ナタリー PowerPush - NESS×三柴理

異色の同時リリース記念座談会

みんな頭の片隅に戸田がいる

──1stアルバム「NESS」発売後にツアーを回って得た手応えから次に、という流れなのかと思っていたのですが、そういうことではなかったんですね。

三浦 ツアーで変わったということはないですね。それぞれが曲を持ち寄って固めていくという作り方も変わらず。そのへんの体制が大きく変わることはないんじゃないですかね、おそらく。これだからやれてるという部分もあるし。例えば山中湖のスタジオで1週間レコーディング合宿とかやったら、アルバムが出る頃には解散してるかもしれない(笑)。

河塚 そもそも合宿なんてやったら録らないかもしれないし。メシ食って釣りかなんかやって。

──NESSの音楽って、資料にも「サービスが溢れるこのご時世に不親切ではありますが、NESSの音楽には用意された答えがありません」とありますけど、こうしてテキストだけで読み解くには非常に難しい音楽だと思うんですよね。

三浦 そうですよねえ(笑)。でも現状、答えは僕らにもわからない。メンバー各々のNESS像があって「NESSってこういう感じだよね」って思いながら作ったものが、これ。

──全員が曲を持ち寄りながらも、バラバラな印象はないですよね。それってなんなんだろうなと。「2ndではどういうNESS像を」と意見をすり合わせることは……?

内田 ぜんぜんなかったね。

三浦 最終的に、象徴としての戸田に合わせる(笑)。

河塚 うん。無意識になんだろうけど、最終的にバランスを取るのは戸田くんなんだなと思います。それを確認したこともありませんが。

三柴 でも客観的に聴いた感じ、戸田くんの色でまとまってるのかなという印象ですよね。みんなそれぞれの個性があって、今回のアルバムもバラエティに富んだ面白い曲がいっぱいあるんだけど、最終的に音楽的なまとまりを付けているのはミュー(三浦)で、サウンド面の個性を決定付けてるのが戸田くんなのかなと思いました。

三浦 うんうん、そんな感じだと思う。みんな頭の片隅に戸田がいる。

──そんな恋人みたいに(笑)。

三浦 だって僕、戸田のマネしてアレンジしたりしますよ。

戸田宏武(Syn / NESS)

──そう話がまとまるに連れ、象徴である戸田さんがさっきから小首を傾げながらどんどん小さくなってるんですけど(笑)。戸田さんは自分がNESSのサウンドをデザインしているという意識は?

戸田 やや、みじんもないです。

河塚 本人にそれがないから、NESSはこういう音になってるんだと思います。

戸田 そうだったんですね(笑)。……ホントすいません。

時間がくれた……贈り物?

──では戸田さん個人としては、前作と大きく変わったところはありましたか?

戸田 いやあ、もう特に何も……。申し訳ないぐらい何も考えずに作っているので。

河塚 FLOPPYとかの場合も何も考えないの?

戸田 そうですね。あ、唯一考えていることは、せめてバンドごとに使う波形を変えようっていう……。

一同 おおお。

三柴 へえー。面白い。

戸田 FLOPPYだと、まず矩形波は使わなきゃって。NESSだとノイズも入れてもいいのねという心積もりで。NESSが一番何も考えてないです。

三浦 僕らは戸田が100%を出せる環境を作ればいいかなぐらいの気持ちで。戸田はそんな器用なタイプではないので、自由にやってもらいつつ、戸田以外の3人で合わせる、というのが自然のNESSのスタイルになってるのかなと。

──みんな前作よりもやりたい放題になってる印象があります。前作は最初のアルバムということもあって、とっつきやすさのようなものをもう少し考えていたのかなと。プログレ的な要素もノイズ成分も、前作以上に容赦なくなってる気がします。

三浦 ああ、ツアーを回って変わったところがあるとしたらそこですね。「思いっきりやっても案外聴いてもらえるな」ってわかって。それで容赦がなくなったんですよ。

──ツアーを経てバンド感が増したのかな、と感じたんですね。でもレコーディングは前作同様、みんなで集まるんじゃなく個々のパートを組み立てていったんですよね?

三浦 ええ。4人の音ってのがもう体にしみ込んでるからでしょうね。それは時間がくれた……贈り物?

一同 あははははは(笑)。

河塚篤史(Dr / NESS)

河塚 そんな言葉が用意されてたんですか(笑)。

三浦 いや、なんて言ったらいいのかなと思って(笑)。なんかメルヘンだけど、そんな贈り物って……あるんじゃないかなあ。演奏してるときだけじゃないと思うんですよ。個々の関係も時間を経たからこそ変わっていった部分もあるし。最初は楽屋に4人集まっただけで違和感あったぐらいだから。初めは「楽屋に内田と戸田2人きりになっちゃったら気まずいかな」とか考えてたけど。

内田 そんなことないよ。iPadでマンガ読んでるから「何読んでるの?」って聞いて。

戸田 「(実験人形)ダミー・オスカーです」

内田 「ダミー・オスカーかー」って。

ニューアルバム「Pianism of King-Show」/ 2013年5月22日発売 / 2520円 / CITRON RECORDINGS / DDCH-2336
通常盤[DVD] / 5250円 / UPBP-1002
収録曲
  1. 孤島の鬼(作曲:内田雄一郎)
  2. 福耳の子供(作曲:内田雄一郎)
  3. オレンジ・エビス(作曲:鈴木直人)
  4. ペテン師、新月の夜に死す!(作曲:三柴江戸蔵、内田雄一郎)
  5. 夜歩く(作曲:三柴江戸蔵)
  6. Guru(作曲:大槻ケンヂ)
NESS(ねす)
NESS

三浦俊一(G / ケラ&ザ・シンセサイザーズ)と戸田宏武(Syn / FLOPPY)が2011年4月に行ったセッションを母体に、内田雄一郎(B / 筋肉少女帯)と河塚篤史(Dr)を加えた4人編成で結成。同年6月よりライブ活動をスタートさせ、11月には1stアルバム「NESS」を発表した。2013年5月22日におよそ1年半ぶりとなる2ndアルバム「NESS 2」をリリース。

三柴理(みしばさとし)
三柴理

1965年東京生まれ。4歳からピアノを、9歳から作曲を学び、安川豊子、柏木由紀各氏に師事する。国立音楽大学在学中の1983年にインディーズバンド・新東京正義乃士を結成。その後1988年に筋肉少女帯のピアニスト、三柴江戸蔵としてメジャーデビューを果たした。筋肉少女帯脱退後はソロ活動と並行してさまざまなアーティストのサウンドプロデュースを行い、くるり、Acid Black Cherry、そして復活した筋肉少女帯のレコーディングやライブに参加。また大槻ケンヂらと結成したバンド・特撮のピアニストとしても活躍している。佐々木TABO貴(ex. 有頂天)、Claraとのユニット・THE金鶴では多くの映像音楽を手がけ、2009年には結成25周年を記念したアルバム「THE金鶴」をリリース。三柴理名義のソロアルバムとしては「Pianism」「Pianism II」、カバーアルバムとしては、QUEENの名曲をピアノソロにアレンジした「FREDDIE MERCURY TRIBUTE ~LOVE OF MY LIFE」などがある。