ナタリー PowerPush - ニコナタ(音楽) 小林幸子

“ラスボス”が教えるネットと世界の面白がり方

歌ってみた動画投稿の理由も「面白かった」から

──先ほどおっしゃっていた「なんにも拒まない」というのは「言下に否定はせずにまずは検討する」という意味ではなく「まずはその世界に片足を突っ込んでみる」ということ?

小林幸子

そうですね。歌い手だけじゃなくて、役者さんもそうだと思うんですけど、過去において何をやってきたか。それはそれで素晴らしいことです。そういう歴史があっての今ですから。でも今は今ですから。過去のことなんて語らずに今できること、今面白いと思っていることをやるのが私たちの仕事なんですよ。「あのとき芸能界にいました」「こんなことをしました」っていうだけじゃつまらないじゃないですか。今も何かをやっていないと。さっきのステージの2部が始まるときの口上でも言いましたけど「変わることも大事だけど、変わんないことも大事」。こう言うと変わんないことのほうが大事みたいだけど、変わることだって大事だし、変わるチャンスがあるんなら、そこに飛び込んでいかないとつまらない。それだけなんだと思います。だって、いかに私が面白がって飛び込んだだけかって話なんですけど、9月に投稿した「ぼくとわたしとニコニコ動画」の元の曲を作ったのがヒャダインさんだって、私、知らなかったんですよ。あとから「あれ、ヒャダインさんが作った曲なんですよ」って聞いて「えっ!?」ってなって(笑)。

──ホントに曲が“面白かった”っていう、ただそれだけで飛び込んでみた、と(笑)。

そうそうそう。歌が先。「面白いなあ。よくもまあこんな曲を……」って。歌ってみた動画を作ってみようって話になったとき、候補の曲をバーって聴いてみて「これ面白い!」って言っただけ(笑)。一般の人が作った曲だと思ってました。でも、その面白い!っていう直感も大事だと思うんです。

ニコ動は誰にとっての「最強のヒマつぶし」なのか?

──「ぼくとわたしとニコニコ動画」のどこが面白かったんでしょう?

これはヒャダインさん批判じゃないんだけど、ムチャクチャな歌だなって(笑)。確かに全体的には音頭になってるんですよ。それは私たち演歌の世界の人間が聴いても。でも既成の王道の音頭、演歌のメロディではないんですよね。だって2オクターブくらい平気で出すんだもん。音頭なのに万人に歌ってもらうような歌ではないっていうところからスタートしてるすっごいアレンジだなと思って。「じゃあ歌ってみたい」と思ったのと……。

──「こんなもん、音頭じゃない!」とはならなかった?

小林幸子

あっ、最初はイラッとしましたよ。「なんだ、このメロディは」「ナメとんのか」って(笑)。でもね、それを通り過ぎると面白くなっちゃうんです。それとあの歌詞。私、50年歌ってますけどね、生まれて初めてですよ、こんな歌詞歌うの。「最強のヒマつぶし」って言葉が出てくる歌詞。

──あはははは(笑)。

「最強のヒマつぶし」!? すっごい詞だな、って思って。でも「そっかニコ動に投稿したり、ニコ動を観たりしてる子たちってこういう状況なんだな」って気付いたら、ちょっと涙が出てきちゃって。何をしたらいいかわからなくて、つまんないんだよね。だからちょっと勧められてニコ動をやってみた。いいじゃん、ヒマつぶしには。つまりそういうことじゃないですか。ひきこもりがちだったり、ひとりぼっちになりがちだったりする、今の子供たちの社会をそのまま歌ってるのかな、って思ったら、歌詞を読んでて涙が出てきちゃって「これ歌いたいな」って思ったんですよ。ただ、メチャメチャ難しい歌なんですよ、これ。

──キャリア50年をもってしてもですか?

もってしてもです(笑)。一応河内音頭っちゃあ河内音頭なんですけど、琉球民謡なんかも入ってくるし。それに音頭は普通1拍、3拍でカウントを取るんですけど、1拍、3拍でカウントを取りながら歌ってると「あれ? これ1拍、3拍じゃないってな」ってなって。「じゃあ2拍、4拍かな」と思ったんだけど、2拍、4拍でもない。「ああ、4つ全部カウントを打っちゃえばいいんだ」っていうことに気付くまでにけっこう時間がかかって(笑)。いわゆる4つ打ちっていうのは経験がなかったんだけど、自分にできないことがあるっていうはすごくイヤだから、歌いたくなっちゃった。そういうふうに気持ちを燃え上がらせてくれる曲だったんですよね。だからあとから「ヒャダインさんの曲ですよ」って聞いて、あっ、なるほどな、って。

5000万人 vs 140万再生

──その動画が140万再生を集めたことについては?

面白がってやったことだし、気になった人が面白がって観てくれればいいな、くらいにしか思ってなかったから「えっ、なんで!?」って。こっちが、逆にビックリしちゃって(笑)。「えっ、140万って数字は何?」って、皆さんが観てくださった理由は私が知りたいくらいですよ。これが10万とかなら「うん、うれしいな」って感じだったんでしょうけど、100万を超えたのはちょっと想定外でしたから。

──ただ、小林さんは「紅白」で視聴率50%を叩き出す、要は国民のほぼ半分、5000~6000万人に観られる人でもある。正直な話、140万ってその40分の1ですよね。

それとはまるきり違いますね。数字がどうこうというよりも、自分の王道の歌を歌っている自分の姿を5000万の方が観ているっていうことは、それはそれですごいことではあるものの、まだ実感できるんですけど、ニコ動初心者の私が人の曲を歌って140万っていうのは、やっぱり実感しにくいですよね。何が面白かったんですか? どこが面白かったですか?って聞きたいくらいなんですよ。

ニコニコ年越し!小林幸子カウントダウンLIVE ~オープニングアクト:ダイオウグソクムシ~
ニコニコ年越し!小林幸子カウントダウンLIVE ~オープニングアクト:ダイオウグソクムシ~
50周年記念アルバム「K」2013年12月4日発売 / 3000円 / BounDEE by SSNW / KSPR-1004
「K」
収録曲
  • 茨の木(プレミアバージョン)
  • 道(花いちもんめ)
  • お母さんへ
  • 幸せ

and more

50周年記念アルバム「S」2013年9月4日発売 / 3000円 / BounDEE by SSNW / KSPR-1003
「S」
収録曲
  1. 茨の木
  2. おもいで酒
  3. とまり木
  4. ふたたびの
  5. もしかして
  6. ひと晩泊めてね
  7. 夫婦しぐれ
  8. 雪椿
  9. 約束(ロングバージョン)
  10. 越後情話
  11. イチマディン~永遠に・・・
  12. やんちゃ酒(セリフ入り)
  13. Ribbon
  14. 大江戸喧嘩花
  15. 恋桜
  16. ウソツキ鴎(ボーナストラック)
50周年記念アルバム「S」2013年9月4日発売 / 3000円 / BounDEE by SSNW / KSPR-1002
「S」
収録曲
  1. 蛍前線
  2. おかあさんへ
  3. 蛍前線(オリジナル・カラオケ)
  4. おかあさんへ(オリジナル・カラオケ)
小林幸子(こばやしさちこ)

1953年生まれの女性ボーカリスト。1963年、9歳で作曲家古賀政男に師事し、1964年シングル「ウソツキ鴎」でデビュー。同曲が20万枚の大ヒットを記録する。1979年1月リリースの「おもいで酒」が200万枚を超えるセールスを記録し、同年末「NHK紅白歌合戦」に初出場を果たす。以来「もしかして」「雪椿」「越後情話」などヒット曲の数々を引っさげ、現在までに同番組に33回出演し、1980年代末頃からはステージ演出にも注力。NHKホールのステージをフル活用した舞台装置と衣装が年末の風物詩のひとつと目されるようになる。他方、コメディやバラエティ番組、テレビドラマなどにも出演。また映画「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶジャングル」に主題歌を提供するほか声優として登場するなど、その多岐にわたる活動を通じて幅広い年齢層の人気を獲得する。さらに2012年、ニコニコ生放送「小林幸子降臨!『茨の木』夢は捨てずに生放送」「ニコニコ大忘年会2012 in nicofarre」に登場。2013年には歌ってみた動画「ぼくとわたしとニコニコ動画を夏感満載で歌ってみた」を投稿し、イベント「ニコニコ町会議 in 名古屋」「ニコニコ年越し!小林幸子カウントダウンLIVE ~オープニングアクト:ダイオウグソクムシ~」に出演するなど、ニコニコ動画を積極的に活用。ネットユーザーの多大な人気を集めている。