「New Music Accelerator」特集|音楽ライター3人が語るインディペンデントアーティストの現状と課題、国による支援の重要性

経済産業省による音楽分野のアーティスト支援プログラム「New Music Accelerator」(NMA)が2025年3月に始動し、初年度の事業が2026年2月28日に完了した。

本プログラムは、インディペンデントなアーティストやマネージャーが自身の作品を広くオーディエンスに届けられるよう、多角的なサポートを行い、アーティストの成長と活動の幅を広げることを目的とした事業。Tohjiをはじめとするヒップホップアーティストのマネジメントで知られるCANTEENが事務局を務め、審査で選ばれたアーティストやマネジャーに対しては、制作費などの補助、専門家による事業化面のサポート、作品を発表する場が提供される(参照:Rolling Stone Japan(ローリングストーン ジャパン))。

初年度は高瀬統也、tamanaramen、TENDOUJI、Blume popo、MIKADO、Rommy Montana、江崎文武、Skaai、浜野はるき、春ねむりの10組が選ばれ、それぞれが支援を受けながら、ライブイベントの開催やミュージックビデオの制作などの自主企画を行った。この記事では「New Music Accelerator」の特集として、音楽ライターのつやちゃん、風間一慶、最込舜一の3名に上記10組について語り合ってもらいつつ、それぞれの視点から日本のインディペンデントアーティストが抱える課題と「New Music Accelerator」の意義について考えてもらった。また特集の最後には、2月20日に行われた本事業の最終報告会のレポートを掲載する。

取材・文 / Kei Harada(P1、P2)、三浦良純(P3)

「New Music Accelerator」とは

「New Music Accelerator」ロゴ

経済産業省令和6年度補正予算による「クリエイター・エンタメスタートアップ創出事業費補助金」を活用し、株式会社CANTEENが事務局として実施する音楽分野の支援事業。国内外で活躍を目指すアーティストやマネージャーが自身の作品を広くオーディエンスに届けられるよう、制作費やプロモーション費用の補助、プロジェクトマネージャー(PM)・メンターによる事業戦略やマーケティング支援、発表の場やプラットフォームの提供など、多角的なサポートを行い、アーティストの成長と活動の幅を広げることを目的としている。

公式サイト

風間一慶、つやちゃん、最込舜一座談会

広がり続けるアーティストの表現領域

つやちゃん 今のアーティストは、表現が音源を出すだけにまったくとどまってなくて、イベント、映像、ファッション、アートを領域横断的に作り出している人が多いですよね。tamanaramenもそうだし、江崎文武、Rommy Montanaもそうだし、今回選ばれたアーティストは、そういう視点も意識されてるのかなと思いました。音楽だけじゃなくビジュアル、テクノロジーを駆使して、コンテンツとか場を作れる人が選ばれているのかなと。

風間一慶 Rommy Montanaは、ビートメイカーでもあるけど、「03- Performance」というYouTubeチャンネルの主催者で。作品を作ったり、ライブをやったりするのではなく、こういうキュレーションの役割をしている人が選ばれているのも面白いですよね。「03- Performance」は、ラッパーのゆかりの地からパフォーマンスを届けてもらう企画ですけど、「Boiler Room」もバルセロナのクラブの雰囲気が伝わるという魅力からハネたわけで、こういう取り組みを支援するのは理にかなっていると思いましたね。

海外で活動する日本のバンドたち

最込舜一 新進気鋭の人ばかりじゃないのがいいですよね。

風間 TENDOUJIがいるのがめちゃめちゃいいですよね。キャリアの長いインディーバンドって、ミドルエイジクライシスじゃないですけど、けっこう悩んでる人が多くて。20年くらい続いたら曲を聴いた人たちが育って“伝説”に近い存在になれるんですけど、みんなその前に頓挫してしまう。TENDOUJIはその中でこうやって浮上して、支援も活用しながら、キャリア史上今が一番売れてるくらいになって、今年は武道館もやる。海外でも活躍していて、去年は韓国ツアーやアジアツアーを成功させています。

つやちゃん Blume popoは、シューゲイザーど真ん中ではないけど、その要素も入ってるバンドで。今、世界的にシューゲイザーがすごく人気のジャンルになっていますけど、盛り上がり方もサウンドも国によって違う気がしていて、日本のシューゲイザーが海外でもっと広がっていく可能性はあると思うし、そういう意味でも期待できるなって思います。

風間 メタルとか長い時間をかけて浸透してきたジャンルはファンベースの強さがありますよね。シューゲイザーの歴史は30年くらいですけど、中国にはマスロックとかシューゲイザーのバンドを紹介する“先生”みたいな人がいて、その人が紹介したバンドは中国ツアーをやったらめちゃくちゃ人が入るみたいなことがあるらしいです。海外との関わり方もいろいろあって、江崎文武は「Lollapalooza India 2026」に出演した藤井風のステージに参加していましたよね。

日本のマーケットは特殊

──この中では高瀬統也も台湾とかアジアですごい人気なんですよね。日本よりアジアのほかの国のほうが知名度あるんじゃないかというくらいで。

最込 海外進出で言えば、春ねむりはアメリカのハードコア文脈にきちんと接続して受け入れられているのがすごいですよね。国内よりも海外の方で理解のあるファンベースが育っているように見えます。

つやちゃん 春ねむりはアメリカツアーを成功させている一方で、国内ではまた海外とは異なるリスナー層を築いている印象ですよね。WWWで開催されたワンマンライブで、お客さんの反応からそれを感じました。(参照:春ねむりが訴えた“踊る”ことの意味、イスラエルの虐殺に声を上げて抗う理由)。国内と海外で市場が分断されていて、違う思考で2つのことを同時にやらなきゃいけないアーティストは多い気がします。海外の人と話していると日本のマーケットは特殊という話をよく聞きますし、それは実際にライブをたくさんやってみないと、ストリーミングのアナリティクスを見ているだけではわからないことですよね。

風間 ただ、作品を海外に合わせる必要はなくて。作品を海外志向にして失敗する例も多いし、むしろ日本に最適化した作品がウケることがありますよね。

つやちゃん 浜野はるきは、中洲でキャバ嬢をやっていて、音楽をあきらめられずに上京して、今アーティストをやっているという人で。一見、西野カナとか加藤ミリヤに近い感じに見えるけど、それよりもDIYな感じで、バックバンドはメタルの人たちが集まったりしていて、わけわかんないんだけど面白い(笑)。Y2Kとかギャル文化が海外で流行している中で、そういう記号化されたギャル文化というよりは、もうちょっとリアルな生っぽいギャルカルチャーを表現しているアーティストなんですけど、そういったギャル文化の解釈から海外に接続する可能性もあるかもしれない。

風間 グローバルなアーティストだけでなく、和歌山でドメスティックに活動しているラッパーのMIKADOが入ってるのも面白い。MIKADOは「NMA」の支援を使って地元で仲間たちと一緒にフリーライブを開催したんですよね(参照:MIKADOが地元凱旋フリーライブ、個性あふれる仲間たちとヒップホップで和歌山を盛り上げる)。その使い方も気前がよくていいなと。

つやちゃん MIKADOというよりも日本のヒップホップシーン全体の話なんですけど、最近取材していると、国内でギリギリ成り立っちゃうからなのか、逆に海外への意識が薄くなっているのを感じますね。というか、国内のラップシーンが大きくなっているからこそそこでまずはトップを獲りたい、あるいはポップシーンと接続していきたいという人が増えている。例えばシーンのトップランナーであるLEXも、今は海外進出というよりはまだまだ国内でもっと多くの人に聴いてもらいたいという旨をこの前話していました。

フルパワーを出すための支援

最込 Skaaiはイギリスの「グラストンベリー・フェスティバル」に出ることを目標にしていると話していたんですが、そのためにはライブをいろんな人に観てもらう必要があって。それで実際にライブの数をこなすのとは別で、バンド編成で制作したアルバム「Gnarly」をフルで演奏したライブ動画を「NMA」の支援を使って作ったんですよね。

風間 Skaaiはキャリアが長いわけでもないけど短いわけでもなく、ラップファンだったらだいたいの人はもう知ってるじゃないですか。そこからイメージを刷新するようなアルバムを作るのって難しいと思うんですけど、「NMA」のような事業が後押しにもなってくれたんじゃないかなと。

最込 Skaaiは「ラップスタア」で知名度を集めて以降は迷走していた時期が続いていたと言っていたんですけど、初めてのフルアルバムであれほどのクオリティのものを仕上げた。そこからさらに活動の幅を広げるための一手としてスタジオライブ映像を作ったという流れがあります。撮影は相当ハードだったようですが、フルパワーを出し切る場に「NMA」の支援があったというのは価値のあることだと思います。

風間 インディペンデントアーティストはリソースが限られている中で、どこでアクセルを踏むかの判断も難しいんですけど、選ばれた人たちはアクセルを踏む場所がちゃんとわかってる人たちなんだろうなと。ここを踏めばいいってわかってるのに、踏むためのエンジン、資金がないという人たちをサポートする意義が「NMA」にはあったんだと思います。