Nulbarich|5つのキーワードから紐解く“正体不明のバンド”

Keyword 4 ライブ

謎だらけの音楽集団・Nulbarichだが、彼らの素顔とその奥にある本質により迫ることができるのが、ライブの現場だ。今年の2月に東京・WWWで行われた初のワンマンライブ、そして東京・UNITで行われたその追加公演のチケットは瞬時にソールドアウト。11月から12月にかけて行われた初のワンマンツアー、そして2018年3月に東京・新木場STUDIO COASTで2日間にわたって行われるワンマンライブのチケットも売り切れという事実が、彼らの人気を証明している。そして面白いことに、Nulbarichのライブはステージに登場するメンバーの人数が常に不確定。根本のスタンスとして“顔を出さない”のみならず“メンバーを固定しない”Nulbarichには、既存のバンドミュージックの固定観念は通用しないということだ。

もっとバンドというものの在り方に自由があってもいいと思う

──バンドであることを重要視しながら、ステージの大きさや状況に応じてメンバー編成を変えるNulbarichのライブスタイルはかなり特殊だと思うんですけど、このスタイルはどのようにして確立されたのでしょうか?

うーん……この1年ぐらい、ずっと「メンバーが毎回入れ替わるし、そもそもメンバーを公表しないってどういうこと?」って聞かれ続けてきたんですけど、正直最初はその質問の意味がわからなかったんですよ。

──え、どうしてですか?

そりゃあ6人で演奏するときもあれば、4人のときもあれば、2人のときだってありますけど、僕らは「そのすべてがNulbarichなんです」と言いたいだけであって。僕らは「これがバンドだ!」って言い切っているんだから、それでいいじゃんって思うんですよね。「あくまでJQのソロということで、ほかはサポートメンバーという名義でやればいいじゃん」ともよく言われるんですけど、その発想自体僕にはよくわからない。「バンドを組みたい」って言っているヤツに「ソロでやればいいじゃん」って……それって、カフェに来たお客さんに店員さんが「家で入れるコーヒーじゃダメなの?」って聞いているのと同じだと思う。「いや、お店のコーヒーが飲みたくて来ているんですけど!」みたいな(笑)。

JQ(Vo) ©Keisuke Kato / Red Bull Content Pool

──ははははは(笑)。

1回僕らのリハに来てもらえればわかると思うんですけど、Nulbarichは超バンドですよ。リハを見たら「ソロじゃダメなんですか?」なんて言われないと思う。まあ……このスタイルでバンドを名乗る人たちが今まであまりいなかったんでしょうね。だから解釈がゴチャ付くのもわかるんですけど、もっとバンドというものの在り方に自由があってもいいと思う。

──3、4人のメンバーがビシッとアーティスト写真に映っていて、どこかストイックな関係性がある……そういうものこそ、バンドであるっていう固定観念は強いですよね。

でも、1つの企業の中に「休みなんていらない」って言う人もいれば、「土日は絶対休みたい」って言う人もいるのと同じように、複数の人間が集まればいろんな人がいて当然じゃないですか。実際、僕らのメンバーの中には「写真に映りたくない」とか「曲作りとライブ以外はしたくない」っていう奴がいるんです。でも、全員が同じモチベーションである必要なんてまったくないし、大事なのはみんなが楽しくそこにいる、ということで。なので、全員が楽しくいるために邪魔なものを省きながらバンドのシステムを構築していったら、この形になったっていうだけです。

──あくまでもNulbarichがバンドとしてもっとも幸福である形がこれだと。

そう。確かに、僕だけがプロモーション活動していて僕以外の存在は明かされないっていうのは不思議だとは思うし、これを見て「大人の力が働いているんだろうな」って思う人もいるかもしれないけど、Nulbarichのメンバーは面白いぐらい全員がこの形を望んで、ここにいます。もちろん表に出てこないぶん、メンバーにライブで掛かるリスクは大きくなるし、ライブという自分が選んだ場所でミスればダメージを受けると思う。でもそれも楽しい人生だと思います。

Keyword 5 「Long Long Time Ago」

Nulbarich「Long Long Time Ago」ジャケット

ここまで書いてきたように、Nulbarichはこの1年間を破竹の勢いで進んできたバンドである。今年の9月には、Jamiroquaiの来日公演のサポートアクトとして東京・日本武道館でのライブも経験した。そんな勢いの中でリリースされるのが、新作CD「Long Long Time Ago」だ。これまでceroやSuchmosなどと並んで国内のアーバンソウル再興の動きとリンクして語られることもあったNulbarichだが、リードトラックの「In Your Pocket」や「Spellbound」「Onliest」といった収録曲で響かせるサウンドは、国内シーン云々と言うよりはむしろ、よりエレクトリックなR&Bやヒップホップが主体となっている昨今の海外のポップシーンとの共振を感じさせる。そして「Who We Are」や「Guess Who?」と比べても、さらに衝動的に、さらにエモーショナルに進化した音を響かせる本作は、Nulbarichというバンドが音楽シーンにおいて早くも大きな存在感を発揮し始めていることを示すエポックメイクな1枚と言えるだろう。

初めてだらけの経験で生まれる感情を作品に閉じ込めておきたかった

──JQさんご自身にとって、新作CD「Long Long Time Ago」はどんな作品になったと思いますか?

Nulbarich「Who We Are」ジャケット

作品って、僕にとっては感情のメモ書きみたいな部分があって。例えば「Guess Who?」には「準備万端だぜ、こっちは!」というようなフレッシュさや期待感が刻まれているし、「Who We Are」には初めてのワンマンを控えたワクワク感が詰まっている。そうやって、言葉に表せないその刹那を詰め込んだものが作品として存在している感覚があるんです。そういった意味では、これまでの作品は「楽に行こうぜ!」っていう前向きなスタンスを前面に押し出してきた感覚があるんですけど、今回の作品はこれまでのようにひと言で「楽」と言い切れるものではなくて。あくまで酸いも甘いも、喜怒哀楽の全部も通り越したうえでのハッピーが詰まった作品になったと思います。

──Nulbarichにとって今年は激動の1年だったと思うんですけど、その経験はやはり今作に強く反映されていますか?

本当に、去年から今年にかけて経験していることって、僕にとっては初めてだらけのことで。初めてのワンマン、初めてのフェス、Jamiroquaiの前座の武道館、初めてのワンマンツアー……このすべてを経験したとき、どういうふうに自分の感情がまとまってくるのかわからなかったし、挑む準備もできないままとりあえず飛び込むしかなくて。「立たされたバッターボックス、フルスイングで振る意外に方法はないでしょう!」っていう感覚だったんです。だからこそ今年の初めに年間スケジュールを決めるとき、「暮れのタイミングで1枚作品を出したい」って言ったんですよね。この1年間に経験することやそこで生まれる感情を作品に閉じ込めておきたかったから。

──サウンド面もこれまでの印象とは変わりましたよね。特にリード曲「In Your Pocket」は、昨今の海外のメインストリームポップに通じるリフのループを主体とした1曲ですけど、これまでになくボトムが太いし、その音からは衝動とエグ味すら感じます。

そうですね。あからさまな明るさはなく、影のある質感になったなって自分でも思います。でもまあ今年の経験を考えれば、それも当たり前だよなって思う。本当にいろんな感情が湧き上がった1年間だったから。聴く人にとっても冷たく聞こえたり、エモく聞こえたり、救われるような曲に聞こえるかもしれない……そのぐらい、心の整理が付いていないゴチャ付いている状態だからこそのよさがある作品だと思いますね。もちろん「楽に行こうぜ!」っていうスタンスは変わっていないですけど、今年の俺らがそれを言うことの重さ、その後ろに抱えている不安、背負っている何か……本当にいろんなものがこの作品には入り込んでいる。もちろん聴く人にはライトに聴いてほしいので、あんまり「熱、こもってます」みたいなことを言いたくないんですけど。

──Nulbarichが持っているポップさは本作でも健在なので、その点は安心していいんじゃないかと思います。今作はNulbarichが日本のポップシーンのど真ん中を突き刺すだけ絵でなく、その先を見据えていることを示す1枚だと僕は思いました。

だとしたら「成長した」って言っていいのかな。

──この先のNulbarichはどうなっていきそうですか?

今年の経験を経て、さらに来年も未体験ゾーンは続くと思うんです。僕はRPGのようにレベルが上がった自分を喜んだり、技を覚えるようにドンドンと自分が成長していくのを感じながら生きていくことが好きなので、「次も楽しみだね」って言えるようにがんばりたいですね。

Nulbarich「Long Long Time Ago」
2017年12月6日発売 / RAINBOW ENTERTAINMENT
Nulbarich「Long Long Time Ago」

[CD]
1296円 / NCS-10174

Amazon.co.jp

収録曲
  1. In Your Pocket
  2. Spellbound
  3. Onliest
  4. NEW ERA(88 REMIX)
Nulbarich ONE MAN TOUR 2018 "ain't on the map yet" Supported by Corona Extra
  • 2018年3月14日(水)大阪府 なんばHatch
  • 2018年3月16日(金)東京都 新木場STUDIO COAST ※チケット完売
  • 2018年3月17日(土)東京都 新木場STUDIO COAST ※チケット完売
  • 2018年3月28日(水)宮城県 Rensa
  • 2018年4月6日(金)広島県 広島CLUB QUATTRO
  • 2018年4月7日(土)福岡県 イムズホール
  • 2018年4月13日(金)愛知県 DIAMOND HALL

新木場STUDIO COAST公演以外のチケットは2018年1月27日10:00に各プレイガイドで販売開始

Nulbarich(ナルバリッチ)
Nulbarich
シンガーソングライターのJQを中心に結成されたバンド。ソウル、ファンク、アシッドジャズなどをベースにした音楽性が特徴で、メンバーは固定されず、そのときどきに応じてさまざまな演奏形態に変化する。2016年6月にタワーレコードおよびライブ会場限定の1stシングル「Hometown」、10月には1stフルアルバム「Guess Who?」をリリース。その後は積極的なライブ活動を行いながら、2017年5月に4曲入りCD「Who We Are」を発表し、11月に自身初のワンマンツアーをスタートさせた。12月に新作CD「Long Long Time Ago」を発売した。