音楽ナタリー Power Push - ザ・なつやすみバンド
想像力から生まれた毒入りポップアルバム
ライブなんて何やったっていいじゃないですか
──最初にアルバムを聴いたときに全体的にアレンジが複雑になったことで、ライブで再現するのは大変なのかな、とも思ったんですが。
中川 そうなんですよね。
MC.sirafu いや、でも今は「Odyssey」とかライブでやってますけど、けっこう……完全再現してるし。大丈夫ですよ、そんな。
中川 本当に?(笑)
MC.sirafu いや、別に、ライブなんて何やったっていいじゃないですか? CDで鳴ってる音全部を全部鳴らしてやろうっていうのが間違いで。曲を聴いて、ライブを観に来た人たちは、その人のそれぞれの想像力で補うんですよ。そういうものがライブなんじゃないかなって僕は言いたい……。と、言いつつも今度のツアーの東京公演ではいろんなゲストを招いて再現に近いライブをするんですけどね。でも、音源とまったく一緒には絶対にならないですから。
──なるほど。アレンジではないですけど、「GRAND MASTER MEMORIES」はラップを取り入れた曲ですよね。こういうアプローチの曲は今までのザ・なつやすみバンドにはなかったんじゃないかと思うんですが。
中川 初めてですね。参加してくれた嫁入りランドは、彼女たち独特の雰囲気をちゃんと出しつつ、曲に寄り添って大事なことを歌ってくれていて。子供が大人になったときに気付く、些細なことっていうのをぎゅっとうまく表現してくれています。
MC.sirafu 子供がはしゃいでるようにも聞こえるんだけど、実はちゃんと言うべきことを言っているっていうことをやりたくて嫁入りランドに頼んだというのはあります。小中学生の「コンビニ行こうぜ」というノリを出せる人たち。それと甘酸っぱい夏の感じとかを出せたらいいなって思って。
必要な人に届いてほしいな
──個人的には、ザ・なつやすみバンドの楽曲のポップさの核にあるものって、童謡にも通じるところがあるのかもしれないと思っているんですが。
中川 自分がそもそも大人っぽくないんですよね。子供っぽい言葉を使うほうが自分らしくあるし、子供もわかる言葉で歌いたいなって言うのはあります。自分が好きな歌い回しとかコード感、テンポ感とかも童謡にルーツがあるんだろうなっていうのは意識しています。でも、「子供はこういうのが好きなんだろ」って狙って作るのではなくて……。
MC.sirafu 子供でも口ずさめるようなものなんだけど、けっこう、凶悪なこともやっているっていうものが作りたいんです。僕らの子供の時代って実はアニメの主題歌とかBGMでそういうポップだけど気持ち悪いものであふれていて。今の子供がザ・なつやすみバンドを聴いたことを何十年後かに思い出して「よく考えるとあの曲ヤバかったな」って思ってもらえるような毒も入れたい。そういう楽曲が子供や大人関係なく、表現としてどの世代にでも引っかかるポップミュージックなんじゃないかなって僕はずっと思っていて。そういう曲を作りたいという意図があります。
──メジャーシーンで音楽をやるということの1つの理由として、多くの人に自分たちの音楽を届かせるチャンスが広がるということもあると思うのですが、「パラード」でメジャーデビューした頃と比べてみて変化はありましたか?
高木 田舎に住んでる人とか、おじいちゃんとか、子供とか……ラジオとかテレビの影響で、やっぱり聴いてくれる人が増えたなっていう感覚はあるんです。面白い曲を作りながら、もっと……いろんな人に届けたいっていうのは思ってます。最近、外国の人が自分たちのFacebookに「いいね!」をつけてくれることが多くなってきていて。いろんな人が興味持っているっていうのを身に染みて感じています。
中川 私は今は、何かに媚びるよりは本当にやりたいことをやりたいなと思っていて。これまでアルバムを出してきましたが、オリコンで上位にあるようなものを聴いている人たちにはあまり届かなかったから。たくさんの人に届かせるのは難しいところだなって思ってます。でも、やっぱり必要な人に届いてほしいなって思いますね……。
──中川さんの中で、ザ・なつやすみバンドの音楽を必要としてる人っていうイメージって、どんな人なんでしょうか?
中川 ちょっと疲れてる人かな……(笑)。私は音楽を聴くときに「私はいつでもこの音楽に救われる」とかそういう感覚を覚えることはなくて。自分のそのときの状況とか景色とかにピタッとハマった音楽が「じわっ」と来ることが多いから、私たちの音楽が必要とされるタイミングに、必要とした人に届けばいいなって思ってます。あと、ラジオとかに出るのはすごく意味があると思っています。それぞれのタイミングに寄り添えたらなって思います。
俺は大人になりたくないな
──自由な活動を続けるザ・なつやすみバンドだからこそ聞きたいのですが、今後の目標や、やりたいことはありますか?
MC.sirafu いろんな仕事をしてみたいっていうのはありますね。やっぱり僕らもフィルターをかけて見ているところがあると思うんです。でも、テレビとかラジオとかもやってみると面白かったし、そこに自分たちができることもあるって思えたから。それがきちんとハマったときには予想できないところにいける。いろんな出会いを大切にして途絶えないように活動できていれば、自然と面白くなっていくんじゃないかな……。夢がないとね! 武道館でやりたい……とか?
中川 私は正直、武道館でやりたいとかはないかなあ(笑)。でも、新しいことは常にしていきたいとは思ってます。
MC.sirafu みんな、どうしてるんですかね……バンドマンたちの目標って。なきゃダメですか、そんなの?(笑) 俺はこのバンドでは大人になりたくないな……学生バンドみたいな、音楽に対するあの新鮮な気持ちをキープしていたいです。
高木 まあ、なんにも目標がないふうに見せといて、しっかり人のことを考えられる部分があったらカッコいいのかなっていう感じがしますけどね。
村野 とりあえず、このアルバムのツアーで行ったことのない場所に行けるのが楽しみです。日本中を旅して回りたいんですよね。で、さっきも話が出てたけど、いつかはFacebookで「いいね!」を押してくれた人のいる海外にも行きたいなって思ってます。
収録曲
- ファンタジア
- Odyssey
- FULL SWING !
- 森のゆくえ
- O.V.L.U.V. part1
- Donuts
- GRAND MASTER MEMORIES
- lapis lazuli
- summer cut
- O.V.L.U.V. part2
- 蛍
- ハレルヤ
ツアーファンタジア
- 2016年9月9日(金)
- 愛知県 Tokuzo
- 2016年9月11日(日)
- 大阪府 Shangri-La
- 2016年9月17日(土)
- 東京都 渋谷duo MUSIC EXCHANGE(※ゲストあり)
- 2016年9月25日(日)
- 福岡県 brick
- 2016年9月27日(火)
- 長崎県 Cafe&Bar Last(※オープニングアクトあり)
- 2016年9月28日(水)
- 熊本県 NAVARO(※オープニングアクトあり)
- 2016年9月30日(金)
- 岡山県 YEBISU YA PRO(※ゲストあり)
- 2016年10月1日(土)
- 徳島県 EMILE
- 2016年10月2日(日)
- 広島県 浄泉寺(※ゲストあり)
- 2016年10月4日(火)
- 兵庫県 旧グッゲンハイム邸
- 2016年10月15日(土)
- 宮城県 塩竈市杉村惇美術館(※ゲストあり)
- 2016年11月13日(日)
- 富山県 HOTORI(※ゲストあり)
- 2016年11月23日(水・祝)
- 沖縄県 Output(※オープニングアクトあり)
ザ・なつやすみバンド
中川理沙(Vo , Piano)、高木潤(B)、村野瑞希(Dr)、MC.sirafu(Steelpan, Trumpet)からなる4人組バンド。「毎日が夏休みであれ!」という信念のもと2008年4月に結成され、2010年にMC.sirafuが加入してからはスティールパンやトランペットによるトロピカルなサウンドが加わり、バンドの独特の個性を確立させた。2012年に自主制作で完成させた1stアルバム「TNB!」はノンプロモーションながら口コミだけでヒットを記録。同アルバムはさまざまなメジャー作品と並んで「第5回CDショップ大賞」にノミネートされた。2013年には短冊8cmシングルCD「サマーゾンビー」をリリースし、2014年には4曲入りシングル「S.S.W」を無料配信。2015年3月に2ndアルバム「パラード」でSPEEDSTAR RECORDSからメジャーデビューする。2016年7月にニューアルバム「PHANTASIA」を発表。2016年には「FUJI ROCK FESTIVAL」に初出演した。