青春という言葉になぜこんなにも惹かれるのか
──3年前に=LOVEが1stアルバムをリリースした際にもインタビューさせていただきましたが(参照:=LOVE「全部、内緒。」特集)、今回は≠MEについてたっぷりとお話を伺えればと思います。≠MEは5年前の2019年2月、=LOVEに続く指原さんプロデュースによる第2のグループとしてお披露目されました(参照:=LOVEに姉妹グループ「≠ME」誕生、指原莉乃「今までとは違う自分を経験して」)。今では第3のグループの≒JOYがメジャーデビューするまでに至っていますが、当初から第2、第3のグループを作ることを構想していたんでしょうか。
最初は=LOVEのプロデュースだけで必死だったのもあり、「じゃあ次」と具体的には全然考えられてなかったです。でも、結果としてよかったなと思っています。第2、第3のグループを作って。コンサートを観たときに感じる感動が本当にグループによって全然違うんですよ。各グループにどういった違いがあるのか、具体的なイメージの違いはなんなのか、ということを取材などでよく聞かれるんですけど、実は自分の中では何か明確に違いを作っているわけじゃなくて。プロデューサーの私が「このグループはこうで、こっちのグループはこうしよう」と意識しているわけじゃないのに、泣けるポイントや感動するポイントが違うのは素晴らしいことだなと思います。
──具体的に、どのように“泣けるポイント”が違うのでしょうか?
まず、=LOVEのコンサートは華やかさと表現の説得力で泣けるんです。「アイドルってこうだよな」と思わせてくれるというか。それに対して≒JOYは歌が本当に上手で、歌を聴いて泣けるグループ。そんな中、≠MEは「≠ME 5周年コンサート『≠ME 5th ANNIVERSARY PREMIUM CONCERT』」を観たときに、初めての感覚を覚えました。パフォーマンスに圧倒されて泣いたんですよね。あの規模のアイドルのコンサートで序盤の5曲にクールな楽曲を詰め込むのは珍しいことだと思うんですけど、それでもお客さんが沸いていて、圧倒されているのはすごいなと。
──それは5年前には想像できなったことですよね。結成時、メンバーに対してどんな印象を持っていました?
(冨田)菜々風という個性的なボーカルのメンバーに加え、さらに(櫻井)もも、(蟹沢)萌子、(川中子)奈月心と、最初から歌が目立つうまい子が多かったんです。そのメインボーカルとも言えるメンバーたちがみんな切ない歌声の持ち主だったので、その切なさと青春、アイドルのキラキラを掛け合わせていく中で今の≠MEができあがったと思います。
──「君の中の青春」という意味の「Springtime In You」がアルバムのタイトルになっていますが、=LOVE、≠ME、≒JOYの中でも≠MEは“青春”がクリエイティブ面のキーワードになっているように感じます。
自分の青春がいつからいつまでだったかと言われると、そんな長くなかったと思うんですよね。学校生活が楽しかったと言える人ってどのくらいいるんでしょうか。きっと多くはないと思うんです。誰しもが学校生活の中で青春を感じていたわけではなくて、≠MEの曲のような青春を過ごした人って実はほとんどいないと思います。それなのに青春という言葉になぜこんなにも人は惹かれるのか、というのがある種のテーマなんですよね。私は青春に対する憧れが強すぎて、それを引きずってる部分もあるかもしれない。そんな私も含め、≠MEの曲を聴いて青春の景色を想像できるのは、やっぱりメンバーの声、ビジュアル、全部含めてのイメージだと思うんです。もちろん=LOVEや≒JOYからも青春を感じるんですけど、≠MEの曲は、実際に同じような青春を経験してないのに「こんなことがあった気がする」と思える。私の中で、≠MEは青春と結ばれている感じがします。
──なるほど。確かに男子校出身の僕も、≠MEの楽曲を聴いていると共学に通っていた架空の記憶が思い返される感覚があります。
みんなの“あるある妄想アイドルグループ”みたいですよね(笑)。実際に経験はしてないけど、“あるある”だと感じる青春を表現している。そんな中、=LOVEの1stアルバム「全部、内緒。」は自分たちだけが知っている“秘め事”のようなアルバムにしたかったのに対し、≠MEは“みんなの中の青春”をアルバムにしようと考えました。アルバムに統一感のあるテーマを作るなら、やっぱり≠MEの場合は皆さんがイメージするような青春というキーワードがドカンと前に来るのかなと。
メンバーみんな本当に根性がある
──≠MEは青春ソングの切ない表現が似合う一方で、5周年コンサートの序盤でダンスナンバーを怒涛の勢いで畳みかけたように、ガールクラッシュ感のあるクールかつ力強いパフォーマンスも得意としていますよね。
≠MEはみんな明るい子たちなんです。そのうえ、本当に根性があるんですよ。プロデューサーとグループの関係って難しくて、メンバーを知れば知るほど、メンバーを好きになれば好きになるほど、「この曲は練習がしんどいだろうからやめとこうかな」「練習する時間がないからダンスはクオリティを落として制作しようか」というふうにどうしても考えたくなる。無理をさせてメンバーを悩ませるのも嫌だし、その時々のメンバーが表現できる最高のクオリティの曲をこっちで考えて提供する、という考え方になりがちなんですね。でも、≠MEは「もっと難易度が上の楽曲をください!」「もっとできます!」という圧がすごいんです。別に直接言われるわけじゃないけど、コンサートやリハーサルなど、すべての態度を通して感じるんですよね。もっと違うものを見せたいし、もっと踊りたいという気持ちを。だからこっちも遠慮せずに「もっと難しくしよう」と思えるんです。それが≠MEの強みだと思います。
──前に=LOVEのインタビューで≠MEの印象を聞いたとき、「部活感を感じる」という答えが返ってきました。
=LOVEのメンバーも≠MEを見て、自分が経験してこなかった青春を感じてるのかもしれないですね。運動部の部活ってあんな感じなのかなって。
──インタビュー時の雰囲気も、=LOVE、≠ME、≒JOYの3組でかなり違う印象があります。
≠MEはガツガツしてますよね(笑)。=LOVEのほうがLINEなどでのメンバー個人とのやりとりは多くて、「指原さん、今度こうしたいです」みたいに伝えてくるんですけど、≠MEはメンバーが束になり、グループとして「これやりたい、あれやりたい」と言ってくるイメージです。「海外に行きたいです」「コンサートでトロッコに乗ってこんな演出をやりたいです」とか。
──それこそ、≠MEはかねてより東京ドームという夢を明言していますよね。
大きな夢を口にするのって怖さもあるじゃないですか。でも、みんな一緒だったら怖くないと≠MEのメンバーは思ってるんじゃないかな。1人ではその夢を口に出せないけど、メンバーと一緒ならはっきりと言える。そして、ファンの皆さんを東京ドームに連れていきたいという気持ちが強いんだと思います。
物語を片思いで終わらせたい
──ここからは1stアルバム「Springtime In You」の新曲についてお聞きします。まずは、5周年コンサートで初披露されたリード曲「ラストチャンス、ラストダンス」について。
この曲はまあまあ長い期間、私の手元にあったんですよ。「この曲、いつリリースしようかな」と考えていて。普段はあまりそういうことはしないんですけどね。これって決めたらポンポン出していっちゃうタイプなんで。「ラストチャンス、ラストダンス」は「アンチコンフィチュール」(2023年12月発表の8thシングル)のときに表題曲にしようかなと考えていたんですけど、自分の中でいろいろ考えた結果、「今、青春の歌を表題曲にするのは違うな」と思ったんです。「このいい曲をどのタイミングでどのグループにあげたらいいんだ!」と思いながら手元に置いていました。
──どのグループの曲にしようかと悩むことはよくあるんですか?
そうですね。時期を問わず、集まった曲をいつも聴いているような状況で、どの曲に対してもわりとその悩みはあります。「ラストチャンス、ラストダンス」は、この大切な曲をどのタイミングで出そうかと慎重になってました。いい曲だからこそベストなタイミングで出したいと考えていた中、≠MEの1stアルバムは青春がテーマだし、リード曲にぴったりだなと。
──「ラストチャンス、ラストダンス」は春にふさわしいさわやかな曲調と、“僕”目線で描かれる切ない歌詞が特徴で、その相反する2つの要素が組み合わさって独特の情緒を生み出していますよね。
≠MEが今まで発表してきた楽曲につながるような気がするんですよね。例えば、「秘密インシデント」(2021年発表のメジャーデビューミニアルバム「超特急 ≠ME行き」リード曲)で描かれた2人があのあとでこういう関係になっちゃったのかもしれない。
──なるほど。「秘密インシデント」では、恋に落ちた瞬間の心情が描かれていました。
もちろん、聴いてくださる方それぞれに自由に解釈していただければと思うんですけど、「ラストチャンス、ラストダンス」では何かの恋が終わった感じを書きたかったんです。私、≠MEの曲の物語を片思いで終わらせたがる癖があるんですね(笑)。恋の終わりという意味も含め、「ラストチャンス、ラストダンス」はアルバムの最後に置きました。私のイメージだと、この曲の主人公はすっごくダサい人なんです。そのダサくて青臭いところが、≠MEの青春ソングっぽいなと思います。男性か女性かもわからないんですけど、ネチネチした人で(笑)、恋をした相手とはあまり仲よくなかったんじゃないかな。そこの解釈もファンの皆さんに委ねますが、たぶん、曲のヒロインはこの人のことをなんとも思ってなかった。それぐらいの恋をここまで壮大な歌にできるのも≠MEらしいですよね。