大塚 愛が12月8日に9作目のオリジナルアルバム「LOVE POP」を発表した。
前作「LOVE HONEY」(2017年4月)から約4年8カ月ぶりとなる今回のアルバムには、リードトラック「恋フル」のほか、大塚流のクリスマスソング「サンタにkissをして」やテレビアニメ「フルーツバスケット」第2クールオープニングテーマ「Chime」、ラッパーのあっこゴリラと共作した「あいびき」などを収録。タイトル通り、大塚 愛のポップセンスがカラフルに表現された作品となっている。
今作のリリースに際し、音楽ナタリーでは大塚へのリスペクトを公言している長屋晴子(緑黄色社会 / Vo, G)との対談をセッティング。11月にはライブでの共演も果たした2人に、お互いの音楽性、ポップスに対する捉え方、アルバム「LOVE POP」の魅力などについて語り合ってもらった。
取材・文 / 森朋之撮影 / 塚原孝顕
今日ばかりは私のために歌ってくれているんだ
──大塚さんは11月に行われた緑黄色社会の対バンツアー「緑黄色夜祭 vol.10」のZepp Osaka BaySide公演に出演されました。長屋さんにとっては念願の共演だったのでは?
長屋晴子(緑黄色社会 / Vo, G) そうなんです。緑黄色社会を始めたときから「いつか大塚 愛さんを自分たちのイベントにお呼びしたい」と話していて。ずっと「無理だろうな」と思っていたので、私にとっては夢が叶った日だったんです。
大塚 愛 呼んでもらえてうれしかったです。デビュー当初は何度か対バンライブをやったことがあるんですけど、その後はほとんどやってなくて。表立って「大塚 愛の曲が好き」って言ってくれる人もあまりいないんですよ。タレントの方や女優さんは言ってくれることがあるんですけど、アーティストの方はほとんどいないんじゃないかな。
長屋 え!? そんなことないですよ!
大塚 ホントにそうなんです。自分たちのイメージもあるから、「大塚 愛が好き」と言いづらいんじゃないかなって。だから晴ちゃん(長屋)は「よく言ったな! 勇気あるな!」と思いました(笑)。
長屋 いえいえそんな。ライブ、最高でした。大塚さんがTwitterで「みんなが好きな曲やるからね」と書いてくださっていたんですけど、本当にその通りのセットリストで。コラボさせていただいた「フレンジャー」もそうだし、みんながすごく盛り上がってくれたのもうれしかったです。
大塚 “私のことを知らない人に向けて”というところですね。あとは晴ちゃんのことも考えてましたよ。
長屋 「ユメクイ」「ポケット」を弾き語りで歌ってくださって。直前のMCも相まって「今日ばかりは私のために歌ってくれているんだ」と思えて、さすがに涙腺が崩壊しました。本当は客席で観たかったです(笑)。
大塚 あはは、いい子(笑)。
私の曲の色はバラバラだし、理解してもらえなくてもしょうがないかなって
長屋 私が大塚さんのことを知ったのは小学校3、4年生の頃なんです。「さくらんぼ」がいろんなところで流れていて周りの友達もみんな知っていたし、私もすごく好きになって。どんな人が歌っているのか気になって存在を知って、そこからどんどん深堀りしていきました。お小遣いではCDを全部そろえることはできなくて、友達に借りたりしながらいろんな曲を聴いて。「さくらんぼ」のようなキュートな曲から入ったんですけど、私はそうじゃない曲にグッと惹かれたんです。特にピアノ系のバラード。大塚さんご自身の気持ちが強く入っていて、それが声やピアノから伝わってきて。
大塚 暗い曲も多いからね。世間一般には、どうしてもスポットライトが当たる曲のイメージが付いちゃうじゃないですか。この年齢になってようやく「そんなことはどうでもいいか」と思えるようになりましたけど、それがストレスだった時期もありました。例えば雑誌の撮影でもピンクの小道具がたくさん用意されていたりして、その中に入れられるのが本当にイヤだったんです。「それはあの曲の話で、今は違うから!」と思ったりもして。今は気にしてないですけどね。私の曲の色は本当にバラバラだし、なかなか理解してもらえなくてもしょうがないかなって。
長屋 本当にいろんな曲がありますよね。その中でも、オクターブでユニゾンしている曲がけっこうあるじゃないですか。しかもどっちが主旋律かわからないくらい、同じくらいの音量で。私はそれがすごく好きで、自分たちの曲でも何度かマネさせていただいて……。
大塚 この前のライブでも、(小林)壱誓くん(緑黄色社会 / G)とオクターブで歌ってる曲があったよね?
長屋 はい、「Shout Baby」です(笑)。
大塚 これぞバンドの為せる技、チームだからできることだなと思いました。私、もともとハモのメロディを作るのが得意じゃないんですよ。デビュー当初、アレンジャーに「ハモのラインがめちゃくちゃ。ハモったと思ったらユニゾンになったり、音がぶつかってるところもある」と言われて。適当に歌いながら作るからそうなっちゃうんです(笑)。なので「よくわからないから、オクターブで歌っちゃえ」ということが増えて。
長屋 そうだったんですね!
仮歌のつもりで自分の作る曲に合わせて歌っていた
──大塚さんは、緑黄色社会に対してはどんな印象がありますか?
大塚 最初はボーカルの晴ちゃんのイメージが強かったんですけど、この前のイベントでしっかりライブを観させてもらって「時代が変わったんだな」と思いましたね。私が活動を始めた頃って、バンドといえば斜に構えているというか、「別にやる気ないけど」みたいな雰囲気の人が多かったんですよ。だけど緑黄色社会はぜんぜんそうじゃなくて、すごくまっすぐで、邪気がない。「音楽業界に、こんなにもいい人たちいるかな?」と思いました(笑)。
長屋 あはは。でも、始めたときから「バンドらしくない」と言われてたし、対バン相手がいなくて困っていたんですよ。バンド編成でポップスをやってる人たちが周りにいなくて。
大塚 晴ちゃんのことで言うと、私の中ではSuperflyの(越智)志帆ちゃんにとても近い声の種類だなって思っているんです。声に“炎”があるというか、すごく熱くて。聴いていると心が保温されるんですよね。で、晴ちゃんの場合はそれに加えて“翼感”もある。硬くて強いんだけど、しなやかさもあるから、声の熱さがしっかり飛んでいくというのかな。その開放感にみんな惹かれているんだと思います。
長屋 うれしいです。ありがとうございます……。以前は音程を外さないこと、歌詞を間違えないことをすごく気にしていて、うまく歌おうとしていた時期があったんです。だけど「そういうものを捨ててもいい」と思えてからは、技術よりも気持ちを大事にするようになりました。そのガムシャラさが熱さとして伝わっているとしたら、うれしいです。
──大塚さんのボーカル表現は、すごく多彩ですよね。
大塚 私は自分を“仮歌の人”だと思っているので。
長屋 え!?
大塚 (笑)。デビューするまでは自分が歌う人になるなんて全然思っていなかったんですよ。曲を提供する人になって、それを素晴らしい歌声を持つ上手な人に歌ってほしかったんだけど、なぜか自分で歌うことになったから。最初は歌に自信がなかったし、興味もそれほどなかったんです。なので、仮歌のつもりで自分の作る曲に合わせて歌っていたら、こうなっていたというか。“自分らしさ”みたいなものもわからないんですよね。
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ここに来て「POP」なんだ!