ナタリー PowerPush - NESS×三柴理

異色の同時リリース記念座談会

今回は黒が86%でした

──リズムセクションも一発録りではないのでしょうか。

河塚 1枚目はベースとドラムで一緒に録ったのも何曲かあったんですけど、今回は完全に別録りですね。一応ドラム録りのときは全員集まってもらって、みんな生温かく見守ってくれましたけど。

三浦 ぼんやり見てる。「叩いてるなー」「ドラムの人上手だなー」とか思いながら見てた(笑)。

──具体的にはどういう進め方になるんですか?

三浦俊一(G / NESS)

三浦 まずは各々のデモからドラムを差し替えて。それで一旦上モノを全部取っ払って、残すものは残して、それ以外のものを差し替えたり、さらに音を足していくっていう。それを作曲者を中心に個人個人でやって、できたらこうなる。

内田 だからあんまり会ってないんですよ。

──一般的な歌モノのバンドのように、こういうコンセプトがあって歌いたいことがあって……みたいなことがこのバンドには根本的にないわけですよね。タイトルだって1stが「NESS」、2ndが「NESS 2」という非常にわかりやすい(笑)。

三浦 ホントはあぶらだこみたいに全部「NESS」にしたいんですよ。

戸田 ジャケットの写真で通称なんたら盤みたいな呼ばれ方をすれば。

三浦 だけど亀も写ってなきゃ舟もないんだから(笑)。白とグレーで変わんないし。

戸田 あ、でもグレーは濃くなってますよ!

三浦 そうだ、今回は黒が86%でした。前回80%だったんで、6パー黒くなってる。

──媒体が媒体なら「このアルバムのコンセプトは?」って質問がありますよね、きっと。

三浦 コンセプトを持ちたくないんでしょうね。強いていえば黒が86%。

「ドドタド、ドドタドを4分叩いてください」「イエッサー」

──今回はしかも特典CDのみにしか収録されてない楽曲、それも7分のハンマービートも作ったと聞きましたが(笑)。

三浦 ワンマンのときはだいたい僕と戸田の2人だけで、20分ぐらい電子ノイズだけのセッションをやるんですよ。それをいつか形にしたいなと思っていて。ライブ音源にドラムとベースのレコーディング音源を入れたらどうなるだろうと……雑な指示でしたけどね。「140のテンポで、ドドタド、ドドタドを4分叩いてください」って(笑)。

河塚 ドラム録音のときに突然言われて「イエッサー」って。

三浦 それに内田がベースを付けて送ってきて、シーケンスを差し替えて、以上。

内田 すっごい出来がいいんだよね。

戸田 びっくりしました。あんなことがそんなことに(笑)。

──ここまで話を聞いていて、うまく言葉にできないながらも、NESSの正体がだいぶつかめてきたような気がします(笑)。きっと皆さん自身にとっても「NESSとは何なのか」という質問に答えづらいと思うんですけど。

三浦 うーん……音楽的にどうこうは説明しづらいんですけど、音に対するレスポンスがとにかく速い人たちですね。ファイルのやりとりをしていても、早ければ数時間で音が足されて戻ってくる。

──それぞれバラバラに持っている好みの音を把握していて、どんな角度でぶつけてこられても的確に返せるという信頼関係を頼りに、言葉にならないものを見つけ出していくという。

三浦 引くときはみんな1歩引いてくれるし、出るときは勝手に出てくれるし。戸田とのノイズのセッションも別に打ち合わせなんかなしでやってるのに、ブレイクする位置が偶然一致したりすることが多々あるんです。戸田は見えてないはずなんですけどね。こんなカッコだから(笑)。

戸田宏武(Syn / NESS)

戸田 アイコンタクトはできないですね。

内田 昔はバンドでスタジオに入って一斉に録っていて、だんだん技術が進歩して別々に録れるようになったんだけど「それはいかがなものかな」と思ってたんですよ。でもそこからさらに進歩した今、NESSみたいなバンドにとってそれはまさにうってつけの環境だった。やってみたら、いいものができるんですよね。

三浦 テクノロジーとロックって意外と相性よかったね。やってみてわかった。

──この4人なら、まだやれること、やってないことがありますよね、きっと。

三浦 3枚目までは作んないとね。「NESS 3」(笑)。

このメンバーだからこそできる

──三柴さんはこれまで、さまざまな種類のバンドで演奏やレコーディングをしてきたと思いますけど、そんな三柴さんから見てNESSの音楽はいかがですか? 旧知の皆さんが今作り出しているこの音楽について。

三柴 僕は誰と連絡取るのもいまだに電話な人なんで(笑)、制作方法や技術についてはよくわかんないんだけど、できあがったものを聴いてみるとすごく人間的に感じる。昔からミューのポップセンスがツボなんですよね。ひねくれてるのに聴きやすくて、ただコードに歌が乗ってるようなものじゃない。ウッチー(内田)のKING CRIMSONまがいの怖い曲もあるし……。

内田 怖い曲(笑)。

三柴 あとウッチーと河塚くんが作った曲が大笑いで(笑)。キャッチーなメロディが執拗に出てきたあとにどんどん展開して、ああこんなに展開するんだと思ったら異常なハモリが入ってくるでしょ? それがおかしくておかしくて。戸田くんの曲は僕なんかだと絶対に考えつかない世界ですね。1つひとつの電子音を大切に考えてるんだなあと感じるんだけど、楽曲的には「えっ、こんなやり方があるの!?」「いつ始まって……えっ、終わるの!?」みたいなことの連続で(笑)。そういうバラエティに富んだ曲のあとで、最後に出てくるミューの曲が大団円的に締めているという。

──素晴らしいストーリー解説ですね。

内田雄一郎(B / NESS)

三柴 「バラバラで作ったら変なものになっちゃうんじゃないの?」とか僕のような昔気質の人間は思うんだけど、できた作品がこれならぜんぜん問題ないですね。

内田 そういうやり方が、NESSの場合は面白いんだよ。

三柴 やっぱり、かかわる人が大事なんでしょうね。このメンバーだからこそできるんだと思うし、このアルバムを聴いたほかの人が「じゃあ俺たちも」って同じ手法でやってみても、とんでもないものになっちゃうかもしれない。みんな手練のプロだから、経験がものを言うんでしょう。

ニューアルバム「Pianism of King-Show」/ 2013年5月22日発売 / 2520円 / CITRON RECORDINGS / DDCH-2336
通常盤[DVD] / 5250円 / UPBP-1002
収録曲
  1. 孤島の鬼(作曲:内田雄一郎)
  2. 福耳の子供(作曲:内田雄一郎)
  3. オレンジ・エビス(作曲:鈴木直人)
  4. ペテン師、新月の夜に死す!(作曲:三柴江戸蔵、内田雄一郎)
  5. 夜歩く(作曲:三柴江戸蔵)
  6. Guru(作曲:大槻ケンヂ)
NESS(ねす)
NESS

三浦俊一(G / ケラ&ザ・シンセサイザーズ)と戸田宏武(Syn / FLOPPY)が2011年4月に行ったセッションを母体に、内田雄一郎(B / 筋肉少女帯)と河塚篤史(Dr)を加えた4人編成で結成。同年6月よりライブ活動をスタートさせ、11月には1stアルバム「NESS」を発表した。2013年5月22日におよそ1年半ぶりとなる2ndアルバム「NESS 2」をリリース。

三柴理(みしばさとし)
三柴理

1965年東京生まれ。4歳からピアノを、9歳から作曲を学び、安川豊子、柏木由紀各氏に師事する。国立音楽大学在学中の1983年にインディーズバンド・新東京正義乃士を結成。その後1988年に筋肉少女帯のピアニスト、三柴江戸蔵としてメジャーデビューを果たした。筋肉少女帯脱退後はソロ活動と並行してさまざまなアーティストのサウンドプロデュースを行い、くるり、Acid Black Cherry、そして復活した筋肉少女帯のレコーディングやライブに参加。また大槻ケンヂらと結成したバンド・特撮のピアニストとしても活躍している。佐々木TABO貴(ex. 有頂天)、Claraとのユニット・THE金鶴では多くの映像音楽を手がけ、2009年には結成25周年を記念したアルバム「THE金鶴」をリリース。三柴理名義のソロアルバムとしては「Pianism」「Pianism II」、カバーアルバムとしては、QUEENの名曲をピアノソロにアレンジした「FREDDIE MERCURY TRIBUTE ~LOVE OF MY LIFE」などがある。