に音を鳴らして「この人だったら一緒にできる」という直感で選んでいったというか。三ちゃんも、ギターなんて全然弾いたことなかったのに「4年ギター弾いてた」って嘘ついてきやがって(笑)。でも、「あ、いけるかも」って思って彼を選んだんですよね。出会いはありがちですけど、実力じゃなくてフィーリングで選んだ感じですね。

──この5人の中では、佐藤さんは恒吉さんと付き合いは長いんですよね。

佐藤ダイキ(B) そうですね。高校の同級生だったんで。

──恒吉さんのことをどういう人間だと思います?

佐藤 ちゃんと自分を持ってるというか。自分の中でちゃんと筋が通ってると。よく言えば、めちゃめちゃまっすぐなヤツだと思います。メッセージの伝え方もそうだし。

恒吉 じゃあ、悪く言うと?(笑)

佐藤 悪く言うと、まっすぐすぎて衝突することはある(笑)。でもそれがよかったりもするんですけど。

言葉を一番前に出したい

──曲を聴いて思ったんですけれど、恒吉さんって、世の中で正解とされているもの、常識とされているものをそのまま受け入れるんじゃなくて、「なんで?」といちいち考えるようなタイプだったりしませんか?

恒吉 それはありますね。本能的にそうなってしまうときが多いです。頭で考えるよりも、直感で「なんでそうしなきゃいけないの?」って。

──そういうところって、曲や歌詞を書くスタートのひとつになってます?

恒吉 それもひとつあります。あと、僕が書くのはミュージシャンっぽい歌詞じゃなくていいと思ってるんです。普段喋ってる会話でいいやって書き方なんで。だから変な倒置法とか使おうと思わないし、変なところで英語を入れることも得意じゃない。「なんでミュージシャンっぽく書かなきゃいけないんだよ。いいじゃん、伝われば」っていう。歌詞は文面を読んでわからなきゃ意味がないなって思います。

──メロディに言葉が乗っかればいい、ということじゃなく。

恒吉 メロディと歌詞は密接な関係があるんです。でもやっぱり、普段使ってる言葉のほうが、パッと聞いたときに耳に入ってくると思う。だから、変なところで英語を使うのは馴染みもないし、しっくりこない。メロディと歌詞が密接に関係してるからこそ、普段使ってる言葉で歌いたいというか。

──それこそ「世界平和を祈るより 僕はここで歌っていよう」のように、歌詞の中にはキラーフレーズが結構あると思うんです。そういうことは意識します?

恒吉 大事な言葉、引っかかる言葉が欲しいなって思ったりはします。

──アルバムの再生ボタンを押して、まずそのフレーズが耳に飛び込んでくるんですよね。それがOverTheDogsというバンドのあり方をよく表してると思っていて。例えば、バンドによっては、イントロで徐々にシンセが入ってきたり、ドラムのビートで始まったりするかもしれないけれど、このバンドはそういうことはしない。

インタビュー風景

 「イッツ・ア・スモールワールド」はイントロを削ったもんね。どうしてもそこは声から入りたかったんですよ。伝えたいものを早く伝えないとって思って。

恒吉 ウチはビート感とか音楽的なところよりも、言葉を一番前に出したいと思ってますね。

──「カフカ」とか「ななせ空を飛ぶ」とか、小説の世界観にアプローチするような歌詞の曲もありますよね。

恒吉 それは、歌詞を書いてるときに部屋にカフカの「変身」があったんです。「あの人はあのときどう思ったんだろう」って考えたことが、曲を書くきっかけになったんですね。そういうきっかけをもらうのは、映画からのときもあるし、散歩していて思いつくこともある。今回は、きっかけが小説だったんで、みんなやらないかもしれないけど、作者本人の名前をつけたんです。

──昔から本は読むほうでした? 

恒吉 昔、読み漁ってる時期はありました。

──好きな小説家は?

恒吉 伊坂幸太郎さんとか、スティーブン・キングも好きですね。スティーブン・キングは歌詞にも出てくるし。あとは、江戸川乱歩も好きです。松尾スズキさん、リリー・フランキーさんも、エッセイ、小説問わず好きですね。でも、意外と文学は好きじゃないんですよ。よく「文学好きなの?」って言われるんですけど、暗いのは好きじゃなくて。前のアルバムでも太宰治の「斜陽」から引用した歌詞があるんですけれど、深く影響を受けてるわけではないんです。自分の歌詞の書き方もそうですけど、深く掘ってもぼやけてしまう気が僕はしてしまうので。

メジャー1stアルバム「トケメグル」 / 2011年10月26日発売 / 2500円(税込) / FOGHORN / MUCF-1001

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CD収録曲
  1. イッツ・ア・スモールワールド
  2. カフカ
  3. ななせ空を飛ぶ
  4. 神様になれますように
  5. さかさまミルク
  6. 気まぐれしりとり
  7. 普遍ソング
  8. メテオ
  9. なりみみ
  10. つきもの
  11. メクルの本
  12. うた
  13. 本当の未来は
メジャーデビューアルバム「トケメグル」レコ発ワンワンライブ「解き溶けめぐる」
  • 2011年11月11日(金)
    東京都 渋谷CLUB QUATTRO
    OPEN 18:00 / START 19:00
    料金:前売2800円 / 当日3300円(共にドリンク代別)
    チケット販売中
「トケメグル」レコ発ライブツアー「解き溶けめぐる」
  • 2011年12月10日(土)
    大阪府 LIVE SQUARE 2nd LINE
    OPEN 17:30 / START 18:00
    料金:前売2500円 / 当日3000円(共にドリンク代別)
    チケット一般発売日:2011年10月29日(土)
  • 2011年12月11日(日)
    愛知県 名古屋APOLLO THEATER
    OPEN 17:30 / START 18:00
    料金:前売2500円 / 当日3000円(共にドリンク代別)
    チケット一般発売日:2011年10月29日(土)
OverTheDogs(おーばーざどっぐす)

OverTheDogs

恒吉豊(Vo, G)、樋口三四郎(G, Cho)、星英二郎(Key, Cho)、佐藤ダイキ(B)、田中直貴(Dr)によるロックバンド。2002年に東京・福生で結成され、2008年に現在の編成となる。インディーズでシングル「おとぎ話」、アルバム「A STAR LIGHT IN MY LIFE」をリリースしたのち、ドリーミュージックに移籍。2011年10月にリリースのメジャー1stアルバム「トケメグル」は、プロデューサーとして参加した亀田誠治、佐久間正英、いしわたり淳治の手により、バンドの持つポップネスにさらなる磨きがかかった作品となった。