私が正しいとは限らない
──アレンジャーの兼松さんとの初タッグはいかがでしたか?
ヤバいですよ。すごい人。若くて高学歴。ピアノの旋律がめっちゃドラマチック。今をときめく人をたくさんやってる。
──劇伴なんかもたくさん手がけてる方なんですよね。
「インソムニア」(2001年発売のアルバム)を聴いてきた世代なんだって。私いつもすごい人に恵まれてるんです。本当にありがたくて。
──鬼束さんの周りはいつも一流の人ばかりですよね。
でも私が選んでるわけじゃない。神が与えてくれてる。
──鬼束さんから兼松さんにアレンジに関する要望を伝えたりもしましたか?
そういうのいまだにわかんないの。楽器の良し悪しとかうまいとか下手とかわかんないから。
──でも好き嫌いははっきりしてるんですよね。
うん、南米の楽器はダメ。ジャンベとか民族太鼓とかが鳴ったらすぐ止めてって言う。あとイントロをもっと暗い感じで入りたいとかは言います。でもそれくらい。あとは全部お任せです。自分以外の人にしかわからないよさもあるから、それはすごく大事にしてる。私が思ってることが正しいとは限らないしね。
カントリーばかり聴いていた
──アルバムラストの「Boys Don't Cry」はカントリー調の楽曲です。実はこういうタイプの曲も似合いますよね。
ジュエルとか好きだったからそういうイメージで。当時は歌詞を全部英語で書いていて、サビの「Come on here」のところはそのまま使ってます。今の世の中、なんか繊細な子多くない? だから泣き虫の歌にしたの。
──鬼束さんが歌うカントリーナンバーをもっと聴きたくなりました。
若いときの私はそれでできてますからね。カントリーばっかり聴いてたから。
──2曲目の「フェアリーテイル」もフォーキーな印象で、このあたり少しSimon & Garfunkel的な匂いも感じました。
私と兼松さん? どっちがガーファンクル?
──いや、キャラクターというより曲の雰囲気ですかね。
ガーファンクルの髪型のおじさんすごく多くない?
──すごく多くはないと思いますけど。
私の元マネージャーはガーファンクルでしたね。
いろんな人に曲を書きたい
──ところで「HYSTERIA」というタイトルはどこから出てきたんですか?
最初に「このアルバムはショッキングピンクだな」と思って、そこからイメージしたタイトルが「QUIET HYSTERIA」だった。張り詰めた糸のような感じ。それを短くして「HYSTERIA」にした。
──なぜショッキングピンクだと思ったんでしょう?
わかんない。説明できるものだったらつまんなくない? ショッキングピンクだなっていうのは自分の中で最初から決まってて、100均で買ったA4のアルバムにピンクの紙を敷き詰めて、そこに歌詞を書き始めたんです。爪も全部ピンクにして。
──かなりの名盤ができたと思うんですが、本人的にあまり自覚はなさそうですね。
「月光」が売れていくときもそうだったからそういう感覚かも。売れるかどうかやってる本人はわかんないの。あのときも実感が湧くまで3年ぐらいかかったから。
──作った瞬間「これはいける」と思うときはないんですか?
ある。けどそういうのに限ってあんまり響かなかったりする。でも最近はあんまりズレないかも。いいものを作る自信がある。
──気が早いですが、今の鬼束さんが作るまっさらな新曲も楽しみです。
うん、どんどんできてますよ。それと今はいろんな人に曲を書きたいなって思ってるんですよね。演歌とかアイドルとか。ラップも書きたいし、m-floにも参加したい。
──「m-flo loves 鬼束ちひろ」いいですね(笑)。
あとね、最近タキシードサムがバンド組んだらしいんですよ。ポチャッコとかけろけろけろっぴと一緒に(参照:ポチャッコらサンリオキャラがバンド活動、ばつ丸の直談判でKALMAが曲提供)。そのバンドに曲を書きたいなって思ってます。
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兼松衆が追い求めた美しいアレンジの秘密