インディペンデントアーティストの現状と課題
1人じゃ何もできない
つやちゃん インディペンデントアーティストについて考えていく前提として、この10年くらいでアーティストが増え続けていて、アーティスト=リスナーに近い状況になっているんですよね。小箱のインディペンデントアーティストのライブに行ったら、フロアにいるお客さんがほとんどアーティストだった、みたいな状況がある。これは音楽に限らなくて、最近の文フリなどでもよく言われる話ですが、「聴くよりも作る」という文化が広がっている中で活動をスケールしていくためには実はアーティストと同じくらい裏方の力が必要だったりもする。自分はインディペンデントアーティストを支援する一般社団法人の B-Side Incubatorで活動していて、団体ではインディペンデントアーティストが持続的な活動をしていくための知見をまとめたナレッジ集を今ちょうど作っているんです。そこでいろんなアーティストに取材していく中で痛感するのが、“1人じゃ何もできない”という当たり前の話で。アーティスト活動を始めて、ライブのキャパが増えてくると、1人じゃどうにもこうにも回らなくなってくる。
──アーティストの規模が小さいほど、むしろやることがたくさんあるんですよね。メジャーだと分業制になるけど、インディペンデントのマネージャーは全部やらなくちゃいけない。そして、その実態は可視化されていない。エンタメ・クリエイティブ産業政策研究会に参加している事務局代表のCANTEENの遠山(啓一)さんも「海外ではインディペンデント層から世界的な成功が生まれている一方、日本ではその実態が把握されづらく、公的支援の対象になりにくい状況がある。この層を音楽産業における1つのスタートアップと捉え、事業化を後押しする支援や、エコシステムとして育てていく視点が重要」と発言していました。
風間 1人のアーティストが売れていった裏には何人もの有能なスタッフがいるんですよね。
つやちゃん 世の中的に、インディーからメジャーへという一昔前の成功ルートがまだまだイメージとして根強くて、ある一定のところまでは大きくなった後に、そのあとスケールしていくにはどうするかのイメージが持てないという問題もあります。例えば「WWWでワンマンをやる」という目標は立てられるけど、そのあとのイメージが湧かない。メジャーじゃない形でその先のロールモデルを複数提示してあげられる世界になったらいいだろうなと思いますね。
最込 僕は去年あるアーティストのリリースを手伝ったんですけど、1つの作品を世に出すだけでもちゃんとやろうとすればするほど大変なのを実感しました。インディペンデントアーティストにとっての教科書なんてない中で、自分たちだけでやっていると自家中毒的になっていって、何をしたらいいのかわからなくなっていくと思います。でも本来アーティストがやりたいことは何かと言ったら、極論は「曲を作って世に出す」ということのはずですよね。日々の事務作業にも追われながら、「どうやったらバズるのか」にも心を削りつつ、リアルな生活の前ではお金のことも考えないといけない。そういうことを考えることの楽しさもあるんですけど、それってそもそもアーティストの仕事なんだっけ?と思うこともあります。本来はチームで分業できるのが健全ですよね。
──アーティストの表現の領域が広がっている中で、やることが増えているということもありますよね。
風間 例えばTikTokとかも、浜野はるきさんとかは自分の表現としてやってると思うんですけど、アーティストによっては自分のクリエイティブの範囲外なわけですよね。
最込 自分で手軽に音楽をリリースできるようになっちゃったからという面もありますよね。実際には本当に何から何まで1人でこなせる人なんていなくて当たり前ですが、プロモーションも自分で考えて仕掛けていくべきといった風潮もあると思います。アーティストが自分でやることの範囲は広がっていますよね。
風間 その点、「NMA」にはビザ取得とかローカライズの費用とかの支援も含まれてるんですよね。急にブラジルでバズったからポルトガル語に翻訳とか普通はできないけど、資金があればできる。自分たちのプロセスを外に渡すのが怖いというインディペンデントアーティストも多いと思うんですけど、「NMA」のような事業を通して「ここまではほかの人にやってもらっていい」ということがわかったらいいですよね。
再現性がない
──「NMA」はチーム応募を受け付けているのもポイントで、江崎文武、Skaai、浜野はるき、春ねむりはチームでの応募なんです。リソースが少ないインディペンデントほどチームが重要で、マネージャーが全部抱えてしまうとパンクするので、頼れるところは頼ったほうがいい。チームを作ったり、MIKADOのように和歌山の仲間と一緒にシーンを作ったりして上がっていくのがインディペンデントの理想なのかなと。
つやちゃん インディペンデントアーティストで、いわゆるチームをうまく作れているのはやっぱりTohji。Mall Boyzというクルーとして活動したり、映像やデザインといった機能を自身のクルーで完結したり、イベントを主催したりする中で、活動が拡大してもあらゆる表現において自分の美意識を通底させていくことを可能にした。クリエイティブディレクター的で、やっていることは今のファレル(・ウィリアムス)に近い。しっかり横のつながりを作って、ハイパーポップ文脈で海外とのつながりもできているのも大きいですよね。そうやって成り上がる人や何年も活動を続けられている人を見ると、すごくいいマネジメントやクリエイティブパートナー、スタッフに出会えているのも大きい。例えばvalkneeは10年近く経ってようやくチームがわかってきたという話をしていました。曲を作ったり、ライブをやったりする中で、いろんな人と関わってきたけど、自分の能力を引き出してくれるチームとしてやるべき人たちが少しずつ見えてきたと。
──信頼できる人を見極めるのも容易じゃないわけですよね。
つやちゃん マネージャーやスタッフを誰にお願いするかって難しいですよね。親友とか家族にお願いするケースもありますけど、いろんなアーティストの話を聞いていると、たまたまその人にそういう出会いがあったからスケールしていったみたいなパターンが多すぎて再現性がないんです。遠山さんもよく話してるのが、やっぱりCANTEENにも優秀なマネージャーは入ってくるけど、仕組み化ができないということで、それこそAIに一番代替できない仕事なんじゃないかという話もしていました。
風間 僕の近しいバンドで言うと、Khakiは株式会社を作りましたけど、それもチームをより強固なものにして身を守るためで。下手にメジャーに行ってボロボロになった人も見てきたから、正しい選択なんだろうなと思います。
有能な専門家がいない
最込 いざ自分たちでやっていこうと思ったとしても、周りに頼れる専門的な知識を備えた人がいることってすごく大事だと思います。著作権の話とか、どうやってツアーを組んだらいいんだろうとか、海外に届けるにはどうしたらいいんだろうとか、誰に相談したらいいのかすらわからない状況はすごくストレスだから。そういう意味で「NMA」ではアーティスト活動に関わる専門家・プロフェッショナルからの講義を受けることができるっていうのは魅力的だし、意義深いことだなと思いました。
つやちゃん 「NMA」の講義の第1回も音楽関連の権利・法律に関する基礎知識を教える内容ですけど、やっぱりインディペンデントアーティストに一番必要なのは原盤権とか権利関係の知識ですよね。サブスクに曲を出したらどのくらいお金が入ってくるかくらいしか知らない人もいる。ヒップホップで言えば、サンプリングのクリアランスとかタイプビートにどこまで権利が発生するのかとか、そういう知識をもっと開かれたものにしていきたいと思います。
風間 アメリカのラップを聴いているとリリックに弁護士が頻出するけど、日本だとほとんど出てこないですよね。パッと浮かぶのは、Awichの「話すことになる 俺の弁護士と」くらいかな。
最込 逆に言えばブルーオーシャンのはずなんですよね。小規模であってもリリースやライブをしようとすると関係者や必要知識は膨大になるわけで、そういう専門的な知識とマネジメント能力があったら稼げるだろうなって思いました。
つやちゃん 遠山さんも「特別なことはしてないけど競合がいなすぎてCANTEENが大きくなっていく」と言っていました。
国から支援を受けることへの偏見
最込 アーティスト側は大変な実態を表に見せないほうがいいと思っているし、リスナー側も見たがらないという問題があって、それもよくないと思うんですよね。Awichが高市首相と並んでいる写真が炎上してましたけど、極端な話、「よくぞ飛び込んだ、予算ぶん取ったれ!」となってもいいわけで(笑)。音楽産業だって成熟したビジネスなのだから、予算を取る権利もあるし、後ろめたさはいらないはず。そういう意識をリスナー含めてみんなが持つ必要があると思います。
つやちゃん 説明がほとんどない中で、あの写真だけがポンと出たら憶測を呼ぶので炎上は避けられなかっただろうと思います。ただ、ヒップホップの本質は権力構造を問い続ける態度であって、制度の外にいること自体が正しいというわけでもない。制度を使いながら制度を批判する、という緊張関係もそれはそれでありですよね。金銭的補助を受けるからといって検閲によってヒップホップ的な強度が干渉されるとなると、また話は別ですが。
風間 昔みたいにDIYの美学があって、積極的にインディペンデントを選んでいるわけではなく、サバイブするための手段としてインディペンデントを選んでいる人が今は多い。その中で「NMA」のような支援が欲しい人も多いと思います。
──国に支援を受けながら、春ねむりのように反体制のアティチュードを取ってもいいわけで。支援を使いながらインディペンデントをやるための偏見がなくなるといいですよね。
風間 そういう意味でも支援の対象は作品じゃなくて、ライブでいいと思うんですよね。作品に主眼を置くと作る側もいろいろ考えちゃうだろうから。
「NMA」に期待すること
つやちゃん 「NMA」を初年度やってみて気付いてると思うんですけど、音楽はアニメやマンガと違って複雑で、型にハメづらいんですよね。サブスク、CD、ライブ、マーチャンダイズと、キャッシュポイントが分散している。遠山さんはスポーツに近いと言ってましたけど、地道にやっていくしかない。
最込 お金をかければなんとかなるもんでもないですし、やっぱり音楽独自の難しさってありますよね。音楽はジャンルによってもカルチャーが違うし、なかなかつかみどころがない。
つやちゃん でもインディペンデントアーティストが活動を続けていくスタイルにもいくつかの型があるし、ずっと見ていくと、何かしら類型化とかパターン化ができるような気もしていて。そういうパターンを提示するための一助に、「NMA」がなればいいのかなと思います。
風間 プロセスを切り刻んでいったら、意外と再現性があって、そこに気付いた人が今悩んでいる状況なんですよね。
つやちゃん 音楽が難しくて複雑だからこそ、何年も続けることでようやく知見が溜まってくる。1年、2年やってわかるビジネスじゃない。何年もトライして、ようやく見えてくるんじゃないかと思います。
最込 こういう取り組みは始まったからには続けてほしいですよね。それだけが一番大事だと思います。


