「その傷はいつかあなたの武器になるから」と伝えたい
──制作にあたって「自分と向き合った」という話がありましたが、実際にはどんなふうに向き合うんですか?
自分自身をめちゃくちゃ罵倒したり、もう1人の自分と殴り合いをしたり……抽象的ですが、そんなイメージですね。ボコボコのケンカを経て、慰め合ったりしたあとに、ようやく見えてくるものがあるというか。
──なるほど。アルバムを聴いて感じたのは、多くの曲が「私は傷だらけである」という自己認識から始まっているということで。今の比喩を聞いて、合点がいきました。
傷だらけ……本当におっしゃる通りです。周りから恵まれているように見える人も、どこでどんな言葉を投げられているかわからないじゃないですか。私も、過去の記憶は薄れさせましたけど、それでも自分の中に蓄積しているものがあって。自己否定なんてする必要はないのに、「自分は一番下なんだ」と思ってしまっていた時期がけっこう長くあったんですね。自分の声なんて周りに届かないし、反映されないし、認められない、みたいな。だけど自己否定をしてきたからこそ、誰かの気持ちとか、周りが見過ごしているその人の弱さに気付けるようになって。これまでの経験は、必ずしも悪いものではなかった。むしろこの経験があるからこそ、誰かを勇気付けられるんじゃないかと今は思えているんです。
──マイナスの経験がプラスに転じた。その転換点はなんだったんでしょうか?
やっぱり聴いてくれる人の存在が大きくて。昔からなんとなく気付いていたんですよ。聴いてくれる1人ひとりは自分の鏡写しのような存在で、私にとってすごく大切な存在だなと。SNSで声を届けてくれる人も、そうでない人も、ライブに来て顔を見せてくれる人も、家で聴いてくれている人もみんな大切。私は音楽をやっていて、ネットに発信できる力があるというだけで、その人たちと目線は変わらないと思っていて。それぞれの傷や痛みを私が直接知ることはできないから、ある意味では違う世界線にいるのかもしれない。でも実はずっと隣にいたし、同じ方向を見てきている人たちだなという感覚があるんです。例えば「no man's world」も、孤独な世界からたくさんの人がいる場所に向けて歌っているのではなく、違う世界線の同じ「no man's world」に向けて歌っているイメージで。そのうえで私は今、過去の傷を抱えている人や、今リアルタイムで傷を負わされている人に向けて、「その傷はいつかあなたの武器になるから」と伝えたい。それは過去の自分に伝えたいことでもあるし、「自分に向き合う=聴いてくれている1人ひとりと向き合う」という意識は日に日に強くなっています。
──ポジティブなメッセージを伝えたいという思いは、アルバム全体に通じていますね。例えば「人生階段」では、現実の厳しさを歌いながらも、最後には「僕らは全員ハッピーエンドだ」と断言しています。
「この曲の向こう側に誰かがいるんだ」という意識がなかったら、こういう終わり方にはなっていなかっただろうなと思います。みんなのおかげで私は自ずと変わってきている。そういう意味では、「もう私だけの音楽じゃなくなってきたな」という感覚がすごく大きいです。
──そして、アルバムの最後に収録されているのは、メジャーデビュー曲の「大生解」ですね。
ラストはもうこの曲しかなかったです。どれだけ曲を書いても、最終的に返ってくるのはこの曲で歌っているような思想だなと。ここから逸れることは100億%ない。これからもこの曲を何度も思い出しながら進み続けるんだろうなと思ったので、アルバムの最後に置きました。
──「生きてさえいてくれりゃいい」というリフレインが印象的でした。
高校生の頃、実際に生きることをあきらめてしまった人が身近にいたので。それまでは承認欲求だけで「弾いてみた」をアップしたりしていたけど、その出来事をきっかけに、自分がギターと歌と作曲ができる人間である意味を考えるようになりました。この歌詞って、けっこう直接的じゃないですか。「何を無責任なこと言ってんだよ」と思う人もいるだろうし、曲を書いた当初は世に出すべきか迷っていました。だからこそ、出したからには、この曲で歌っていることを自分で体現していくしかないなと。
──その1つが「命一つでも生まれ変われる」ということなんですね。
この曲を歌い続ける=責任がずっとついてくるという意味で……1stアルバムのラストにはふさわしいかなと思います。
「マンガを描くミュージシャンになってみたい」とずっと思っていた
──アルバムのジャケットのイラストもご自身で描かれたんですよね。この人は誰ですか?
“主人公”です。名前を付けるかすごく悩んだけど、最終的に付けないことにしました。主人公の見た目が自分と違っていても、別世界の話だったとしても、どれだけ先の未来の話だったとしても、聴く人に“自分自身の物語”だと思いながら聴いてほしいアルバムなので。
──そして完全生産限定盤のブックレットには、描き下ろしマンガも収録されます。
「マンガを描くミュージシャンになってみたい」とずっと思っていたので、今回ようやく実現できてうれしいです。曲の作り方を聞かれたとき、「メロと歌詞が同時に出てきます」とよく言っていたんですけど、実際には風景も同時に出てきているんですよ。こんな風景が広がっていて、こんな人がいて、こんな表情をしている、みたいな。そういうストーリーが最初に出てきて、そのあと曲ができあがることも多くて。本当はそのすべてをマンガにしてお届けしたい。だけどそれをやっていると曲が書けなくなっちゃうから(笑)、とりあえずできる範囲で描いてみた、挑戦してみた、という感じです。
──アルバムリリース後のライブ活動についても聞かせてください。まず、来年2月21日にワンマンライブ「出発前夜」がKT Zepp Yokohamaで開催されます。
全国ツアーの前なので、「これからみんなで一緒に旅に出るための出発前夜なんだよ」という意味を込めて、このタイトルを付けました。アルバムのテーマとちょっと似ているんですけど、今までのことを振り返って、全部が地続きになっていることを示せる1日にできたらうれしいなと思っています。
──そして5月から8月にかけて、初の全国ツアー「OUR PLANET」が開催されます。
ようやく少しでもみんなのそばに行けることがシンプルにうれしいです。去年、東名阪ツアーを開催したんですけど、ワンマンではなかったし、遠くて行けないという方もいたので。全国6都市ということで、まだ歯がゆいですけど、今まで来られなかった人も来られるんじゃないかなと。私の最終着地点は1人ひとりの目を見て歌うことなので、それがより叶うツアーになると思います。すごく楽しみです。
公演情報
音羽-otoha- SPECIAL ONE MAN LIVE「出発前夜」
2026年2月21日(土)神奈川県 KT Zepp Yokohama
音羽-otoha- 1st full album「LAST PLANET」release one-man tour 2026 "OUR PLANET"
- 2026年5月24日(日)大阪府 BIGCAT
- 2026年6月7日(日)愛知県 ell.FITS ALL
- 2026年7月19日(日)宮城県 darwin
- 2026年8月8日(土)福岡県 LIVEHOUSE CB
- 2026年8月9日(日)香川県 DIME
- 2026年8月30日(日)東京都 Zepp DiverCity(TOKYO)
プロフィール
音羽-otoha-(オトハ)
「自分自身に向き合い続けること」を主なテーマとして活動するシンガーソングライター。作詞作曲、ギターやピアノの楽器演奏に加え、アニメーション制作や映像編集なども手がける。中学時代に観た映画「マイケル・ジャクソン THIS IS IT」に出演していた女性ギタリストのオリアンティに衝撃を受け、ギターを弾き始める。高校入学後はバンドを結成。ギターボーカルとしての活動を経て、現在の名義である音羽-otoha-としてソロ活動をスタートさせる。2020年1月には初のオリジナル曲「リインカーネーション」を配信リリース。2022年にはアニメ「ぼっち・ざ・ろっく!」のオープニングテーマ「青春コンプレックス」の作曲を担当して話題に。2024年2月にソニー・ミュージックレーベルズ内のKi/oon Musicよりメジャーデビューを果たし、5月にはアニメ「黒執事 -寄宿学校編-」のオープニングテーマ「狂信者のパレード - The Parade of Battlers」をシングルとしてリリースした。2025年にはアニメ「真・侍伝 YAIBA」「Dr.STONE SCIENCE FUTURE」のエンディングテーマを担当。12月に初のフルアルバム「LAST PLANET」をリリースした。2026年2月に神奈川・KT Zepp Yokohamaでワンマンライブ「出発前夜」を開催。さらに5月からアルバムのリリースツアーを全国6都市で行う。




