ナタリー PowerPush - NESS×三柴理
異色の同時リリース記念座談会
学生相撲出身の力士みたいなもんで
──三柴さんは常に独特のポジションにいますよね。ピアニストでありながらクラシック畑ではなく、東京のコアなインディーズシーンの渦中にいながらも唯一無二の立ち位置で。バンドで演奏しているときも、もっとストレートにアカデミックなことをやっていたらわかりやすいピアニスト像が見えると思うんですけど、例えば特撮のライブなどを観ているとメンバーの誰よりもアグレッシブだったりしますし(笑)。
三柴 ちゃんと認められないのは悲しいなあ。
──いや、誰もが認めるピアニストですよ!
三浦 ここにいるみんなそうだと思うんだけど、わかりやすく1つの立ち位置にいる人じゃないですからね。メジャーだろうがインディーズだろうが、お客さんが1万人だろうが3人だろうが、面白いことならやるし、置かれた状況で100%を出せる人たち、というくくりではみんな似た者同士だと思いますね。
三柴 共通してるのはカッコつけないってことじゃないかなあ。独特だっていうのは、同じような演奏をする人が出てこないからそう見られているだけで。
──ああ、後継者が現れないのも独特ぶりに磨きをかけてる要因かもしれないですね。
三浦 三柴の後継はできないでしょ(笑)。
三柴 そんなことないよ。ちゃんとクラシック学んできた人なら、僕のプレイなんて初見で弾けちゃうはずだから。
──クラシックを学んだだけでは会得できない熱量が三柴さんの演奏にはあるんじゃないかと思います。
三柴 技術どうこうじゃないところで魂込めて仕事するのが好きだから。プロだとどうしても仕事としてセーブしちゃうところがあるでしょ? 相撲に例えると僕なんて学生相撲みたいなもんで。「ここまで追い込まれたら負けとかないと明日出られなくなっちゃうから」なんて考えずに最後までガーッと行く(笑)。
──そういう気持ちって年齢とともに落ち着いてくるのが人の常ですけど、そうはならないんですね(笑)。
三柴 落ち着かないからこうしてジタバタとピアノ弾いてんだと思いますね。
プロのミュージシャンであるためには、プロのリスナーじゃないとダメ
──今作は筋少ファンとしても楽しみな部分が多いと思うんですけど、フレディのカバーなどはうるさ型の熱狂的なQUEENファンの視線とか考えませんでしたか?
三柴 それは考えなかったですね。この企画をくれた方は熱狂的なQUEENファンで、僕はそこまで熱心には聴いてこなかったけど、編曲をするうちにものすごく好きになっていったんです。最終的には泣きながら演奏するぐらい(笑)。
内田 一般的なロックファンなら「恐れ多くて」とか考えるかもしれないけど、この人はQUEENを聴いてるんじゃなく、音楽そのものを聴いてるんですよ。
三浦 その上で、いかにもピアノらしいメランコリックなアレンジに代えるのではなく、原曲を忠実に再現する。
三柴 速い曲をバラードにしたりするのは逆に簡単なんです。そういうことはやりたくないんですよ。イメージを壊したくないから。
三浦 河塚くんが言ってたけど、三柴はメロディに対するアレンジをしないって。
河塚 これだけ微に入り細に入りアレンジされているのに、メロディや尺はキッチリ守ってるんですよね。そこが面白いなあって。
三柴 まったく変えちゃうのも面白いとは思うけど、それだと原曲のファンはつまらないと思うんですよ。プロのミュージシャンであるためには、プロのリスナーじゃないとダメで。「これは!」って期待して買ったアルバムがつまんなかったらリスナーとしてイヤですから(笑)。
三浦 ……偉いねえ(笑)。真面目に音楽に向き合ってる人なんだと思います。僕には無理(笑)。
──今回の対象である筋少は、きっとほかのアーティストをカバーするのとは向き合い方が違いますよね。
三柴 フレディの曲の編曲と同じようにできるかなと思ってたんだけど、やっぱぜんぜん違いましたね。当時は毎日顔を突き合わせてやっていて、今はそんなこと忘れてしまっていたけど、楽曲と向き合ってみたら本当にいろんなことを思い出すんですよ。これは大切なフレーズだ、これは生かさなきゃ……っていろんな感情が込み上げてきて感無量でした。
すごい集中力で作った作品しか僕らは出したくない
──本来ならば陳列されるフロアも違いそうなこの2枚が、おそらく同じコーナーに並べられるであろうことを考えるとつくづく不思議ですね。
三浦 うん。でもね、すごい集中力で作った作品しか僕らは出したくなくて、この2枚は音楽的にはまったく違うけど、そこだけは一緒。もっと器用にキャッチーな作品を作れる人もいると思うけど、「俺たちはこれを世に問います」とハッキリ言えるものしか出したくない。
──そもそも信頼の置ける人たちだけがレーベルに集まってるというか。
三浦 CDを出すことが先で集まってるんじゃないんで。人が先で、「この人のCDを出したい」と思えるかどうかが重要なんです。レーベルだからお金を集めなきゃいけないのは確かなんだけど、じゃあ、そこそこきれいなお姉さんを集めてグループを作ったりするかというと、ねえ(笑)。
──でも皆さんが完全プロデュースするアイドルグループがあったら、それはぜひ聴きたいですよ(笑)。
三浦 NESSが手がけたアイドルグループの曲を、三柴が泣きながらカバーする(笑)。
- NESS ニューアルバム「NESS2」/ 2013年5月22日発売 / 2520円 / 電子音楽部 / DDCH-2337
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収録曲
- SneS
- Sonzai
- Nesso
- Tree of Papers
- VVV
- Pavillion
- Nature
- ニューアルバム「Pianism of King-Show」/ 2013年5月22日発売 / 2520円 / CITRON RECORDINGS / DDCH-2336
- 通常盤[DVD] / 5250円 / UPBP-1002
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収録曲
- 孤島の鬼(作曲:内田雄一郎)
- 福耳の子供(作曲:内田雄一郎)
- オレンジ・エビス(作曲:鈴木直人)
- ペテン師、新月の夜に死す!(作曲:三柴江戸蔵、内田雄一郎)
- 夜歩く(作曲:三柴江戸蔵)
- Guru(作曲:大槻ケンヂ)
NESS(ねす)
三浦俊一(G / ケラ&ザ・シンセサイザーズ)と戸田宏武(Syn / FLOPPY)が2011年4月に行ったセッションを母体に、内田雄一郎(B / 筋肉少女帯)と河塚篤史(Dr)を加えた4人編成で結成。同年6月よりライブ活動をスタートさせ、11月には1stアルバム「NESS」を発表した。2013年5月22日におよそ1年半ぶりとなる2ndアルバム「NESS 2」をリリース。
三柴理(みしばさとし)
1965年東京生まれ。4歳からピアノを、9歳から作曲を学び、安川豊子、柏木由紀各氏に師事する。国立音楽大学在学中の1983年にインディーズバンド・新東京正義乃士を結成。その後1988年に筋肉少女帯のピアニスト、三柴江戸蔵としてメジャーデビューを果たした。筋肉少女帯脱退後はソロ活動と並行してさまざまなアーティストのサウンドプロデュースを行い、くるり、Acid Black Cherry、そして復活した筋肉少女帯のレコーディングやライブに参加。また大槻ケンヂらと結成したバンド・特撮のピアニストとしても活躍している。佐々木TABO貴(ex. 有頂天)、Claraとのユニット・THE金鶴では多くの映像音楽を手がけ、2009年には結成25周年を記念したアルバム「THE金鶴」をリリース。三柴理名義のソロアルバムとしては「Pianism」「Pianism II」、カバーアルバムとしては、QUEENの名曲をピアノソロにアレンジした「FREDDIE MERCURY TRIBUTE ~LOVE OF MY LIFE」などがある。