それぞれの世代から見える景色を切り取った歌詞
──歌詞はクボタさんとユウスケさんの共作ですが、どのように制作を進めていったんですか?
ユウスケ 先に僕が1番を書いたあと、カイくんが僕の歌詞に沿って2番を書いてきてくれました。だからカイくんのほうが難しかったと思います。僕は完全に自分の世界で書いてしまったから「申し訳ないな」と思いながら渡したんですけど、しっかりアンサーを書いてくれて。
クボタ いやいや。たぶん僕が1番を書いていたらもっと時間がかかってましたよ。MCバトルもそうですけど、基本後攻のほうが有利ですから。議題もパンチラインもすでにそろってる状態から書き始めるわけだから、すごくやりやすかったです。ユウスケさんの書いた1番Bメロの「あきらめろサーティー」というラインが特にすごいなと思いました。僕は今年26歳になるんですけど、歌詞を通して先輩が観ている景色を受け取った感覚があって。同じテーマでも視点の違いってありますよね。
ユウスケ そうだね。僕は来年の3月で30歳になるんですよ。このラインは「マドンナが結婚しちゃった」というストーリーの中で「もうあきらめるしかないよね」という意味合いで書いたところもありますけど、年齢を重ねることで考えることも増えてきたんです。「もう30だし、ここでもがいてもな」「時間が解決してくれるのかな」という気持ちを込めて、「あきらめろサーティー」と書きました。
クボタ 僕もこの歳になって「今後、自分の人生はどうなるんだろう?」と考えることがある。そうやっていろいろ考えているときにこの鮮明なラインを受け取ったわけだから……やっぱりハッとしますよね。2番Bメロではユウスケさんから「サーティー」という言葉をもらって、アンサーっぽく、僕から見た30歳へ続く道を書いています。そこから「見えない闇やぬかるみがこの先僕らを待ってる」と続けているんですけど。
──今のクボタさんは、先が見えないこともポジティブに受け止められているのでしょうか?
クボタ というより「考えても仕方のないことだから」という感覚ですかね。30代を目前にして漠然とした不安を抱えている人は僕以外にもたくさんいると思うけど、1年後に1つ歳をとるということは変えられないんだから、考えたところでどうしようもない。そのうえで自分は……ちょっとワクワクしている感じがありますよね。「僕らを待ってる~♪」ってリズムも弾んでいるし。ポジティブとまでは言えないけど、「先輩もそう言っているんだし」と思えているんだと思います。
刺激をもらったレコーディング
ゆっきー 歌が乗ってから思ったんですけど、クボタくんはリズム感がめちゃくちゃいいですよね。
クボタ ありがとうございます。
ゆっきー ユウスケさんとはまた違うリズム感だなと。僕はいつも通り演奏したつもりだったけど、歌う人が変わると全体の聞こえ方もやっぱり変わるんだなと思いました。それが新鮮でしたね。
ナオト カイくんは、ユウスケの歌録りが早いって驚いてたよね?
クボタ はい。確か1時間くらいで終わりましたよね? ユウスケさんが先に歌ってて、その間に声出しをしようと思っていたら、その中盤くらいで「終わったよ」と声をかけられたのでびっくりしました。
ユウスケ いつもはどのくらいかかるんですか?
クボタ 早くて4時間とかですかね。
ナオト 僕らは最近「歌録りは早く決めたほうがいい」というスタイルなんですよ。
ユウスケ 最初のほうは声があんまり出ないし、逆に時間が経つと疲れて声が出なくなるから、真ん中の一番声が出ているタイミングを狙うようにしていて。上り鰹みたいに、調子がどんどん上がってきたところをパーンと決めるみたいな(笑)。僕の場合、それが3~40分くらいで。
クボタ 1時間でバシッとOKテイクを出せるのがすごいですし、ユウスケさんのテイクを聴きながら「なるほど、こういうふうにリズムをとっているんだ」と勉強させてもらいました。同時に「ユウスケさんのカーン!と抜ける声がすごくいいな」「オレスパの魅力の1つだよな」と改めて思って。僕は普段このくらいの音域はファルセットで表現しますけど、せっかくのコラボということで、ユウスケさんに影響を受けながら、僕もなるべく地声で、太く聞こえるような発声で歌っています。
ジャケット写真に込めた説得力
──ジャケット写真はゆっきーさんが撮影されたんですよね。スーツ姿で踊る男性2人の足元をクローズアップしたカットですが、こちらはやはり「Step!!!!!」というタイトルから発想したのでしょうか?
ゆっきー 実は順序は逆で、ジャケがこういう写真になることが決まったあとに「『Step!!!!!』っていいね」という話になり、曲名が決まったんです。レコーディング風景を撮りまくってコラージュするとか、パーティだからクラッカーをパンパンやるとか、これ以外にもいろいろなアイデアがあったんですけど、大人っぽさと男っぽさが欲しいということでこの案に決まりました。クボタくんとユウスケにスーツを着せて踊りまくってもらったんですよ。
ユウスケ ロカビリーをかけながら、めっちゃ踊りましたよ。足元しか映ってないけど、顔は汗でぐちゃぐちゃでした(笑)。
ゆっきー 「ステップ」や「パーティ」というテーマは足元だけを見せれば伝わるし、顔まで映しちゃうと、かえってテーマがぼやけるような気がして。だけど「これは誰なんだろう?」ということになったときに「実はこの2人でした」となったほうが説得力があると思うので、2人にお願いしました。
またこの5人で
──今回の制作の感想を改めて聞かせてください。
クボタ バンドが持っている雰囲気を制作段階から味わえて新鮮でした。歌詞ができる前の段階で、「じゃあ一旦やってみようか」と合わせたときの音がすでにオレスパだったんですよ。というか普通に、いちリスナーとして「あっ、オレスパだ!」と思った(笑)。最初の段階からちゃんと色があって、そのうえで試行錯誤しているんだなと感じました。楽曲の方向性を決めるのはナオトさん、デザイン周りをまとめるのはゆっきーさんと役割分担がはっきりしていることも、一緒に制作をして初めてわかったことですね。
ナオト カイくんはとにかく飲み込みが早い。歌の譜割りを覚えるのもすごく早かったです。
ユウスケ たぶん俺より早いんじゃないですか?
ナオト うん、そうだと思う。別に悪口を言うつもりはないですけど、ユウスケは何回教えても違う歌い方をするから(笑)。
ユウスケ (笑)。あと、カイくんは会話がうまい。
ナオト MCバトルのときも思いましたけど、頭の回転がめちゃめちゃ速いんでしょうね。それは普段会話しているときにも思う。僕らは話にあんまりオチがないんですけど、カイくんは「こういうことですよね」というふうにオチをつけてくれるから、こういうインタビューのときにすごく助かります(笑)。
ユウスケ この制作期間でだいぶ距離が縮まったんですよ。だから、この曲が最初で最後になるのはさびしいなと思っていて。今回だけと言わず、また一緒に何かやりたい。
クボタ 僕もこの5人でまた何かやりたいです。
ゆっきー 今度はフリースタイルで何かやったらいいんじゃない?
ゆりと リンダ名義でのコラボ?
ナオト 友達にRin音くんとかいるんだから、俺とコラボしてる場合じゃないよ(笑)。
リリースパーティはバチバチで
──9月には東京と大阪で「Step!!!!!」のリリース記念ライブが開催されます。最後にこのライブへの意気込みを聞かせてください。
ナオト 「Step!!!!!」を作り始めたときにはライブがもう決まっていたので、ライブのこともイメージしながら作っていったんですよ。なので、ライブが本当に楽しみで。
ゆっきー 「Step!!!!!」をみんなの前でやるのはこの2日間が初めてなので、楽しみですね。クボタくんのライブを観るのも初めてだからそれも楽しみだし、僕らはちゃんと自分たちのライブでクボタくんのことをボコボコにしたい。
ユウスケ ボコボコって言い方は怖いよ(笑)。僕はお客さんにカイくんとの仲のよさをアピールしつつ、いつものオレスパのライブができればいいんじゃないかと思ってるんだけど。
ゆっきー でも、やっぱり対バンだから。
ゆりと 男同士バチバチやりたいよね。バンド編成で来るんだもんね?
クボタ はい、バンドで行きます!
ゆりと バンドメンバーは演奏がうまい人ばかりだと聞いているので、僕らもキメるところはキメつつ、ライブが終わったら「アフターパーティー」に行きたいなって。
ナオト・ユウスケ・ゆっきー おおっ、うまい!
ナオト 打ち上げじゃなくて「UTAGE」にね。
ユウスケ 俺はこの「ピアス」をつけて行こっかな。
ナオト 3次会は「ふたりぼっち」で……。
クボタ すごい、めちゃくちゃ僕の曲を引用してくれる!(笑)僕は大好きな4人とライブができるのが楽しみで、この曲の楽しい雰囲気が皆さんにも伝わればと思ってます。そのうえで、自分のライブで、オレスパのリスナーさんのこともハッとさせたい……じゃなくて「ハッとさせてやるぞ」くらいの気持ちで、4人の胸を借りながらやろうと思ってます!
公演情報
オレンジスパイニクラブ×クボタカイ Step to the party!!!!!
- 2024年9月22日(日・祝)大阪府 Live House Anima
- 2024年9月28日(土)東京都 UNIT
プロフィール
オレンジスパイニクラブ
スズキユウスケ(Vo, G)、スズキナオト(G, Cho)、ゆっきー(B, Cho)、ゆりと(Dr)からなる茨城県出身の4人組バンド。作詞作曲はユウスケ・ナオトの兄弟が担当している。2020年1月に初の全国流通1stミニアルバム「イラつくときはいつだって」をリリースし、収録曲の「キンモクセイ」がSNSを中心に話題となる。同年11月に2ndミニアルバム「非日常」を発表。2021年10月にワーナーミュージック・ジャパンよりメジャー1stフルアルバム「アンメジャラブル」をリリースした。2023年6月にYouTubeチャンネル「THE FIRST TAKE」に初登場し、9月には2ndアルバム「Crop」を発表。2024年7月に3rdミニアルバム「生活なんて」をリリース。11月からはキャリア最大規模となる東京・Zepp DiverCity(TOKYO)公演を含む全国ワンマンツアー「オレンジスパイニクラブ ワンマンツアー2024 ~バカの才能 来世まで~」を開催する。
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クボタカイ
宮崎出身、福岡在住の1999年生まれのシンガーソングライター / ラッパー。2017年よりフリースタイルラップ、楽曲制作を開始し、ヒップホップ、R&B、ロック、ポップスまで幅広く取り入れた音楽性と文学の香りを感じさせるリリックで脚光を浴びる。2019年3月にリリースした音源「305」は即完売。「305」は10月にカセット、11月3日のレコードの日にアナログでもリリースされた。12月にはミニアルバム「明星」をリリース。2021年4月には初のフルアルバム「来光」を発表した。2022年7月発表の配信シングル「ピアス」リリース時には、TikTokとSpotifyが共同でアーティストを応援するプログラム「Buzz Tracker」のマンスリーアーティストに選出された。2023年10月に2ndアルバム「返事はいらない」をリリース。2024年は1月にドラマ「ハコビヤ」のオープニングテーマ「gear5」、2月にドラマ「マイストロベリーフィルム」のオープニング主題歌「フラッシュバックメモリーズ」を立て続けに配信リリースした。
(クボタカイ) (@_kubotakai_) | Instagram