NHK Eテレ「オトッペ」特集|不思議な音を生み出す熱意と混沌

「オトッペ」には探究心が詰まっている

──SEや劇伴の現場でも喧々諤々の議論があるんですか?

Twoth ぶつかったりはしていないけど、最初は混沌としてましたね。

寺村 「オトッペ」はしゃべらない生き物、という初期の企画の頃から相談を受けてスタートしましたから。番組のタイトルも「オトッペ」になるまで紆余曲折があったそうです。

Twoth  DJが主人公だったので、監督やプロデューサーの方々に対しての「DJの説明会」みたいな機会がまずありましたね。DJの現場の人が観ても、子供が観ても面白い落としどころを見つけるためにブレストをして。リアリティが担保されてないと、ファンタジーだけじゃ入り込めないじゃないですか。そこは真面目に作ってますよね。

寺村 スクラッチの音はTwothさんが担当なので、最初にシーナがヒップホップのDJなのか、どのタイプのDJなのかを制作チームと確認してましたよね。それによってスクラッチの感じが変わるので。

──ジャンルによってDJのスタイルってかなり違うんですね。

Twoth テクノだったら1人で5時間回したりするし、レゲエだと曲をバンバン途中で止めて頭からもう一度流したり、ヒップホップだったらカットアップするとか。流れを作るのか、流れを壊すのかとか。いろいろ違いがありますね。

──シーナはどのタイプのDJなんですか?

Twoth ヒップホップなんじゃないかな。スクラッチを音楽として取り込んだのはやっぱりヒップホップかなと。

テレビアニメ「オトッペ」より。©NHK/オトッペ町役場

──なるほど。Twothさんも寺村さんもDJの経験があるんですか?

寺村 自分ではないですけど、DJ KRUSHとかが好きで。いろいろイベントには通っていました。

Twoth 僕は16歳くらいからDJをやってました。今メジャーな人たちが出始めの頃でしたね。

──そうしたご経験も踏まえて、この番組やシーナのキャラクターをどう思いますか?

Twoth 自分はデザイン、アート、歴史、思想とか、いろんなことを全部音楽から学んだと思っていて。「オトッペ」もそういう探究心が詰まっている番組じゃないですか。耳をすませるとか音を集めるとかDJをしてみるとか。さらに主人公が女の子なのがいいなと。世界的に見ても女性の素晴らしいDJがたくさん出てきているので。スクラッチで世界を沸かせる日本の女性DJが出てきてほしいですね。

寺村 うちの子供もシーナになりたいと言ってます。でもDJをやりたいんじゃなくて、違う音を同時に出したいらしくて、そういうことができるシーナや私に憧れているみたいです(笑)。

──効果音の付け方を教えているんですか?

寺村 自分が効果音をつける仕事をしている後ろで見ています。「ここにビヨーンって音をつけたらいいんじゃない?」とか言ってきたり、「今音を大きくしたの?」って聞いてきたりします。

──寺村さんは効果音をどうやって集めているんですか?

寺村 効果音のライブラリーを使うこともありますが、いろんな種類の音が出てくるアニメなので自分で録らなきゃいけない音が多いですね。例えば珠のれんの音が必要なときがあって、そのときは実家から珠のれんを送ってもらって録音しました。

──なるほど。皆さんは普段から日常の音に耳をすまして生活されていますか?

テレビアニメ「オトッペ」より。©NHK/オトッペ町役場

吉田 俺は普段、無音の環境で生活してます。車もカーステレオがないし、ラジオもかけない。仕事中、音がずっと鳴ってるから静かにしたいんですよね(笑)。

Twoth 生活しててこれは「いい音だな」って思うことはあります。

寺村 ありますね。排水管が変な倍音を出していたり、今だったら台風のあとで枯れ草が溜まったなと思ったら、枯れ草がこすれ合う音を録りに行ったり。

──本当にシーナと重なる感じですね。

寺村 シーナはまめにライブラリー化していて偉いなと思いますね。私は録ったまま整理できていないので。

「オトッペ」を生む熱意とカオス

──Twothさんや寺村さんは、この番組の制作環境についてどのように感じていますか?

寺村 「何か困っていることはありませんか?」と定期的にヒアリングしていただけるし、とてもやりやすい環境ですね。私の保育園のお迎えとかも心配してくれて。子供がいてレギュラーの仕事をするのはどうかなって悩んでいたんですけど、その辺もやりやすくしてくれています。

Twoth 音が大切な番組だから音まわりのスタッフたちをしっかり守って作りやすい環境を整えてくれている印象ですね。短い5分番組ですが、脚本やキャラクターは何度も何度も修正を重ねて一話一話作られていると聞いています。キャラデザイナーのおおばるさんはじめ、クリエイティブディレクター、監督、脚本チーム、CGチームのこだわりがすごい。多種多様なピュアな心と熱意が入り交じったカオスで「オトッペ」ができている気がしますね。

テレビアニメ「オトッペ」より。©NHK/オトッペ町役場
DJシーナ(CV:久野美咲)、ウィンディ(CV:井口裕香)、メタルク(CV:千葉進歩)
「バラバラバンバ」
2018年11月2日配信開始
DJシーナ(CV:久野美咲)、ウィンディ(CV:井口裕香)、メタルク(CV:千葉進歩)「バラバラバンバ」
収録曲
  1. バラバラバンバ
NHK Eテレ「オトッペ」
NHK Eテレ「オトッペ」
放送情報
毎週月~金曜日 8:40~8:45
再放送:
毎週月~金曜日 17:55~18:00 / 日曜日 7:40~7:45
※放送日時は予告なく変更になる場合あり。
ストーリー
世界一のDJを目指す主人公シーナはある日、不思議な扉をくぐって別の世界に迷い込んでしまう。そこは音から生まれた不思議な生き物・オトッペたちが暮らす「オトッペタウン」。シーナはこの世界で風の音から生まれたウィンディをはじめ、さまざまな音から生まれたオトッペたちと出会っていく。
キャスト
  • シーナ:久野美咲
  • ウィンディ:井口裕香
  • メタルク / グラストン:千葉進歩
  • ウッドウッド / フレイミー:木内秀信
  • モータロン / マネスキー:渡辺明乃
  • ペッペラーノ / ポトレイン / ナレーター:桐井大介
  • ウォッタ / ウミッタ:小原好美
  • ドアモリソン / ウィンディパパ:大山鎬則
  • カットン:浅野まゆみ
  • エレキー:飯島肇
  • ウエスティ:西島秀俊
吉田ゐさお(ヨシダイサオ)
吉田ゐさお
東京音楽大学作曲科卒業後、1996年に音楽ユニット・Jungle SmileのメンバーとしてSPEEDSTAR RECORDSよりデビューし、2ndシングル「片思い」で全日本有線放送大賞新人賞を受賞。2002年のユニット活動休止後はさまざまなアーティストへの楽曲提供やプロデュースを行う。2007年、手嶌葵に楽曲提供した「徒然曜日」がauとヤマハ音楽教室のCMソングに採用されたことをきっかけにCM音楽にも携わるように。2010年、話題を呼んだワコールの「リボンブラ体操」でACC(全日本CM放送連盟)「ベスト音楽賞」を受賞した。その後も「キレイモ」や「タンスにゴンゴン」などユニークで耳に残るCM楽曲を多数制作。また坂上忍プロデュースの舞台などにも出演する俳優としての一面も持つ。
Twoth(トゥース)
Twoth
2006年にPowershovel Audioからデビュー。GoogleやSONYなどのテレビCMや、アーティストとのコラボレーション作品などで数多くの楽曲を制作。2012年にはアヌシー国際アニメーション映画祭にて日本人初の音楽賞を受賞した。ISSEY MIYAKE、FINAL HOMEのデザイナーという異色の経歴を持ち、プロダクトブランドTALKY・PEOPLEAPのデザインディレクターとしても活動中。
寺村京子(テラムラキョウコ)
寺村京子
1997年に都内サウンドデザイン会社に入社し、テレビCMをはじめとする映像や音声作品の効果音制作、選曲、キャスティング、録音など幅広く音の仕事に携わる。2010年に仲間とサウンドデザイン会社を設立。2014年からは子育てをしながらフリーランスの音効として主に子供向けアニメーションやCMの効果音制作を行う。民族楽器や生音、声を加工した音作りが得意。NHK Eテレ「プチプチ・アニメ」の「リヴ&ベル」では効果音とキャラクターの声を担当している。