「New Music Accelerator」特集|音楽ライター3人が語るインディペンデントアーティストの現状と課題、国による支援の重要性 (3/3)

「New Music Accelerator」最終報告会レポート
2月20日に東京都内で行われた「New Music Accelerator」の最終報告会。

2月20日に東京都内で行われた「New Music Accelerator」の最終報告会。

遠山代表 冒頭挨拶「この事業の一番の成果」

採択者の報告の前に、事務局の代表である遠山氏が挨拶。「正直に言って、事務局としても初年度で手探りだった部分はたくさんあります」と切り出した遠山氏は「申請のフォーマット、精算のプロセス、PM(プロジェクトマネージャー)とのコミュニケーション設計など、皆さんに負担をかけた部分もあったと思うし、そこは改善が必要だと思います。ただ、そのうえで、1年間皆さんの活動を見てきて、やってみて思った以上に手応えがあったというのが今の実感です」と語り、各採択者の取り組みを称賛した。

遠山啓一氏

遠山啓一氏

「『New Music Accelerator』は『補助金を渡して終わり』ではなくて、皆さんと一緒に走りながら、何が機能して何が機能しないのかを見つけていく事業でした。中間報告やPMとのやりとりを通じて見えてきたのは、うまくいった話よりも、うまくいかなかった話のほうが多いかもしれません」と振り返った遠山氏は、そこで見えてきた課題について「個人の努力の話じゃなくて、業界としての課題です」と主張。「だから今日の発表でも、成果だけじゃなくて課題についてもありのままを伝えていただければと思います。来年度の制度設計にそのまま使えるので」と各採択者に呼びかけた。

また、昨年末から経産省のエンタメ・クリエイティブ産業政策研究会に専門委員として参加している遠山氏は「先日その研究会の議事次第に『インディペンデントアーティスト』という言葉が初めて載りました。たった1項目です。でも、これまで行政の文書にこの言葉が出てくることはなかったわけで、皆さんがこの1年で出した数字や課題が今後も政策決定のプロセスに届くようにできる限りの努力をしていきたい」と報告。「自分は自分ができる場所でアーティストにとって最適な環境が生まれるようにがんばるので、一緒にがんばっていきましょう」と会場に語りかけた。

採択者発表

補助金の主な使い道は

その後、採択者10組がどんな事業を行ってどんな成果を得たかを説明し、遠山氏が所感をコメント。採択者の多くが事業の活用によりアーティストとして大きく飛躍したことを報告したが、Blume popo、江崎文武、Skaaiはクオリティの高いアルバムや映像作品の制作、MIKADOやRommy Montanaはライブイベント開催、浜野はるきはプロモーションの拡大と、採択者によって補助金の用途はさまざまだ。

MIKADO

MIKADO

Rommy Montana

Rommy Montana

そんな中でも最も大きかったのは人件費であり、多くの採択者が「人材不足」を課題として挙げた。人材不足に対応する組織を作るため、TENDOUJIは株式会社・円卓、Skaaiは自主レーベル・FR WIFIを設立。TENDOUJIは会社化によって目標や達成したいことがより具体的となったと語った。

海外進出には時間と忍耐が必要

高瀬統也、tamanaramen、TENDOUJIは補助金を活用して海外公演を実施。いずれも確かな成果を得たが、高瀬はローディーやテックの不在、それによるミュージシャンへの負担増、現地機材・舞台機材規格の違い、照明・音響規格の違い、電気系統トラブル、SNS分析・現地権利処理のスキル不足など、現地でさまざまな課題に直面したことを報告した。

またtamanaramenは、1度や2度のイベント開催ではコミュニティを形成することは難しく、外国人として現地のローカルシーンに根ざすのは時間と忍耐が必要と主張。TENDOUJIも一過性のイベントでは意味がないという実感を述べ、今後、海外のカルチャーを理解してコミュニティを作り、何度も呼ばれる環境を自分たちで作っていくことを目標として掲げた。

tamanaramen

tamanaramen

モリタナオヒコ(TENDOUJI)

モリタナオヒコ(TENDOUJI)

メンターや同業者の存在の重要性

期間中、ライブが中止となる災難に見舞われたBlume popoは、法務・危機対応がインディペンデントアーティストにとって大きな弱点であることを述べつつ、「NMA」のメンターに大いに助けられたことを感謝した。

浜野はるきのチームもメンターの重要性を述べつつ、ほかのインディペンデント音楽事業者との出会いから大きな学びを得たと報告。今後、ほかのインディペンデントチームとの意見交換やスキルトレードに取り組んでいきたいと語った。

横田檀(Blume popo)

横田檀(Blume popo)

メンターの水口瑛介氏

メンターの水口瑛介氏

事務手続きの負担

多くの採択者が目標の達成を報告する一方で、春ねむりのチームは、昨年リリースしたアルバムが音楽シーンで高評価を得たものの、自主企画の動員は目標に達しなかったことを包み隠さずに発表。社会的・思想的メッセージの発信と音楽ビジネスの両立の難しさなど自身が抱えるさまざまな課題を挙げつつ、日々追われる事務作業や手続きによって集客施策に割けるリソースが限定的となったことも要因の1つであると述べ、NMA関連で生じる事務手続きもインディペンデントアーティストにとって負担となる場合があることを指摘した。

手続きの負担については冒頭の挨拶でも触れられていたところであり、こうした指摘について遠山氏は「真摯に受け止めたい」と返答。春ねむりチームの赤裸々な報告について「考える種になるフィードバックをいただけた」と感謝した。

経済産業省 閉会挨拶

報告会の最後には経産省の腰田氏が挨拶。本事業での取組みや最終報告会での報告を通して見えてきた音楽業界のさまざまな課題や本事業の制度的な課題については、政府としても改善・解消に取り組んでいきたいと述べた。また、今年度の音楽分野のエンタメ・スタートアップ創出事業「NMA」自体は一旦終了となるものの、令和7年度補正予算による、2年目の「NMA」の準備が進んでいることも明かされた。

経済産業省の腰田氏

経済産業省の腰田氏

「New Music Accelerator」とは

「New Music Accelerator」ロゴ

経済産業省令和6年度補正予算による「クリエイター・エンタメスタートアップ創出事業費補助金」を活用し、株式会社CANTEENが事務局として実施する音楽分野の支援事業。国内外で活躍を目指すアーティストやマネージャーが自身の作品を広くオーディエンスに届けられるよう、制作費やプロモーション費用の補助、プロジェクトマネージャー(PM)・メンターによる事業戦略やマーケティング支援、発表の場やプラットフォームの提供など、多角的なサポートを行い、アーティストの成長と活動の幅を広げることを目的としている。

公式サイト