ザ・なつやすみバンドの最大の武器は「関係性」

──「『TNB!』の次に出すアルバムはこんな感じにしよう」というイメージはいつ頃から考えていたんですか？

MC.sirafu　「パラード」っていうタイトルは「TNB!」が出てすぐに考えてました。

──あ、じゃあまだメジャーデビューが決まる前から今作の構想はあったんですね。

中川　そのときにはもう「パラード」っていう曲ができてたから、アルバムの名前も「パラード」にしようって決めてて。そこからどんな感じにしようかなって考えながら新しい曲をどんどん作っていきました。この曲が完成したときに、バンドがけっこう変わったなって感じたんです。

──どういうふうにですか？

中川　バンドの個性が出始めたなって。

MC.sirafu　バンドって、1人でもダメなやつがいたら長く続かないと思うんです。ダメっていうのはうまい下手じゃなくてバランスの話で、例えば下手なバンドの中に1人だけうまいやつが入ったらバランスがよくないっていう。なつやすみバンドには特有のバランスがあって、それで「夏休み感」が出せてるんです。それは季節的に夏っぽい雰囲気というよりは……。

中川　自由な感じ。

MC.sirafu　そうそう。それって別に1年中あっていいものだし。その関係性がなつやすみバンドの最大の個性であり、武器なんじゃないかと思ったんですよね。

全曲同時進行で録音して、全体が少しずつ形になっていった

──今回のアルバムを作り終えて、特に手応えがあったとか、印象に残っている曲はありますか？

中川　「ラプソディー」はすごいことになったなって思います。弦を入れたりして、私が最初に曲を持っていった状態からだいぶ変わりました。あとなんだろ……なんかある？

MC.sirafu　このアルバムは全曲同時進行で録ってるんですよ。「1曲終わったら次」っていうんじゃなくて、アルバム全体が少しずつ形になってくみたいな感じで。作ってる間も毎回通して11曲聴きながら全体のイメージを固めてたから、好きな曲とかオススメの曲をどれか1曲選ぶっていうのは難しいかもしれない。

中川　うんうん。

──それ、かなり珍しい作り方なのでは？

MC.sirafu　ホントそうですよね。だから作った側としては「この曲を聴いたらこっちの曲も聴いてほしい」みたいな感じになっちゃいますね。

──なるほど。じゃあ、ほかにも「こんな聴き方をしてほしい」というのはありますか？

MC.sirafu　1年中聴いてくださいっていう。なつやすみバンドって名前ですけど、ある季節をテーマにした音楽って、違う季節に聴くほうが僕は面白いと思うんですよね。

中川　うんうん。確かに。

MC.sirafu　音楽に限らず映画とか写真でも、そこには実際にないものだからみんなが求めるんだと思うんです。

──ザ・なつやすみバンドの曲は、聴いた人から「ノスタルジック」「懐かしい風景を思い出させてくれる」みたいに言われることが多いですけど、本人たちはそうしようと考えながら曲を作っているんですか？

中川　特に考えてないかな。曲は風景を思い浮かべながら、歌詞はブログを書くみたいな感じで書きます。

MC.sirafu　僕って、言葉にして訴えたいことがあんまりないですよ。メッセージよりも単語とかフレーズの面白さに興味があって、だからワードを紡いで何かを作るっていう感覚で作詞してます。それでいろんな人にいろんな捉えられ方をしてもらえたらいいなって。ノスタルジックな曲を作るっていうのは、意図的にやっちゃうと嘘っぽくなると思うんです。僕の場合、結果的にそうなってるだけで、実はあんまり気にしてなくて。

中川　私の場合、自分がそういう人だからかもしれないです。常に何かに思いを馳せてる、みたいな（笑）。

──はははは（笑）。

MC.sirafu　中川が作る曲のほうが自然とノスタルジックな雰囲気になってる感じはある。

中川　田舎に住んでるんで、毎日見てる景色がわりとそういう感じなんです（笑）。

──みんながノスタルジックだと感じる風景を、実際に今見ているから、という。

中川　うん、ずっと景色が変わらないところで。