演者だけじゃない、観客もストーリーの一部
──ちなみに加藤さんは、もともとジャズがお好きだったのですか?
加藤 恥ずかしながら、今回のプロジェクトを通じてジャズを聴くようになったんです。これまではジャズの自由な演奏をうまく理解できず、「私にはハードルが高いかな」と思っていて。でも、このイベントを通じてジャズの演奏をたくさん聴いていくうちに、だんだんと魅力がわかるようになってきました。例えば、ミュージシャンたちがアドリブの応酬でその場を盛り上げていったり、それを聴いたお客さんたちが「イエーイ!」と歓声を送ったり。
──そういうジャズのインタラクティブな要素は、パブリックなスペースとの親和性が高いですよね。
加藤 そう思います。これまで私が聴いていた音楽は、あらかじめ決められた演奏やメロディに感動することが多かったのですが、ジャズはお客さんも含めてその場でストーリーを作っていくよさがあるんですよね。自分がそのストーリーの一部になるような、そんなひとときを楽しんでもらえれば、これまでハードルが高いと感じていた私のような人たちにも「ジャズっていいじゃん」と思ってもらえるのではないかと。
安藤 去年の「NIHONBASHI PUBLIC JAZZ」では、「僕らが今、日本橋でやるならこんな感じ」という演奏を自由にやらせてもらいました。言葉の選び方が難しいですが、大きな企業が関わるイベントの場合、いわゆる営業的なリクエストも多いんですよ。例えば、「『A列車で行こう』のような誰もが知ってる曲をやってください」「昔の有名な曲をお願いします」ということをあらかじめ言われてしまうと、僕らは仕事として受け取ってしまう。「わかりました。クライアントのご要望にお応えします」みたいな(笑)。でも「NIHONBASHI PUBLIC JAZZ」はミュージシャンと主催者、そして街がとてもいい関係を築けているように感じます。だからこそ僕も、このプロジェクトにずっと関わり続けているんです。
梁 そうおっしゃってもらえてとてもうれしいです。実はこのエアビルの設計も、コンセプトの核となるストーリーと各階のファンクションだけを共有し、あとはデザイナーの創造性にお任せしました。それと同じように「NIHONBASHI PUBLIC JAZZ」も、コンセプトだけ決めてあとはアーティストに自由に演奏してもらうことをポリシーにしています。それに三井さんが素晴らしいのは、それをそのままやらせてくれるところ。「エアビルさんとアーティストさんの、やりたいようにやってください」というスタンスでいてくださるんですよね。僕が勝手にそう思っているだけかもしれませんが……(笑)。
加藤 いえ、おっしゃる通りです。我々はアートや音楽については素人なので、口出ししてもいいものにはならないと思っていて。それに「企業色が強い」「企業のイメージアップのためだ」と思われてしまったら今後につながりませんから。クリエイターやアーティストの方たちに認めてもらうことで、本当の持続性につながると考えています。
夏を感じるジャズライブを
──では、今回のラインナップの見どころ、聴きどころを教えてください。
梁 今回は8月30日~9月1日の開催なので、安藤さんには夏っぽい演奏にしてほしいとお願いしています。
安藤 そのリクエストを受けて、今回はラテンミュージックの要素を大きく取り入れるつもりです。僕らは1日目のトリとして出演するのですが、まだまだビールがおいしい季節ですし、アルコールが入っているお客さんが多いでしょうから、パーティに振り切って演奏したいですね。
梁 2日目のトリを務める井上銘さんは、新進気鋭で非常に人気のあるジャズギタリスト。3日目はベーシストのシンサカイノさんとHIMIさんが出演します。HIMIさんはフェスの常連で、今回はレゲエっぽい演奏をリクエストしました。
安藤 銘は同世代のトップスターの1人ですが、ギターもさることながら人間的な魅力にあふれた男です(笑)。本当にいろいろなプロジェクトを手がけているので、この日はどんなギターを弾いてくれるのか僕も楽しみです。HIMIとは同じバンドでプレイすることもありますし、9月も一緒にフェスに行く予定です。HIMIの歌声は夏の夜にぴったりで、レゲエもめちゃくちゃ合いそうですね。最終日にふさわしいパフォーマンスをしてくれるはずです。
梁 メインステージの「大屋根広場 ビアガーデンステージ」は、「サントリー」さんに協賛していただくので、ビアガーデンのような雰囲気にできればと考えています。一部有料の飲み放題シートもありますが、基本的には入場無料のスタンディング形式なので、ガンガン飲みながら音楽を楽しんでいただきたいですね。一方で「福徳の森 ハイボールバー」はウイスキーブランド「ジェムソン」さんと「ブレット バーボン」さんに協賛していただきます。こちらはリスニングバーのような形にして、「夏の夜のジャズバー」というテーマでDJ選曲のジャズとウィスキーを楽しんでいただく予定です。
加藤 夏の終わりと秋の気配を感じながら、お酒とジャズを楽しむ素敵なフェスになりそうで、私も今から楽しみです。
日常の中の“非日常”
──「NIHONBASHI PUBLIC JAZZ」は11月にも開催されるということですが、そちらはどんな内容になりそうですか?
梁 ブッキングもだいぶ進んでいまして、ジャズはもちろん、それ以外のジャンルで活躍する国内外のさまざまなアーティストに出演してもらう予定です。11月は昼からバンドも出演しますし、「音楽の街づくり」をテーマにしたトークイベントや、音楽を絡めたヨガのワークショップなどさまざまなプログラムを用意しているので楽しみにしていてほしいです。
加藤 日本橋の街では11月1日にイルミネーションがスタートするので、夏とはまた違う、ロマンチックな雰囲気でジャズを楽しんでいただきたいですね。普段働いている場所や住んでいる場所、休みの日にたまに行く場所でいつもとは違うぜいたくな体験ができる。「日本橋の秋といえばジャズ」と言っていただけるようなイベントに成長させていけたらと思っています。
安藤 加藤さんがおっしゃったように「NIHONBASHI PUBLIC JAZZ」では、日本橋という日常の中で“非日常”を体験できる。それはこのイベントの一番の魅力だと思っています。僕が関わってきたMILLENNIUM PARADEというプロジェクトでも「世界から見た東京の音」をテーマに掲げて活動しているのですが、東京は古今東西のいろいろなものが交わり合った独特の空間ですし、このイベントもそんな東京を形作る象徴的な存在になったらいいなと思います。
公演情報
NIHONBASHI PUB & JAZZ 2024 SUMMER
2024年8月30日(金)~9月1日(日)東京都 コレド室町テラス 大屋根広場 / 福徳の森
[大屋根広場 ビアガーデンステージ]17:00~21:00
[福徳の森 ハイボールバー]17:00~21:00 ※荒天時は日本橋三井タワーアトリウムにて開催
出演者
8月30日(金)
エディ・ブラウン
MAO SONE TRIO(曽根麻央[Tp, Piano] / 宮地遼[B] / 鈴木宏紀[Dr])
Kohei Ando Tropical Session(安藤康平[Sax] / Hiromu[Key] / 熊代崇人[B] / 荒川“B”琢哉[Per] / 岡本健太[Dr])
8月31日(土)
PUBLICJAMBAND(Soshi Uchida[B] / Yuho Yoshioka[Vo] / Tetsuro Shibayama[G] / Tetsuya Hataya[Key] / Takuto Yamachika[Dr]) / Yuki"Lin"Hayashi and friends(Yuki "Lin" Hayashi[B] / Yoshiya Matsuura[Dr]) / 菰口雄矢[G])
MAY INOUE TRIO(井上銘[G] / シンサカイノ[B] / NAOKI TAKAHASHI[Dr])
9月1日(日)
Shin Sakaino and The Vibe Station feat: Himi(バンドメンバー:シンサカイノ[B] / 宮川純[Piano] / 松浦千昇[Dr])
Mark de Clive-Lowe TRIO(バンドメンバー:シンサカイノ[B] / Yoshiya Matsuura[Dr])
XinU(バンドメンバー:庄司陽太[G] / 山本連[B] / 大津惇[Dr] / 武藤勇樹[Piano])
プロフィール
安藤康平(アンドウコウヘイ)
1989年生まれ。中学入学とともに独学でジャズサックスを始め、多くのバンドに参加し演奏経験を積む。音大へ進学し、2010年に単身渡米。帰国後2012年より活動拠点を東京に移し、マルチインストゥルメンタリストとしてWONK、King Gnuといったさまざまなアーティストのライブやレコーディングに参加する。2017年にソロプロジェクト・MELRAWを始動。同年12月に初のフルアルバム「Pilgrim」をリリースした。