鬼束ちひろ|20歳の私と40歳の私が完成させたポップス

兼松衆が追い求めた美しいアレンジの秘密

兼松衆

歌声を引き立てるために
アレンジで心がけたこと

鬼束さん初期の作品のサウンド感、簡単に言ってしまえば“ピアノを主体としたアコースティックなサウンド”を基本軸にすることは最初に制作スタッフ間で確認し合ったことですね。収録曲の半分くらいはその範囲内のサウンド感を踏襲しつつ、一歩踏み出したもの、さらに逸脱していったもののバリエーションをアルバム内にちりばめていったつもりです。当時リリースされなかったのが不思議なくらい、1曲1曲がとんでもなく魅力的なメロディでしたので、エキセントリックに主張するようなアレンジメントは必要ないかなーという意識でした。背伸びをして新しいもの、誰も聴いたことのない“鬼束ちひろ”を志向したつもりはまったくなくて。20年前のデモテープがタイムスリップして現代に届いたなら……そんな“もしも”の世界で考えられるもっとも美しいアレンジメントを目指しました。

鬼束さんの楽曲のイメージ

ほかの誰にも書けない、ほかの誰にも歌えない圧倒的なオリジナリティだと思います。プリプロ開始時にはまだ仮歌がなくて(同時並行で鬼束さんは作詞を進めていました)貧相な「ポー」みたいなシンセ音でアレンジをしていたのですが、その状態でも一聴して「ああ、これは鬼束さんの曲だ」とわかってしまう、ちょっとマジカルなメロディですね。

「HYSTERIA」の制作過程について

まず全曲のラフアレンジを作ってから、鬼束さんの作詞と並行して本アレンジという流れでした。細かい修正はいくつか事前にリクエストいただいたり、REC現場でディスカッションしながらという感じで、根本的に作り直すような曲は1個もなかったような気がします。ほとんど全曲を、生演奏に依存するタイプのアレンジメントにしてしまったものですから、事前のプリプロダクション以上にレコーディングスタジオでの素晴らしいミュージシャンとの録音作業がこのアルバムのサウンドの要になっていると思います。

収録曲の中で一番の推し曲

どの曲も大事に制作しましたので一番を選ぶのは難しいですね……ご容赦ください。大好きなフレーズがたくさんありすぎますが、「焼ける川」の歌い出し「Dawn of my faith」の2コーラス目、「End of the world」の最後のリフレインが特にお気に入りです。1曲1曲にアイデアを注ぎ込んだつもりですが、一番届いてほしいのは過去から届いたメロディのストーリーと、現在の鬼束さんがそこに新たに吹き込まれた歌詞の世界です。その1点を大切に思いながら、制作スタッフ一同走り続けてきたように思います。お楽しみいただけましたらこんなにうれしいことはありません。