夏川椎菜|叫べ!吠えろ!感情爆発のニューシングル

感情を押し込めたカプセルが割れちゃった曲

──そうしてできあがった「アンチテーゼ」を初めて聴いたときの印象は?

「すりぃさんのカラーが存分に出ているなあ!」と思いましたね。すりぃさんの曲って、さっきも言った切迫感と共に、こちらの予想の斜め上をいくような展開を見せることが多いと思っているので「そうそう、その感じ!」みたいな。あと、曲が届いたときはいちファンとして「誰よりも早くすりぃさんの新曲が聴ける!」ぐらいのテンションだったし、仮歌もすりぃさんが入れてくださっていたので、妙な優越感に浸らせてもらいました(笑)。

──夏川さんの音作りへのこだわりは前回のインタビューでもお聞きしましたが(参照:夏川椎菜「ログライン」インタビュー)、この「アンチテーゼ」も、従来の曲と色味は違えどきちんと夏川椎菜のディスコグラフィに収まる曲になっていますね。

やっぱり「アンチテーゼ」はすりぃさんとのコラボレーションであるというのを大事にしたくて。だから、完全にすりぃさんの色にしてしまうのもちょっと違うじゃないですか。要は夏川チームで作るすりぃさんの音楽というのを模索しながら作っていったので、そう言っていただけるとうれしいです。

──歌詞についてはどう解釈されました?

私は、まずサビの「吠えるんだろ」がグサっと刺さったというか、一番心に残ったんですよね。なんか、一匹狼みたいな人が何かに我慢できなくなって、渋谷のスクランブル交差点のど真ん中で「わー!」って叫んでるようなイメージで。

──不満を吐き出すような歌詞だと思いますが、その不満の矛先が自分に向いている感じなのかなと。

うんうんうん。なんだかわからないけど殻の中に閉じこもっている自分がいて、それに対して殻の外にいる自分が何か言ってるんだけど、殻の中の自分もその外の自分に反論してるみたいな。

──殻の外の自分に対して「うっせーな。言われなくてもわかってんだよ」と。

そうそうそう。自分対自分の言い争いが外に漏れ出しちゃっている感じ。

──そういう状況は、夏川さんにも当てはまる部分がある?

ありますね。自分に対して「なんでできないの!」と怒るというか呆れるというか……やっぱり根本的に私は負けず嫌いなところがあるので、そういう気持ちはすごくわかるなって思います。あと、自分でも気付かないふりをしたくなるようなどす黒い感情ってみんなにあると思うんですけど、私もけっこう大きめのカプセルに入れて持っていて。普段は蓋をキュキュッと閉めてあるけど、それがたまに緩んで漏れ出たりしちゃうんです。そうやって押し込めておかなきゃいけない感情があるというのもわかるし、私の中では、「アンチテーゼ」は感情を押し込めたカプセルが割れちゃった曲という解釈ですね。

──「アンチテーゼ」のボーカルも感情的で、なおかつ攻撃的でもありますね。

私は、この「アンチテーゼ」で絶対にやりたかったことが1つあって、それはいわゆる“がなり”というやつなんですよ。昔から荒っぽく叫ぶようなボーカルにも憧れていて、やっぱりカッコいい曲のカッコいいパートをがなり声でカッコよく歌えたらめちゃくちゃカッコいいじゃないですか。この曲ではそれができると思ったので、レコーディング前からゴールは明確に見えていたんです。ただ、いかんせん私の喉が追いつかない場面がけっこうありまして。だから、そのがなりを完全に自分のものにできたとは言い切れないんですけど、チャレンジした甲斐はあったというか。そのおかげで今の自分にできる精一杯の荒々しい歌い方ができたと思っています。

夏川椎菜

未来の自分に「ごめん! 大変だけどがんばって!」

──ところで、夏川さんは1stアルバム「ログライン」(2019年4月発売)からご自身で作詞もするようになりましたが、それこそすりぃさんのような他者が書いた歌詞の見え方が変わったりしました?

あー、かなり変わったと思います。やっぱり自分で歌詞を書いてみないとその苦労はわからないので。よく、1番と3番のサビの歌詞はほぼ同じなんだけど、ほんの数文字だけ変えている場合があるじゃないですか。例えば1番では「〜のに」だったのが、3番で「〜なら」になってるとか。ただ歌詞を受け取っていた頃は、そこでマイナーチェンジする意味が理解できなかったんですよ。「同じでいいじゃん!」って。それが、自分で作詞をするようになってからは、本当に1文字で意味が変わってくるし、自分が思っている以上に作詞家さんはそこに意味を込めているんだなっていうのがわかるようになりました。ただ、やっぱりサビの一部が変わると歌詞を覚えづらいっていう……。

──でも夏川さんもそのマイナーチェンジ、やってますよね。

やってるんですよ。だから覚えづらいし歌いづらい。例えば「Ep01」(2019年9月発売の1st EP)に入っている「ワルモノウィル」の歌詞はかなり複雑で、ディレクターさんに歌詞を提出したときも「これ、覚えるの大変だよ」と言われたんです。実際、本当に覚えるのが大変で泣きそうになっていたんですけど、作詞しているときはのちのちのこと、具体的にはライブで歌うときのこととかは考えられないんですよね。だって、それが一番いい歌詞だと思っちゃうんだから。それを覚えやすいように簡単にすると意味合いが変わってくるし、自分の作品として不本意なものになっちゃう。そういうジレンマとの戦いなんですけど、歌詞を書いているときはなるべく未来の自分に「ごめん! 大変だけどがんばって!」って任せてます(笑)。

──正しい判断だと思います。そこで楽をしてしまうと、それ以上のものは望めなくなるわけですし。

そうじゃなきゃ自分で作詞する意味もないですよね。歌詞の大事さに気付くために作詞をしているんじゃないかなって思います。作詞をするようになってから曲との向き合い方も変わりましたし、自分が作詞していない曲でも歌詞の意味をより深く考えるようになりました。本当にいろいろと見え方が変わったので、その視点は大事にしたいです。

──一方、作詞家として自分の作詞スタイルが固まってきたような感覚はありますか? 例えば「ステテクレバー」(「ログライン」収録曲)や「グルグルオブラート」(「Ep01」収録曲)の歌詞はすべて説明しきらない感じが絶妙で、一見すると意味不明なワードもあるんですけど、それが歌詞の解釈の余地を広げていると思うんですよね。

ああ、そこはけっこう意識していますね。全部提示しちゃうとそれが答えになっちゃうので、あえてボカしたり、どこかで考える余地を残しておくというか。そこで聴いてくれた人が立ち止まって考え始めてくれたら、それってハマる予兆でもあると思うんですよ。だから、いやらしい言い方をすれば気を引くために、何か引っかかりそうなワードをポンと置いてみるとか、そういうことはよく考えます。私の作詞した曲のタイトルにカタカナの造語が多いのもその表れでしょうね。

──先ほどの動画編集もそうですが、新しく手を出したものを自分の糧にしようとするその貪欲さ、いいですね。

やっぱり手を出したからにはそこそこのもので終わりにはしたくないんですよ。そこは自分の負けず嫌いの部分がうまく作用しているのかもしれませんね。