国内外で活躍するアーティストの演奏が無料で楽しめるジャズイベント「NIHONBASHI PUB & JAZZ 2024 SUMMER」が、8月30日~9月1日に東京・コレド室町テラス 大屋根広場と福徳の森で開催される。
「NIHONBASHI PUB & JAZZ 2024 SUMMER」は、三井不動産とTRAVELING ELEPHANTが一般社団法人日本橋室町エリアマネジメントと協力して実施する“大人のJAZZフェス”「NIHONBASHI PUBLIC JAZZ」から派生したイベント。マルチインストゥルメンタリスト / プロデューサーのMELRAWこと安藤康平や、CRCK/LCKSをはじめさまざまなプロジェクトで活躍するギタリスト・井上銘、ジャンルを越境し独自の音楽スタイルを開拓し続けるシンガーソングライターのHIMIなど、ジャズを活動の軸に据えながらもそれに囚われないアーティストが数多く出演する。ビールを飲みながらジャズライブを楽しめる「大屋根広場 ビアガーデンステージ」と、DJがセレクトした音楽をジャズバーさながらの空間と音響でハイボールとともに楽しめる「福徳の森 ハイボールバー」の2つのステージが用意され、オフィス街の日常が“非日常”へと彩られる3日間となる。
同イベントはなぜ日本橋を開催地に選んだのか。パブリックなスペースで音楽を奏でることに、どのような価値を見出しているのか──。音楽ナタリーではその背景を探るべく、三井不動産で“まちづくり”を担当している加藤亜利沙氏、TRAVELING ELEPHANTが運営するカルチャーの発信地・THE A.I.R BUILDINGの代表である梁剛三氏、そして昨年の第1回に続き出演予定のMELRAWこと安藤に話を聞いた。
取材・文 / 黒田隆憲撮影 / 須田卓馬取材協力 / THE A.I.R BUILDING
公演情報
NIHONBASHI PUB & JAZZ 2024 SUMMER
2024年8月30日(金)~9月1日(日)東京都 コレド室町テラス 大屋根広場 / 福徳の森
[大屋根広場 ビアガーデンステージ]17:00~21:00
[福徳の森 ハイボールバー]17:00~21:00 ※荒天時は日本橋三井タワーアトリウムにて開催
8月30日(金)
エディ・ブラウン
MAO SONE TRIO(曽根麻央[Tp, Piano] / 宮地遼[B] / 鈴木宏紀[Dr])
Kohei Ando Tropical Session(安藤康平[Sax] / Hiromu[Key] / 熊代崇人[B] / 荒川“B”琢哉[Per] / 岡本健太[Dr])
8月31日(土)
PUBLICJAMBAND(Soshi Uchida[B] / Yuho Yoshioka[Vo] / Tetsuro Shibayama[G] / Tetsuya Hataya[Key] / Takuto Yamachika[Dr]) / Yuki"Lin"Hayashi and friends(Yuki "Lin" Hayashi[B] / Yoshiya Matsuura[Dr]) / 菰口雄矢[G])
MAY INOUE TRIO(井上銘[G] / シンサカイノ[B] / NAOKI TAKAHASHI[Dr])
9月1日(日)
Shin Sakaino and The Vibe Station feat: Himi(バンドメンバー:シンサカイノ[B] / 宮川純[Piano] / 松浦千昇[Dr])
Mark de Clive-Lowe TRIO(バンドメンバー:シンサカイノ[B] / Yoshiya Matsuura[Dr])
XinU(バンドメンバー:庄司陽太[G] / 山本連[B] / 大津惇[Dr] / 武藤勇樹[Piano])
なぜ日本橋でジャズなのか?
──まずは三井不動産とTHE A.I.R BUILDING(以下エアビル)が、昨年から「NIHONBASHI PUBLIC JAZZ」をスタートさせた経緯についてお聞かせください。
加藤亜利沙 このイベントをスタートさせたのには2つ理由がありまして、まず1つ目はジャズと日本橋に高い親和性を感じたということ。ジャズは温故知新の精神を持ち、スタンダードを大切にしながら成長し変化していく音楽です。それは日本橋の老舗の文化を大切にしながら新しいお店も受け入れ、一緒に盛り上げていくという精神に共通するのではと考えています。もう1つは、三井不動産では音楽を含めたアートを活用することによって街の文化を醸成し、にぎわいを創出することを目指しているからです。
──三井不動産は以前からそうした試みを行っていたんですか?
加藤 はい。三井不動産では、毎月第1・第3金曜日に日本橋室町エリアのべニューを開放し、気軽に楽しめるジャズライブを開催しています。日本橋を訪れた人たちに「日本橋は音楽があふれる街だ」と思っていただけるような環境作りの一環で、「NIHONBASHI PUBLIC JAZZ」はその発展形なんです。
梁剛三 昨年は弊社も隔週の街角ライブをお手伝いしており、そこには安藤さんにもご出演いただいたことがあるんです。アフターパーティをエアビルの地下にあるライブハウスで開催したとき、「もっと大きな形でやってみませんか?」というお話を三井さんからいただいて、それが去年の11月に実施した「NIHONBASHI PUBLIC JAZZ」の第1回へとつながったというわけです。
安藤康平 実は僕、その前からエアビルの存在は知っていたんですよ。
梁 え、そうだったんですか?
安藤 以前、黒田卓也さんの楽曲「Do No Why」のリミックスを手がける機会があったのですが、そのプロモーションでリモート座談会を行った際に、黒田さんはエアビルからZoomで参加されていて。当時から素敵な場所だなと思っていたので、こうやってイベントに関わらせてもらっていることに不思議な縁を感じますね。
日本における生活と音楽の距離感
──「NIHONBASHI PUBLIC JAZZ」は、その名の通り「パブリック(公共性)」を重要視しているそうですが、公共スペースでの音楽の在り方について、皆さんはどのような思いがありますか?
梁 僕はニューヨークに住んでいたことがあるのですが、音楽へのアクセスが日本よりもスムーズだと感じることが多かったんです。ライブのチケット代も安いですし、セントラルパークでは夏のサマーステージなど公共性の高いフリーイベントがたくさん開催されています。僕自身、ジョン・レジェンドのフリーライブを観に行ったり、家族でピクニックがてらオーケストラによる生演奏を楽しんだりしていました。日本橋は東京の中心にあるからどこからでもアクセスしやすいし、公共性の高いイベントを開催するためのスペースが数多くあって、ニューヨークとの共通点を感じています。「パブリックに開かれたジャズフェス」を開催するにあたり、ニューヨークでの体験はすごく生かされていると思いますね。
加藤 私もこれまで海外経験が多く、梁さんが言うように「街と音楽の近さ」を感じることが、海外ではたくさんありました。例えばドイツに住んでいたときは、道端でブラスバンドが突然演奏を始めたりして、中学生の頃にその光景を見てとても感激した記憶があります。考えてみると、日本でそういう経験をすることはあまりなかったなと。
安藤 僕は海外でストリートライブというか、道端に立ってサックスを演奏することがあるんです。そうすると多くの人が立ち止まって、演奏を聴いて投げ銭をしてくれる。現地の友人に誘われてレストランで演奏したこともあるのですが、食事のためのBGMどころかライブハウスばりの爆音で演奏することになって(笑)。日本だと眉をひそめる人が多いと思うけど、そのときはお客さんから「君たちのおかげでごはんがおいしく食べられたよ」とチップをいただきました。そんなふうに、音楽が生活の一部として入り込んでいると感じる瞬間が海外では多いんですよね。
──公共における音楽として、いろんな音楽スタイルがある中でジャズを選んだのは、気軽に誰でも参加できるセッション的な要素があるからなのかなと思ったのですが。
梁 確かにそうですね。前回の「NIHONBASHI PUBLIC JAZZ」では、安藤さんたちが演奏するメインステージのほかに、もう1つパブリックステージを設けました。そこでは一般の方が参加できる「のど自慢大会」を開催したのですが、例えばうなぎ屋の大将が割烹着を着ながらプロフェッショナルなジャズミュージシャンのバンド演奏をバックに「また会う日まで」を歌うなどして大盛り上がりで、地域との結び付きを強くする意味でも大成功だったんです。おっしゃるように、ジャズはさまざまな人やジャンルを迎え入れる懐の大きさがあり、こういうパブリックなイベントとの親和性がとても高いと思っています。
ジャズを聴くきっかけになったら
──安藤さんは、ホールやライブハウスのような空間で演奏するのと、街中で演奏するのでは気分的な違いなどはありますか?
安藤 パブリックなスペースでのフリーライブの場合、演奏が面白くなかったらお客さんはすぐにいなくなってしまうんですよ。だから街中で演奏するときは、ベンチに腰掛けて休んでいる人や、おしゃべりしながら歩いている人たちに「届け!」と念じることはありますし(笑)、どれだけ惹きつけられるかが勝負だと思っていますね。前回の「NIHONBASHI PUBLIC JAZZ」でもそれは意識してました。
梁 そうだったんですね。僕は予定調和なところが一切なく会場の雰囲気をつかみながら演奏している安藤さんたちに、本当に感銘を受けていました。さっきまでスマホを見ていた人が、気付けば演奏を心から楽しんでいる。そんな様子を見ていると、僕ら主催者もやりがいを感じます。もちろん、食事やお酒を楽しみながら楽しんでもらっても充分うれしいのですが、たまたま通りかかった人が感動を持ち帰ってくれる、それがパブリックな音楽イベントならではのマジックだと思っていますね。
安藤 今、梁さんがおっしゃったように、不特定多数の人、自分のことを知らない人やジャズがわからない人の“きっかけ”を作ることは、自分の活動の中でも大切にしていることの1つです。僕もその一端を担っている自負があるし、例えば黒田さんや石若駿のようなジャズ畑のミュージシャンが、メジャーなポップスシーンに進出する機会が増えたことで、お茶の間にもジャズが浸透してきている。とは言え、いまだに「ジャズの現場には行きづらい」「ジャズライブハウスってどうやって行けばいいの?」という声はたくさん聞きます。この間も「ドレスコードはありますか?」というDMをもらいましたし。なので「NIHONBASHI PUBLIC JAZZ」のようなイベントを通して、もっとジャズを身近に感じてもらえたらいいですね。
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演者だけじゃない、観客もストーリーの一部