伊藤雄和(OLEDICKFOGGY)×西村賢太(作家)|ろくでなしが多くの人の心をつかむ

最高傑作と言わざるを得ない素晴らしい作品

──西村さんはOLEDICKFOGGYの新しいアルバム「Gerato」は聴かれましたか?

西村 聴きましたよ。全体の印象としては最高傑作と言わざるを得ない素晴らしい作品でした。僕は「新世界」(2014年5月発売)が特に好きなんですが、今回のアルバムはスージー(G, Cho)が作った曲が多いじゃないですか。これまでは多くてもアルバムに2曲くらいだったから、伊藤さんの曲にスージーの曲が溶け込んでいたイメージだったんですけど、今回は曲数が多いからか、スージーの個性が明確にあらわれていて新鮮でしたね。あと意外と(四條)未来くん(Banjo)の曲がよかったですね。「意外と」って言ったらあれですけども(笑)。「こういうの作るんだな」って思いました。でも誰が作ってもOLEDICKFOGGYというバンドとしてやっているので関係ないのかもしれないですね。完成度はかなり高いと思いました。なかんずく、「ベターエンド」と「薄荷煙草とギムレット」が心奥に留まってます。

伊藤 スージーの曲に歌を乗せるのは難しかったですね。いつもと勝手が違うから大変でした。今回、スージーの曲がかなり凝っていて、僕には作れない音楽的に難しいことも詰め込んでいるんですけど、かなり長い期間をかけて作ったから最初に録音していた頃の曲は忘れているので、ライブで再現するために、これから思い出す作業をします(笑)。

──今作はスージーさんが主体となり曲作りをしようと決めていたのですか?

伊藤 そういうわけじゃないんですけど、スージーのペースが早くて毎週1曲ずつ作ってくるんですよ。その頃、僕はいろんなことをやっていて忙しかったので。先生の小説の解説を書いたり(笑)。

西村 あははは(笑)。

伊藤 先生から解説のOKが出るまでは曲作りにシフトできなかったですからね。

西村 OLEDICKFOGGYのファンに怒られちゃうね。

伊藤 あとはドラマとか観てしまって。「ウォーキング・デッド」を全話観ていました(笑)。そんなときにスージーがぼんぼん曲を書いてきて。でも僕も「KUNG FU VACATION」みたいな、どうしてもやりたい曲が書けたので、あとはスージーに任せてもよいかなって。

西村 「クンバケ」は衝撃でした。

伊藤 「クンバケ」って言うとなんかいやらしいですね(笑)。

西村 最初の叫びでズッコける感じになりますけど、でも伊藤さん一流の悪ふざけと言うか……。

伊藤 悪ふざけですよ。だから歌詞もいかに意味のないように聞こえるか考えましたね。

西村 この曲は和田アキ子氏にカバーしてほしいんですよね。

伊藤 でも「ペニス」って言ってますよ(笑)。

──「KUNG FU VACATION」はOLEDICKFOGGYの遊び心が炸裂していると思うのですが、毎回そういう遊びはありますよね。今作で言えばMetallicaばりのメタルもやっていたり。

伊藤 そうですね。スージーがいろんな音楽を聴くし、吸収率が高いんですよ。けっこうアンテナを張ってるんですよね。

──アルバムの曲がライブでどう変化するかも楽しみですね。

伊藤 今回の曲はライブでの再現はかなりしんどそうですね。唄うキーも高いので、今までみたいに酒を飲んで遊ぶことはできないですね。

──今はライブ前にお酒を飲まないのですか?

伊藤 ドキュメンタリー映画のシーンでは飲んでましたけど、今は飲まないようにしてます。ずっと飲んでライブしていたんですけど、飲まないでやってみたら調子がよかったんですよ。「だからほかのバンドはみんな飲まないんだ!」って(笑)。

自称弟子

──西村さんの小説「無銭横町」に寄せられた伊藤さんの解説を読みましたが、まるで公開ラブレターみたいでした。

西村 ありがたいですよね。あんなにうれしい解説は今までなかったですよ。句読点の打ち方だけおかしかったですけど(笑)。

伊藤雄和

伊藤 解説を書くことになっていろんな人の解説を読んだんですよ。まず解説って何かわからないじゃないですか。感想なのか紹介なのか。それに古い小説の解説を読んでもよくわからないことばかり書いてあるので自分には無理だと思って、芸能人とかが書いているような解説を参考にしました(笑)。

西村 でも起承転結がしっかりしていて、ただ者じゃないなって思いましたよ。何がうれしかったかって、解説に原稿はそこまで枚数が必要なわけじゃなくて、大体8枚くらいでいいのに、伊藤さんは14枚書いてくださったんですよ。14枚の原稿を書く大変さを僕は知っているので。

伊藤 先生が使っている原稿用紙と同じものを銀座に買いに行って。それに書いたんですよ。

──すごくいい話ですね。伊藤さんは西村さんにいただいた映画のコメントを読んだときはどう感じました?

伊藤 うれしかったですよ。すぐにマネージャーに電話して、生原稿がどこにあるか聞きましたから。でもよくよく考えたらFAXで送ってもらっているから生原稿は先生の家にあるんだなって(笑)。でも後日、その生原稿もいただきまして。

西村 僕も「いなくなったのは僕の方だったんだ」の歌詞を伊藤さんが最初に書いた自筆ノートのページをいただいたんですよ。飾ってはいないですけど、大事にしてます。

──お二人はとてもいい関係性なんですね。今、伊藤さんにとって西村さんはどのような存在ですか?

伊藤 尊敬する人ですよ。仲良くなっても、ファンだということが最初にありますからね。尊敬しています。その気持ちは一緒です。あとは師匠ですね。解説でも書きましたけど、自称弟子と言ってますから。

50年生きてきて初めてライブハウスへ

──西村さんはOLEDICKFOGGYのライブから何を感じますか?

西村 最初にライブを観たのは地方だったんですよ。たまたま近場に行く用事があってライブを観に寄ったんですけど、50年生きてきて初めてライブハウスに行きました。もちろん、だいたいの雰囲気は予想していたんですけど、やっぱり客層が怖いし凶暴。だけどまっすぐな人が多いような印象を受けました。

伊藤 そのときも連絡をもらっていなかったので、ホテルからライブハウスに行くときに「あ、先生いる!」って思って(笑)。

西村 楽屋訪問とかが苦手なので黙って行って黙って帰りたいんです。でもなぜかことごとく見つかる(笑)。

──あははは(笑)。西村さんもOLEDICKFOGGYから新しい世界を教えてもらっているんですね。

左から伊藤雄和、西村賢太。

西村 あれから何回も行ってるんだから、本来嫌いじゃなかったんでしょうね。決して好きでもないですけど(笑)。今のところ拒否反応は出ていないです。ただ、モッシュやダイブはともかく、飲み物をかけてくるバカがいたり、群れの真ん中でタバコを吸うようなヤツがいて「そういうところで自己主張せずに、自分を生かせるところで自己主張しなさいよ」って思いました。さすがに当人には言えないけど、この場を借りて。それがOLEDICKFOGGYのライブだと言われたら、それまでですけど(笑)。しかし、まあいろいろとカルチャーショックでしたね。

──「Gerato TOUR 2018」のファイナルとして10月28日には東京・日比谷野外大音楽堂でのワンマンも発表されました。

西村 それは、すごい。大したもんだ。

伊藤 いろいろめぐりめぐって、やらさせていただくことになりました。

西村 素晴らしいですね。

伊藤 天気だけが心配ですね。ちょうど1年前の同じ日にTHA BLUE HERBが大雨の野音をやっているので。それに3000人とか入る場所なので不安もあります。楽しみですけど。

西村 いやあ、何をおいても3000人のうちの1人になりますよ。楽しみにしています。

OLEDICKFOGGY「Gerato」
2018年3月7日発売 / DIWPHALANX
OLEDICKFOGGY「Gerato」

[CD]
3240円 / PX333

Amazon.co.jp

収録曲
  1. Gerato
  2. 昔日
  3. さよならが言えなくて
  4. KUNG FU VACATION
  5. mud puppets me
  6. アステマ
  7. 矛盾 / 葛藤 / 憎悪 / 滑稽
  8. don't touch me
  9. 汚れた詩情
  10. flexible
  11. 薄荷煙草とギムレット
  12. ベターエンド
OLEDICKFOGGY「Gerato TOUR 2018」
  • 2018年3月18日(日)東京都 新宿LOFT(※ワンマンライブ)
  • 2018年3月23日(金)秋田県 秋田LIVE SPOT 2000
  • 2018年3月24日(土)岩手県 盛岡Club Change
  • 2018年3月25日(日)栃木県 HEAVEN'S ROCK Utsunomiya VJ-2
  • 2018年3月31日(土)岡山県 津山K2
  • 2018年4月1日(日)和歌山県 和歌山CLUB GATE
  • 2018年4月6日(金)青森県 Mag-Net
  • 2018年4月7日(土)福島県 Out Line(※ワンマンライブ)
  • 2018年4月8日(日)埼玉県 HEAVEN'S ROCK Kumagaya VJ-1
  • 2018年4月14日(土)徳島県 club GRINDHOUSE
  • 2018年4月15日(日)奈良県 奈良NEVER LAND
  • 2018年4月21日(土)高知県 CARAVAN SARY
  • 2018年4月22日(日)兵庫県 fab-space
  • 2018年4月27日(金)愛知県 豊橋 club KNOT
  • 2018年4月28日(土)静岡県 沼津POCO(※ワンマンライブ)
  • 2018年4月29日(日・祝)大阪府 CONPASS
  • 2018年5月3日(木・祝)東京都 下北沢BASEMENT BAR / 下北沢THREE
  • 2018年5月4日(金・祝)岐阜県 yanagase ants
  • 2018年5月5日(土・祝)三重県 MUSIC SPACE 鈴鹿ANSWER
  • 2018年5月11日(金)山口県 Organ's Melody
  • 2018年5月12日(土)島根県 アポロ
  • 2018年5月13日(日)鳥取県 MOON&SPOON
  • 2018年5月18日(金)滋賀県 B-FLAT
  • 2018年5月19日(土)兵庫県 MUSIC ZOO KOBE 太陽と虎(※ワンマンライブ)
  • 2018年5月20日(日)静岡県 FM STAGE
  • 2018年5月26日(土)群馬県 高崎clubFLEEZ(※ワンマンライブ)
  • 2018年5月27日(日)千葉県 千葉LOOK
  • 2018年6月2日(土)宮崎県 SR BOX
  • 2018年6月3日(日)鹿児島県 SR HALL
  • 2018年6月8日(金)福岡県 小倉FUSE
  • 2018年6月9日(土)福岡県 Queblick
  • 2018年6月10日(日)福岡県 久留米GEILS
  • 2018年6月16日(土)愛媛県 Double-u studio
  • 2018年6月17日(日)香川県 DIME
  • 2018年6月23日(土)京都府 KYOTO MUSE
  • 2018年6月24日(日)三重県 club chaos(※ワンマンライブ)
  • 2018年6月29日(金)山形県 LIVE ARB
  • 2018年6月30日(土)新潟県 GOLDEN PIGS BLACK STAGE(※ワンマンライブ)
  • 2018年7月1日(日)福島県 clubSONICiwaki
  • 2018年7月7日(土)福井県 HALL BEE
  • 2018年7月8日(日)長野県 the Venue
  • 2018年7月13日(金)熊本県 Django
  • 2018年7月14日(土)佐賀県 SAGA GEILS
  • 2018年7月15日(日)長崎県 Studio Do!
  • 2018年7月16日(月・祝)大分県 club SPOT
  • 2018年7月20日(金)神奈川県 F.A.D YOKOHAMA
  • 2018年7月21日(土)宮城県 enn 2nd
  • 2018年7月22日(日)茨城県 mito LIGHT HOUSE
  • 2018年8月4日(土)三重県 M'AXA
  • 2018年8月5日(日)島根県 松江B1
  • 2018年8月6日(月)広島県 TO FUTURE
  • 2018年8月10日(金)岩手県 KLUB COUNTER ACTION MIYAKO
  • 2018年8月11日(土・祝)岩手県 KESEN ROCK FREAKS
  • 2018年8月12日(日)宮城県 石巻BLUE RESISTANCE
  • 2018年8月18日(土)愛媛県 niihama Jeandore
  • 2018年8月19日(日)岡山県 PEPPERLAND
  • 2018年8月24日(金)京都府 STUDIO FARM
  • 2018年8月25日(土)静岡県 Shizuoka UMBER
  • 2018年8月26日(日)静岡県 G-SIDE
  • 2018年9月1日(土)愛知県 名古屋CLUB QUATTRO(※ワンマンライブ)
  • 2018年9月8日(土)福岡県 Queblick(※ワンマンライブ)
  • 2018年9月9日(日)広島県 福山 Music Factory
  • 2018年9月14日(金)福島県 Karan堂
  • 2018年9月15日(土)新潟県 小千谷市山本山高原山頂広場
  • 2018年9月16日(日)富山県 MAIRO
  • 2018年9月17日(月・祝)石川県 vanvanV4
  • 2018年9月21日(金)北海道 livehouse mosquito
  • 2018年9月22日(土)北海道 帯広Rest
  • 2018年9月23日(日・祝)北海道 北見夕焼けまつり
  • 2018年9月24日(月・振休)北海道 KLUB COUNTER ACTION
  • 2018年9月29日(土)大阪府 梅田CLUB QUATTRO(※ワンマンライブ)
  • 2018年10月5日(金)沖縄県 Output
  • 2018年10月6日(土)沖縄県 宮古島YUM YUM
  • 2018年10月12日(金)山梨県 KAZOO HALL
  • 2018年10月13日(土)福島県 LIVE STAGE PEAK ACTION
  • 2018年10月14日(日)栃木県 CLUB South BBC
  • 2018年10月20日(土)山形県 酒田hope
  • 2018年10月21日(日)宮城県 仙台MACANA(※ワンマンライブ)
  • 2018年10月28日(日)東京都 日比谷野外大音楽堂 (※ワンマンライブ)
OLEDICKFOGGY(オールディックフォギー)
OLEDICKFOGGY
伊藤雄和(Vo, Mandolin)、スージー(G, Cho)、TAKE(B)、四條未来(Banjo)、yossuxi(Key, Accordion)、大川順堂(Dr, Cho)からなるラスティック・ロックバンド。エモーショナルでポリティカルな日本語詞と1960年代後半~70年代前半の日本のフォーク、ニューミュージック的な温かいメロディー、そして時にはハードコア・パンクな側面を見せる独特なサウンドが特徴。2003年に結成されて以来、さまざまなジャンルのバンドと競演を重ね、年間平均100本のライブで知名度を上げてきた。2012年「京都大作戦2012 ~短冊に こめた願いを 叶いな祭~」に出演後、活躍の場を広げ、2014年には映画「クローズEXPLODE」の挿入歌として代表曲「月になんて」が使用された。2016年3月に5th新作アルバム「グッド・バイ」をリリース。全国縦断63会場ツアーを敢行し、ツアーファイナルの東京・渋谷TSUTAYA O-EASTワンマンを大成功に終わらせる。2016年8月には川口潤監督によるドキュメンタリー映画「オールディックフォギー / 歯車にまどわされて」が劇場公開された。2017年3月にベストアルバム「オールディックフォギー名作撰 破戒篇」「オールディックフォギー名作撰 絶海篇」を2作同時リリース。2018年3月に6枚目のフルアルバム「Gerato」を発売し、レコ発ツアーのファイナルとして10月に東京・日比谷野外大音楽堂でワンマンライブを行う。
西村賢太(ニシムラケンタ)
西村賢太
1967年7月12日生まれの作家。私小説の書き手として知られる。2007年「暗渠の宿」で第29回野間文芸新人賞を、2011年「苦役列車」で第144回芥川龍之介賞を受賞。最新作は2018年1月発売の「夜更けの川に落葉は流れて」で、同書にはOLEDICKFOGGYの伊藤雄和が帯コメントを寄せている。