奥田民生|“いい感じ”を詰め込んだ「サボテンミュージアム」

本質的な部分は誰にも真似できない井上陽水

──7曲目「白から黒」のMVでは、影絵にも挑戦されていて。

実はあのビデオを一発目に撮ったんですけど、一番面倒臭かった(笑)。そもそも影絵なんてやったことなかったし。どうやって照らせばいいか、ネットで調べるところから始めて。

──この曲はおそらく、童謡の「やぎさんゆうびん」が下敷きとしてあって。基本は言葉遊びなんだけど、それがまったりとしたメロディと一体になるとだんだん意味深な寓話に思えてくるという、まさに奥田民生ならではの世界だと感じました。どこからアイデアが降りてきたんですか?

どこからなんですかねえ……これもやっぱり曲が先にあって。しろやぎさん、くろやぎさんが出てこなくても、別に全然よかったんですけれど。でもまあ、僕が「やぎさん」って言いたかったんでしょうね。その響きが、たまたまメロディラインにうまくハマったんじゃないかなと。

──ある言葉がメロディ、リズムと噛み合ってどんどん広がっていくところは、ちょっと井上陽水さんの楽曲を思い出しました。

それはやっぱり、影響を受けてるんじゃないかな。一応アルバム2枚、一緒に作らせていただいてますから。もちろん、本質的な部分は誰にも真似できないと思う。でも例えば、ここにコップがあるとするでしょう。陽水さんの詞って、そういうなんでもない言葉を取っかかりに、果てしなく想像力が広がっていくところがある。そんなふうに詞を書いてもいいんだという驚きは、僕にとってすごく刺激的だったし、勉強にもなりました。自分では意識していないところで、そういう感覚はずっと混ざっているとは思います。

──ちなみに一応伺いますが、「サボテンミュージアム」というタイトルにはどういう思いを込めたんですか?

奥田民生

えーと……サボテンが好きなので、いつかミュージアムを作りたいなと。

──民生さん、サボテン好きなんですか?

はははは(笑)。ウソです! 全然好きじゃないです。

──5曲目に入っている「ミュージアム」と、8曲目の「歩くサボテン」という2つのナンバーを組み合わせたタイトルだとか?

その通りです。なんとなく「○○ミュージアム」ってタイトルがいいような気がしていて。でも「サケミュージアム」はなさそうだし、じゃあサボテンかと。2個目くらいですんなり決まりました(笑)。これが「MTRY」とかになると、必然的にジャケットもメンバー4人がそろった写真がほしいとか、そういう話になりがちでしょう。そうなるとまた、全員のスケジュールを確保しなきゃいけないとか、衣装がどうだとか……。

──ヤヤコシイことになると。

そう、ヤヤコシイことになる(笑)。サボテンだったら、アートワークもいい感じのイラストを描いてもらえばオーケーですしね。

──とは言え「ミュージアム」と「歩くサボテン」って、アルバム全体の中で響き合う2曲のようにも思えました。「初心を忘れちゃダメだぞう♪」と歌い出される前者と、「通行人になってみよう たまには歩いたりしないと♪」と始まる後者。どちらも、五十代に入って年相応にくたびれてはきたけれど、まだまだ行くぞ!っていう気持ちが伝わってくる気がして……。

なるほどね。アルバムタイトルがこうだから、そこに別の意味が生じることは、あるかもしんないですよね。ただ、個人的には全然考えてなかったです(笑)。でもまあ今回、全体としてそんな雰囲気はあるかもしれない。だって演ってる人間が全員オッサンだというのは間違いないし。あまりことさらに「歳取った」「くたびれた」と言い募るのもなんですけど、でも実際に歳を取ってるんだから、曲とか詞からそれが滲むのは自然だと思うし……と同時に、1つひとつの歌詞が、ぜんぶ自分の思っていることとイコールってわけでもないしね。

──はい。

歌詞の言葉って、結局のところは作りものの部分が多いし。それだけ眺めてもあまり意味ない気がする。やっぱ演奏とかサウンドとの兼ね合いでどんなふうに響くかが大事じゃないかと思うんですよね。

満足度は間違いなく、今までのアルバムで一番高い

──アルバム全体としての達成感はいかがですか?

どうかなあ。これはいつも同じなんだけど、作ってる本人の達成感って、どのタイミングなのかって話なんですよ。例えば11曲分のレコーディングを終えたときなのか。それともマスタリングを終えて、もうこれ以上作業しなくてよくなったときなのか。イマイチわからないうちに進んでいって、気が付けば次の仕事が始まってる。僕にとってアルバムっつーのは、大体そういうもんなんですよね。もちろん2、3年経って、自分の中でふと腑に落ちたりすることはあるんだけど。作った直後はよくわからない(笑)。そこは今回も変わらないです。

──とは言えMTR&Yというバンドのレコーディングアルバムとして、よりライブに近い音を詰め込むという目標はかなり達成できたのでは?

うん、そうですね。僕の好きな音。自分1人で作ったアルバムともユニコーンとも違う、この4人でしか出せない好きな音。そういう意味での満足度は間違いなく、今までのアルバムで一番高いです。

──アルバム最後に収められた「ヘイ上位」という楽曲は、「どこにだって上には上がいる♪」という明るい諦観と「そこに行くから待っててよ♪」という前向きな気持ちが絶妙に混ざり合っていて、アルバムを象徴する1曲に思えました。民生さんご自身は五十代の目標とか、考えることはありますか?

うん、まあ、音楽的には今回みたいな感じで。シンプルな曲を楽しく演奏していければいいなと。で、そのためには健康に気を使わなきゃいけないなって。そういうことを、ぼんやり考えてるくらいですかね。

──なるほど。

今のところ特別な野望とかもないですし。次はどういうアルバムを作ろうとか、まだ何も考えてないので。そのときやりたいと感じたことを、その通りに素早くできるような……そういう環境をうまく作っていければいいなと。せっかくインディーズレーベルも立ち上げたことですし(笑)。それこそ7週連続MV公開じゃないですけど、ああいう気軽なことを今後はもっといろいろできたらいいなと。そういうことは思ってますね。

奥田民生
奥田民生「サボテンミュージアム」
2017年9月6日発売 / ラーメンカレーミュージックレコード
奥田民生「サボテンミュージアム」CD

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奥田民生「サボテンミュージアム」アナログ

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収録曲
  1. MTRY
  2. いどみたいぜ
  3. サケとブルース
  4. エンジン
  5. ミュージアム
  6. 俺のギター
  7. 白から黒
  8. 歩くサボテン
  9. ゼンブレンタルジャーニー
  10. 明日はどっちかな
  11. ヘイ上位
「奥田民生になりたいボーイに贈るプレイリスト」
2017年9月13日発売 / Ki/oon Music
「奥田民生になりたいボーイに贈るプレイリスト」

[CD]
2916円 / KSCL-2967

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収録曲
  1. 息子
  2. 愛のために
  3. 674
  4. ハネムーン
  5. 海へと
  6. 近未来
  7. スカイウォーカー
  8. ギブミークッキー
  9. チューイチューイトレイン
  10. 花になる
  11. マシマロ
  12. The STANDARD
  13. 御免ライダー
  14. 月を超えろ
  15. CUSTOM
MTRY TOUR 2018
  • 2018年4月14日(土)埼玉県 三郷市文化会館 大ホール
  • 2018年4月19日(木)千葉県 市川市文化会館 大ホール
  • 2018年4月21日(土)宮城県 東京エレクトロンホール宮城
  • 2018年4月22日(日)福島県 いわき芸術文化交流館アリオス 大ホール
  • 2018年4月28日(土)福岡県 福岡サンパレス
  • 2018年4月29日(日・祝)宮崎県 都城市総合文化ホールMJ 大ホール
  • 2018年5月11日(金)神奈川県 川崎市スポーツ・文化総合センター
  • 2018年5月12日(土)神奈川県 川崎市スポーツ・文化総合センター
  • 2018年5月19日(土)広島県 広島文化学園HBGホール
  • 2018年5月26日(土)兵庫県 神戸国際会館 こくさいホール
  • 2018年5月27日(日)岡山県 岡山市民会館
  • 2018年6月2日(土)北海道 わくわくホリデーホール
  • 2018年6月8日(金)東京都 中野サンプラザホール
  • 2018年6月9日(土)東京都 中野サンプラザホール
  • 2018年6月12日(火)大阪府 フェスティバルホール
  • 2018年6月16日(土)滋賀県 滋賀県立文化産業交流会館 イベントホール
  • 2018年6月17日(日)愛知県 日本特殊陶業市民会館 フォレストホール
  • 2018年6月23日(土)長野県 長野市芸術館 メインホール
  • 2018年6月24日(日)石川県 本多の森ホール
  • 2018年6月30日(土)沖縄県 ミュージックタウン音市場
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奥田民生(オクダタミオ)
奥田民生
1965年広島生まれ。1987年にユニコーンでメジャーデビューする。1994年にシングル「愛のために」でソロ活動を本格的にスタートさせ、「イージュー★ライダー」「さすらい」などヒットを飛ばす。また井上陽水とコラボ作品を発表したり、PUFFYや木村カエラのプロデュースを手がけたりと幅広く活躍。弾き語りスタイルによるライブ「ひとり股旅」や、レコーディングライブ「ひとりカンタビレ」を行うなど活動形態も多岐にわたる。さらに世界的なミュージシャンであるスティーヴ・ジョーダンらが参加するThe Verbs、岸田繁(くるり)と伊藤大地と共に結成したサンフジンズのメンバーとしても活躍している。2015年に50歳を迎え、レーベル・ラーメンカレーミュージックレコード(RCMR)を立ち上げた。2017年9月に約4年ぶりとなるオリジナルフルアルバム「サボテンミュージアム」を発表。

2017年9月13日更新