手塚治虫生誕90周年記念 火の鳥 COMPILATION ALBUM「NEW GENE, inspired from Phoenix」特集 浅井健一×手塚るみ子|「火の鳥」とロックを語る

手塚治虫のマンガ「火の鳥」をこよなくリスペクトする全10組のアーティストが、作品の世界観を音楽で表現するコンピレーションアルバム「NEW GENE, inspired from Phoenix」が10月30日にリリースされた。

手塚治虫の生誕90周年を記念して制作されたこの作品には、浅井健一、GLIM SPANKY、佐藤タイジ、Shing02 & Sauce81、TeddyLoid × Kizuna AI、toconoma、ドレスコーズ、七尾旅人、森山直太朗、やくしまるえつこが参加。それぞれが“まったく似ていない”楽曲を作り上げたことで、バラエティに富んだアルバムが完成した。

音楽ナタリーでは作品に参加した浅井健一と、手塚治虫の長女で本企画の監修を務めたプランニングプロデューサーでもある手塚プロダクション取締役・手塚るみ子へのインタビューを実施。浅井が書き下ろした楽曲や、手塚作品とロックの共通点についてなどを語ってもらった。

取材・文 / 今井智子 撮影 / 草場雄介

「火の鳥」はロックであり文学

手塚るみ子 勝手に「火の鳥」を全巻お送りしてすみませんでした。

浅井健一 いえ、ありがとうございます。ひさしぶりに読み返しました。小学生のとき以来かな。すごく懐かしかった。ナメクジのところ(未来編)とか「ああそうだった、こういう話だったな」と思い出しましたね。

──お二人は以前から面識があったのでしょうか?

手塚 私が一方的なファンでした。毎年夏に福島で行われている野外フェス「オハラ☆ブレイク」が手塚作品とコラボレーションさせていただいていて、それで私もイベントに参加したのですが、昨年その会場で初めて浅井さんにお目にかかることができて。

浅井 そうでしたね。

手塚 本当に図々しかったんですけれど、そこで「火の鳥」のコンピレーション企画があるというお話をさせていただいて。浅井さんの曲は画が浮かぶような物語性のある歌が多く、浅井さんご自身も絵を描かれるので、もしかしたらご興味があるかなあと。

左から手塚るみ子、浅井健一。

浅井 「火の鳥」はもちろん読んでいて好きだったし、手塚治虫さんといえば世界的にすごい、尊敬しているマンガ家なので、単純にうれしかったです。すぐにいろんなイメージが浮かぶだろうなと思いました。

──「NEW GENE, inspired from Phoenix」には浅井さんをはじめ全10組のアーティストが参加されています。この10組はるみ子さんが選出されたんですか?

手塚 プロデューサーの方と話し合って選びました。実際に集まった作品を聴いてみると、どの曲もロック的なカッコよさと文学的に読ませるところを併せ持っていて、「火の鳥」はロックであり文学なんだなと感じましたね。こういう企画では似たような作品が上がってきそうなんですが、今回はものの見事に(笑)。

浅井 似てないんだ(笑)。GLIM SPANKYの曲はどんな感じ?

手塚 カッコよかったです。

浅井 それは楽しみですね。GLIM SPANKYは声がいいよね。

愛の音を

──その中で浅井さんが書き下ろした曲が「HONESTY GOBLIN」です。一見してかわいらしいタイトルですが。

浅井健一

浅井 ちょっと寂しげでいいと思うんだけどな。

──ゴブリンは火の鳥を暗喩しているのですか?

浅井 いや、そこは難しく考えずに全体のイメージで捉えてもらえれば。

──楽曲を作るうえで着想を得た「火の鳥」の具体的なエピソードはありましたか?

浅井 うーん、全体的にかな。この曲は去年の秋ぐらいにできていて、浅井健一 & THE INTERCHANGE KILLSの中尾憲太郎(B)、小林瞳(Dr)とレコーディングしたんです。

手塚 私はこの曲のタイトルからまず、「火の鳥」に出てくるまっすぐで純粋な“異端のもの”が浮かんだんです。手塚作品にはこの世のものではないものたちが出てきますが、「HONESTY GOBLIN」は曲調や歌詞を含めて“異端のもの”が抱える孤独さがどこか通底していると感じました。

浅井 すごい解釈だなあ。それを聞いて、手塚先生は“最終的に愛する人を見つけるということ”を表現したかったんじゃないかなって思った。この曲では「愛の音を」と歌っているから、そのあたりがマッチしているんじゃないかな。

手塚 そうですね。手塚の作品は愛であったり、人の感情、エモーショナルな部分が最終的に救いとなるということが大きなテーマになっています。浅井さんにここまで「火の鳥」とマッチした音楽を作っていただけたことが本当にうれしいです。

浅井 いい曲ができてよかったです。少ない歌詞だけど、こうやって読み返すとぴったしだな。

手塚 浅井さんの楽曲はいつも深いんですよ。複雑な音を組み立てて、その上にシンプルな言葉を乗せていく。この構図も手塚作品に近いところがあって。手塚治虫のマンガは演出が複雑だから難しいとよく言われるんですけど、言っていることはかなり咀嚼されていて、シンプルなんです。

浅井 いつもあまり考えずに曲を作ることが多いからかな。俺は思い付いたままに作らないと変なことになる(笑)。