Nulbarich|ニュースタンダードと向き合った2年ぶりのアルバム「NEW GRAVITY」完成

夢を叶えたDISC 2

──全体的にラッパーとのコラボが多くなったのは、JQさんのルーツや趣味趣向が反映されたところがあるんでしょうか。

JQ(Vo)

僕の趣味以外はないですね。BASIさんはメンバーともつながりがあったり、Nulbarichがデビューしたタイミングで韻シストにお世話になっていたこともあって、いつか一緒にやりたいと思っていました。あと、AKLOさんも10年くらい前からの知り合いなんですよ。AKLOさんが“AKLOと空”ってプロジェクトをやっていたときにクラブで知り合って、連絡先を交換したままになっていたんです。それで武道館ライブの頃に再会して、お互いのライブに行き来するようになって。BLさん(BACHLOGIC)はトラックメイカーとして憧れているし、AKLOさんと言えばBACHLOGICみたいなところがあるので、この組み合わせでナルバの曲をリミックスしてもらえたら......至福だなと思いましたね。よく考えたらVaundyだけはこのコラボを通じて仲良くなったアーティストなんですけど、ほかのアーティストの方々はそれ以前から聴いてたり、何かつながりのある人たちばかりなんですよね。自分の作品にDさん(Mummy-D)やAKLOさん、唾奇くんやBASIさんが参加してくれたことで、結果的に“僕の夢叶えましたディスク”みたいになりました(笑)。

──Mummy-Dさんとも親交があったんですね?

はい。僕はヘッズとして、RHYMESTERが出てた「DYNAMITE」ってイベントに遊びに行っていたんです。Dさんとはクラブのトイレでばったり会ったことがあって。そのとき興奮してたんで、用を足したあとのDさんに「握手してもらってもいいですか?」って声かけたら、「手だけ洗ってからでいいですか?」って言われて(笑)。僕がビクターに入ったときにご挨拶させてもらって、今はレーベルメイトなのでスタッフを通じてオファーさせていただきました。

──彼と新しく曲を作るとき、音楽的なイメージはありましたか?

Dさんはすごく真面目な方で、音楽に対して本当にストイック。そして、Dさんの書くリリックは僕の心にグサグサ刺さることが今まで何度もあったので、今回はどっちかって言うとパーティ系じゃなく、がっつりDさんの人生観が表れるような曲にしたいと伝えていました。

──なるほど。

Mummy-Dという人のストーリーがわかるような、リアルなリリックを僕自身聴いてみたいと思ったんです。そうしたらまっすぐに書いてきてくれて。ライミングの仕方にテクニカルなところもあるし、例えば1番と3番を同じ始まりにするところもカッコいい。世代が変わっても同じことをしてるというストーリー性があったり、「Be Alright」はすごくいい曲になりましたね。

──文学性を感じる楽曲ですが、この曲を作るにあたり何か影響を受けたものはありますか?

アメリカに行ってゴスペルミュージックに影響されることが多かったのかもしれないです。向こうのゴスペルを音に取り入れているラッパーの方ってリリックがすごくいいんですよね。今回この感じのトラックでいくならDさんにラップしてもらえたらいいなって思っていました。

制作環境を変えたことで生まれたもの

──DISC 1を聴いていても、ゴスペルからの影響は伺えます。そして音楽的に惹かれているだけでなく、歌詞にはJQさんの祈りや願いが込めれているような気がしていて、そういうところでも影響があったのかなと感じました。

もともとそういうものが好きなんですよね。日々祈っているわけではないんですけど、“祈り”という言葉を僕は美しい言葉として捉えています。賛美するとか、祈るとか、“pray”や“bless”って、とても繊細な言葉だから使い方には気を付けなきゃいけないんですけど、どれも美しい言葉だと思います。

──そうしたことを、今回は一層歌詞に反映させたい気持ちがあったのでしょうか?

でも、これまでもわりとそうだったんじゃないかな。ピースを祈っているところは根底にはあって、今回はそういう歌詞がより耳に入る位置に並んできたところがあるかもしれないです。今回は流れの中で自然とフックアップしてもらえる言葉を意識していましたし、多分リリックにフォーカスを当てた作品になっていますね。

──なぜそうした作風になったんだと思いますか?

作り方がめちゃめちゃ変わったというのがありますね。これまではサウンドがある程度できあがってから歌詞とメロを固めていったんですけど、今回は弾き語りの状態でメロと歌詞を固めていて、後からアレンジをしていく形になりました。

──まさに制作環境を変えたことで生まれた変化ですね。

今までは好きなタイミングでスタジオに行って、そこで爆音で鳴らしているトラックを聴きながら歌詞を書いていたのが、今回は基本的にベッドルームでヘッドフォンをしながら書いていって。スタジオが取れたらその日にレコーディングして、そのデータを持ち帰ってアレンジするような流れで作っていました。でも、僕は今回が一番音楽的に作れていると思っているので、今はこの作り方を変えたくないと思っています。曲の中に歌詞が存在している以上、歌詞が届くようにしないといけない。そう思うと今までわりと余計なものもたくさんあったなって気付きました。

──言葉だけではなく、サウンドから受ける印象も大きく変わりました。「2ND GALAXY」(2019年11月発表のミニアルバム)までは作品をリリースするたびにライブの規模が大きくなっていましたし、それに合わせて楽曲のスケールが増していったように思いますが、今作はサウンドがすごくナチュラルで、より日常の中で鳴っているようなニュアンスを感じました。

そういう生活の中で作ったから自然とそうなったという感じですね。でも、確かに今回はスタジアムでのライブを想定していないんですよね。それよりももっと自分に向き合った曲になっているのかなと思います。

──コロナ禍によって自分自身と向き合う時間が増えていったところも関係してそうですね。

だと思います。

──「TOKYO」にも、JQさんの内省的なところが表れているように思います。

「TOKYO」はもともとあった曲をリアレンジして作ったんですけど、サウンドは今の世の中をイメージしながら作りました。もともとはバンド結成以前に当時の自分が自分に向けて書いた曲で、この心境って目標を掲げて戦っている人にも当てはまると思いますし、それがすごく今の世の中っぽいというか。(コロナ禍によって)手をつなぐ人もいないし、自分自身LAに移住したことで感じる孤独もあって、今の環境ではどうしても自問自答を繰り返すことってあると思うんですよね。そこでの向き合い方をトリートメントしてくれていたのが、「TOKYO」という曲でした。

──最後の「In My Hand」にも、JQさんの気持ちがストレートに表現されていますね。

この曲もすごく前からあった曲でした。それこそ、ナルバを組む前くらいからあったのかな。「In My Hand」のリリックって、すごくまっすぐというか、今はなかなかこういうことは言えないんですよね。でも、どこか今の自分にも響くところがあって、そのパワーを信じてこの曲でアルバムを締めくくろうと思いました。ただ、この曲を引っ張り出した理由も、僕がLAに行ったタイミングというのが大きいと思いますし、コロナ禍も影響していると思います。つまり昔書いた曲がこういう状況の自分に響くということは、僕はずっとこんな感じなんですよね。

──なるほど。

「耐えぬ憎しみや悲しみを / 喜びや幸せが chasing」って歌っていて、つまり憎しみや悲しみの多い世界で、それを喜びや幸せが追いかけているってことを書いているんですけど。それが今も僕の心に響いているということは、僕はずっと変わってないなんだなと思います。

──「You don't have to understand everything / Let's sing together and feel something / and go everywhere with love for peace / We don't live and die for nothing」というラスト4行には、特にJQさんの人生観が表れている気がします。

ふわっとしているほうがいいし、答えが見えないほうがいいと僕は思っています。だからその歌詞も雰囲気というか、“全部わかる必要はないんだよ。一緒に歌ってさ、なんか感じてればよくね?”っていうリリックというか。そういうもののほうが僕にはしっくりくるんですよね。そういうワードが僕には一生響き続けているし、それが僕の人生観になってきています。