ナタリー PowerPush - ねごと

闇を抜けた4人が目指す“光”を歌う最新シングル

ねごとが思いっきりのストレートを投げ込んできた。ニューシングル「sharp ♯」(シャープ)は突っ走るような感覚と音の厚みと、“光”のイメージを追いかけていく歌とのブレンドが圧巻のロックナンバーだ。ここでの彼女たちは、ポップなメロディにふんだんなアイデアを散りばめていく従来のサウンドスタイルをあえて棚上げし、シンプルさと強さを求めることに徹している。その結果として生まれたこの音は、今までのねごとの印象を刷新させるのに充分なほどの爽快感を放っているのだ。

ところがこの曲の鮮烈さとは裏腹に、去年初のフルアルバム「ex Negoto」をリリースしてからの4人は、かなりの暗中模索を続けていたようだ。今回のインタビューはとても明るく、勢いよく始まったのだが、話がそこに及んだ中盤からは一気にディープな方向に振れ、途中ではメンバーが目を赤く腫らしながら話してくれる場面もあった。しかしこれはバンドが前に進んでいく上で避けることのできない試練だったはずだ。デビューからまだ1年半の彼女たちが直面した困難と、それに負けないように立ち向かっていこうとする意志に、ぜひとも触れてほしい。

取材・文 / 青木優 インタビュー撮影 / 小川舞

気持ちを入れられる曲を作りたかった

──今度の曲はロックで、ものすごくカッコいいですね。

蒼山幸子(Vo, Key) ありがとうございます。今までのねごとは、例えば「メルシールー」だったら「キーボードが印象的」みたいな音のテーマがあったんですけど、これは(沙田)瑞紀が「思いが乗せられる曲にしたい」と言って作り始めた曲なんですよ。そういうこともあって、みんなが「思い」ということを考えながら作りました。バンドにとって、決意表明のような曲だと思っています。

沙田瑞紀(G) こういうストレートな曲って、ほんとに初めての試みだったんですけど、でも「気持ちを入れられる曲を作りたかった」というのが、すごくあったんです。だからいつもならクセになる部分とか、フックになる部分とかを絶対入れるんですけど、そういう要素を入れなくてもいいなと思える作品ができました。それだけに、ライブでやるときにすごく気合が入るというか……「気持ちを込めないと曲に負けるかも」というものになりましたね。これをシングルで出せるのは、すごくうれしいです。

藤咲佑(B) 今回はそういうテーマ設定があったんですけど、ベースを弾く上では「フックになる部分とかをやっぱり作りたいな」と思ったりして、1回迷ったんですよ。でも「ストレートに行きたい」というテーマを思い返して、「いや、要らないな。シンプルでいいんだな」と思い直しました。

澤村小夜子(Dr) この曲はめっちゃカッコよく作れたと思います。今までの「カロン」とか「メルシールー」にあった疾走感とか宇宙感、それにエネルギーみたいなものもすごく詰められたなと思ってるし。まさしく、聴いたときにライブの感じが浮かぶ曲だなって思います。レコーディングでは、スネアの音とかの分厚い感じにこだわりましたね。

曲を作ったきっかけはThe Birthdayのフジロックライブ

──うん、そういう音になってますね。この曲が生まれてきた背景はどんなものだったんですか?

インタビュー写真

沙田 この曲を作るきっかけになったのがThe Birthdayさんの「愛でぬりつぶせ」という曲なんです。The Birthdayさんのことは元々好きで、音源を聴いたりしていたんですけど、ある映像を観たときに、画面以上に湧き出るものを感じる瞬間があったんですね。「FUJI ROCK FESTIVAL」での映像なんですけど、それがアベフトシさん(ex. THEE MICHELLE GUN ELEPHANT)が亡くなってすぐのときの映像で……。

──ああ、じゃあ今から3年前のFUJI ROCKですね。

沙田 多分そうです。そこで「愛でぬりつぶせ」を演奏するときに、チバ(ユウスケ)さんが「この曲は大親友だったアベフトシに捧げます」って言って始めるんですね。その映像は以前からよく観てたんですけど、あるときほんとに……曲がいいのももちろんなんですけど、それ以上にその曲をやっている本人たちのエネルギーというか、そこにある気持ちの塊がすごいことになっているのに気付いたんですよ。「愛でぬりつぶせ」という言葉も、「愛でいっぱい」とか「愛してるよ」みたいなのじゃなくて、汚くてもいいから世界をベタッと愛で塗りつぶす!みたいな感じが、ほんとに画面から出てきて……。

──うん。あれはチバくんが愛について正面切って歌っている、The Birthdayにとっても画期的だった曲なんですよね。パンクスに向けて歌う箇所があったりするし。

沙田 うんうん、「なぁ パンクス」ですよね(笑)。その映像を観て、「ああ、いい曲を作るのももちろん大事だけど、それ以上にその曲に込める、やる側の人の気持ちって、すごく大事なんだな」って思ったんですよ。もちろん、ねごともライブは好きだし、そのときそのとき気持ちを込めてやってるけど、でももっと直接的に込められる曲があったらいいなって、すごく思って。そういう思いからギターのコードを鳴らしたら「sharp ♯」の音ができて。それをスタジオでメンバーに話して、作っていきました。

澤村 スタジオで瑞紀が今みたいな話をして、いきなりジャーン!とイントロのコードを弾き始めたんですね。もう、すごかったです。瑞紀の気持ちの入りようがハンパじゃないっていうか(笑)。こんな曲やりたいって言ったこと、あんまりなかったんで。

藤咲 そのコードをいきなり弾いた時の印象がすごく強くて。そのコードだけでもう「すごく強い思いがあるんだな」というのがわかりました。

蒼山 私はそのとき、別作業をしていて、3人のオケができあがった状態のものを聴いたんですね。それで「コード感がすごくいいな」っていうのと、やっぱり「あ、こんなにストレートな曲が出てきたんだ?」ってビックリもして。でもすごくいい曲だなと思いましたね。インスト自体に熱がこもってたし、早く歌を乗せたいなって思いました。

ニューシングル「sharp♯」2012年4月4日発売 Ki/oon Music

  • sharp# 通常盤 / Amazon.co.jpへ
  • sharp# 期間生産限定盤 / Amazon.co.jpへ
  • 通常盤 1260円(税込)KSCL-2000
  • 期間生産限定盤 1365円(税込)KSCL-2001
通常盤収録曲
  1. sharp ♯
  2. drop
  3. Tonight(The Cribsカヴァー)
期間生産限定盤収録曲
  1. sharp ♯
  2. カロン
  3. sharp ♯ -tofubeats remix-
  4. sharp ♯ -tv size-
  5. sharp ♯ -instrumental-
ねごと

蒼山幸子(Vo, Key)、沙田瑞紀(G)、藤咲佑(B)、澤村小夜子(Dr)からなる4人組バンド。高校2年生だった2008年1月に結成し、春に開催された「閃光ライオット2008」に応募。予選を順当に通過し、8月に行われた決勝大会に進出。審査員特別賞を受賞する。同年11月に発売された「閃光ライオット2008」コンピレーションアルバムにも、大会で披露した楽曲「ループ」で参加する。その後勉強に専念するため一時ライブ活動を休止するも、2009年9月に本格活動開始。2010年2月より行っている自主企画「お口ポカーンフェス?!」も毎回好評を博している。2010年9月29日、1stミニアルバム「Hello! “Z”」をKi/oon Records(現Ki/oon Music)よりリリース。2011年3月発表の1stシングル「カロン」はau「LISMO!」のCMソングとしてオンエアされ、幅広い層から注目を集めた。同年7月、初のフルアルバム「ex Negoto」を発売し、オリコンウィークリーチャート6位を記録する。夏には全国各地の野外フェスに出演し、多くのロックファンから賞賛を浴びた。2012年4月、アニメ「機動戦士ガンダムAGE」アセム編のオープニングテーマに起用されたニューシングル「sharp ♯」をリリース。