夏川椎菜が4月17日に1stアルバム「ログライン」をリリースした。
TrySailのメンバーとして2015年よりアーティスト活動を始め、2017年からは並行してソロ活動も行なっている夏川。ソロとして初のフルアルバムとなる今作にはこれまでに発表してきた「パレイド」「フワリ、コロリ、カラン、コロン」といった楽曲のほか、自身で作詞を手がけた新曲「ステテクレバー」「チアミーチアユー」「ファーストプロット」など全13曲が収められる。また1stシングル収録曲「グレープフルーツムーン」「gravity」「Daisy Days」はアルバムミックスバージョンとして収録。夏川は作詞のみならず楽曲のアレンジ、ミックス、ジャケットおよびミュージックビデオの制作など、すべての工程を自ら監修した。
音楽ナタリーではそんな夏川に初めてソロインタビューを実施。デビューから2年間での心境の変化や、こだわりが詰まった1stアルバムについて話を聞いた。
取材・文 / 須藤輝
どんどん口うるさくなっていった
──夏川さんは2015年よりTrySailとして活動されていますが、ソロデビューするまでは積極的に音楽を聴くタイプではなかったそうですね。
そうなんです。聴くとしても流行りのJ-POPとか、あとアイドルは好きだったのでアイドルソングにちょっと触れていたぐらいで。そんな感じだったから、ソロデビュー時にサウンドプロデューサー兼ディレクターの菅原拓さんが「どんな音楽が好き?」とか「どんな歌を歌いたい?」とたくさん聞いてくださったんですけど、それに対して私は「明るい曲がいいです」とかふわっとしたことしか言えなかったんです。それが悔しいというかもどかしいというか……自分のやりたいものがあるはずなのに、それを言葉にできない状態がすごく嫌で。とりあえず定額制の音楽ストリーミングサービスに入って、片っ端からいろんな音楽を聴くようになりました。
──その蓄積が2ndシングルの「フワリ、コロリ、カラン、コロン」(2017年8月発売)につながっている?
まさに。1stシングルの「グレープフルーツムーン」(2017年4月発売)を出してから、あまり間を置かずに次のシングルが決まったんです。そこで「2ndシングルの話し合いまでに自分の好きな音楽を言えるようにしよう」と、その期間は集中的に聴き込みましたね。
──そうやって音楽的な引き出しを増やしていくことも含めて、デビューから現在までに楽曲制作への関わり方はどう変化していきました?
たくさん口を出すようになっていきましたね(笑)。それこそ「フワコロ」(「フワリ、コロリ、カラン、コロン」)のときはEDMが特に気に入っていたのでそれを伝えましたし。最近は伝えるジャンルもより細分化して、サウンド面でも「もっとベースとキックを重く」とか「リズムはこうで」とか、どんどん口うるさくなって……でもそうやって言えば言うほど、自分が期待していた以上のものが返ってくるんですよ。
──「パレイド」(2018年7月発売の3rdシングル)リリース時には、自分の好きな音楽を制作チームで共有できるようになった結果、ドンピシャな曲がきたとおっしゃっていましたね。
そうですそうです。あの頃はアレンジがわりとにぎやかで、でもちょっと影があって、なおかつエモーショナルなロック……みたいなことをずっと言ってたのかな。だから「パレイド」のデモを聴いた瞬間、「そう! こういう曲がやりたかったの!」という気持ちになりました。
私の役割はただ歌を歌うだけじゃないんだ
──話が前後しますが、ソロデビューの際はかなり悩まれたそうですね。
はい。当時は「TrySailの3人の中ですでに2人がソロデビューしてるから、ついでに残ったもう1人もデビューさせておこうということなんだろうな」みたいに捉えていて。もちろんそういうことではなかったんですけど、そのときは既定路線みたいに思ってしまって納得できなかったというか、卑屈になっていたんですよね。まだ歌に対する苦手意識もあったから「別に今じゃなくてもいいんじゃないかなあ」って。
──その悩みが吹っ切れたのって、どのタイミングでした?
それこそ「フワコロ」と「パレイド」の間ぐらいですね。自分の好きな音楽もわかってきたし、自分の意見もちゃんと伝えられるようになって、頭の中のモヤモヤが晴れていったんです。苦手意識があった歌についても、いろんな方の歌を聴くことで引き出しが増えて「こういう方向性で歌ってみたいな」という欲求も出てきて、実際それにチャレンジするようになってから音楽活動がどんどん楽しくなって。それに合わせてスタッフさんやお客さんからも歌を褒めてもらえるようにもなり、そこから調子がうなぎ登りみたいな(笑)。
──同じTrySailのメンバーでもある雨宮天さんと麻倉ももさんは先行してアルバムをリリースされていますが、今回夏川さんもアルバムを制作するにあたって気負いみたいなものはありませんでした?
それは、まったくなかったです。アルバムの制作が決まったのが去年の冬ぐらいだったんですけど、そのときには「パレイド」も出してたし、自分の路線を確立しつつあったというか、2人とは違う歌を歌えるという自信があったので、むしろ楽しみでした。確かにソロデビューした当初は「2人と比べて私は……」みたいに悩んだこともあったんですけど、お客さんの反応からも私のことを「TrySailの夏川椎菜」ではなく、個人として見てくださっているのが伝わってきて。うん、アルバムを作ってるときは2人と比べるどころか、考えたこともなかったです。
──それにしても、もともと音楽に疎くてソロデビューにもあまり乗り気ではなかった人が、ふたを開けてみたらめちゃくちゃクリエイティブに作品作りを楽しんでいるという。
約2年間のアーティスト活動を通して、私の役割はただ歌を歌うだけじゃないんだということに気付いたんですよね。今回のアルバムも、ジャケットにもミュージックビデオにも意見を出させてもらいましたし、作詞もさせてもらいましたし。そうやって私が介入できる余地が意外とたくさんあることがわかってから、さらに口うるさくなりました(笑)。
デコボコだったからよかったんだ
──今回のアルバムは今おっしゃった作詞も大きなポイントですね。
私もいつかは作詞に挑戦したいと思っていたんですけど、ディレクターさんが「アルバムを作るんだし、作詞も自分でしてみない?」と言ってくださって。結果、3曲作詞させてもらいました。
──どの曲の作詞から始めたんですか?
最初に取りかかったのは「ステテクレバー」ですね。まずアルバム用の新曲がほぼ出そろった段階で、私が作詞したい曲を選べる状況だったんですよ。そこで第一印象で好きだなと思ったのが「ステテクレバー」だったんですけど、その作詞を進めてる最中に「リード曲も作詞しては?」と言ってもらえたので、「ファーストプロット」の歌詞も自分で書くことにして。だからこの2曲は同時進行だったんですけど、先に完成したのは「ファーストプロット」でしたね。
──では、先に完成したリード曲の「ファーストプロット」のお話から聞かせてください。
「ファーストプロット」は、歌詞の第1稿がほぼ全却下されたんですよ。私が音やリズムに言葉をハメることを意識しすぎたあまり、「文章として成り立ってない」とか「気持ちが伝わってこない」とか、菅原ディレクターにコテンパンにされまして。もうね、平成最後の鬼ディレクターですよ(笑)。
──ははは(笑)。
でも、そこで「せっかくがんばったのに!」「よーし、見てろよ!」と、テーマから何からまるっと書き直して、第2稿では「ファーストプロット」の原型みたいなものができて。「その方向性で書いてみよう」と言ってもらえたんですけど、そこからも細部に関してはダメ出しに次ぐダメ出しの連続で……。
──その結果できあがった「ファーストプロット」の歌詞は、ソロデビューしてから現在までの夏川さん自身の物語ですよね。
まさにその通りです。デビューからこのアルバムの完成に至るまでを、実体験に基づいて時系列順に書いていったので。
──特に「目を見て話すように歌ってみるから」は、近年稀に見るパンチラインだなって。
おお、うれしい! そこは1番サビの最後のフレーズなんですけど、ちょうど自分の歌というものがわかってきたというか、少し余裕が出てきた時期だったんです。だからこそ、より気持ちを込めたり、抑揚を付けたりする歌い方もできるんじゃないかと思ったんですよね。
──あるいは「イヤフォンごしの歌詞は まだ少し遠くって」というフレーズは、最初のほうでお話されていた「自分の好きな音楽がわからないモヤモヤ感」に対応しているようで。
そうなんですよ。いろんな音楽を聴くようになったものの、なかなか自分にぴったりくるものが見つけられなかったり。「これが好きだけど、なんで好きなんだろう?」とか、やっぱりたくさん音楽を聴いたら聴いたで生まれる悩みもあって。
──でも、最終的には……。
そういう自分も肯定してますね。「ファーストプロット」の歌詞は、今まで歩んできた道のりを思い出してネガティブなことも歌っているんですけど、決して暗いものにはしたくはなくて。なぜなら、いっぱい悩んだけど、今私が後悔していることは1つもないから。それをちゃんと言いたかったんです。
──振り返れば「デコボコ」だったけれども。
そう。デコボコだったけど、デコボコだったからよかったんだなって。
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自作のレジュメを関係各所に転送
2019年4月18日更新